Web3の時代が到来し、新しい組織のあり方として注目されているDAO（Decentralized Autonomous Organization、分散型自律組織）。DAOがどのような仕組みでどのように社会を変化させる可能性があるかについて、Fracton Ventures Co-Founderの鈴木雄大氏に話を聞いた。その後編をお届けする。前編では、そもそもDAOとはどのようなものなのか、分散環境で活動ができることにどのようなメリットがあるのかなどについて尋ねた。後編では、実際に活動しているDAOを挙げてもらい、具体的な姿を通してDAOを明確にしていく。
Fracton Ventures Co-Founder
鈴木 雄大（すずき ゆうだい）
スタートアップインキュベーター、東証一部上場の金融機関を経て、2021年にFracton Venturesを共同創業。2017年からブロックチェーン分野で登壇や執筆活動などを行う。2019年よりインターネット白書に毎年ブロックチェーン分野で寄稿するなど、世界のWeb3の動向についていち早く調査・情報発信を行っている。日本暗号資産ビジネス協会DeFi部会副部会長、一般社団法人イーサリアムステーキング協会の理事を務める。
会員券をNFTとして販売しゴルフ場を運営
――DAOのコンセプトは管理組合と似ているという話でしたが、発展のために元手が必要であれば、スマートコントラクトやNFTのような収益源もあるのがDAOということですね。
面白い事例として「LinksDAO」という、世界最高のWeb3ゴルフコミュニティー構築を標榜したDAOを紹介しましょう。LinksDAOでは、メンバーには会員権としてNFTを買ってもらいました。そしてお金が集まったところで、本物のゴルフ場を買ったのです。このゴルフ場をメンバーが知恵を出し合って運営を行っていくことになります。今後、どういう動きをしていくのかは定かではありませんが、恐らくゴルフトーナメントを開催する等の運営をしていくのではないでしょうか。
売り上げが上がれば、次のゴルフ場を買おう、ゴルフ用品を作ろう、ゴルフの楽しさを伝える動画や漫画を作ろうなどのアイデアをメンバーが出し合いながら運営していく。実際には顔を合わせたことのない、縁もゆかりもない人たちが、最高のゴルフコミュニティーを作るというミッションに向けて始めたというのが、まさにDAOらしいといえるのではないでしょうか。
――会員権の証であるNFTの価値は上がりそうです。転売により収益を得ることも魅力となりそうです。
転売に関しては2つのことがいえます。1つは、転売するたびにLinksDAOにもお金が入ってくるということ。通常DAOの場合、売買益の数パーセントがDAOのデジタルのお財布に返ってくるとコードに書いてあるので、転売の度にフィーが入ってくるのです。これは、例えばフリマサイトでアーティストの作品を転売しても、アーティストの手元には何も入らないこととの大きな違いです。
2つ目は、会員権としてのNFTの値段が高くなることを必ずしも求めなくていいということ。それよりも、常に流通し続けて、転売のフィーがDAOのお財布に入り続ける方が良かったりするわけです。
NFTのキャッシュエンジンはここにあります。すごく高額なNFTが売れましたというのは話題にはなりやすい。ただ実際には、むしろ金額は安くても、いまこうして話をしている間にもまた10個売れましたというように、ずっと売れ続けるという方が、資産が貯まってくることの方が多い。追跡機能のあるブロックチェーンによって、フィーの徴収を強制執行できるようになったことが、イノベーティブな発想を生み出しているのです。
DAOではマルチプレーヤーとして働く
――DAOにおいても多くの金額が動いているとなると、DAOの中で常に安定した収入を得られるような働き方もできそうです。
常に安定した収入というと、本業とか就職というイメージだと思うのですが、DAOの世界にはマルチプレーヤー、すなわち1つのDAOではなく、複数のDAOで働いてる人が多くいます。本業、副業という概念ではなく、ベースは副業。AのDAOで貢献して学んだことを、今度はBやCのDAOでも生かすというのが、望ましい働き方ではないでしょうか。
また、DAOが求人を出すということは今後増えていくでしょう。例えば、今後のDAOの発展を考えたときに、「この活動のことを日本に届かせる必要がある」とメンバーの決議で決まったとしましょう。そのためには、資料を日本語に翻訳したり、日本向けのニュースレターを編集したり、日本でイベントをしたりする必要がある。ただメンバーの中には、そういったことを実現できるリソースはない。DAOのコミュニティが求めているものが代行できる人間をオファーするという流れです。
DAOなら世界を巻き込める
――DAOだからこそできることにはどのようなことがありますか？
最初に考えられるのは、世界中の人が同じミッションに向かって活動するには、DAOが適しているということです。例えば、「もっと安全な水を飲むべきだ」という問題に取り組むのであれば本来、国やメーカー間の競争や枠を超えたところで議論すべきです。このような、世界中の人を巻き込む必要がある社会課題を解決するにはDAOは最も有効です。メンバー全員が常にニュートラルなポジションであり、皆の意思決定で方向性が成り立っていく。とてもロジカルに社会課題の解決に向かっていけます。
