SERENDIE – stories

STORIES / INTERVIEW

価値のある事業を生み出す3カ月。三菱電機流の共創を生み出すスクラム活動

2026.02.06

相澤武 Takeshi Aizawa

三菱電機株式会社 DXイノベーションセンター システム連携企画部 部長
20年以上にわたりFA(ファクトリーオートメーション)事業の営業・企画に従事。2023年4月のDXイノベーションセンター発足に伴い異動。現在は、スクラム活動を通じて事業部門や顧客との伴走支援を統括する。

笠井嘉 Yoshimi Kasai

三菱電機株式会社 DXイノベーションセンター 共創推進部 部長
プロダクトデザインやユーザーリサーチ、共創空間の立ち上げ・運営などを経て、2025年3月、三菱電機へ入社。現在は「Serendie Street Yokohama」などの共創空間の企画・運営およびサービスマーケティングを担当。

三菱電機は今、様々なデータを活用し社会課題を解決する「循環型 デジタル・エンジニアリング企業」へと変革を進めている。その実現に向け、力を入れているのが様々な企業との共創だ。共創の質を高めるための重要な取り組みの一つが、アジャイル開発の浸透と、その実践の場となる「スクラム活動」だ。同社のスクラム活動の特徴は、スピード感を持って良いソリューションを作るだけでなく、顧客も含めたチームが一体となってプロジェクトを進めることにある。どのようにチーム全体の熱量を上げ、短期間で価値のある成果を生み出すのか。その仕掛けやプロセスについて、共創活動を牽引する相澤 武氏と笠井 嘉氏に聞いた。

スクラムの成功は、チームメイキングから

――「Serendie®」における共創とその中で行われるスクラム活動について、まずその全体像や活動のプロセスについて教えてください。

相澤:私たちの共創活動には、大きく「課題発見」「課題探索」「価値検証」という3つのフェーズがあります。「課題発見」のフェーズでは、まずどのような課題を解くべきか見定めます。この段階ではまだスクラムは組みません。お客様側の多様なステークホルダーと対話しながら、三菱電機のスクラム活動とは何かを伝えたり、お客様の中でどなたと一緒にチームを組むべきかをすり合わせていきます。Serendie Street Yokohamaの共創プロセスを体験していただいたり、テーマを定める短時間のワークショップを実施することもあります。

その後、定まったテーマを深掘りする「課題探索」に2週間、そして実際にモノを作って検証する「価値検証」に2ヶ月ほどをかけます。スクラム自体が始まるのは2つ目の「課題探索」から。トータルで約3カ月での完走を目指すスピード感です。

スクラム活動における3カ月間の動き

――わずか3カ月で走り切るために、どのようなチームを組んでいるのでしょうか。

笠井:スクラム活動では、プロダクトオーナー、スクラムマスター、そしてビジネス、テクノロジー、クリエイティブもしくはカスタマーの知見があるメンバーで構成するのが一般的です。私たちの場合は、さらに知財の専門家が参画しています。

もう少し具体的に特徴を述べると、チームを導くスクラムマスターは認定試験に合格したプロフェッショナルです。ビジネス、クリエイティブの専門家を揃えているのは、ただ作るだけでなくソリューションとして「売れる」ものにするため。そして、知財担当者が入っているのは、せっかく作ったソリューションが権利関係で世に出せないという事態を回避するためです。

三菱電機株式会社 DXイノベーションセンター システム連携企画部 部長 相澤 武

――スピードと質を担保するためのチーム編成ということですね。チームがしっかりと機能するため、活動の形骸化を避ける工夫などはしていますか。

相澤:一つは、活動におけるルールを徹底すること。例えば、私たちが独自に作った「スクラムの手引き」というものがあります。その名の通り、スクラム活動の進め方をまとめたものです。活動の最初にこの手引きを用いて、作法やマインドセットを丁寧に説明する時間を設けているんです。例えば「多忙なプロダクトオーナーであっても、意思決定が必要なイベントには必ず出席する」といった具体的なルールを共有しています。

笠井:もう一つがチームの熱量を高めることです。3カ月という短い期間ゆえに高められる熱量が、ソリューションの質にも影響します。熱量は後付けできるものではありません。そこで、プロダクトオーナーには、事業部門から「絶対にこの課題に取り組みたい」という強い意志を持つ方を選出していただきます。

