川副 真生 Masaki Kawazoe
SERENDIE – stories
STORIES / CASE STUDY
現場データを、保守・設計・製造の改善へ。Serendie®と生み出す新しい製造業DX
2026.09.16
設備の稼働状況やエラー履歴を収集し、画面上で見えるようにする。そこまでは実現できても、「なぜトラブルが起きたのか」「どこを変えれば生産性が上がるのか」まで読み解けず、次の改善につなげられていない製造現場は少なくない。
装置メーカーにとっても、出荷した装置が現場でどう使われ、どの機能が利用され、どのようなトラブルが起きているのかを把握することは容易ではない。そのため、保守の現場で得られた知見が、次の装置や機器の設計に十分に活かされないという課題が残る。
三菱電機は、2003年に始まった「e-F@ctory」※1以来、製造現場とITをつなぐ取り組みを20年以上続けてきた。機器や制御、装置の使われ方まで理解し、現場データの意味を読み解けることは、同社が積み上げてきた強みだ。現在は、そのFAの知見にSerendieの共通データ基盤やデジタル人財、価値検証の仕組みを掛け合わせ、個別の機器や現場に閉じない改善の循環を生み出そうとしている。
製造業を取り巻く環境はなぜ、従来の機器単体・納品型の解決では対応しにくくなったのか。そしてSerendieとの連携は、三菱電機のFAデジタルソリューションの提供価値をどこまで広げるのか。FAシステム事業本部の川副 真生氏、枡田 圭祐氏、妹尾 拓実氏に聞いた。
※1 e-F@ctory:三菱電機が2003年に提唱したFA-IT統合ソリューション。「生産現場」「エッジコンピューティング」「ITシステム」の3階層で構成され、開発・生産・保守のトータルコスト削減を支援する。
三菱電機株式会社 名古屋製作所 FA Serendie事業開発センター センター長
1998年入社。PLCを起点に、FA領域のソリューション、ネットワーク、デジタルソリューションに従事。名古屋製作所では、オープンネットワーク「CC-Link IE TSN」の普及活動や、製造現場とITをつなぐソリューション「e-F@ctory」の推進にも携わってきた。
2022年から2026年までの三菱電機ヨーロッパでは、欧州・中東・アフリカ地域におけるFA事業のマーケティングやマネジメントを担当。2026年7月からはFA Serendie事業開発センターのセンター長を務める。
枡田 圭祐 Keisuke Masuda
三菱電機株式会社 名古屋製作所 デジタルソリューションシステム部 DS開発第三グループ
2013年入社。情報技術総合研究所、中部支社での営業を経て、2019年よりFA領域に従事。「e-F@ctory」のプロモーションやパートナー連携、展示会・Webを通じたソリューション訴求などを担当。Serendie参画後はSaaSビジネスに携わり、現在は「遠隔保守サポートサービス」のプロダクトオーナーを務める。
妹尾 拓実 Takumi Seno
三菱電機株式会社 横断事業推進プロジェクトグループ DX技術推進部 アプリケーション開発1グループ
自動車部品メーカーで生産技術を経験し、工程改善、工程設計、工場立ち上げなどに従事。2022年9月、経験者採用で三菱電機に入社。名古屋製作所では「遠隔保守サポートサービス」の前身となるサービスのシステム構築や導入支援を担当。現在は「スマート保全サービス」のプロダクトオーナーを務める。
変わったのは、課題ではなく解き方
――製造業のDXをめぐる課題は、以前と比べてどのように変わっているのでしょうか。
川副:大きく見れば、本質的な課題は変わっていません。「e-F@ctory」が始まったのは2003年です。当時は頭に「e」をつけるのが流行っていた時代です。今はDXと呼んでいますが、やろうとしていることは似ています。
現場の人たちから見れば、課題はいつも同じところにあります。例えば、装置を設計する人であれば、どれだけ短い期間で設計し、動作確認まで済ませて納めるか。ここは昔から変わっていません。変わったのは、そのやり方です。
三菱電機株式会社 名古屋製作所 FA Serendie事業開発センター センター長 川副 真生
――解き方を変えなければならない背景には、何があるのでしょうか。
川副:20年前と比べると、大きく二つあります。一つは、多様な製品を、必要な量だけ短いサイクルで作る「変種変量生産」が広がったことです。以前は同じようなものを大量に作るのが中心でした。今は多様な製品を少量ずつ、しかも短いサイクルで作らなければならない。半導体のように、2~3年ごとに装置を設計し直す業界もあります。
もう一つは、市場のグローバル化です。かつては国内のニーズと国内のルールで戦えました。現在は、顧客企業自身が中国、韓国、台湾、欧米、インドなどへ生産・事業拠点を広げています。例えば欧州ではさまざまな規格が次々に生まれ、対応できなければ製品を欧州市場に投入できない状況が広がりつつあります。影響は欧州だけにとどまりません。私が欧州に駐在中は「欧州で事業をするにはどうすればいいのか」というご相談も実際にいただいておりました。