このようにボーダレスな世界を実現する手段としてDAOは有効であり、新型コロナウイルス感染症の発生以降は、特に注目されています。コロナ前は、人的な移動が常に行われていた世界が、コロナ禍で国境が遮断され人的交流がなくなった。加えて、例えば日本、韓国、シンガポールが同じチームになって1つの砦のように動いたほうが効率的だと分かっていても、日本人がシンガポールの会社で働くのは物理的にそう簡単なことではありませんでした。第一、そのシンガポールの会社の社長が信用できる人物なのか、というところも実際にはネックとなっていた。
DAOの世界では、先ほども述べたように、その社長をはじめメンバーは信用しなくてもいいのです。コードに書いてあることがすべてなので、いくら悪いことをしようとしてもできない。知らない人同士でも信用でき、同じ目的のためにボーダレスに取り組むことができる。相手に対する信用などに割いていた時間を、働くモチベーションや、自分が本当にやりたいことにコミットすることに使えるわけです。様々なDAOが発生しているのは、そこに価値を感じているからではないでしょうか。
――世界中の人を巻き込んで社会課題の解決に向かっているDAOの例はありますか？
私達Fracton Venturesは2023年4月に、東京で「DAO TOKYO」というDAOの話題に特化したカンファレンスを開催しました。DAOの有識者をスピーカーに招き、アジアにおけるDAOのノウハウやナレッジを共有する目的で主催したものですが、約450人に参加いただきました。
DAOに特化したイベント「DAO TOKYO」には、国内外から約450人が参加し、盛大に開催された（資料提供：鈴木雄大氏）
このDAO TOKYOに協力いただいた「KlimaDAO」は、まさにボーダレスで社会課題の解決のために活動しているDAOです。KlimaDAOのミッションは、気候変動問題を解決することです。現在の主な活動は、温室効果ガスの排出権としてクレジット化されたカーボンクレジットと連動するトークンを発行。これによってこれまで分かりづらかったカーボンクレジット市場の透明性を向上させるとともに、トークンの価値向上などによって得られた収益を、気候変動問題を解決するためのプロジェクトに投資するなどの活動を行っています。
DAO TOKYOにおいては、イベント開催に伴う二酸化炭素の排出量を推定、KlimaDAOのトークンによりその排出量をオフセットするということを実施しました。DAO関連のイベントで、イベント実施時の二酸化炭素の排出量をオフセットする取り組みは世界初でした。KlimaDAOは、地球環境問題解決をミッションとする団体などとつながっていますが、彼らと組んだことによりKlimaDAOのDAOコミュニティにいる人たちに我々のことを知っていただき、そして連絡までいただくという流れが起きました。
日本の社会課題を他国の人が率先して解決
さらに面白い例としては、「Akiya DAO」が挙げられます。Akiya DAOはその名の通り、日本で今後急速に増加することが予測される空き家の問題を解決することをミッションとしたDAOです。NFTの発行により資金を調達、その資金によって空き家を購入し、空き家を改修して暮らしやすい空間にします。AkiyaDAOの一部のメンバーはそこで共同生活をしながら魅力的なコミュニティを作り、人間の創造性を発揮できる場を作ろうとするDAOです。1軒目ではWeb3を学ぶための拠点施設を作ろうとしています。仮にこれがフランチャイズ化されて日本中に広がっていけば、空き家問題がどんどん解決される可能性があります。
Akiya DAOが注目されるのは、立ち上げたのが外国人であること。以前、日本に住んでいたことのあるアメリカ人が日本の空き家問題に注目したという点に意味があると思っています。つまり、グローバルな目線で見ても、これだけ素敵な町並みの中にこんな大きな空き家があるのは、村や場所に魅力がないのではなく、その場から人が育っていないためではないかと考えた結果なわけです。
ボーダレスにつながり発信ができるDAOを利用して「Akiya」という言葉が広がることで、日本の社会課題に世界の人を巻き込むことができ、そして空き家になっている魅力的な古民家などを世界の人が共有することになる。空き家を拠点にコミュニティが生まれ、生き生きと生活する人が増えていく。さらに、空き家問題に悩む日本以外の国・地域の問題解決にもつながっていく。様々な可能性を秘めた実験的なプロジェクトだと思います。
――DAOの魅力がよくわかる事例です。
日本の中だけで議論をしていると出てこないようなアプローチやアイデアを集めるために、DAOは社会的に見ても必要性があるものだと思います。特に、1人でやるのは難しい公益性のある問題を、共感する人や知見を集めて解決するのにDAOは適している。例えば川をきれいにしようと1人で考えていても、川の清掃をするのが精一杯。でも、そこに世界規模でアイデアや知見、仲間が流れ込んでくれば、初めの一歩を踏み出せて、社会に対して提示することができる。言い換えれば、自分の可能性を社会に提供することができるわけです。そして、夢や理想を実現するための資源が、ブロックチェーンの世界には眠っています。
現状、DAOに関わっている人は、世界中見渡しても多くはありません。ただ、DAOを通じて生き生きと輝いて働き、生活している人が自分の周囲にいるようになれば、考え方が変わってくる。そうなるきっかけは、もうすぐそこに来ていると思っています。そのためにも、DAOのロールモデルになるような人を育成するのが重要で、それに貢献していきたいと思っています。
（写真：吉成大輔）
※本記事内の製品やサービス、所属などの情報は取材時（2023年8月）時点のものです。
