北陸支社 × 金沢の食文化を紐解く(後編)

加賀百万石の時代から多彩な食文化が育まれ、今に至るまで受け継がれている、金沢。金沢の食にまつわる伝統文化を紐解く小さな旅の第2弾は、和食を引き立て、彩りを添える金沢ならではの魅力を探しに出かけます。

REPORTER

三菱電機株式会社 北陸支社
支社長
坂本 憲志

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千葉県出身で、電力事業関連の営業担当を経て、2022年6月より北陸3県(石川、富山、福井)を担当する支社長として、顧客対応や支社の運営統括に携わっています。北陸では敦賀市に7年程、家族で住んだことがありますが、金沢は初めてで、現在単身赴任中。この機会に、金沢の伝統文化の奥深さをたっぷり味わってみたいと思います。

三菱電機株式会社 北陸支社
事業推進部 企画課
宮浦 諒

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生まれてから大学まで兵庫県で暮らし、就職して北陸支社に配属、社会人生活2年目です。北陸地区のエリアマーケティング分析・推進、展示会の企画運営、地域イベントや地元スポーツチームへの協賛、広告宣伝業務などに携わっています。季節ごとに旬の食材を堪能できる金沢の魅力を日々実感しているので、今回の金沢を巡る旅はとても楽しみです。

HIGHLIGHT AREA

北陸支社

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1948(昭和23)年の開設以来、北陸3県の社会インフラや製造業向けの電機品から家庭向けの一般製品まで、幅広い分野において地域の皆様に貢献できるよう活動しています。

北陸支社 地域ビジネス活動

掲載されている情報は、2023年8月時点のものです

金沢の食文化を調べるために図書館へ。石川県立図書館は、タイル張りの大型パネルとガラスが折り重なって、まるで本のページが開いたようなシンボリックな外観デザインが特徴的です。
“図書”を意味する「ビブリオ」と“木”の意を表す「バウム」に、建物や蔵書のスケール感を「百万石」という言葉に込めた「百万石ビブリオバウム」の愛称で親しまれています。
建物内部に入ると、ドーム型の天井部を中心に石川県産の木材がふんだんに使われた吹き抜けの大空間に圧倒されます。1階から3階までスロープで結ばれ、本棚が弧を描きながら連なって、まるで本に囲まれた円形劇場のような雰囲気で、館内には30万冊の本が並びます。そのなかで、身近でなじみ深い本を集めた「本と出会う12のテーマ」では、「思いもよらない本との出会い」をコンセプトに約7万冊の本が並び、ウィンドウショッピングを楽しむように本と出会う喜びが味わえます。この心地よい巨大な本棚で、和食とそれを引き立てる焼物や漆器、日本酒に関する資料を探します。

坂本/立派な図書館ですね。

宮浦/私が今まで訪れた図書館の中で1番素敵な図書館だと思います。
つい本を手に取りたくなります。

坂本/この図書館は、石川県産の木材を使って建設されていたり、加賀五彩を用いて館内の東西南北を表したり、石川コレクションがあったりと石川県を存分に味わえる場所ですね。

宮浦/新しい観光スポットの1つになりそうです。

坂本/では、この素晴らしい図書館で、金沢の食文化について調べてみましょう。

石川県立図書館には、三菱電機製のエスカレーター2機とエレベーター5機が導入されています。館内は、加賀五彩を用いて東西南北が色分けされており、エレベーターの扉は、それに合わせた彩色を施しています。

エスカレーター

エレベーター

日本海に面して広がる金沢平野は、日本三霊山の一つ白山からの雨水や雪解け水が地下深くに染み込み、砂礫層を流れながら濾過され、伏流水となって流域の水源となります。この良質の水に加え、冬の積雪が土壌を豊かにし、暑い夏の気候が稲を力強く育てることから、石川県は日本有数の米の産地として知られ、粘り強く柔らかさのある味わい深いお米が数多くあります。そして、美味しい水とお米の産地でできるのが、銘酒。料理を引き立てる風味豊かな地酒は、金沢の食文化の一端を担っています。