これは私たちだけの悩みではなく、日系の製造業の皆さんが共通して抱えているものです。比較的規模の大きな会社であっても、一社だけでは戦えない環境になっています。
枡田:結果として、お客様からいただくご相談の切り口も変わりました。以前は、機器に良い機能を実装して「これを使ってください」と提供する形が中心でした。今は「今の業務をもう少しこう変えられないか」「社内の別のシステムと連携すれば、もっとこんなことができるのではないか」といったご相談が出てきます。求められているのは、機器単体の機能ではなく、業務や既存システムまで含めた課題解決です。最近では、製造業ではない領域から連携のお話をいただくことも増えてきました。
本当に知りたいのは、数値の裏側
――機器単体では応えにくい相談が増えるなか、三菱電機が以前から培ってきた強みはどこにあるのでしょうか。
妹尾:前提として、工場のシステムは、設備そのものを動かすOTの領域と、データを扱い、処理するITの領域に分かれています。ITの領域だけを見れば、多くのベンダーがデータ基盤や分析サービスを提供しています。私たちが独自の価値を出せるのは、そのデータが現場で何を意味するのかまで理解できるOTの領域です。
設備からデータを一つ取り出すだけでも、機器ごとの通信方式や設定に対応しなければなりません。しかも、取得できた数値が現場で何を意味しているかは、その数値を見ただけでは分かりません。
川副:私たちの強みは、製品を幅広く持っていることです。サーボモータ※2であれば、その中の部品まで自分たちで作っている。装置メーカーがどう設計し、エンドユーザーがそれをどう使っているかを理解しています。
例えば、温度が1℃上がった、1℃下がった。その変化を画面に表示するだけでは、現場の判断には十分ではありません。現場が本当に知りたいのは、なぜ変化したのか、そして何を変えればトラブルの防止や生産性の向上につながるのかです。どの機器の、どの設定の、どのパラメータの組み合わせでその現象が起きているのか。トラブルが起きたとき、あるいは生産性を上げたいとき、どこを変えればいいのか。結果だけ可視化しても、そこは分かりません。
機器そのものを設計してきたからこそ、装置の挙動の背景まで理解できる。ここが私たちの勝負どころです。ただ、その知見を一つの機器や案件の中だけに閉じず、次の設計や別の業務へつなげていくには、データや人を横断して結び付ける仕組みが必要になります。
※2 サーボモータ:指令どおりの位置や速度で動かせるモータ。内蔵の検出器「エンコーダ」が回転量を常時測り、ずれを補正し続ける仕組みを持つ。ロボットや工作機械など、精密な動きが必要な設備に使われる。
現場の知見を、Serendieで次の価値へ
――データや人を横断して結び付ける仕組みとして、Serendieの活用も進んでいると伺っています。FAの現場知見にSerendieが加わることで、どのような価値を提供できるようになったのでしょうか。
川副:具体的には三つあります。一つ目は、現場業務を支える価値。保守・維持管理・トラブル対応をデジタルで支援し、人が時間をかけていた作業の負荷を下げ、本来の改善活動に時間を使えるようにする。二つ目は、ものづくりのサイクルを進化させる価値。保守で得たデータを設計や製造へ戻し、設計・製造・保守をまたぐデータ循環をつくる。三つ目は、顧客と共創し、現場データを活かす価値。単体製品の機能追加では解けない課題に対し、業務全体を理解しながら一緒につくっています。
――そうした価値提供につながる具体的な事例を教えてください。
枡田:一つが「遠隔保守サポートサービス」です。装置メーカーが出荷後のアフターサポートを効率化し、現地対応の負荷やコストを下げるためのサービスです。
導入時に期待されるのは、現地対応の負荷や保守コストの削減です。しかし、より大きな価値は、保守で得たデータを次の装置設計や機器開発へ還元できる点にあります。設計時に必要だと考えた機能が実際にどれくらい使われているのか、どのトラブルがどんな条件で発生しているのかを把握できれば、後継機種の企画や機器開発に活かせます。保守を効率化するだけでなく、現場で得たデータを次の価値へ循環させることを目指しています。
「遠隔保守サポートサービス」の操作画面
妹尾:もう一つが「スマート保全サービス」です。設備の予備品や保全作業の情報を管理・活用し止まらない工場の実現を支援します。生産設備を止めないためには、設備を動かす制御機器や駆動部品を予備品として持っておく必要があります。しかし、どの予備品を何台分保有すべきか。どの部品が生産中止になり、後継機種は何になるのか。設備ごとに条件が異なるため、適正な保有数を判断するのは容易ではありません。
川副:これは本当に泥臭い世界です。20年ほど前、私が欧州にいた頃は、実際に工場へ行ってリストを見せていただき、当社製品の一覧を手作業で作り何台あるかを数えていくような何日もかかる作業でした。