さらに、お客さまを含めたチーム全体の熱量を高めるため、チーム結成時にはプロジェクトの目的や意義、ミッションを全員で共有する「チームビルディング」を行います。他には、チーム名を決めたり、お揃いのTシャツを作ったりしています。こうした仕掛けでチームの一体感を生むことで、実際にお客様もワクワクしてスクラム活動に取り組んでいると感じます。

チームビルディングの際に作るオリジナルTシャツ。プロジェクト名が記載される。

AIをたたき台に、潜在的な課題を見つける

――ここから具体的なプロセスについて伺いたいと思います。企業間の共創において、解くべき課題を定める「課題発見」のプロセスは最も難しい部分の一つだと思います。具体的な課題の見つけ方について教えてください。

笠井:まさに「課題発見」の段階が一番泥臭くて時間がかかるところです。いきなり「さあ課題は何ですか?」と聞いても、解くべき課題は出てきません。このフェーズでは、課題を発見するためのワークショップやAIを活用した課題仮説づくりを行います。

ワークショップには、顧客を深く理解するものやスクラム活動を体験するものなどがあります。
ワークショップの精度や体験を高めているのが、三菱電機の人的リソースです。Serendie Street Yokohamaには、FA、ビル、電力など、三菱電機の多様な事業部門の出身者が集まっています。そのため、お客様が抱える悩みに対して、現場を知る人間ならではの解像度で理解し、議論が可能になります。

生成AIを用いた課題発見ソリューションには、三菱電機が貯めてきたデータを活用しています。その一つが、「マルチAIエージェントによる事業仮説生成サービス」です。これは、三菱電機の過去のアセットや事業情報を学習させたAIに、お客様との共創に向けた事業仮説のたたき台を生成させるものです。

マルチAIエージェントによる事業仮説生成サービス

――AIに仮説を出させて、それをそのまま採用するのでしょうか?

相澤:いえ、AIがいきなり正解を出すことは期待していません。むしろ注目すべきは、AIが出した仮説を見た時のお客様の反応なんです。「これ、実は5年前に検討したけどダメだったんだよ」とか、「現場で試したけど定着しなかった」といった声が必ず出てくる。

笠井:そこがチャンスなんです。「なぜ当時はダメだったんですか?」「技術が追いつかなかったのか、それとも投資対効果が見えなかったからか?」と深掘りしていく。すると、「実は社長に説明した時に、ここがネックになって…」といった、よりコアな課題や組織的なボトルネックが見えてくるんです。ゼロからアイデア出しをするのではなく、AIの仮説をたたき台にしてお客様と一緒に気づきを生み出していく。そうすることで、お客様と目線を合わせながら、素早く課題を探索できるんです。

三菱電機株式会社 DXイノベーションセンター 共創推進部 部長 笠井 嘉

2週間で仮説を磨く、定量と定性のかけ算

――コアな課題が見えた後は、具体的なソリューションの仮説を立てる「課題探索」のフェーズです。まず、このフェーズのゴールを教えてください。

相澤:このフェーズでは、特定された課題に対してどのような「MVP」、すなわち実用最小限の製品を作れば解決できるか、という仮説を立てることです。仮説の深掘りのために、さまざまな人にインタビューを行ったり、データサイエンティストがお客様のデータを分析したりしています。

――2週間で筋の良いMVPの仮説に辿り着くために取り組んできた工夫などはありますか。

相澤:クリエイティブチームによるインタビューの型化です。「課題探索」のフェーズはもともと2週間以上時間がかかっていました。それは、様々なインタビュー手法を試していたり、誰がインタビューするかに依存する部分があったためです。その経験を踏まえ、クリエイティブチームが一定以上の質が出せるようなインタビュー設計のフローやインタビューで使う質問事項などの型をつくってくれました。

笠井:定性的なインタビュー結果とデータサイエンティストによるファクトに基づいた定量的な分析の組み合わせにより、2週間でMVPの仮説が作れるようになっているんです。

Vibe Codingで仕様書よりも、動くものを

――最後の「価値検証」では、約2ヶ月でMVPを作り上げるとのことですが、なぜこれほどのスピードが出せるのでしょうか。

笠井:1番の理由は生成AIを用いた「Vibe Coding (バイブコーディング)」という手法を活用している点です。ソリューションの仕様書を書くのではなく、AIを使って動くプロトタイプをその場で作ってしまうんです。プロトタイプがあれば、すぐにお客様から具体的なフィードバックをもらうことができます。プロトタイピングとフィードバックを繰り返す。このサイクルを高速で回すことで、価値検証の質を高め、作るべきソリューションに早く近づきます。