宮浦/金沢に来て、お米がとても美味しく感じていますが、水が影響しているようですね。美味しい地酒が多いのも、良質のお米と水に恵まれているからこそ、ですね。

坂本/いろいろ調べると、この土地の水は、酵母が嫌う鉄分が少なく、ミネラルがたっぷり含まれているので酵母が活性化するようです。酒造りに必要な水の条件が揃っているので、昔から酒どころとして有名なのも頷けます。

宮浦/これから訪ねるやちや酒造さんは老舗の酒蔵なので、酒造りについて伺ってみたいと思います。

伝統の酒造りを今に伝える
〜やちや酒造

1583(天正11)年、創始者である神谷内屋仁右衛門(かみやちやじんうえもん)が、加賀藩の前田利家公専用の酒造りをするために尾張国から移り住んだのが始まり。寛永5(1628)年、「谷内屋(やちや)」の屋号と「加賀鶴」の酒銘を殿様から拝受し、加賀藩の酒蔵として前田公御用達の酒造りを四百年余り続けている、城下町・金沢では最も古い酒蔵です。神谷昌利社長のご案内で、酒蔵を見学しました。

商家の面影を残す風格のある家屋は、文化庁登録有形文化財に指定されており、神谷社長のお話では、建物内の柱が少し傾いているのは、殿様が通る表通りに向けて柱がお辞儀しているようにするためとのこと。使い込まれた囲炉裏、150年前から時を刻み続けている柱時計、天井の梁や床板、調度品も、長い年月の積み重ねを感じます。
サンダルに履き替え、ひんやりとした空気が立ち込める蔵内へ。お米を蒸す蒸し釜、もろみ(※)を空気圧で絞る機械、貯蔵タンクなど、酒造工程をひと通り見学。三菱電機製の冷凍機が使われていることを知り、当社製品が酒造りの一端を担っていることを嬉しく思いました。
酒蔵見学の締めは、試飲タイム。人気の大吟醸銘柄から日本酒で造った梅酒、紅茶の茶葉を純米酒に漬け込んだリキュールなど、伝統の味から最新作まで堪能しました。

※ もろみ/原料の蒸米、米麹、酒母、仕込み水を混ぜ合わせて発酵させてできた粘度の高い液体

“和らぎ水”の発案者は、神谷社長だった!?

日本酒を飲む時に、お酒と水を交互に飲む“和らぎ水(やわらぎみず)”という飲み方をご存じですか?アルコール度数が高い日本酒の飲み方として知られていますが、この“和らぎ水”を考案したのが、実は神谷社長だと伺い、びっくり!「日本酒はついつい飲みすぎて、翌日が辛い」「度数が高いから、すぐ酔う」といった声を聞き、日本酒を美味しく心地よく健康的に飲んでもらう方法はないかと考えて思いついたのが、この方法だったそうです。今では広く知られ、日本酒の飲み方の基本になっています。

料理を飾る、美しき器
〜金沢九谷ミュウジアム

加賀料理では、「鯛の唐蒸し」は九谷焼の大皿に、「治部煮」は漆塗りの「治部椀」に盛るというように、器に対するこだわりがあり、料理の美味しさを引き立てる華やかな器の存在は欠かすことができません。
九谷焼は日本を代表する色絵磁器で、大胆な色づかいを特徴とし、その起源は、1655(明暦元年)にまで遡ります。色絵磁器とは、本焼きした磁器の上に、上絵具で模様を描き、上絵窯に入れて焼き上げたもの。1976(昭和51)年に、石川県の無形文化財に指定され、色鮮やかな器を生み出す技法は、現代にまで受け継がれています。

九谷焼の美しい色絵磁器の世界に触れるため、長町武家屋敷本通りにある「金沢九谷ミュウジアム」を訪ねました。ここは、1805年(文化2年)年に九谷焼初の商家として開業以来、約200年続く鏑木商舗が運営する施設。九谷焼の逸品を展示した鏑木コレクションをはじめ、九谷焼を代表する作家の美術品、普段使いできる器、自社工房製造の鏑木オリジナル九谷焼など、多種多様な九谷焼が揃っています。

