ワークショップと聞くと、多くの人は一日で完結する単発のアイデア出しを思い浮かべるかもしれない。付箋にアイデアを書き出し、盛り上がって終わる。だが、Serendie®の共創ワークショップが目指すものは、それとは少し違う。
案を出すこと自体をゴールにせず、その後に続く事業探索――顧客と三菱電機が継続的に仮説検証や事業企画を進める「スクラム活動」につなげるための「助走」として設計されている。まだ「何をやるか」が決まっていない企業とも、次に検証すべき事業の方向性を共に描いていく。
具体的にどのようなワークショップを行っているのか。また、共創活動の前にワークショップを行う理由は何か。そして、ワークショップを経ることで、企業にどのような変化があるのか。
本記事は前編・後編の2部構成。前編では、ワークショップの設計・運営を担う三菱電機の笠井 嘉氏と畠中 智大氏に、その狙いや工夫について話を聞いた。後編では、実際にワークショップに参加したお客様の声を紹介する。
SERENDIE – stories
STORIES / INTERVIEW
【前編】お客様と事業の方向性を共に描く。アイデアで終わらせないSerendie®の共創ワークショップ
2026.10.21
アイデア出しで終わらせない
三菱電機株式会社 DXイノベーションセンター 共創推進部 部長 笠井 嘉
―― まず、Serendie®の共創ワークショップとは、どのようなものなのでしょうか。
笠井:大きく2種類あります。一つは、半日ほどの短時間で、共創の進め方そのものを体験してもらう「First Sprint」です。チーム編成からアイデア出しまで、後続のスクラム活動の流れを一通り体験できます。題材はお客様の課題に限らず設定できるので、まず「こういうふうに進めるのか」を知ってもらう入口です。
もう一つが「Serendie Sprint」です。こちらは事前ヒアリングでお客様の課題を掘り下げ、それを題材にアイデアを出し、利用場面や仕組みを具体化して、簡易的なプロトタイプまでつくります。First Sprintが「進め方を体験する入口」だとすれば、Serendie Sprintはお客様のテーマで実際に手を動かす、一歩踏み込んだプログラムです。
ただし、Serendie Sprintでも、その場で最終的なサービス案を決めるわけではありません。ワークショップの後に続くスクラム活動へ向けて、「次に何を一緒に確かめるか」をそろえる。そのための助走という位置づけです。
―― 一般的なアイデア創出ワークショップと比べると、どこが違うのでしょうか。
笠井:私たちが重視しているのは、一度きりのアイデア出しで終わらせないことです。面白い案が出ても、「どれを進めるのか」「誰が動くのか」が決まらないまま議論が止まってしまってはもったいない。そうならないよう、案の面白さや数ではなく、顧客と三菱電機が次に検証するテーマを定め、同じチームとして動き出せる状態をつくることに軸を置いています。
参加者の「本音」をコアに据える
―― 具体的にワークショップをどのように設計するのか教えてください。
笠井:決まったプログラムを最初から最後まで同じように当てはめることはしません。かといって、毎回ゼロから組み立てるわけでもない。課題の深掘り、未来の変化の検討、アイデア創出、プロトタイプづくりといった「部品」をあらかじめ用意しておき、その顧客の課題や目的に合わせて、どれをどう組み合わせるかを変えていきます。
―― 三菱電機の参加者はどのように構成しますか。
笠井:事業として続けられるか、利用者に価値があるか、技術的に実現できるか。この3つを同時に検討できるよう、ビジネス、クリエイティブ、テクノロジーの観点を持つメンバーをそろえます。参加企業からも、業務や顧客をよく知る方に入っていただきます。技術的に実現できても、利用者に価値がなければ事業にはつながらないからです。
畠中:また、運営を担うDXイノベーションセンターのファシリテーターが、参加企業と三菱電機の事業部門の間に入ります。参加者の本音を聞くためです。例えば、ビジネスとしては良いアイデアでも、当事者の意思が乗っていなければ、その後の活動は前に進みません。しかし、多数決ではそうしたアイデアが選ばれがちになる。ファシリテーターが、第三者の立場から少し場を揺さぶることで、参加者は「本当にやりたい」と思うアイデアを選べるようになります。
―― 他にも設計の上で大切にしていることはありますか。
畠中:三菱電機の技術を出発点にしないことです。ワークショップでは、参加企業の業務や顧客課題を理解し、必要に応じて両社の知見や顧客接点、社外の技術を組み合わせます。生成AIなどを使って、利用場面を画像や簡易的なプロトタイプとして可視化することもあります。共通のイメージを持ちながら議論できると、次に何を検証するかを明確にしやすくなるためです。
面白さと実現性の両立を目指す
―― 具体的な事例を教えてください。
畠中:三菱地所ホーム様と行った、住宅領域の新サービスを考えたSerendie Sprintです。もともと全館空調でお付き合いがあり、Serendie Streetにお越しいただいたことをきっかけに、「新しい価値を生み出したい」という話になったのが始まりです。
当時挙がっていたテーマは食生活、健康、睡眠、資産形成など幅広く、住宅を選ぶときの課題と、住み始めた後の課題が混在していました。
三菱電機株式会社 DXイノベーションセンター システム連携企画部 畠中 智大
―― 方向性が定まらない状態から、どのように進めたのでしょうか。