妹尾:「スマート保全サービス」では、各製作所が持つ部品データがSerendieの共通データ基盤に集まっているため、そこから生産中止情報や後継機種情報を引き出して提供できます。従来は人が時間をかけて集め、照合していた情報を、適切な保全判断に使える形で届けられる。FA部門が持つ現場理解と、社内に分散していたデータをつなげられることが、新しい提供価値になっています。
三菱電機株式会社 横断事業推進プロジェクトグループ DX技術推進部 アプリケーション開発1グループ 妹尾 拓実
顧客とともに育てる開発
――提供するサービスだけでなく、そのつくり方にも変化はありますか。
枡田:従来の製品開発では、お客様のご要望が代理店や支社、工場営業を経由して設計者に届くことが多くありました。設計者とお客様との距離が遠いぶん、求められている機能は分かっても、なぜその機能が必要なのか、背景にどのような業務課題があるのかまでは見えにくい。ハードウェア中心の開発では、それでもある程度は成立していました。
しかし、業務課題を解決するサービスをつくるには、個別の機能を追加するだけでは不十分です。お客様の業務がどのような流れで行われ、その前後で何が起きているのかまで理解したうえで、サービスのあり方を考える必要があります。
妹尾:そのため、お客様との関係も変わってきました。従来のように、仕様を固めて製品を作り切ってから提供するのではなく、開発の途中段階から画面を見ていただき、早いタイミングでフィードバックを受けています。
仕様に迷う点があれば、こちらだけで悩み続けるのではなく、すぐにお客様へご相談し、その場で画面を確認していただく。そこで得た意見を開発へ反映します。完成した製品を納めるだけの受発注関係ではなく、課題を共有し、解決策をともに育てていく共創関係を大切にしています。
枡田:お客様からは、AIなどの新技術を自社の課題解決に活かせないかというご相談も増えています。私たちFAの開発メンバーだけでは対応しきれない領域については、AIやデータ分析に精通したSerendieのメンバーと一緒に取り組んでいます。いきなり製品へ組み込むのではなく、小さなプロダクトを作ってお客様に試していただき、価値があるかどうかを早期に確かめる。Serendieとの連携によって、FAの知見だけでは足りない領域を補いながら、本当に必要とされるサービスを、より速く検証できるようになりました。
三菱電機株式会社 名古屋製作所 デジタルソリューションシステム部 DS開発第三グループ 枡田 圭祐
保守・設計・製造の循環を
――二つのサービスを入口に、今後どのような提供価値へ広げていきたいと考えていますか。
枡田:個別のサービスを提供して終わりにするつもりはありません。私たちが提供したハードウェアやソフトウェアがどう使われているかをデータとして集約し、それをもとに新たな価値を提供する。この循環を回していくことを目標に掲げています。
ただ、当社だけではだめだと思っています。他の製造業の方々も同じように、自分たちが世に出した製品をより良くしていける仕組みが必要です。
私たち自身もメーカーですから、社内にもお客様がいます。今回の「遠隔保守サポートサービス」も、当社で装置を作っている事業部が10年ほど積み上げてきたノウハウを、他のお客様にも使っていただけるように広げたものです。社内で成功パターンをつくり、本当に現場で使えるものを出していく。それを展開できる仕組みが基盤としてあれば、強みになっていくはずです。
妹尾:私が現場を回るなかでお客様から感じるのは、今の生産性を10年、20年先まで維持できるのか、という不安です。人手が減る一方で、管理すべき設備は増えています。製造業の競争力を支えてきたのは、日々の改善です。しかし、人手が減れば、改善を担うリーダーの時間が、突発のトラブル対応や情報整理などの定型業務に充てられてしまいます。そうした業務を仕組みで少しずつ肩代わりし、現場の方々が本当に価値のある改善へ向き合える時間を増やしたいと思っています。
川副:製造業は、一社だけで成り立っているわけではありません。エンドユーザーがいて、装置メーカーがいて、それを組み上げるSIerがいて、私たちのように機器を提供するプレーヤーがいる。ここが一貫していないと、最終的にエンドユーザーが求めるものづくりは実現しません。関わる企業とデータや知見を共有し、一緒に改善を続けられる仕組みをつくる。それが私たちの目指す姿です。
もう一つ大事なのが、海外で通じるソリューションにすることです。デジタルソリューションの領域では、欧州も中国も進んでいますし、規格も先を行っています。日本で成功したものをそのまま持っていっても、通じないことのほうが多い。逆に、海外で通じるものを作れば、日本でも広げられる可能性があります。そのためには、開発の進め方も人財の交流の仕方も変えなければなりません。
現場データを読み解く力は、三菱電機が以前から培ってきたものです。Serendieは、その知見を共通データ基盤や専門人財、共創の仕組みと結び付け、一つの機器やサービスに閉じない価値へ広げてくれます。現場を起点に保守・設計・製造をつなぎ、製造業に関わるプレーヤー全体が継続的に改善できる循環をつくる。そんな挑戦をしていきたいですね。