SERENDIE – stories

STORIES / INTERVIEW

人にも環境にも寄り添うビルへ。三菱電機と清水建設がデータ連携で共創する、次世代のビルマネジメント

2026.04.08

総合電機メーカーとして長年、空調機器の性能を追求してきた三菱電機。しかし、脱炭素社会の実現という時代の流れの中、同社の空調事業は今、転換期を迎えている。ハードウェア単体の効率化に加え、建物全体のエネルギー管理をいかに高度化するか。特にエネルギー消費の大きい空調システムにおいて、利用者の快適性と環境負荷低減の両立が、次世代のビルマネジメントに求められている。

この「空調事業のアップデート」を象徴するフィールドとなったのが、同社の共創拠点「Serendie Street Yokohama」が入居する横浜アイマークプレイスだ。「機器を納める」ことから一歩踏み込み、実際のオフィス稼働に基づいた「空間の価値最大化」へ。このユーザー起点での挑戦から始まったのが、清水建設との共創プロジェクトだ。

プロジェクトの発足から、実証実験開始のリリースまで4ヶ月。大企業同士でありながら、どのようにプロジェクトをスムーズに進めていったのか。また、二社が考えるビルマネジメントの未来像とは。プロジェクトに関わる、三菱電機の杉山智昭氏、清水建設の今井公一氏、菅原 理氏に話を伺った。

杉山 智昭 Tomoaki Sugiyama

三菱電機株式会社 DXイノベーションセンター システム連携企画部

2009年入社。入社以来9年間、国内のビルマネジメントシステムのシステム設計を担当。その後、スマートビル事業の立ち上げに携わり、2020年にはスマートシティ・ビルIoTプラットフォーム「Ville-feuille®」をリリース。2025年より現職で、デジタル基盤「Serendie®」を活用した事業創出に取り組む。

今井 公一 Koichi Imai

清水建設株式会社 投資開発本部 アセットマネジメント部 主査

1992年清水建設入社。入社後、不動産事業、官庁営業に従事し、2020年よりアセットマネジメント部にてオフィス・住宅・ロジステックなどの不動産管理業務に従事。2022年より、横浜アイマークプレイスへの建物OS「DX-Core」の実装、BM/PMアプリの開発を担当。

菅原 理 Satoru Sugawara

清水建設株式会社 エンジニアリング事業本部 情報ソリューション事業部 プロジェクト計画部 主任

2012年清水建設入社。入社から新築・改修など様々なプロジェクトの施工管理に従事し、2020年に豊洲エリア再開発プロジェクトを通じて施工管理兼建物OS「DX-Core」の実装を担当。その後は現地設備・運用に関する知識を活かし、建物OS「DX-Core」の機能開発および新規事業開発に従事。

プロジェクトは、個人的な「問い」から

――まず、今回の共創事業の概要と狙いを教えてください。

杉山:清水建設さんの建物OS(※) 「DX-Core」と、当社のデジタル基盤「Serendie」を連携させた空調制御の最適化による、省エネと快適性を両立させるプロジェクトです。4月からプロジェクトが始まり、8月には、ここSerendie Street Yokohamaの入っている横浜アイマークプレイス10階にて、実証実験を開始するに至っています。

三菱電機株式会社 DXイノベーションセンター システム連携企画部 杉山 智昭

DX-Coreは、空調機器やエレベーター、セキュリティなどの設備・システムのデータを容易に連携・制御できる建物運用のためのデジタルプラットフォームです。

DX-Coreを介して得られる他社製空調機器の稼働データと、私たちが取得している温湿度などの環境データや人の位置データ、加えて、外気温や日射量といったデータを集約し、Serendieのデータ分析基盤を使って分析。その結果を空調制御にリアルタイムに反映することで、オフィス空間の最適化を図っています。

――今回の実証が始まったきっかけを教えてください。

杉山:きっかけは、横浜アイマークプレイス移転後に感じた空調運用の不便さでした。ここは、建物全体の空調を中央管理室で一括制御するシステムを採用しています。そのため入居者側で自由に温度調整ができず、都度、中央管理室へ温度設定の変更を依頼していました。広いフロア内で場所によって体感も異なるため、社員からの要求は絶えません。「より最適なオフィスフロアの空調設備の管理方法があるのではないか」。そんな個人的な問いが出発点になりました。

