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情熱ボイスグローバルPMモータ篇第1回 市場の「隙間」を狙われる情熱ボイスグローバルPMモータ篇第1回 市場の「隙間」を狙われる

真のゴールを目指すためのプロジェクト 真のゴールを目指すためのプロジェクト

提案は通らなかった――。2009年、ある太陽電池製造装置メーカーの搬送システムリニューアルのコンペで、ACサーボを使った提案を行った三菱電機は勝つことができなかった。しかしコンペに負けたという事実以上に衝撃的だったのは、その敗因だった。顧客が採用したのは、三菱電機の製品ラインアップにない「ステッピングモータ」を使ったものだったからだ。

当時、三菱電機は、モータによる位置決めに2つのソリューションを用意していた。1つは高精度の位置決めが可能なACサーボ、もう1つは誘導モータとインバータの組み合わせによる簡易的な位置決めだ。両者の守備範囲は広く、位置決めのニーズは十分カバーできていた。

しかしやがてその両者の隙間に、ある機器が割って入るようになる。一定角度ずつ回転するステッピングモータだ。ACサーボよりも構造が単純でコストも安く、誘導モータをインバータで制御するよりも位置決め精度の高いステッピングモータは、隙間から着実に勢力を広げていた。そしてついにACサーボの市場まで脅かすようになったのである。ACサーボではトップシェアを誇るがステッピングモータを製品として持たない三菱電機にとって、とても看過できるものではなかった。

早くから始まっていた「センサレス」の研究

もっとも三菱電機ではこの失注に至るまで、何も課題を認識していなかったわけではなかった。それ以前から、ステッピングモータの攻勢にどう対応するかが議論されていた。当初は「ステッピングモータ市場に参入する」ことも議論されたが、後発の立場では、もはや他社と差別化できる特長を打ち出すことは難しい。技術的な新機軸を検討していた中で浮上したのが、「センサレスサーボ」というコンセプトだった。

サーボはモータに取り付けたセンサで回転位置を検出し、アンプにフィードバックして補正する。位置の指示だけ行いフィードバックはしないステッピングモータや誘導モータと違い、高精度の位置制御ができるのが特長だ。半面、高精度のセンサが必要なためコストは高くなってしまう。センサのないサーボを実現できればその弱点は解消できるというのが、センサレスサーボを対抗策に浮上させた大きな理由だった。

センサによらない方法で位置を検出する技術は、確立までには至っていなかったものの、社内で基礎的な研究は進んでいた。永久磁石モータの磁束の変化をもとにする技術だ。これを実用化すればセンサレスは可能だろう。その判断のもと、2007年にはACサーボ開発部隊のある名古屋製作所で、センサレスサーボの研究と開発が始まっていた。2009年の失注は、既に始まっていたセンサレスサーボの開発を急かす形となった。

別個に進んでいた、もう一つの開発プロジェクト

一方、名古屋製作所とは別のところで、センサレスサーボの実現を目指す動きも始まっていた。三菱電機グループでギヤードモータ(誘導モータ)を開発・製造する三菱電機FA産業機器(以降、MFK)である。福岡市に本拠地を置くMFKにとって、ギヤードモータ(誘導モータ)はクレーンの巻き上げ作業などで使われるホイストと並ぶ主力商品だ。誘導モータにギアを組み合わせたギヤードモータは大きなトルクを必要とする現場に適しており、三菱電機の「e-F@ctory」を構成するソリューションの一つとしてラインアップされている。

誘導モータはステッピングモータ同様にセンサを持たないが、インバータと組み合わせることで簡易的な位置決めは可能だ。しかしその精度はステッピングモータには及ばないため、誘導モータの位置決め精度に満足しないユーザはステッピングモータに目移りしかねない。MFKが作るギヤードモータ(誘導モータ)にとってもステッピングモータは競合であり、対抗策が必要だ。そこで名古屋製作所同様にセンサレスサーボの実現を独自に目指していたのである。

名古屋製作所とMFKの動きが交差したのは2010年のある日のことだ。MFKでセンサレスサーボ開発のリーダーを務める技術部の綿野博昭は、名古屋製作所のサーボ開発者から

「減速機を作ってほしい」という依頼を受けた。

モータで大きなトルクを出すために必要な減速機は、ギヤードモータの重要な部品でMFKが得意とするところである。

綿野がどんな用途かを聞くと「いま開発中のセンサレスサーボに使いたい」という。

綿野はこの時初めて、名古屋製作所の動きを知った。驚いたがよく考えれば不思議ではない。ステッピングモータはACサーボと誘導モータに共通する「敵」なのだから、名古屋製作所のサーボ部隊でもセンサレスサーボ開発に意欲的になるのは当然だ。

同じ三菱電機グループ内で類似した製品の開発リソースが2つに分かれていることは、客観的に見て効率的とは言えない。しかしこの時点で両者の開発プロジェクトを統合することはしなかった。既に両者とも開発がかなり進んでいたこともあったが、それ以外にもう一つ大きな理由がある。両者とも「現行製品の資産をできるだけ活用すること」を前提に開発していたからだ。

「センサレスサーボという市場がまだ存在しない以上、
そこにいきなり大きなリソースを注ぎ込むのはリスクがあります。
そこで
最初の製品は既存の部品や生産設備を活用して開発し、
ユーザの反応を確かめながら課題を洗い出すことが必要だったのです
(綿野)。

名古屋製作所はACサーボ側から、MFKは誘導モータ側からセンサレスサーボに対する可能性を探ることが、当面の開発目標だったのである。それならば無理に開発プロジェクトを一つに統合する必要はない。

2つのチームが合流し、真のゴールを目指す

それぞれの開発は着実に進み、まず先にMFKが開発した「S-PM」が2012年1月にリリースされた。S-PMは速度制御に注力したモータで、モータにかかる負荷が変動しても回転速度の変化を抑えられる仕組みを名古屋製作所のセンサレス技術で実現したのが特徴だ。サーボモータでなければ不可能と思われてきた制御をセンサレスで可能にした点で、センサレスサーボ実現に大きな先鞭を付けることになった。

とはいっても、これが三菱電機にとってのゴールではない。目指すゴールはあくまでも、勢力拡大中のステッピングモータに対抗しうるセンサレスサーボの実現だ。S-PMは現行の部品や設備という制約の中で開発した機器であり、真のゴールはその制約を取り払ったところに存在する。

S-PMリリースから間もない2012年3月、真のゴールを目指すためのプロジェクトが立ち上がった。ふたたびMFKと名古屋製作所がタッグを組み、次世代センサレスサーボの開発が始まった。名古屋製作所がACサーボの資産で開発してきたモータ「MM-GKR」も開発終了が近づき、S-PMと合わせてさまざまな知見が開発の中から得られている。それらを活用することで、真のゴールとなるセンサレスサーボの開発はスムーズに進むだろう。プロジェクトチームは楽観的に考えていた。

ところが実際にはセンサレスサーボの製品化まで、ここから9年も要してしまうのである。

情熱ボイス【グローバルPMモータ篇】 第2回 「何が正解なのか分からなくなった」情熱ボイス【グローバルPMモータ篇】 第2回 「何が正解なのか分からなくなった」

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