SERENDIE – stories

STORIES / INTERVIEW

共創は「賑わい」から。1年で1万8000人が訪れた共創空間Serendie Street Yokohamaの人中心の場づくり

2026.03.25

三菱電機が100年の歴史で築き上げた「技術」と、社内外の「情熱」を掛け合わせ、新たな価値を紡ぎ出すデジタル基盤「Serendie®」。その拠点として2025年1月に誕生したのが、共創空間「Serendie Street Yokohama」だ。

開設から1年。来場者は1万8000人を超え、館内には常に人々の声が響き、「Serendieらしさ」が定着しつつある。しかし、「箱」があるだけで共創が加速するほど、イノベーションの道は甘くない。

「組織や立場の異なる『人と人』が交わることは、いわば水と油を混ぜ合わせるようなもの。放っておけば、すぐに分離してしまいます」

そう語るのは、Serendie Street Yokohamaの運用・戦略を担う三菱電機の泉福 剛氏。そして彼と共に、現場で「声がけ」や「仕掛け」を地道に積み重ね、熱気を生み出し続けているのが、場づくりのプロであるMIRAI-INSTITUTE(ミライインスティテュート)の正心 麻里子氏、彦谷 麻由子氏、髙橋 友香氏の3名だ。

なぜ、空間の「賑わい」には、アナログで泥臭い「人の介在」が必要なのか。多くの出会いを「共創の種」へと変えてきた“仕掛け人”たちの奮闘から、共創空間を成功させる鍵を探る。

泉福 剛 Tsuyoshi Sempuku

三菱電機株式会社 DXイノベーションセンター 共創推進部 次長
2000年に統合デザイン研究所に入社。携帯電話・家電・車載機器・鉄道等の事業でUI/UXデザインや次世代企画を担う。その間、京都大学のデザインイノベーションフェローや東京大学産学協創推進本部への出向を経験。その後、統合デザイン研究所の企画運営を担い、2025年度より現職。現在は、デザインの対象を"共創"に移し、日々奮闘中。

正心 麻里子 Mariko Shoshin

MIRAI-INSTITUTE株式会社(※) コミュニティオーガナイザー
料理人としてキャリアをスタートし、人と場が交わる瞬間に魅力を感じ、ホスピタリティ領域および新規事業の企画運営を経験。2020年よりMIRAI-INSTITUTEに参画し、拠点運営や人事領域を中心に、組織と現場をつなぐ環境づくりに携わる。

彦谷 麻由子 Mayuko Hikotani

MIRAI-INSTITUTE株式会社 コミュニティオーガナイザー
ファッション業界で企画職の経験を経て、2024年にMIRAI-INSTITUTEに加入。コミュニティオーガナイザーとして Serendie Street Yokohama の立ち上げから場の醸成に携わる。職場において「個人が創造的でいられる場とは何か」を運営者として関わりながら、アーティストとしての表現活動を軸にした自由なワークスタイルの体現を目指す。

髙橋 友香 Yuka Takahashi

MIRAI-INSTITUTE株式会社 コミュニティオーガナイザー
食ビジネス分野で幅広い現場経験を経て、2025年にMIRAI-INSTITUTEに加入。Serendie Street Yokohama のコミュニティ活性化を牽引するイベントの企画・運営に注力。そこに集う人々の熱量が自然に混ざり合う空間づくりを探求。趣味の料理をセルフマネジメントの一環として取り入れ、仕事と暮らしが地続きにあるワークスタイルを自ら実践中。

※MIRAI-INSTITUTE株式会社の詳細はこちらから:https://midori.so/ja

箱だけで、人と人は交わらない

――Serendie Street Yokohamaがオープンしてから1年が経ちました。来場者数も順調に伸びています。ここまでを振り返っていかがですか。

泉福:これほど利用いただけるとは、正直驚きました。来場者数は1万8000人に達し、当初目標にしていた1万人を大幅に上回りました。満足度調査では9割の方に満足以上の回答をいただいています。