――これまでの三菱電機の事業づくりでは技術や収益性を切り口とすることが多かったと思いますが、今回はユーザーの課題起点でのスタートだったんですね。

杉山:そもそも、Serendieには「事業は顧客課題から始める」という思想があるんです。このプロジェクトにおいても、私たちが抱える課題は、きっと他のビル入居者も抱えているはずだ、という仮説を検証するところから始まりました。具体的には、デベロッパーへのヒアリングやオフィステナント企業へのアンケート調査を行いました。その結果、自分たちが現場で感じていた「空調の不自由さ」という課題が社外の声とも重なることが分かり、実際に取り組むことになりました。

(※)ビル内の各種建築設備のアプリケーションと連携し、スマートフォンのように適時アップデートすることでビルの「付加価値向上」、ビル運用管理の「生産性向上」を図るソフトウェア。

「一緒に新しいビジネスをつくる」という覚悟

――自社だけでサービスをつくるというアプローチもあったと思いますが、清水建設さんと共創することにした理由を教えてください。

杉山:まず、前提としてSerendie自体に共創を通じて新たな事業を作っていきたいという思いがあります。私たちは、一社で解決できる課題は限られていて、大きな社会課題を企業間共創によって解決すべきだと考えています。その上で、清水建設さんに共創相手としてお声がけしたのは二つ理由があります。

まず、一つ目は、私たちが入居している横浜アイマークプレイスが清水建設さんの管理されているビルであり、「DX-Core」が導入されていたこと。その上で、「DX-Core」が集めたデータの活用に積極的に取り組まれていたことを知っていたため、Serendieが提供できる価値とニーズが合致するのではないか、と考えていました。

今井:まさに、DX-Coreは、PCのOSのように様々なアプリケーションと連携して初めて真価を発揮するものです。そのため、APIを公開して外部のパートナーに自由に参画していただき、便利な仕組みが自然と増えていくようなエコシステムを作りたいという強い思いがありました。

清水建設株式会社 投資開発本部 アセットマネジメント部 今井 公一

――アジャイルを取り入れながら、手法をどのように変えていくのでしょうか。

菅原:特に「蓄積されたデータをどう価値に変えるか」という具体的なユースケースの創出に力を入れたいと考えていました。ユーザー目線でのデータ活用は私たちにとっても大きな学びになるため、事業性は一度脇に置き、まずは共に知見を溜める実証実験としてスタートすることにしたのです。

杉山:二つ目の理由が、組織風土の相性が良かったこと。私たちの熱量や事業を進めるスピード感が「DX-Core」を担当されている部署の皆さんと合致していたことが大きかったです。

共創の話を持ちかける際、前任のプロダクトオーナーが清水建設さんに「お互いにメリットが出るビジネスモデル」を提案させていただいたんです。単なる場所貸しやデータ連携のお願いではなく、将来の事業化を見据えた具体的な収益モデルまで提案しました。それに対して清水建設さんも同じくらいの熱量で反応してくださいました。

菅原:よく覚えています。DX-Core上と三菱電機さんのアプリを連携させる際、誰が利用料を回収し、どうレベニューシェア(収益分配)を行うかまで、具体的にまとめて提案してくださいました。相手側の「売り方」まで一緒に考えていただく提案は他社ではなかなかありません。その姿勢が受発注の関係ではなく、共創関係としてプロジェクトを立ち上げられたきっかけになったと感じています。

開発速度を上げる、アジャイルと100年の知見

――熱量や組織文化が一致していたとはいえ、大企業同士の共創では進みが遅くなりがちな印象です。4ヶ月でのリリース発表のように、短期間でも成果を残せている理由について教えてください。

杉山:何よりも「まず形にして価値を確かめる」というアジャイルな姿勢を共有できたことが大きかったと思います。

例えば、秋に試した「可視化機能」は象徴的でした。日照条件などから予測したフロア内の室温変化をマップで見える化し、「今日は暑くなりそうだから、あちらの席に座ろう」といった行動変容を促すものでした。

