「新しい価値を生み出さなければ」。頭では分かっていても、自社内の会議では既存のセオリーに縛られ、斬新なアイデアが出ても批判されて終わってしまう。あるいは、外部のワークショップで付箋を貼って盛り上がっても、日常業務に戻った途端にプロジェクトが立ち消えになってしまう。せっかく発案したアイデアが形にならなかった経験を持つ企業は、少なくないのではないだろうか。
三菱電機が提供するワークショップ「Serendie Sprint」は、単なるアイデア出しの場ではない。企業の壁を越えたワンチームで課題に向き合い、その後の本格的な事業開発へとつなげるための「助走」として設計されている。まず同じフィールドに立ち、同じ目線で議論できる土台をつくる。その先に、具体的な価値をつくる共創活動がある。
では、実際にこのワークショップを体験した企業の内側では、どのような変化が起きているのか。後編となる本記事では、Serendie Sprintに参加した三菱地所ホーム株式会社と日揮株式会社の2社に話を伺った。
SERENDIE – stories
STORIES / INTERVIEW
【後編】 「間違ってもいい」から、アイデアが動き出す。Serendie®のワークショップ参加企業三菱地所ホームと日揮が語る共創の現場
2026.10.28
機能の足し算では生まれない価値を求めて
三菱地所ホーム株式会社 商品戦略企画部 企画管理グループ 池上 錬
―― まず、Serendie Sprintに参加された背景やきっかけを教えてください。
池上: 弊社は長年、全館空調システム「エアロテック」を強みとして快適な住まいづくりを展開してきました。近年は、ハウスメーカー各社でも全館空調を採用するケースが増えています。そうした中で、これからの時代に求められる新たな価値を創出するため、社内の知見に加えて外部の視点も取り入れながら、その可能性を探っていました。
古田: ちょうどその折に、三菱電機から共創の取り組みを紹介いただきました。まずは顔合わせを兼ねた「Day0」として三菱電機の研究所にある住宅ラボにお邪魔し、その後、弊社のホームギャラリーで2日間のワークショップを行いました。互いの課題を共有して新しいアイデアを広げ、現在は3ヶ月間の本格的な共創活動へと進んでいます。
池上: 社外の方と新たな取り組みを始める際は、お互いの事業や商品について理解を深めるところから始まることが多いのですが、弊社の商品や事業内容、社内の状況を理解してくださっている三菱電機の担当者が参加されていたことで、認識の共有がしやすく、安心して議論を進めることができました。
正解を探す前に、まずアイデアを出す
―― 一般的なアイデア出しのワークショップやこれまでの自社での企画会議などと比べて、Serendie Sprintではどのような違いを感じましたか。
池上: 私自身、これまでさまざまなワークショップを経験してきましたが、多くは自分たちで考えた案を持ち寄り、フィードバックを受けながらブラッシュアップしていくものでした。今回は三菱電機のメンバーと一緒にゼロからアイデアを考えていく点が大きく異なりました。住宅メーカーとは違う視点から意見やアイデアが出てくることで、こちらの発想も広がり、結果として自社だけではたどり着けなかったようなアイデアを生み出すことができました。
古田: 私が特に印象に残っているのは、限られた時間の中で、正解かどうかを判断する前に、まず思いついたアイデアを出していくという進め方です。こうした経験は初めてだったので、最初は「何か出さなければ」と戸惑いました。ただ、繰り返すうちに、「間違っていてもいいから、まず出す」ことへの抵抗が少しずつ下がり、自分の発想の仕方が変わりました。
ワークショップを経て今も、考えが十分に整理し切れていない段階でも、まず自分の考えを議論の場で伝えるようになりました。その変化は、三菱電機との共創活動だけでなく、普段の業務にも少しずつ表れていると感じています。
三菱地所ホーム株式会社 商品戦略企画部 環境技術開発グループ 古田 將
池上: また、思いついたアイデアを気兼ねなく発言できる場づくりも印象的でした。毎回のワークショップでは、本題に入る前に、それぞれが感じている不安や課題意識を共有する時間が設けられていました。進め方について気になることがあれば、その場で率直に伝えることもできます。こうした一つひとつの積み重ねが、立場や専門性に関係なく意見を出しやすい雰囲気につながっていたと感じています。
ワンチームでの事業開発へ
―― 先ほど「現在は本格的な共創活動へ進んでいる」というお話がありました。具体的にどのようなことを行っているのか教えてください。
池上:はい、アイデアの具体化に向けて、3ヶ月間の本格的なスクラム活動に取り組んでいます。ワークショップから生まれたアイデアを起点に、両社の知見や強みを融合させながら新たな価値の創出を検討しており、事業化を見据えたサービス構想の具体化に取り組んでいるところです。