ただ、そうした定量評価と同じくらい大事にしてきたのが、この場所に「賑わい」を醸成し、維持することです。そもそも、Serendie Street Yokohamaは「実験と共創のストリート」をコンセプトに掲げています。創造性のインスピレーションとなる「偶然の出会い」を沢山起こしたい。そのために欠かせないのが「賑わい」なんです。

三菱電機株式会社 DXイノベーションセンター 共創推進部 次長 泉福 剛

――なぜ「賑わい」が大事なのでしょうか。

世の中には、Serendie Street Yokohamaのようなオープンな場を開設しながら、期待していた効果が得られないケースが数多く存在しています。これは私なりの考えなのですが、「箱」を設けた後、管理はしているものの、どんな出会いが生まれるかは成り行きにまかせていたからだと思うのです。

組織や立場の異なる「人と人」が交わることは、いわば水と油を混ぜ合わせるようなもの。放っておけば、すぐに分離してしまいます。三菱電機もこれまで部門ごとに業務が完結しており、何もしなければ、やはり共創は生まれない。

だからこそ、ここに集う人たちのコミュニケーションを活性化させる専門チームと、「賑わい」を生み出す工夫を仕掛けてきたのです。

境界をなくす動線と什器

――「賑わい」をつくるために、どのような仕掛けを施しているのか教えてください。

泉福:空間設計と空間運営の仕掛けに分かれます。まず、設計面の一例から紹介します。

この空間は長方形なのですが、あえて「まっすぐには歩けない」ように設計しています。通路をくねくねと蛇行させ、その左右に人が集まるスペースを配置しています。歩いている途中に誰かの取り組みが自然と目に入り、声をかけたり、かけられたりするきっかけを生むためです。

ブースを仕切る什器の高さも、ふと肘をついて中を覗き込みたくなる高さに設定しました。「何をやっているの?」「面白そうだね」という会話が、境界を越えて自然に生まれることを期待しているからです。象徴的なのは、プロジェクトを進めるエリア「FIELD(フィールド)」です。ここはプロジェクトの垣根を越えやすいよう、あえて仕切りを低くし、外からも取り組みが見えるようにしました。

垣根の低い会議スペースが並ぶエリア「FIELD」

70名ほどが入れる円形広場のイベントホール「CIRCLE(サークル)」では、日々さまざまな勉強会やトークセッション、ワークショップが催されています。円形にしているのも理由があります。四角い部屋、四角い什器だと、上座下座のような関係性が表れて自由な議論がしにくい。そこで、空間も什器も円形にしているんです。

トークセッションやワークショップなどを行うエリア「CIRCLE」

「GARAGE(ガレージ)」は進行中のプロジェクトの経緯やプロトタイプを展示する場所です。訪れたお客様が社内のメンバーと交流するきっかけにもなっています。特徴は、完了したプロジェクトの最終成果物は展示しないこと。開発途中の未完成なものをあえて展示して、さまざまな人と会話しながらアップデートしていく、ということを狙っています。

プロトタイプなどの展示エリア「GARAGE」

人同士の関係をつくる

――設計上の仕掛けによって、人々の動きを誘発しているのですね。ただ、それだけでこれほどの熱量が維持できるものなのでしょうか。

泉福:空間設計は「きっかけ」を作っています。それに加え、大切なのは、徹底した運営による「人の介在」にあります。

例えば、来場した方には受付脇のカフェスペースでコーヒーを提供しているのですが、ハンドドリップで提供するなど、あえて時間をかけることで、待っている数分間を「会話が生まれる余白」にしています。スタッフもただ注文を受けるのではなく、挨拶や雑談を交わして能動的に人と人をつないでくれています。

運営の核心を担うのが、ともに「賑わい」をつくっているコミュニティオーガナイザー、MIRAI-INSTITUTEです。同社は、オフィス空間のプロデュースやコミュニティ運営を行っている会社で、Serendie Street Yokohamaには立ち上げ当初から関わっています。

