DAO(Decentralized Autonomous Organization、分散型自律組織)の特徴を活かし、「山古志DAO」の運用によって地域活性化を実現している新潟県長岡市の山古志地域。今回は、山古志DAOについて山古志住民会議代表の竹内春華氏にインタビューした後編をお届けする。前編では、どのような経緯で山古志DAOが誕生したのか、実際に山古志DAOでどのようなことが行われているのかなどを明らかにしてもらった。後編では、DAOをつくるメリットや今後の山古志DAOの方向性などについて語ってもらった。
山古志住民会議代表
竹内 春華(たけうち はるか)
新潟県魚沼市出身。2004年の中越地震で被災、全村避難した旧山古志村の住民が入居する仮設住宅内の山古志災害ボランティアセンターで、生活支援相談員として活動。その後、地域復興支援員として住民主体の地域作り団体「山古志住民会議」の事務局を務め、地域住民とさまざまな事業を行う。2021年4月から山古志住民会議の代表。
そもそも山古志地域はDAOだった
――仮想山古志プロジェクトでは、Nishikigoi NFT発行とともに山古志DAOを掲げ、「立場や地位、物理的制約を越えて、『想い』に共感したメンバーがあつまり、自律的にアクションすることを目指す」としています。これからの時代の地域作りにDAOは有効だと思われますか?
世の中にDAOという言葉が出始めたのは1年半〜2年前位のことですよね。ふりかえってみると、山古志地域自体がDAOっぽいところがあるよね、と地域の仲間と話すことがあります。集落の顔役、私のようなよそ者、ボランティアの学生、主婦といった皆さんが、年齢や身分など関係なく同じテーブルに着いて山古志のことをディスカッションする。「僕は少しパソコンが使えるから、君たちは周りの人を集めてきて」など、自分たちの得意分野で自律的にアクションを起こしていくということを実践してきた。これってそもそもDAOっぽいですよね。
ただ、リアルの住民だけだと人口も少なくなってきたから、すべてを自前で行うには厳しくなってきた。より地域をひらき、多様な方々から地域づくりのテーブルについていただくことが大切だと思っています。
リアルの交流の様子を参考にDAOを盛り上げる
――海外の人や物理的に距離の離れた人たちに仲間になってもらうのにはDAOが特に有効ということですね。
一方で山古志の場合、海外の方との交流については、海外の愛好家や業者とリアルでお付き合いをしている鯉屋さんの関係が素晴らしいのです。山古志は雪深く寒冷で起伏も激しいので、鯉の大量生産ができない。日本の市場では現状、温暖な広島や岡山等、西日本の方が大きくていい鯉を生産されています。そのなかでの山古志の強みは、錦鯉をうみだした“聖地”であるということだと思います。そして、海外の愛好家や業者の方々も山古志の風土から生み出された錦鯉の文化を深く理解、尊重してくださっている。両者で良い関係が築かれています。
ようやく新型コロナウイルス感染症が落ち着いたので、1カ月単位で長岡市や小千谷市に滞在する欧州や東南アジアの愛好家や業者の方が少なくありません。その間、山古志の鯉屋さんたちと毎日のように顔を合わせては、「ご主人、齢取ったね。続けてもらわないと困るよ。何か手助けできることある?」などといって声をかけている。鯉屋さん側も、現在の海外の様子はどうかなど彼らに相談を持ちかける。彼らが自国にいる時にも、日本ではあまり馴染みのない「Telegram(テレグラム)」などのチャットサービスで日常的に交流している。つまり、Nishikigoi NFTの取り組みともリンクすることをしているわけです。海外の方々とどのようにしたら良好な関係が作れるのかは、是非、参考にさせていただきたいと思っています。
――実際に交流をしてみた反応はどうですか?