畠中:まず「誰の、どの生活場面の課題を考えるのか」を具体化する必要があると考えました。そこで、当初予定していたSerendie Street Yokohamaではなく、三菱地所ホーム様のモデルハウスでワークショップを実施しました。
実際の住宅空間を見ながら、設計や営業の担当者の方から、住まい手が家を選ぶときに重視することや、入居後に生まれるニーズなども直接うかがいました。そうすることで、幅広いテーマを抽象論のまま扱わず、具体的な暮らしに結びつけて考えることができました。
―― 現場で考えたことで、議論はどう変わりましたか。
畠中:まず、混在していたテーマの中から、住宅を「選ぶ」場面に絞り込みました。そのうえで、「未来にこんな暮らしがあったら面白い」といった発想を広げていきました。ただ、面白いアイデアはそのままにせず、必ず実際の住まい手の課題、そして三菱電機・三菱地所ホーム様双方が持つ技術や顧客接点に照らし直しました。「この案は面白いが、本当に実現できるのか」「誰のどんな困りごとに応えるのか」を、そのつど確かめる。この広げては引き戻す往復を繰り返すことで、面白さと実現性の両方が見込める方向へ絞っていきました。
検討を重ねた結果、完成案を一つに決めるのではなく、両社が次に深掘りする方向性をそろえる形で着地しました。現在は、その方向性をもとに事業企画を目的としたスクラム活動へ進んでいます。
共創の成功は、目線合わせと熱量
―― ここまで、内容や特徴をうかがってきました。そもそも、共創やスクラム活動をいきなり始めるのではなく、ワークショップという段階を挟むのはなぜでしょうか。
笠井:企業間で事業開発を始めるには、解きたい課題、互いの役割、進め方についての認識をそろえる必要があります。しかし、業界知識や用語が異なる企業同士では、お互いの技術を見学して知っただけですぐ本格的な開発へ進むのは難しい。見学から本格的な共創までのあいだには、かなりの距離があります。
その距離をいきなり詰めるのではなく、徐々に埋めていく。共同作業を通じて目線をそろえ、次の活動へ進めるかを確かめる。ワークショップは、そのための段階です。
畠中:ワークショップの段階から関わっておくと、後続のスクラム活動へも移りやすくなります。課題と次の方向性を共有できた状態から始められるので、あらためて認識をすり合わせる手間が少ない。ワークショップを「入口」として設計しているのは、そのためです。
―― 事業として成り立たせるために、方向性をそろえる以外に大切にしていることはありますか。
笠井:事業にかける熱量です。ただ、ワークショップ開始時点では、参加者の熱量にばらつきがあることも少なくありません。大事なのは、最初から高い熱量を求めるのではなく、検討を重ねる中で「自分たちが取り組みたい」と思える状態を目指すことです。
畠中:そのため、事前課題やヒアリングで、目の前の困りごとだけでなく、「なぜ解決したいのか」「所属部門の役割とどうつながるのか」までうかがいます。参加企業の状況に応じて問いや進め方を変え、自分の言葉で課題の背景を考えてもらう。そうすることで、部門から与えられたテーマを、参加者の方が自分ごととして考えられるテーマへ、少しずつ近づけていきます。
テーマが決まっていない段階からこそ、相談してほしい
―― これまでワークショップを手がけてきて、どのような成果がありましたか。
笠井:数の面では、予想以上のスピードで広がっています。本格的にワークショップの提供を始めた昨年度を上回るペースで、今年度も引き合いをいただいています。そのなかでも、後続のスクラム活動を見越したSerendie Sprintが増えていて、そこから実際のサービス開発につながったケースも出てきています。今回取材にご協力いただいている三菱地所ホーム様とも、現在は事業企画を目的としたスクラム活動を進めています。
畠中:定量的な成果以外では、率直に相談できる関係も残ります。お客様からは「三菱電機との距離が近くなった」「ここまで一緒に考えてくれるんだ」といった声をいただきます。互いの課題や制約を話しながら一緒に手を動かすので、その後も、次の検証や事業化について相談しやすくなるようです。
―― まだ具体的な事業テーマが決まっていない企業でも、相談できますか。
笠井:ぜひ相談していただきたいです。具体的なテーマが決まっていなくても、お客様が抱える課題や事業領域に合わせて内容を組み替えるので、あらかじめ事業企画まで固めておく必要はありません。「DXや新規事業に取り組みたいが、何から始めればいいか分からない」という企業にとって、検討の糸口を見つける場になります。ワークショップを、両社で次に検証するテーマを定め、事業開発に向けて動き出すための出発点として活用していただきたいですね。
畠中:まだ何をしていいか分からない、という企業は少なくないはずです。そういうときに、気軽に相談していただきたい。曖昧な段階からでも一緒に考え、次に確かめるべきことを見つけていければと思っています。
笠井 嘉 Yoshimi Kasai
三菱電機株式会社 DXイノベーションセンター 共創推進部 部長
プロダクトデザインやユーザーリサーチ、共創空間の立ち上げ・運営などを経て、2025年3月、三菱電機へ入社。現在は「Serendie Street Yokohama」などの共創空間の企画・運営およびサービスマーケティングを担当。
畠中 智大 Tomohiro Hatanaka
三菱電機株式会社 DXイノベーションセンター システム連携企画部
2025年入社。新規事業開発においてUI/UXデザインやプロジェクトのファシリテーションを担当。