ここから本文

Factory Automation

印刷用ページ

文字サイズ変更

注目のトレンドをあなたに、
FAデジタルメディア

文化・教養文化・教養

先人の知恵や歴史、日常に役立つマナーを掲載しています。

知っ得マナー
これだけは覚えておきたい 和菓子便利帖

2018年5月公開【全1回】

一月

花びら餅
薯蕷じょうよ(上用)饅頭

行事

初詣、初釜、鏡開き、小正月

花びら餅は、もともと、宮中の行事食であった”御菱葩おんひしはなびら”。雑煮のルーツともいわれる。白の丸餅に小豆汁で紅に染めた菱形の餅を重ね、白味噌とゴボウの蜜煮を挟んでいる。ゴボウは押鮎の見立てとされる。上用饅頭は格式ある和菓子で、腰高の形のものは格調高い。生地はつくね芋などを使用。新年の笑顔の象徴として白い生地に赤い点を載せた「笑顔薯蕷」や、頭部をくぼませた「笑くぼ薯蕷」を。

花びら餅

二月

うぐいす
未開紅みかいこう

行事

節分 初午 観梅 早春

鶯餅は2月の名物。求肥ぎゅうひや餅などであんを包み、両端をぴたっとつまみ、青きな粉をまぶして仕上げる。形や色で鶯を表現している。未開紅は、紅梅を表した生菓子。中にこし餡を入れ、四角い練切を折り畳み、黄色のしべを1粒載せて仕上げる。どの菓子店でも、「いまだ開かざる紅」の銘は、この形で表現されることが多い。共に、創意工夫により本格的な春を待ち遠しく思う季節感を存分に表している。

鶯餅

三月

引千切ひちぎり
利休饅頭

行事

上巳 ひな祭り 彼岸

3月といえばひな祭り。引千切(あこや)は、正月、子供の幸せを願う宮中行事 〝いただき餅〟が転じたもの。人手が足りず、餅を丸める手間を省いて引きちぎって出したという説も。子供を抱いているような形もひな祭りにはうってつけ。土台はこなしやういろう、上には餡やそぼろ状にした餡を載せる。また、3月は千利休の命日(旧暦2月28日)。利休忌には、その名を冠した利休饅頭などが供される。

あこや(地域限定)

四月

桜餅
花見団子

行事

釣釜 観桜 花吹雪 朧夜

4月は、いわずもがな桜の季節。桜餅は春の代表的和菓子。桜の葉の香りが季節を感じさせる。大島桜の葉を塩漬けしたものを用いる。包むのは、関西では道明寺だが、関東では小麦粉ベースの焼き皮の長命寺が主流という違いがある。花見団子は、竹串に刺した3色の団子。桜の色、草の色、土の色を表す場合が多い。こなしや練切でサイズをそろえ、品よく収めたものを選ぶ。

桜餅

五月

ちまき
柏餅

行事

端午 初風炉 若葉

5月は端午の節句。粽は中国の賢人・屈原の故事にちなんだもの。元は米を茅などの葉で巻いたものだったが、現代では笹の葉にくるみ、葛を使うことが多い。葉が白くなっていたら、葉の香りを移しながら蒸し上げている証し。柏餅は、柏の葉に子孫繁栄の祈りが込められた和菓子。どこの菓子店にもあるが、葉がりんとしているかが見極めポイント。味噌餡やこし餡など、違いを味わえる。

羊羹粽

六月

水無月
水牡丹(草の露)

行事

麦秋 入梅 五月雨 夏至

水無月は、夏越なごしはらえの時期に作られる、氷代わりの菓子。宮中では氷を食べて厄除けを祈るが、氷が手に入らなかった庶民は氷をかたどった三角餅を食べた。小豆が散らされているのは、赤色に邪気祓いの力があると信じられていたからだという。水牡丹と草の露は、共にこし餡を葛で包んだもので、前者は紅色、後者は緑色。餡の色と名も変わり、趣の異なるお菓子となるという好例。