これまでリアルの錦鯉をきっかけに良い関係を築いていた海外の愛好者も日本の鯉屋さんも、山古志の錦鯉の認知度やブランドを向上させることには皆賛成です。そういった意味では、Nishikigoi NFTの取り組みについても概ね同意をしてくださっていて、同じ目的に向かって協調しています。
Nishikigoi NFTは現在、海外のホルダーが約2割いらっしゃいます。イギリスの錦鯉の愛好家の方なのですが、「聖地というものは、あり続けることに意味がある。だから錦鯉の聖地である山古志は、存続しなければならないのだ」という思いから応援してくださっているとのこと。こういう思いや、古くから山古志の錦鯉を応援していただいている海外の愛好者の方の話を聞くと、私たちが大切に思っている価値が海外の方にもしっかりと伝わっているなと心強くなります。そして山古志DAOを通じて、こうした価値を多くの人に伝えられたらと考えています。
リアルとデジタルの両輪で効果を出す
――ブロックチェーンを基板としたDAOの世界では、あらかじめ決められた取引や処理を自動的に実行する仕組みである「スマートコントラクト」があるので、そこで記述されている以上のことは絶対にできません。つまり悪さが絶対にできないので、まったく面識のない人でも、飛び込んでいけるし受け入れられる。そういったメリットが、海外のデジタル住民を増やしているという側面があるのかと思います。
ご指摘の通り、詐欺ができないようなDAOならではの仕組みは安心感があります。その意味で、DAO上だけを考えると、デジタル村民とリアルの山古志住民はクールな関係ともいえます。ただ、それとは別に、リアルに存在する山古志だからこそ、スマートコントラクトが支えるクールな関係だけでなく、人と人の温かい交流も大切にしたい。さらに、自治体としての村は消滅してしまったけれど、もう1度「山古志村」を創りたいという気持ちがリアル住民にはあるし、デジタル村民の方々もその思いに共感してもらっている。また、かつての「山古志村」を復活するのではなく、アップデートした、リアルとデジタルが融合した新しいコミュニティとしての山古志村を作りたいと考えています。
その新しいコミュニティを「ネオ山古志村」と名付けています。山古志DAOといっても、そもそも私たちのコミュニティはDAOと言えるのか? という議論のなかから生まれた言葉です。今は、ネオ山古志村のオキテ、心得のようなものを作ろうと、リアル住民とデジタル村民が一緒になって作業を進めています。詐欺行為や人を悲しませること、誹謗中傷はやめましょうというような、ごく簡単なルールブックのようなものです。スマートコントラクトとは違って、アナログなものですが、リアルなつながりでは大切なものになると考えています。
ネオ山古志村としては、オキテ・心得づくりと並行して、リアルな山古志とデジタル村民とが集うこのコミュニティを、より自律し持続的なものにするための組織化に取り組んでいます。リアルの山古志では、例えば草刈りの費用や、集落の人口減少で管理がままならない山の管理の経費など、集落を維持するための費用の確保が待ったなしの状態になっています。このようなリアルな山古志地域の課題解決や、デジタル・リアルともに関わる皆さんがより自律的に活動できるようになるためには、多様な活動を支える組織が必要だと考え、2023年内の立ち上げを目指して動いています。
――Nishikigoi NFTとは別のリアルの場所で法人を設け事業を興すのはなぜなのでしょう?
山古志地域を存続させていくには、デジタルとリアルの両輪で支えないと難しいということです。仮にデジタル村民のコミュニティが1万人にまで大きくなったとしても、リアル山古志住民のコミュニティがゼロになってしまっては何のためのコミュニティか分からなくなってしまう。そのためには、地域のリアルな課題としっかりと向き合い課題解決への事業を行うことが大切だと思っています。
リアルとデジタルの両輪効果ということで言えば、既に実例も出てきています。人口減少の対策のために、十数年前から移住・定住を促進する事業を進めてきていますが、決して効率が良いわけではありませんでした。ところがNishikigoi NFTの発行以降、購入してくださったデジタル村民の方々に移住・定住施策をご紹介したところ、山古志に就職した方が1人、お試し移住を希望する家族が2組誕生しました。山古志を応援したいというデジタル村民の方々にピンポイントで施策を知らせる方が確立が高い。この例のように、リアルとデジタルを両立させることが効果的であることに、少しずつですが希望を感じています。
DAOなら世界中から共感者を集められる
――DAOという形態は今後、広がっていくと思いますか?
人口800人の山古志に、住民の数を大きく超える1,500人もの共感者が山古志を元気にしようと世界中から集まってくださっている。これが地域をひらいた一つの効果なのではないかと感じています。
山古志は限界集落とも称される地域ですが、山古志DAOとまわりの皆さんがおっしゃってくださるように、私たちにとって大切な山古志地域を共感してくださる方々と一緒に守っていきたい、残したいと発信することで、世界中から仲間を集めることができました。同様に文化や芸術、技術など、それがどんなに規模が小さくても、仲間を募りたいという場合は、世界中から共感者を集められる重要な仕組みだと思います。
(写真:吉成大輔)
※本記事内の製品やサービス、所属などの情報は取材時(2023年9月)時点のものです。