―― Serendie Sprintから実際の事業企画へと動き出しているのですね。今後の目標をお聞かせください。
池上: 第一の目標は、現在企画しているアイデアを具体化し、新たな商品やサービスとして世に送り出すことです。そして、この第一弾を成功させ、第二弾、第三弾と継続的な共創につなげていきたいと考えています。
ワークショップを通じて、企業の垣根を越え、一つのチームとして率直に意見を交わせる関係性が築けたことも大きな成果でした。今後は、この共創の進め方や得られた学びを社内にも展開し、新たな価値創出につなげていければと思っています。
三菱地所ホームの事例では、発案者と評価者を分けないことが、発言のハードルを下げ、その後の共創の土台になっていた。では、出されたアイデアを「話して終わり」にせず、企画の形まで進めるには何が必要なのか。日揮の事例からは、Serendie Sprintのもう一つの特徴である進行の設計が見えてきた。
アイデアをジャッジせず、共に育てる
―― 続いて、日揮様にお伺いします。まずは、皆様の事業内容と、Serendie Sprintに参加されたきっかけを教えてください。
細内: 日揮は、エネルギーや化学、医薬といった分野で、プラントや産業施設の設計から建設までを一貫して手がけるエンジニアリング会社です。私たちの所属するヘルスケア部門では、病院を建て替える際の事前のコンサルティングから、実際の設計、建設、そして稼働後の運営支援までをワンストップで手がけています。
今回Serendie Sprintに参加したきっかけですが、以前から三菱電機と何か新しい取り組みができないかと、約1年間にわたってディスカッションを重ねてきました。その中で、病院単体ではなく「健康を軸にした街づくり」へと視野を広げていきたいと考えていたところ、AIなどを使った新規事業を構想するワークショップがあると紹介いただいたのが発端です。
日揮株式会社 インダストリーソリューション本部 ヘルスケアソリューション部 エキスパート(病院・医療施設) マネージャー 細内 伸昭
小山: 私たちの部署では、これまで他社とアイデアを持ち寄って新規事業を構想する経験がほとんどありませんでした。しかし、これからの時代はより柔軟に、世の中の新しい技術を取り入れていかなければならないという課題感から参加を決めました。
―― 実際にSerendie Sprintに参加されてみて、どのような印象を持たれましたか。
小山: 正直に申し上げると、私はワークショップというもの自体が得意ではありませんでした。自分の考えをオープンにするのも、もともと進んでやる方ではありません。それに、会議でアイデアを出そうとすると、必ず評論家のような存在が現れるものです。そのため、議論がなかなか前に進まないこともあります。
しかし今回は、開始5分で「ここには私たちの意見をただ評価するだけの人はいない」と気づきました。ファシリテーターの方が冒頭で「企業の壁を取り払い、同じフィールドで話し合いましょう」と宣言した通り、いきなり当事者として一緒にアイデアを出し始めてくれたからです。サッカーやラグビーで言えば、全員がフィールドに立ってボールを追いかけている状態です。「あっちへ行け」「その作戦はダメだ」と外から論評する人は、一人もいませんでした。
―― 一方で、自社やお客様の課題を他社に開示することへの抵抗はありませんでしたか。
小山: 最初はハードルが高かったですね。「どんな課題をお持ちですか」と聞かれても、抱えているものをそのまま出して良いものか悩みました。でも、そんなことを考えてもしょうがないと思い、腹を決めてお客様である病院が抱えている課題を率直にお伝えしました。すると三菱電機側で、その中から自社の技術と結びつけて議論しやすいテーマを事前に整理し、当日扱うものを絞り込んでくれました。おかげで入り口に迷うことなく、最初から中身の議論に入ることができました。
日揮株式会社 インダストリーソリューション本部 ヘルスケアソリューション部 第4グループ 医業経営支援事業チーム 小山 仁和
議論をその場で可視化し、1日で企画へ
―― 議論を前に進める上で、ファシリテーションや進め方に特徴はありましたか。
十鳥: 通常の会議ですと、アイデアを出した後に「では、次回までにまとめてきます」と細切れになり、どうしてもスピード感が落ちてしまいます。しかし今回は、私たちが議論している内容をリアルタイムにオンライン上のホワイトボードに可視化していきました。「次はこの部分について話すんだな」と予測しながら議論を進められるため、間延びすることなく、1日という限られた時間で、議論を具体的な提案の形までまとめることができました。