ところが、いざプロトタイプを社員に使ってもらったところリアクションが悪く、ニーズがないことが早々に判明しました。従来型の開発なら、計画通りに数ヶ月かけて作り込み、リリース後に「誰にも使われない」という致命的な結果を招いていたでしょう。早い段階でこの反応が得られたのは、むしろ大きな収穫でした。

菅原:「アジャイルに検証する」という共通認識があったため、仕様の折衝や調整に時間を取られなかったのも大きいです。通常ならハードな交渉が必要になる局面でも、「まずは最小限の機能で動かして、ダメなら変えよう」という前提を共有できたことで、実装までがスムーズでした。

清水建設株式会社 エンジニアリング事業本部 情報ソリューション事業部 プロジェクト計画部 菅原 理

今井:手法だけでなく、三菱電機さんが持つ知見も推進力になったと思います。空調機器ビジネスの経験が浅いと「何が本質的な課題か」を見極めるだけで時間を費やしてしまいます。今回は、三菱電機さんにビル空調の運用で蓄積してきた知見があったからこそ、最初から課題設定がぶれにくかった。その土台があったからこそ、最短距離で「データを価値に変える議論」ができたのだと感じています。

杉山:私たちはプロジェクトの立ち上げ当初から、知財の担当者をメンバーに加えていました。これは、Serendieのスクラムの特徴でもあります。他社との共創では、アイデアが出ても権利面の確認で手戻りが起き、足が止まることがあります。自社で権利(知財)を把握していたので、外部との権利調整やリーガルチェックに時間を取られて足が止まることがなく、実装に集中できたのだと思います。

快適性と省エネの両立を、ビルの新しい当たり前に

――今後、実証を「事業」にしていく上での取り組みについて教えてください。

杉山:「良い実証だった」で終わらせずに事業化するには、事業部門との連携を密にとる必要があります。大企業では「単体でどれほどの利益が出るか」が問われます。ユーザーの細かな困りごとから入ると、施策は一つひとつが小さいため、後から試算しても数字がまとまりにくい。小さな価値を積み上げて大きなインパクトにする、発想の切り替えが必要だと感じています。

菅原:元々、DX-Coreは、ビル全体のデータを一括管理する管理者(オーナーや管理会社)のためにデータを提供することを想定していました。しかし、今回のプロジェクトでテナントごとにデータが欲しいというニーズがわかった。そのため、集めたデータの管理権限に関するアップデートが必要だとわかったことは学びでした。

その上で、データ活用のあり方に応じた「持続可能な収益化」が必要だと考えています。現在は実証段階のため通信などの運用コストは当社が負担していますが、事業として自走させるには、受益者であるテナント様やビルオーナー様を含めた収支の座組みを確立しなければなりません。そのビジネスモデルづくりが、今後取り組むべきことだと考えています。

――最後に、皆さんが目指す、これからのビルマネジメントのあり方を教えてください。

杉山:まずはDX-Coreが導入されている他のビルへ、私たちのサービスを横展開していきたいです。オフィスビルでも快適性と省エネを両立する空調制御が「標準」と認識される状態が理想です。

かつてビル管理の世界では、セキュリティ確保のためにシステムを外部から完全に切り離して運用するのが常識でした。しかし現在は、守るべき情報を厳密に管理しながらも、メーカーの垣根を越えてクラウド上でデータを連携させる時代です。「データの掛け合わせ」から生まれる新たな価値で、より良いビル環境を実現したいです。

実証実験中のサービス画面

菅原:ビルオーナー様にとって「建物OSは導入ハードルやコストが高い」という印象が強いのが現状です。AIなどで自動化し、初期工数を劇的に削る。そうした「導入のしやすさ」を追求することで、三菱電機さんのようなパートナーが即座に価値を発揮し、より良いビルマネジメントを実現したいです。

今井:オフィスビル等の不動産は立地などのハード面が重視される傾向がありますが、ソフト面で差別化できれば価値は変わります。「DX-Coreが入っているから、このビルがいい」と指名されるレベルを目指したいです。また、ビルマネジメントの自動化は深刻な人手不足への回答でもあります。人が担っていた管理業務をシステムが支えることで、ビルの品質を維持・向上させる運営モデルにつなげ、人が、人にしかできないことに注力できる環境を整えていきたいですね。