職る人たち—つかさどるひとたち—

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三菱ルームエアコン「霧ヶ峰」設計者・横田周平×箱根寄木細工技能師 露木清高

#01 TSUKASADORU HITOTACHI

対談篇 前篇 箱根寄木細工に学ぶ
「生活文化の創造」

(対談篇 前篇)

露木木工所のものづくりを視察した一行は、工房から少し離れた場所にある「寄木ギャラリーツユキ」へ移動。
箱根寄木細工技能師・露木清高さんと、三菱電機のルームエアコン「霧ヶ峰」シリーズを設計する横田周平の対談を開催しました。

高校卒業後に京都で「京指物」を学ぶ

露木木工所の本社(工房)から場所を移し、JR早川駅からほど近くにある「寄木ギャラリーツユキ」に伺っています。本日は露木木工所の四代目・露木清高さんに寄木細工の工房をご案内いただきましたが、横田さんは露木さんの工房への訪問を通じ、どのような感想をお持ちになりましたか?

横田周平(以下、横田)

伝統工芸と工業に違いはあるとは思いますが、同じ「ものづくり」に身を捧げる人間として、たいへん興味深いお仕事だと思いました。
私から露木さんに質問させていただきたいのですが、お父様(三代目・清勝さん)の後を継ぎ、寄木細工職人の道を志すことはかねてから決めていたのでしょうか?

露木清高さん(以下、露木)

実のところ、これまで父親から「後を継げ」と言われたことは一度もないんです。だから幼少期に強い決意を持って「後を継ごう!」と考えていた記憶もありません。ただ私の場合は一人っ子でしたし、身の回りに寄木細工が当たり前のようにある生活を送っていました。自然とこの道に踏み出した、というのが正直なところだったと思います。

横田

高校卒業後には京都で「京都の伝統工芸」の専門学校に通われたそうですね?

露木

はい。寄木細工は作り手や工房によって、作品のイメージががらりと変わります。別の世界の伝統工芸を学んでおけば、後々何かに役立つんじゃないかと、2002年から4年間、京都伝統工芸専門学校(現・京都伝統工芸大学校)で京指物の基礎を学びました。

横田

まったく別の世界で基礎を築いた、というのも面白いキャリアですよね。京指物の世界からはどんなことを学びましたか?

露木

寄木細工でも最終的には箱を組み立てたりしますから、京指物を学んだときの経験が今も活きていると思います。あとは道具の使い方や木材の取り扱い方など……。数え上げればキリがありませんね。
私はどちらかといえば物覚えが悪いほうだったのですが(笑)、学校で師事した先生は何度質問をしても聞いたことにはすべて答えてくれる方でした。ものづくりに携わる人間としての「哲学」のようなものも学べたと感じています。

横田

露木木工所に入所されるのは、その後のことですか?

露木

そうですね。本格的な修業が始まるのは小田原へ戻ってきてからです。だから寄木細工の職人としてのキャリアは10数年間ほどでしょうか。

横田

実は私が三菱電機エンジニアリングに入社したのが2007年。キャリアがだいたい同じくらいで年齢も近い。とてもシンパシーを感じています。

木が生きているかのように不測の事態が起こる

横田さんはこれまでどのようなお仕事をされてきたのですか?

横田

私は入社以来、三菱電機のルームエアコン「霧ヶ峰」シリーズの製造拠点である静岡製作所で、ルームエアコン室内機筐体の設計業務に従事してきました。
エアコン室内機を1基作るのに、約百数十点の構造部品を設計しなければいけないのですが、これまでのキャリアでそれらの部品設計のほぼすべてに携わってきました。

入社当時の思い出は?

横田

先輩のもとで実にさまざまな勉強をしましたね。企業のなかに入ると得てして他のものづくりに触れる機会がめっきり少なくなるものですが、私の場合は幸いにして「もっと外に出ていろいろなものづくりの世界を見てこい!」と言ってくれる上司に恵まれました。そうした経験の1つひとつが今、製品設計の発想にとても役立っています。

露木さんの場合はどうですか? 職人の世界と聞くと「とてもきびしい師弟関係」を想像してしまいますが、どのような教えを受けてこられたのでしょう?

露木

家業なので多くの雑用もまた大事な仕事でしたが、職人として修業でいえば麻の葉模様をつくる最初の一工程だけをひたすらくり返すことから始めましたね。

横田

「麻の葉模様」ですか?

露木

伝統的な六角形の幾何学文様です。それこそ朝から始めて夕方まで……。もう飽きるほどに延々と作りましたよ(笑)。でもそうして繰り返すことで、寄木の模様をいかにリズムよく綺麗に作れるか、カラダに染みこませられたと思います。

作品づくりにおいては
実に予測不能なことが
起きるものです

横田

寄木細工の世界で「一人前」と認められるには、だいたいどのくらいの期間が必要なのでしょう?

露木

だいたい10年間くらいでしょうか。ただ単純に「10年やれば一人前」というわけにもいかないと思います。組み立てに至るまで、一連の作業を1人でできるようになる目安が「だいたい10年間」。

とはいえ、私たちが取り扱う「木」はまるで生きているかのようで、作品づくりにおいては実に予測不能なことが起きるものです。そうした「不測の事態が起きたときにこう対処する」みたいな感覚はとても10年間では身につくものではないと実感しています。

体感温度に着目した空調システムを開発

横田さんのお仕事についてももう少し詳しく伺います。「霧ヶ峰」ブランドが立ち上がったのは1967年のことです。

横田

はい。2017年には50周年を迎え、ギネス入りするような長寿ブランドとなりました。

最新モデルの1つ「FZシリーズ」は「部屋の中にいる人の“体感温度”を予測し、1人ひとりに快適な状態を届ける」のが大きな特徴です。「暑がりさんも、寒がりさんも……」のCMでもよく知られていますが、そこにはどんな技術が使われているのでしょうか?

横田

大きく言えば、2つの最新技術が搭載されています。まず1つ目は、赤外線センサー「ムーブアイmirA.I.」。このセンサーには最新の人工知能が搭載され、日常的な運転のなかで、部屋の断熱性や気密性、さらには立地・間取りにより変化する人の動きや住宅性能を学習します。だからこそその部屋にいる人が「寒いと感じるだろう」「暑いと感じるだろう」といったことを先読みし、運転を制御できるのです。

もう1つの技術とは?

横田

「パーソナルツインフロー」です。ここには2つのプロペラファンが搭載されています。センサーで検知した「暑がりさん」「寒がりさん」それぞれに向けて、最適な温度・風量の風を吹き分けることができます。こうした体感温度に着目した空調システムにより、高い省エネ性能を実現。一般財団法人省エネルギーセンター主催の「省エネ大賞」を受賞しているんです。