――MIRAI-INSTITUTEのみなさんは、Serendie Street Yokohamaにて具体的にどのような取り組みをされているのでしょうか。

正心:最初は「社員の方にSerendie Street Yokohamaに来ていただくこと」を目標に活動をしていました。場所の存在意義が共創を促すことだとしても、そもそも社員の方に「来たい」「使いたい」と思ってもらうことが重要だと考えていたからです。

MIRAI-INSTITUTE株式会社 コミュニティオーガナイザー 正心 麻里子

交流の入口としてSerendie Street Yokohama立ち上げ当初から定期開催を行っているイベントが、昼に行う「Serendie Table」と夜に行う「Serendie KAKU-UCHI」です。「Serendie Table」では、飲食可のエリア「YOKOCHO」で、ランチタイムに温かいお味噌汁やスープを作って振る舞います。

交流の起点となるエリア「YOKOCHO」

日本には「同じ釜の飯を食った間柄」という言い回しがありますが、食事を共にすることで、仲間意識が生まれることがあります。そこで、「まだ話したことのない人同士でテーブルを囲むこと」を参加者にお願いし、「はじめまして」の出会いをたくさん創出できました。

彦谷:「Serendie KAKU-UCHI」は、普段仕事では関わりがあるけれど人となりを詳しく知らない関係性を、より打ち解けた間柄に発展させる試みです。KAKU-UCHIの名の通り、お酒を飲みながら雑談する会です。人となりを知るといえども、話題がなければ話しにくい。そこで、会話を弾ませる仕掛けを用意していました。例えば、Serendie Street Yokohamaオープン当初にはお互いを知る会を設定し、自己紹介の際に「青春時代の思い出」を共有したことがありました。懐かしい話は盛り上がりますし、学生時代のストーリーや自身を形成したエピソードを披露してもらうことで、相互の理解と絆を深めることができます。

髙橋:「Serendie Table」や「Serendie KAKU-UCHI」のような顔を合わせて行う交流だけでなく、顔を合わせない交流も用意しています。その一つが、本棚エリア「Library(ライブラリー)」の栞です。ここには、この施設に関わっている方々が選書した本があり、来訪者はそれを借りることができます。特徴的なのが、本を返す際に感想を書いた栞を挟む仕掛けにしていることです。これによって、本を通じた新しい出会いづくりにつなげています。

Serendie Street Yokohamaに関わった様々な方の推薦図書が置いていあるエリア「Library」

場の温度感を、徹底的に可視化する

――「賑わい」を作るために「人と人」を交わらせ続けているということがよくわかりました。一方で、イベントを打っても人が集まらない、仕掛けがうまく機能しないこともあるかと思います。これらを形骸化させないために、何を意識していましたか。

正心:とにかく、アナログに泥臭く「賑わい」を可視化することです。各種イベントはオンライン上でも発信していましたが、それでは人は集まりません。特に、最初の頃は皆さん様子見状態になりがちです。そこで、オフィスエリアに出向いてポスターを掲げながら「12時から『Serendie Table』をやります!」といった呼びかけを行っていました。私たちが躊躇していては皆さんに来ていただけないと思い、いい意味で空気を読まずに行きました。顔見知りになれた方には「次は仲の良い方を数人連れてきてください」とお願いしています。地道ですが、マンツーマンの積み重ねが当初から最も効果のある集客方法です。

また、新しいグループづくりも意識しています。例えば、コーヒースタンドでコーヒーが出来上がるのを待っている人たちの中に、3人で雑談をしているグループと2人で話している人たちがいたら、くっつけて5人の輪にする。こうした地道な活動で、交流を増やしていきました。

彦谷:アナログという観点では、入り口付近の掲示板などを活用して、ちょっとした意見でも可視化することも心がけています。

入り口の右手にある月内のイベントを可視化した掲示板

例えば、コーヒースタンド付近の台に貼ってある「Serendie Now」という紙は「みんなで日本酒を飲みませんか」という呼びかけが書いてあります。それに「俺も日本酒が好き」「いいね!飲みたい」などと書き込んだ付箋がたくさん貼ってあったら、ひと目で「楽しそうだな」と感じられるでしょう。

