東 立 Ryu Higashi
SERENDIE – stories
STORIES / INTERVIEW
技術力以上に、価値づくりへの熱量を。三菱電機データビジネス推進部部長 東立の考えるDXへの向き合い方
2026.03.18
「DXを成功させる上で大事なのは、技術力だけではありません。組織や事業を変革するための熱量なんです」
そう話すのは、2025年4月に三菱電機 DXイノベーションセンター データビジネス推進部 部長に就任した東立氏。過去には、コニカミノルタや豊田合成などでDXを牽引してきた。
実際、彼の率いるデータビジネス推進部では、半年間で50ものプロジェクトに取り組み、サービス化への挑戦を続けた。その結果、今後リリース予定のものも含め3件のサービス化に成功している。こうした価値をつくり切るための執念ともいうべき熱量がSerendieでは生まれやすいと東氏はいう。DXのプロフェッショナルの視点から見たSerendieの強みおよび、データビジネス推進部のあり方に迫る。
三菱電機株式会社 DXイノベーションセンター データビジネス推進部 部長
豊田合成 IT推進部主監 兼 デジタルラボディレクターを経て、2025年4月より三菱電機 DXイノベーションセンター データビジネス推進部 部長。大手メーカーやコンサルティング会社でソフトウェア開発、データサイエンス、企画等に携わり、現在はセミナー講師や大学の講義、カンファレンスの講演登壇等も行う。著書に『人工知能を活用した研究開発の効率化と導入・実用化』(共著・技術情報協会)、『機械学習・ディープラーニングによる“異常検知”技術と活用事例集』(共著・技術情報協会)がある。
DXにおける本質的な課題とは
——日本の製造業が抱えるDXの課題について、東さんは現在の状況をどのように捉えていらっしゃいますか。
東:多くの人が「技術力がない」ことを最大の課題と捉えがちですが、実はその「技術力の有無に課題の焦点を当ててしまうこと」自体が、本質的な障壁になっていると感じます。
もちろん、DXにおいて技術力は不可欠です。精度の高いデータ分析やシステム構築という「手段」がなければ、変革は成し遂げられません。しかし、「自社にエンジニアがいない」「スキルが足りない」といったリソースの不足は、外部パートナーと手を取り合うことで補うことができます。
一方で、決して外部に委託できないものがあります。それが、自社の変革に対する課題意識や熱量です。ここを置き去りにしたまま、技術力の確保ばかりを追い求めてしまうと、いつの間にか「技術を使うこと」が目的化し、結果としてプロジェクトはうまくいきません。
「AIで何ができるか」という技術起点ではなく、まず達成すべき変革という目的があり、そのための強力なツールとして技術を使いこなす。そこに加えて、変革に対する「熱量」を持つことがまず大事です。
また、DX推進チームの「在り方」も、技術を目的化させないために重要です。DX推進チームが、他部署から依頼されたデータを分析して戻すだけの「請負作業」に終始してしまうケースをよく見かけます。しかし、分析はあくまで入り口に過ぎません。知見を届けて満足するのではなく、それがビジネスとして成立し、現場のシステムに組み込まれて「価値が創出される」まで泥臭く責任を持つことが求められます。
三菱電機株式会社 DXイノベーションセンター データビジネス推進部 部長 東 立
ビジネスとして成り立たせるためには、経営層と現場双方の巻き込みが欠かせません。
現場では、これまでも改善などを地道に積み上げてきているはずです。単に「新しくAIを導入します」と提案しても、経営層からすれば「なぜAIにしたらうまくいくのか」という疑問を突破できません。
大事なのは「これまでの取り組みを尊重しつつも、なぜ今回は上手くいくか」という論理をセットで見せること。同時に、その提案が会社全体の成長戦略や方針のどこに紐付いているのかを示すこと。
現場の方と一緒に進めていく上で求められるのが、「三遊間のボールを拾う」ような姿勢です。データを提供してもらうことや、実際にサービスを使ってもらうこと以外の業務のほとんどを引き受けること。たとえそれがデータ分析とは直接関係のない作業や調整ごとであっても、相手の負担を減らすためなら厭わないことが大切です。日々の業務で手一杯なところに、使ったことのない技術を持って「データを提供してください」と頼まれれば、遠ざけたくなるもの。過去に私がDXを推進した際も、関連するほとんどの業務を私たちが請け負って進めていました。プロジェクトをリードする姿勢とはすなわち、絶対にDXを成功させるのだという「熱量」こそが大事である、ということなのです。
ノンバーバルな合意が熱量を引き上げる
——DXを推進する上で、熱量が大事であるということはよくわかりました。一方で、そもそもそうしたチームづくり自体にハードルがあるのではないでしょうか。
東:おっしゃる通りであり、Serendieの最大の強みは「熱量」にアプローチできることだと考えています。それを後押しするのが、横浜にある共創空間「Serendie Street Yokohama」です。通常、大企業同士のやり取りは手続きに時間がかかりますが、ここでは社内外の担当者が「公式な依頼」の前に、自らの熱量で相談に来られます。私たちはその担当者が自身の社内を巻き込む段階からサポートします。
