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激甚化する一方の自然災害 
「うちは大丈夫」で済まない時代に

水環境ソリューション〈治水・利水編〉 激甚化する一方の自然災害 「うちは大丈夫」で済まない時代に

ニュースやSNSで見かける「洪水警報」「河川氾濫の危険情報」。気にはなるけど、「うちは大丈夫でしょ」とスルーしていないだろうか?
穏やかに流れる川の風景は、私たちの心を癒してくれる。だが日本は、実は“世界有数の水害リスク大国”。近年は気候変動の影響で、線状降水帯やゲリラ豪雨が頻発している。
そのような中、ダムや水門などのインフラ、そしてセンサや監視システムなどの最新技術が、私たちの暮らしを静かに支えている。今回は、最前線で働く人たちに、話を伺った。

課題はここでも人材不足。
「何気ない日常」を守るために

気候変動によって、これまでにない自然災害が発生している。豪雨の頻度や規模が拡大し、線状降水帯による大量の雨は災害の激甚化をもたらす一方で、加速する少子高齢化の影響から河川管理の現場では熟練技術者が減少。ノウハウの継承が難しくなりつつある。

申:国も自治体も人手不足が深刻です。そのような状況でも、私たちは運用を支えるシステムを通じてお客さまの業務を支援し、人々の命や財産を守る役割を果たしています。プレッシャーは大きいですが、「何気ない日常」を守る仕事に誇りを感じています。穏やかに川が流れ、人々が普通に暮らしていける――そんな“あたりまえ”を守りたい。それが私たちの願いです。

担当申仕博さんの写真

三菱電機株式会社 神戸製作所
社会システム第二部
社会情報通信システム技術第一課

担当 申 仕博(しん しはく)

神戸製作所で河川情報システムとヘリ防災システムを担当。クライアントを訪問しながら、システム設計を行い、顧客課題の解決を担う。

ダムも河川もAIで。
進化する“治水・利水テクノロジー”

人口減少による技術継承の課題により、インフラの維持が様々な側面で困難になってきている。三菱電機はその課題に対し、顧客との対話を重ねながら、河川に関わるインフラ分野において、ニーズに応えたシステムを提供することで、水害リスクの低減や水資源の最適利用に貢献している。

担当課長登尾健さんの写真

三菱電機株式会社
社会システム第二部 建設防災課

担当課長 登尾 健(のぼりお たけし)

ダムや河川の治水・利水事業における全国レベルの営業推進を担当。国が進める事業や全国の自治体が取り組む施策の調査・分析、支社営業パーソンへの共有等も行い、事業を推進。

登尾:分かりやすくダムを例にしてお話しすると、ダムは川の流れを適切に保つために、水を貯めるだけでなく、必要に応じて放流もしなければいけません。そのためには水位などダムの現況を正確に把握する必要があります。放流の際には、事前に下流の市町村へ知らせたり、放流警報を発したりします。

さらに、国や自治体では治水や利水の最適な運用のため、「流域総合水管理」という取り組みを進めています。こうした運用を確実に行うためには、電気通信設備や河川管理システムが欠かせないんです。

浅見:三菱電機は、治水・利水の分野で“上流から下流まで一貫したトータルソリューション”を提供しており、特に次の3つの強みで河川管理に貢献しています。

1つ目は「監視観測」です。CCTVカメラ※1やテレメータシステム※2、レーダー雨量計が今起きている状況を正確に把握します。

2つ目は「情報収集と共有」です。集めたデータや映像を関係機関へ伝送し、すばやく共有できる仕組みを整えています。

3つ目は「制御」です。ダムの放流や河川の水門開閉を制御する設備を、遠隔でも安全・確実に動かすシステムを提供します。

主任浅見拓哉さんの写真

三菱電機株式会社 神戸製作所
社会システム第二部
社会情報通信システム技術第一課

主任 浅見 拓哉(あさみ たくや)

神戸製作所で河川情報システムやダム管理システムなどの防災減災システムを担当。災害発生時の情報集約や対応などに貢献している。

これらの強みを組み合わせることで、三菱電機は“高い信頼性と耐久性をもつシステム”をワンストップで提供できることが大きな特長です。一方でこういった設備の運用には職員の状況判断が非常に重要です。そこで三菱電機は、水位画像解析及びAI※3水位計測等により河川状況の把握を容易にし、判断を支援しています。

