情熱ボイス
【リニアトラックシステム編】大幅な計画変更をいとわず実現
次世代の搬送機器としてメディアから表彰
2025年5月公開【全2回】
第2回 新規設計がもたらした効果
汎用品流用による開発から新規設計を随所に取り入れた開発への計画変更は、結果として成功だった。従来のリニアトラックシステムにない独自の特長を打ち出すことが可能になったからだ。
その一つがキャリアの荷重だ。消費財など軽い製品の搬送に使われていた従来のリニアトラックと違い、新たに開発するリニアトラックはバッテリーなど重い製品を対象とする。その分、キャリアに大きな推力、すなわち大きな電気エネルギーを与える必要があるが、既存のモータドライバでは十分な電流を処理できない。しかしそれを最初から想定したドライバを設計することにより、その問題は自動的に解消したのだ。
もう一つは省エネ化が進んだことだ。ドライバ小型化のために省配線化を追求するなかで、ケーブルを直流電圧でドライバ間の渡り配線にしたことで、制御盤の小型化と同時に、減速時のエネルギーを回生してキャリア間で融通可能になった。
新規開発のドライバでは、複数のキャリアを同時制御することが可能になったのも大きな効果だ。タクトタイムを短縮するためには、複数のキャリアをタイミングよく動かすことが求められるが、既存のドライバでは1個のドライバで1個のキャリアしか制御できない。しかし、新たにドライバを開発するならば、最初からその機能を仕様に盛り込んでおけば解決する。
新規開発のドライバが1個でキャリア複数個を同時に制御可能になったことで、キャリアの間隔を適切にコントロール可能になった。先行するキャリアの加減速に合わせて、後続のキャリアを追従させる仕組みが実現した。両者の間隔の衝突を回避できるギリギリまで追い込むので、タクトタイムは飛躍的に改善するのである。

ドライバ小型化の過程で省配線化が進み、回生エネルギー活用による省エネ化が進んだ。

1個のドライバで2個のキャリアを制御することで、両者の指定間隔を適切に確保する。
全体の生産ラインの中で、リニアトラックを適切に制御できるようになったことも大きい。生産ラインがリニアトラックだけで完結することは現実にはなく、前後の工程と同期して動作するのが当然だ。そのため汎用の産業用PCではなく、生産現場のシーケンサから統合的に制御できるようにしたことで、リニアトラックを含む工程全体を最適化できるようになった。
シーケンサだけでなく、ソフトウエアでも三菱電機の製品との連携が進んだ。3Dシミュレーションソフト「MELSOFT Gemini」を活用した設計シミュレーションだ。ソフトウエア開発部門もプロジェクトに巻き込み、Geminiにリニアトラックの部品を追加。ラインを物理的に組み上げる前に入念な検証を仮想空間で行えるようにした。汎用品流用にこだわらず必要に応じて新規開発を追加したことで、開発から運用まで総合的な力を高めたリニアトラックシステムが実現したのだ。

リニアトラックを使った生産ライン設計時に3Dシミュレーションソフト「MELSOFT Gemini」を使えるようにした。
展示会出展で実感した需要
2023年11月に開催された「国際ロボット展」。リニアトラックシステムの初披露となったこの場で、製品企画を担当する中川は来場者からの予想外の反響に少し驚いたという。
国際ロボット展ではリチウムイオンバッテリーの生産ラインを模したシステムで、リニアトラックの効果を紹介した。バッテリーセルを外観検査後、ケースに入れて封止する流れで、リニアトラックはケースのふたを運んで封止する役目を担っている。ロボットや外観検査の機能なども組み合わせて、一連の工程をパッケージにしたシステムを披露した。

国際ロボット展で初披露されたリニアトラックシステム。リチウムイオンバッテリーの生産ラインを模している。
「国内メーカーの参入に対する期待は本当に大きかったのだ」。中川はブースを取り巻く来場者の群れを見て改めて実感した。リニアトラックが消費財など限定的な用途にしか使われてこなかったのは、リニアトラックという仕組み自体に弱点があったからではない。バッテリー製造など、さまざまな現場で使える仕組みと全体のシステムとの親和性、そして十分なサポート体制があれば、リニアトラックは間違いなく需要はある。それを中川は確信した。

三菱電機 名古屋製作所 営業部 サーボシステム課長 中川新 (2025年3月取材時)
国際競争力強化に役立つ製品として評価受ける
2024年12月、共に欧州出張中の遠藤と中川のもとに一本のメールが入った。日刊工業新聞社が毎年選出している「十大新製品賞」について、リニアトラックシステムの受賞が内定したという知らせだった。十大新製品賞は、その年に開発や実用化した新製品の中から、ものづくりの発展や日本の国際競争力強化に役立つ製品を日刊工業新聞社が選定・表彰する制度である。その本賞受賞が決まったという連絡だった。
「正直、受賞するとは思っていなかった」と中川と遠藤は、当時の気持ちを振り返る。初披露の国際ロボット展から1年以上経過しており、一般顧客向けには発売にもまだ至っていなかったからだ。しかし日刊工業新聞社は曲線への対応による柔軟なライン設計や、最大毎秒4mという高速搬送などを実現したことを評価したのだろう。

リニアトラックシステムは「MTR-Sシリーズ」と名付けられ、2025年5月に一般顧客向け正式リリースすることが決まった。多品種少量生産やカーボンニュートラル志向などを背景に、リニアトラックを含めたリニア搬送システムの市場規模は、今後も成長が長期的に続くと見込まれている。その成長市場は新たなメーカーの参入による競争激化も予想されるが、MTR-Sシリーズはバッテリーのような高付加価値で重量のある製品にも対応できる点で、他社にない価値を提供していけそうだ。
世界的デザイン賞
Red Dot AwardにてRet Dot賞も受賞!
リニアトラックシステムが、国際的な世界三大デザイン賞の1つであるRed Dot Award 2025において、栄誉ある「Ret Dot賞」を受賞しました。
今後も、より良い製品をお届けできるよう日々取り組んでまいります。