髙橋:ちなみに、付箋を貼るというワンアクションだとしてもお声がけをして背中を押しています。特に、最初の1枚目はできるだけ避けたいなと思うものです。雑談の中で「この付箋にコメントを書いて貼ってみませんか?」と後押しし、想いを可視化できるようじっくり取り組むようにしています。

MIRAI-INSTITUTE株式会社 コミュニティオーガナイザー 髙橋 友香

賑わいが生んだ「Serendieらしさ」

――1年間取り組んできて、Serendie Street Yokohamaにどのような変化が見られていますか。

泉福:イベントホールCIRCLE の利用予約が3カ月先まで埋まっているなど、非常に多くの方にご利用いただけるようになりました。

また最近、打ち合わせの中で社員から自然と「それ、Serendieっぽいね」という言葉を耳にするようになりました。「Serendieとは何か」という定義を、私たちが押し付けたわけではないんです。これは、単なる場所の名前を超えて、一つの共有された「価値観」が生まれつつある兆しだと思っています。

私なりにその中身を解釈するなら、キーワードは「多様性」です。「違いはあっても、それを認め合う空気感」こそが、皆が感じ始めている「らしさ」の正体ではないかと考えています。

彦谷:私たちの視点からすると、社内の皆さんのフットワークが軽くなってきたように感じています。三菱電機の社員は、一人ひとりが深い知見を持つ専門家です。これまでは部門の壁があり、自分の領域外でそれを出すきっかけがなかっただけ。それが、徐々に解放されつつあるのかなと。

MIRAI-INSTITUTE株式会社 コミュニティオーガナイザー 彦谷 麻由子

正心:その変化を後押しするために、「発信のハードル」を下げることに注力しています。2026年1月には、お昼の時間帯に20分間の「Serendie Lunch Talk」という、ライトなピッチと意見交換のイベントを開催しました。これを継続して、フットワークの軽さを定着させていきたいです。

ありのままで共創できる場所へ

――開設から1年で、確かな「賑わい」が生まれました。ここまでの話を踏まえ、Serendie Street Yokohamaの今後について、皆さんは2年目以降、この場所をどのような場所にしていきたいと考えていますか。

髙橋:私は、まだここへ足を運べていない人たちにこそ、ここに来てほしいと思っています。2年目は、そうした方々が「自分も発言していいんだ」「ここなら何か生まれるかも」と思えるような、心理的安全性が高い状態をさらに作っていきたいです。トークセッションのような大きなイベントだけでなく、日々の挨拶や思いやりといった「在り方」を大切に、誰もが主役になれる場を目指します。

彦谷:1年目の「賑わい」を点ではなく面に広げていくのが、2年目の挑戦です。今の状態を当たり前だと思わず、三菱電機の中にあるまだ見ぬ「新しい芽」を常に探し続けたい。社員の方々の深い専門性をさらに引き出し、ここでの出会いが「三菱電機全体が変わったよね」という確かな体感に繋がるよう、アンテナを張り続けていきます。

正心:共創空間の成功には、施設にいる人たちのモチベーションが欠かせません。三菱電機の皆さんは情熱が非常に高い。だからこそ、これまでの地道な積み重ねを、2年目はより確かな「仕掛けと仕組み」へと昇華させたいと考えています。

泉福:この「Serendieらしさ」を社外へ、そして三菱電機全体へとさらに広げていきたい。訪れる社外のパートナーとも、立場を超えたフラットな関係性をより強固にし、具体的なイノベーションの事例を一つでも多く生み出したいと考えています。

何より、「賑わい」を牽引してくれる人だけでなく、「多様な個性が、そのままで共創できる場所」にして、三菱電機の新しい文化をつくっていきたいと思います。