※1:施設内やグループ内だけで利用するクローズドなテレビカメラシステム
※2:雨量や水位などの観測データを無人で収集して無線等で送信するシステム
※3:三菱電機株式会社のAI技術「Maisart®(マイサート)」を搭載

三菱電機の治水・利水ソリューション

把握から先読みへ、AIによる“予測”が鍵

河川の状態を把握することは災害対策の第一歩。しかし、「現状は分かっても、未来の被害の大きさまでは予測しにくい」というお客さまからの声があるのも事実だ。この課題に対して、今求められているのがAIを駆使した“予測”である。

浅見:昨今の気候変動の影響により、未来の流域状況を予測することはますます難しくなっています。こうした中、当社ではお客さまの置かれている環境の改善に向けて、水位・流量予測システムの開発を進めています。本システムは、監視・観測データや予測雨量などを活用し、河川やダムへ流れ込む水の量を予測するものです。これにより、洪水時における治水設備の運用に新たな判断材料を提供します。また、当社の予測技術は、時々刻々と変化する状況に応じて予測モデルを可変することができ、より実態に即した予測を可能にしています。現在では、ダム管理者様などのお客さまにご活用いただいています。

登尾:予測技術は洪水への備えだけではなく、水資源を効率的に運用するという利水の観点でも重要です。当社の最新の予測技術を活用した「低水管理支援システム」は、国土交通省から普及促進技術として認定されました。この技術は、河川の利水基準点の水位を過去データなどから自動予測し、上流ダムの放流量の調節などをサポートするものです。利水基準点の水位が下がると、農業や上水に大きな影響が出るため、常に“水位”を正常に保つ必要があります。これまでは、長年の経験を持つ熟練職員がノウハウを頼りに判断しており、24時間対応の大きな負担となっていました。技術は人の助けになるためにあるものです。当社の技術でその負担を少しでも軽減できたなら、これほど嬉しいことはありません。

現状を知るだけでなく、未来を読む力――それが安心・安全を次のレベルへ引き上げる鍵である。

低水管理支援システムの導入後

データがつなぐ、災害対応の未来

日常を守るための取り組みは、災害が「起きた後」の領域でも進化している。

その一例が、ヘリコプター衛星通信システム「ヘリサット」を活用した状況把握だ。災害現場の空撮映像を通信衛星経由で地上に送り、AIで解析することで、人が立ち入れない場所でも上空から状況を即座に把握できる。

申:大規模な河川氾濫等の発生直後はその被害の全貌把握が難しい一方で、迅速な被害把握が求められます。ヘリサットは、ヘリコプターで撮影した映像を通信衛星経由で地上に伝送する技術です。AIによる画像解析で浸水範囲を特定することで、災害発生直後に被災状況をすばやく把握できます。災害予防も大切ですが、起きてしまった場合にどれだけ迅速な対応ができるかも同じくらい大切です。

浅見:私たちが取り組んでいる治水・利水ソリューションでは、どうしてもお客さまや事業の領域のクローズした話になりがちです。そこで鍵となるのが当社のデジタル基盤「Serendie®(セレンディ)」です。Serendie®は事業の垣根を越えて、人・データ・技術を横断的につなぎ、新たな価値と共創を生み出すプラットフォームです。これにより、たとえば空気中の水蒸気量を計測して、豪雨の早期予測に役立てるなど、異なる領域や新しいデータと連携することで、河川や災害に関係する新しい情報や価値が生まれるのではないかと期待しています。

近年の激甚化する自然災害に対し、「何気ない日常」を守るための努力が、全国の現場で静かに続けられている。限られたリソースの中でも、テクノロジーと知恵を駆使してインフラを支える人々の姿勢は、社会を支える確かな礎である。水と共生するこの国の未来を、確かな技術と情熱で守り抜く――その歩みは、次の世代への希望そのものだ。

※本記事内の製品やサービス、所属などの情報は取材時(2025年10月)時点のものです。

蜂巣 稔さんの写真
取材・文/蜂巣 稔
大学卒業後、外資系ITを経て日本コカ・コーラのサプライチェーンマネジメント部門へ。53歳で独立起業。企業取材、経営層インタビュー、事例紹介などビジネス領域で活動中。通関士、グリーンロジスティクス管理士。日本インタビュアー協会認定プロインタビュアー。生成AI関連の執筆実績も増加中。
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