最近は伝統的な九谷焼に加え、ガラスと九谷焼の融合によるワインやお酒が楽しめる「鏑木ワイングラス&酒グラス」や若手女性職人が手がけた作品など、次世代を担う新しい九谷焼の伝統が次々と生まれています。

料亭で和食文化の真髄を、
堪能する〜日本料理 銭屋

今回の金沢の和食文化を紐解く小さな旅の締めくくりとして、金沢屈指の料亭「銭屋」を訪ね、金沢が誇る和食文化の真髄を味わいました。
伝統に根差しながらも、吟味された旬の食材を四季にふさわしい最高の味わいに仕立て、一品一品に対して、料理を最も引き立てる器を厳選。伝統的な九谷焼や輪島塗はもちろん、貴重な古美術や新進気鋭の作家の斬新な器に、アートのような美しさで盛り付けます。日本料理の新たな可能性を探求し、美味を極めた逸品料理を堪能しました。

変化しなければ、伝統は守れない

坂本/一品目の「バイ貝のジュレ」は、彩りがきれいで、少し酸味のあるさっぱりした味わいですね。歯応えはありつつ、喉にスッと入っていきます。とても美味しい。

宮浦/器も、周囲に大小の穴が空いているユニークなデザインで、アート作品のようです。

坂本/金沢めぐりは、いかがでしたか?

宮浦/印象深かったのは、今日伺った皆さんが、伝統をただ守るだけでなく、変化していこうとしていることです。古いものに固執するのではなく、新しいものを取り入れて変化することで、その革新性や創造性によって伝統を次につなぎ、新しい価値を創造していこうとしている。そこにすごく共感しました。変化しなければ、伝統は守れない。それくらいの覚悟を感じます。

坂本/WASHOKUグランプリでも、しっかり人を育てていくために、具体的な取り組みを実行しているのが素晴らしいですね。研修とはいえ、本来、料理人にとって神聖な場所である調理場に高校生を招くというのも、自分たちの後進を育てるためなら協力を惜しまない、そんな料理人の粋を感じます。

宮浦/やちや酒造さんも、常に新しいことにチャレンジされていて、アイデアを次々と生み出す革新性と創造性が伝統を支えていることがよくわかりました。いいものができても、そこで立ち止まらず、その先を考えて、さらに試行錯誤する。そうやって変化しながら進んでいく力が、伝統を次につなぎ、前に進めていく原動力になるのですね。

坂本/女性や若い人も楽しめる新しい商品展開でファンの裾野を広げながら、そのお酒が賞を取る。新しい可能性への挑戦が、ちゃんと結実しているところが素晴らしいし、そのことが結果的に、伝統をつないでいく土壌づくりにもなっている。すごく攻めていますよね。

宮浦/九谷焼も、和という殻に閉じこもるのではなく、さまざまな要素を取り入れながら、世界に向けて発信していこうというチャレンジが大きな推進力になっていると思います。

地域の魅力を高めていく

坂本/金沢は、経済圏としては大きくはないですが、多種多様な会社が独自の強みを活かしたビジネスを展開していて、金属加工や医薬品、電子部品、機械製造分野等で秀でた技術を持っています。そういう人たちと一緒に地域の魅力を高めていくことで、若い人たちにアピールし、ここで働きたいという人を増やしていくような環境づくりも求められていると思います。

宮浦/市役所のお二人もそうですが、金沢のいいところを広めていきたいという強い思いがあって、街全体が、その思いを持って活動していることが、観光を含め、これだけ多くの人を集めることにつながっているように感じました。今後は、もっと若い人たちが活躍できる場を創出することで、その姿を見て、さらに人が集まり、地域全体が活性化するような好循環が生まれていくといいですね。

坂本/伝統文化の継承と同様で、新しいやり方、新しいアプローチを工夫し、若い人たちの創造性や革新性を活かしていくことが、このエリアの次の可能性につながっていくと思います。そういうところに対して、当社の製品やサービスがいかに貢献できるか。私たちにも変化やチャレンジが求められています。

宮浦/今後も、地域とその未来に貢献できるよう、皆さんと共に新しい取り組みに挑戦していきたいと思います。