
対談篇 後篇道具が変われば、日常が変わる
挑戦と発見。素材との対話。
職人とエンジニア、それぞれの現場から生まれた気づきが交差し、ものづくりの新しい視点が立ち上がります。




手応えが、形になる瞬間
ものづくりをしている中で、忘れられないエピソードなどありますか。
やはり、初めて手がけた機種が一番印象に残っていますね。入社2~3年目に、キャニスター型の手元ハンドル部分の設計をやらせてもらったのが、印象的でした。ホース部分のフルモデルチェンジで、一から形が変わるタイミングだったので、デザイナーから来たハンドルの形をどう製品に落とし込むかを考えながら進めましたが、なかなか大変でした。太さや湾曲具合、手に馴染みやすくするためにコブをつけるなど、モックアップを削りながら作業してデータ化しました。
いまデータ化のお話がありましたが、入社した時は「だいたいこのぐらい」という中でしか傘づくりは行われていなかったので、それをどう数値化していくかが大変でした。それと、教えてくれる人もあまりいなかったので、社内にあった傷が多くて使えない反物を社長からいただいて、ひたすらそれで「ああでもないこうでもない」と試行錯誤していました。最初は本当に酷い傘になるのですが、それがどんどんまとまってくると「こうすればこうなる」というのが自分でも掴めてきて。そこは大変でしたが、すごく印象に残っています。
できなくても、やっていくと急にできる時ってありますよね。あれ気持ちいいですよね。
わかります。ふとしたひらめきではないですけど、闇雲にやって数値化していったものが、ある瞬間に「できるじゃん!」となる。

自分の中でレベルアップしたような感じですよね。前はこんなにできなかったのに、次の機種ではできたとか、結構あります。やはり成長しているのかなと(笑)。
素材と対話するということ

掃除機と傘、それぞれの素材に対してどのように向き合っていますか。
スティック型になったことで、軽さがすごく求められるようになりました。モーターも昔と比べて、今は非常に小さく高性能のものを使っています。ただ、そうなると原価が上がってくるので、素材選びも重要になります。今はカーボンなども使っていて、具体的にはこのパイプの背骨にあたるような部分ですね。スティッククリーナーになってから、掃除中にみんな立てかけて倒してしまうので、強度が以前よりも重要になっています。そうなると、やはりこの部分はしっかり強化した方がいいということになって。今はカーボンの強化繊維を使っています。パイプ部分にカーボン素材を使うことで強度を保ちながら、厚みを従来の1.5倍ほど薄くして軽量化も実現しています。
骨は骨屋さん、生地は生地屋さん、手元は手元屋さんが作っています。それらを一つの傘に組み上げていくのが私たち職人ですので、それぞれの素材をできるだけ大切に使ってあげたいと思っています。生地に関しても、なるべく端切れが出ないように使ってあげるとか。骨組み部分も傷がつきやすいのですが、傷がつかないように丁寧に扱います。それぞれの職人が大切に作ってきたものなので、それを大切に扱うことが大事だと思っています。
仕上げに触れる、
その指先までが仕事。
道具が変える、日々の気配
生活する方々に、お二人はどのような価値を届けたいと考えていますか。
ストレスなく満足して使ってもらうことですね。いかに掃除という抵抗のあるものを、抵抗なくやってもらえるか、というところです。
やはり掃除ってネガティブですよね、入り方が。
そうですね。やりたくないけど、汚れが出ているからやらなきゃ、というような。ポジティブに掃除する人はあまりいないので。なるべくそこを払拭して使い勝手よく、あとはしっかりゴミが取れて「あ、取れた」という達成感を感じてもらえるように、日々考えていますね。

お話を伺いながら、掃除と結構近いところがあるなと。傘自体も、雨が降るというすごくネガティブなところをどうするか、だと思います。たとえば映画を観ていても、雨が降る描写ってすごく悲しいシーンだったりしますよね。
それをお客さんが、この傘を使うことで別のベクトルに考えていってほしくて。ファッションの一部だったり、所有感だったり、そういうところに変えてほしいなと思います。
「今日この傘が使える」とか「雨が降ったから使える」とか。ファッションで考えるなら「今日はこういう服装だから、この色がいいかな」だったり。生活の道具ではあるのですが、ちょっと見方を変えると、楽しみが見つかるのではないかなと。その楽しさへのきっかけを届けていきたいと考えています。
最後に、これから挑戦したいこと、理想のものづくりについてお聞かせください。
やはり、掃除をいかにストレスフリーにするかというところですね。良いものを使いながら、なるべくコストを抑えて提供できるようにしたいと思っています。
今はサイクロン式と紙パック式がありますが、たとえば第三の方式があっても良いかなと思っています。すごく使いやすくて、しかも吸引力が落ちずにゴミを吸えて、メンテナンスも少なくて済む。そのような挑戦もしていきたいですし、ひとつひとつの作り込みも、これからも変わらず大切にしていきたいですね。
傘はずっと変わらないものです。素材や製法は変わってきていますが、シルエットはずっと変わらない。変えられるかどうかはわからないですけど、傘のスタンダードを変えていくようなことができれば、傘職人冥利に尽きるかなと思います。
本日はどうもありがとうございました。
- 取材・文/澤村泰之 撮影/魚本勝之
- 2026.02.12