細内: そうして議論を重ねた先に、1日の終わりには、アイデアが企画の形になっていました。病院の経営課題である「施設の長寿命化」や、空調などを止めない「24時間365日の安定稼働」をテーマに、現場のどんな困りごとが、どの技術によってどう解決されるのか。チームごとに、その流れを4コマのストーリーとして描き起こしていきました。粗くはありますが、思いつきのままではなく、人に説明できる企画として持ち帰れる状態になっている。それが1日でできてしまうことに驚きました。
―― Serendie Sprintでの体験は、その後の皆様の視点や業務にどのような影響を与えていますか。
十鳥: 病院を訪問してお客様のお困りごとを伺う際の視点が大きく変わりました。単に課題を聞き取るだけでなく、「三菱電機のあの技術を使えば、この課題を解決する新たな提案ができるのではないか」と、実装を意識して考えるようになりましたね。技術の可能性の大きさを肌で感じたからこその変化だと思います。
―― ワークショップ後の、現状について教えてください。
細内: ワークショップの中でご紹介いただいた技術や試作品を起点に、「こういうことはできませんか」という話が派生し、いまは肩肘を張らない関係性でディスカッションを続けています。病院のお困りごとを生で聞く機会を増やしながら、大学病院のセミナーをご一緒できないかといった相談も含めて、次の形を探っているところです。
日揮株式会社 インダストリーソリューション本部 ヘルスケアソリューション部 第4グループ 医業経営支援事業チーム チームマネージャー 十鳥 貴善
セオリーを外し、未来の病院を描く
―― 最後に、Serendie Sprintでの気づきを踏まえ、今後三菱電機とどのような未来を描いていきたいかを教えてください。
細内: 私たちが顧客である病院のあり方を地域の目線でつくり直し、そこに三菱電機が持つ多彩な技術やソリューションを連携させていく。そんな未来型の病院を一緒につくっていきたいですね。それが、地域の健康を支えるハブになれば素晴らしいと考えています。
小山: 病院の建築には、長年培われてきた「こうあるべき」というセオリーが存在します。しかし、AIや新しい技術を活用して省力化やヒューマンエラーの削減を目指すなら、一度その概念を外さなければなりません。三菱電機が持つ膨大なソリューションと掛け合わせることで、ゼロベースから新しいヘルスケアの拠点を描いていきたいです。
十鳥: 病院が今後も持続していくためには、働く職員だけでなく、利用される患者さんをいかに満足させるかが重要です。病院内に散在しているさまざまなデータを、三菱電機のシステムで統合・解析し、地域住民の方々に還元していく。データ活用を前提としたパッケージ提案ができれば、今後の病院建設において他社との強力な差別化になります。コストなどの課題を一緒に乗り越えながら、これまでにない新しい価値を形にしていきたいですね。
池上 錬 Ikegami Ren
三菱地所ホーム株式会社 商品戦略企画部 企画管理グループ
リフォーム事業領域で営業職に従事した後、オーナーサポートやメンテナンス・品質管理業務を担当。現在は商品戦略企画部にて、事業成長に向けた各種商品戦略立案や企画業務を担当。
古田 將 Furuta Masaru
三菱地所ホーム株式会社 商品戦略企画部 環境技術開発グループ
新築注文住宅の設計担当を経て、2025年度から商品戦略企画部。現在、全館空調「エアロテック」の商品・技術開発企画をはじめ、住宅分野における新技術の導入検討や環境性能向上に関する業務に従事。あわせて、脱炭素関連の企画開発業務を担当。
細内伸昭 Hosouchi Nobuaki
日揮株式会社 プロジェクト統括本部 インダストリーソリューション本部 ヘルスケアソリューション部 エキスパート(病院・医療施設) マネージャー
病院・医療施設分野のエキスパートとして、病院建替えにおける構想・計画段階のコンサルティングから設計・建設までを担当。医療機関の持続可能な運営と、地域を見据えたヘルスケアまちづくりの推進に取り組んでいる。
小山 仁和 Oyama Yoshikazu
日揮株式会社 インダストリーソリューション本部 ヘルスケアソリューション部 第4グループ 医業経営支援事業チーム
医業経営支援事業チームに所属し、病院の経営課題解決や運営改善支援に従事。医療現場の課題を分析し、デジタル技術や他社ソリューションとの連携による新たな価値創出に取り組んでいる。
十鳥 貴善 Jutori Takayoshi
日揮株式会社 インダストリーソリューション本部 ヘルスケアソリューション部 第4グループ 医業経営支援事業チーム チームマネージャー
医業経営支援事業チームのマネージャーとして、病院の経営課題解決や運営改善支援に従事。医療機関の課題解決に加え、企業や地域との連携によるWell-Being向上に向けた取り組みを推進している。