相澤:例えば、介護現場の課題解決に取り組んでいる「Omoiyari」というプロジェクトは、2ヶ月半という短期間で、お客様が「これなら対価を払ってでも使いたい」と言ってくださるMVPまで到達させることができました。

このプロジェクトで向き合っていた課題は、介護施設の施設収益を改善すること。施設の収益はサービス単価、有床数、稼働率で構成されています。サービス単価のうち介護サービスにかかる費用は介護報酬で定められているため勝手に変えることができません。食事や居住費などは入居者の方の負担になりますが、価格を上げ過ぎると入居率が下がってしまいます。施設内の増床や施設数の増加は多額の投資が必要なため、難易度が高い。その結果、稼働率の改善が取り組む対象になります。既存のソリューションには、入居率の向上や高稼働に対応できる介護職員の確保などがあります。

では、既存のソリューションで解決できていない課題は何か。チームが立てた仮説は、入居者の入院や通院による施設からの一時離脱の抑止でした。実は、入院や通院の期間中は介護報酬を受け取ることができず収益が落ちてしまうのです。限られた人員数で運営をしている介護施設職員としても、精神的負荷になる事故は減らしたい、突発的な付き添いなどによる業務負荷の高まりを回避したいというニーズは存在し、入居者や家族の視点に立ってみても、健康面の懸念を減らしたい、追加の医療費などを抑えたいというニーズに合致します。

そこで、介護記録のデータを分析し、事故や病気の発生を予測するソリューションを考えました。当初はデータから転倒防止が最大の課題だと仮説を立ててプロトタイプを作り、現場の方に見せました。すると、「実は転倒は3ヶ月に1回程度。他にも入居者の方が入通院する理由があって、それらの予兆も合わせてこのプロトタイプのイメージで検知してくれたら、現場の負荷も増えずにケアに活かせるはずだ。」というフィードバックが得られたのです。

――動くものがあるからこそ、具体的な本音が引き出せたんですね。

相澤:その通りです。紙の資料で説明していたら、「転倒防止もいいね」で終わっていたかもしれません。そこから、さらにブラッシュアップをし、お客様が欲しいと思えるソリューションにつながりました。

スクラム活動は、3カ月だから意味がある

――ここまでの話をお伺いして、スピードを追求するのであれば、スクラム活動の期間をもっと短くすることも考えられると思いますが、期間をあえて3カ月と区切っていることにも意味があるのでしょうか。

笠井:はい。目的が単にソリューションを早く作ることだけであれば、もっと期間を短縮することも可能でしょう。ですが、私たちがやっているのは共創の中のアジャイルです。共創においては、同じ空間と時間を共有し、互いに学び合い、信頼関係を築くプロセスそのものに価値があります。その効果を最大化するために、ある程度の時間は必要だと考えています。

相澤:そうですね。あまりに早すぎると「本当にこれで大丈夫か?」と逆に不安にさせてしまうこともありますし(笑)。

一旦3ヶ月と線を引いていますが、結果的に2ヶ月で終わればそれでもいいんです。重要なのは、区切りをつけること。 特にモノづくり企業は、完成度を求めてズルズルと開発を続けてしまう傾向にあります。「もう少し良くしてから…」とやっていると、いつまでも世に出せません。あえて3ヶ月で区切り、活動を振り返ることで、だらだらと続けることを防ぎ、次のアクションへの意思決定を明確にする。この期間を通じて、アジャイルのマインドセットそのものを持ち帰っていただくことにも大きな意味があると考えています。

「まずやってみる」の文化を共創を通じ、横浜から全国、そして世界へ

――最後に、このスクラム活動を今後どのように展開していきたいか、展望をお聞かせください。

相澤:現在、アジャイル開発の品質を担保するISO認証などを取りながら、スクラム活動のプロセス自体を標準化し、私たち伴走チームがいなくても事業部門がお客様と自走できる仕組み作りを進めています。さらには、ボストンをはじめとするグローバル拠点とも連携し、世界規模でこの動きを加速させていくつもりです。 お客様と共に悩み、共に作り、共に喜ぶ。そんなスクラム活動を通じて、これからも新しい価値を社会に届けていきたいですね。

笠井:私は、この「Serendie Street Yokohama」で起きている熱狂を、全国津々浦々の拠点に広げていきたいと思っています。ここに来た時は楽しそうにスクラムをしていても、自分の部署に戻った瞬間に元通り…というのをなくしたいんです。「失敗を恐れずに挑戦する」「まずやってみる」という文化が三菱電機以外も含めたあらゆる場所に根付くこと。そんな社会をつくっていきたいですね。