周りを巻き込む上でも「熱量」は欠かせません。例えば、DXを推進すると、どんな未来が待っているのかについて、会議室の議論だけでは、なかなか前提が揃いません。一方、イメージを共有すると、立場を超えて目線が揃い、巻き込みやすくなります。Serendie Street Yokohamaには、進行中のプロジェクトのプロトタイプの展示をする「Garage」というエリアがあります。あくまで個人的な意見ですが、お客様の役員の方などは、ここの展示物を見るとマインドが変わるような印象を受けます。
また、私たちの所属する組織のDXイノベーションセンターは、極めてフラットでカジュアルな構造です。100年の歴史を持つ三菱電機が軽やかに動いている実態を肌で感じることで、外部の方も「ここなら新しい挑戦ができる」と感じ、モチベーションにつながっているのだと考えています。
言葉を重ねずとも「自分たちの現場でも使える」という気持ちの変化につながる「ノンバーバル(非言語)な合意」が、DXを推進すること自体の熱量を上げるのです。
とにかく、まずは形にする
――巻き込みがうまくいったとしても、プロジェクトが進む過程で熱量が下がる、ということもあり得るかと思います。これに対しては、どのようにアプローチをすべきでしょうか。
東:多くのプロジェクトが陥る最大の罠はPoC(概念検証)が目的化し、そこで歩みが止まってしまうことです。つまり、ビジネスにならないということ。そうすると、結局ダメだった、という空気になってしまいます。「PoC倒れ」を防ぐために、たとえ最初の成果が小さく見えたとしても最後までやり切ることです。
完璧な結果を求めて検証を繰り返すよりも、まずは現場の運用に乗せてしまう。一度でも「自分たちの実務が実際に変わった」という手応えを現場が掴めれば、そこから次のステップへの弾みがつきます。小さくても確実な「実装」の積み重ねこそが、形だけの検証で終わらせないための、最も重要なプロセスだと考えています。
――その点で、Serendieやデータビジネス推進部が取り組んでいることは何ですか。
東:「分析して終わり」にせず、社会実装までを自分たちの手でやり切ることです。
実際、私が三菱電機に参画して3カ月後、部署名を「ビジネスインテリジェンス戦略推進部」から「データビジネス推進部」へと改めました。以前の名称にあった「インテリジェンス(知見)」を見つけるだけでなく、自らシステムへの組み込みまでを担い、ビジネスとしてやり切る覚悟を示すためです。
私たちが大事にしているのは、単に示唆を出すことではなく、データからどんなビジネスにつなげることができるかを考えること。
こうしたスタンスの結果、上期だけで50件近い相談を受け、今後見込んでいるものも含め、3件がリリースに至っています。この50件の中には、思い付きのアイデアや「なんとなくデータ分析したい」というものも含まれます。それらをビジネスにつながるテーマとして捉え直し、「まずは形にする」。その粘り強さこそ、データビジネス推進部の強みだと考えています。
データと熱量の掛け合わせで、ジャンルトップへ
――あらためて伺いますが、東さんが、三菱電機を選んだ理由は何だったのでしょうか。
東:この会社が持つ事業の幅広さ、つまり「コングロマリット」としてのポテンシャルとSerendieに対する三菱電機の姿勢です。通常、製造業は特定の事業に特化するものですが、三菱電機には防衛・宇宙、社会インフラ、電力、FA(ファクトリーオートメーション)など、多種多様な事業が存在し、各領域が好調です。にもかかわらず、それらの領域を掛け合わせて新しい価値を生み出すという「Serendie」の構想を聞いて、「ここなら、面白い挑戦ができる」と確信しました。
――Serendie自体が三菱電機としての熱量の現れと言えそうです。具体的にどのようなものがあるのでしょうか。
東:サービス化に至っている3件の事例がそれに当たります。一つ目は、エレベーターの保守メンテナンスサービス。生成AIと、これまでに蓄積されていた資料データを組み合わせ、経験の浅い担当者でも原因と対応策を即座に引き出せる仕組みを構築しました。
二つ目は、製造現場における加工機の遠隔監視サービス「iQ Care Remote4U※」です。現場で問題が起きた際、実際に出向くべきかどうかの判断を支援することで、保守の効率を大幅に高めています。
※Remote4Uは三菱電機株式会社の登録商標です
三つ目が、空調制御モデルです。人が感じる「快適さ」と省エネを両立させるものになっています。
――そうした取り組みの先に、東さんは何を成し遂げたいと考えていますか。
東:成長するビジネスを生み出し、データビジネス推進部を、三菱電機の新しい柱となる事業を次々と輩出する場にしたい。これほど多様なアセットを持つ会社は他にありません。
これまでも私は、一つのジャンルでトップになることを目指してきました。コングロマリットであることを活かせば、三菱電機は何かのジャンルでトップになれると思っています。そのために、社会実装に至るデータ活用を強力に推進していきたいですね。