水無月

七月

くず切り
錦玉羹きんぎょくかん琥珀こはく羹)

行事

七夕 夏祭り 朝茶 夕立

7月は暑気を払うために、涼やかな葛の菓子が中心になる。葛切りは京都の祇園名物。葛は冷やすと白濁するが、氷を浮かべた水の中で泳がせれば、乳白色の葛が水の透明感と相まって涼感を呼ぶ。写真の生菓子は、寒天を型に流し入れて作る錦玉羹(琥珀羹)。透明な美しさを活かし、練切や餡で作った金魚や鮎などを中に入れることも。日本人の美意識に驚かされる一品。

若葉蔭

八月

羊羹ようかん 
粟羊羹

行事

八朔 中元 納涼

水羊羹の起源は定かではないが、1700年代半ば頃には記録が見られる。この時期の風物詩ながら、選ぶ難しさもある。小豆の質はもちろんながら、のど越しに違いが表れる。粟羊羹は、糯粟もちあわを主原料にした練り羊羹。京都の和菓子で、関東ではあまり見られない。粟羊羹や道明寺羹は、ぶつぶつと口で泡がはじける涼感からも、この時期に好まれる。写真は、粟羊羹と琥珀羹のお菓子。

初秋

九月

月見団子
菊の花のお菓子

行事

中秋の名月 観月 夜長 初雁

中秋の名月は9月。月見団子は里芋の形の餅の真ん中を餡で巻いたものが京都風。地域ごとの違いがあり、選ぶのが楽しい。5節句のうち、忘れやすいのが9月9日の菊の節句。この時期に話題にするなら、節句にちなんだ菊の花のお菓子を選ぶのが粋だ。菊の花をかたどった見目麗しい姿は、出合った瞬間に感動を呼ぶ。写真は、3色のこなしが華やかな「千代見草」。千代見草とは菊の異名である。

千代見草

十月

栗のお菓子
月のお菓子

行事

落し水 晩秋 茸狩 観菊

10月は栗の季節。ひと目で季節を感じられる栗きんとんは、もてなしの席には最適。”きんとん”とひと口に言ってもさまざま。そぼろにした餡を施したもの、餡を茶巾ちゃきん絞りにしたものなどがある。名は同じでも、見た目も味も異なるのが面白い。栗のお菓子は特に乾きやすいので注意が必要。また、10月は茶の湯では暮れを意味する”名残月なごりづき”。月の風景を表現したお菓子も多数作られる。

栗粉餅

十一月

の子餅
干し柿

行事

炉開き 口切 紅葉 時雨

11月は炉開きの季節。由緒と格を取るなら、宮中の”御玄猪おげんちょ”の儀式に従い、小豆で赤く染め、猪の子をかたどった亥の子餅を。猪が多産なことから子孫繁栄の願いを込めたという説もある。この時期、新茶を詰めた茶壺とともに干し柿と栗を持参するのが、古来の茶師のならい。「菓子は干し柿の甘さを超えてはならぬ」と伝えられるように、和菓子の祖型ともいえる。写真は干し柿に見立てた菓子。

祇園坊

十二月

酒饅頭
柚子薯蕷

行事

事始め 冬至 歳暮 大晦日

年越しを迎える12月は、蒸したての温かい菓子が何よりのご馳走。酒饅頭はその代表例。ひと手間かけるその心遣いが、ご馳走になる。写真は鎌倉時代に中国から伝わった製法を受け継いだといわれる「虎屋饅頭」。また、冬至には柚子ゆず湯につかって無病息災を願う風習がある。柚子を練り込んだ柚子薯蕷は、黄色い生地が目にも鮮やか。1月の真っ白い皮に包まれた笑顔薯蕷とは異なる楽しみ方ができる。

虎屋饅頭(酒饅頭)

アドバイザー/茶人 木村宗慎 写真提供/とらや

※この記事は『日経おとなのOFF』掲載記事を再編集して構成したものです。

これまで掲載された記事はこちらから

「文化・教養」トップページに戻る

ページトップに戻る