特集論文
低圧遮断器の技術変遷と今後の展望
2015年5月公開【全3回】
福山製作所 遮断器製造部長 竹内敏惠
第1回 三菱MCCBの歴史
2. 三菱MCCBの歴史
2. 1 黎明(れいめい)期(戦前)
1929年に、引き外し自由形の開閉機構・バイメタル式過電流検出部・グリッド式の消弧室を持ち、全体を絶縁物のモールドケースで覆った製品が米国のウェスチングハウス社(以下“W社”という。)から発売された。これが今日に至るMCCBの先陣をきる製品であり、MCCBの基本的考え方は今日でも脈々と生きている。
当社は、W社との技術提携によって、名古屋製作所で1、2極、定格電流15-35Aの分岐回路用を開発し、1933年に国内初のMCCBを発売した(図1)。1936年にはこのMCCBを備えた“NF形”分電盤を開発し、大容量の電気設備を必要としていたビルなどに使用されていった。その後、1936年に100Aフレーム、1937年に225Aフレームと電力の大容量化に対応した製品を開発するとともに、バイメタル定格の約10倍の過電流で作動する“電磁引き外し装置”も備えた。
ヒューズ付開閉器より性能が優れ、小型で外形の整ったMCCBの出現は、壁面に体裁よくまとめたい配電盤のニーズに合致し、MCCBを使用した配電盤が普及していった。

図1.当社遮断器シリーズの変遷
2. 2 黎明期(戦後)
第2次世界大戦の戦災で中断していたMCCBの生産は、1950年から戦前に開発した50-225Aの3フレームで再開し、駐留米軍の関連施設への納入が契機となり、需要が喚起されていった。
1952年頃になると電路の分岐回路数が増え、それまでの50Aフレームでは分電盤が大型、取付けが不便など、改善のニーズが生じた。この需要変化によって、小型で取付けを標準化した単極の電灯電熱分電盤用“BH形”ブレーカを開発した。当初のBH形2極品は、同一定格の単極品2台を延長ハンドルで連結した個別引き外しのものであったが、分電盤の小型化や電路の集中化が大いに進み、分電盤の標準化が促進していった。
1954年、電灯需用家の電力料金の合理化及び屋内配線保護のためアンペア制が制定され、1955年に東部5電力会社(北海道・東北・北陸・東京・中部)で、“安全ブレーカ規格”が制定された。これに対処するための1955年“SB形”安全ブレーカを開発して東北電力に納入した。従来のヒューズにない屋内配線保護の合理性、アフターケアの容易さによって需要が拡大し、電磁式“SM形・BM形”、バイメタル式“BU形”等の各種の安全ブレーカは当社主要品目の1つに成長していった。
1957年、当社福山製作所でのMCCBの生産が始まり、同年“BH形”を小型化し電源端子をプラグイン式にした“BH-P形”を開発し、1958年には、2極2素子共通引き外し形の“BH-M形”を開発した。
BH形ブレーカの機種拡大を皮切りに始まった製品が、今日の当社遮断器事業の隆盛につながっている。
2. 3 拡大期
1960年代半ばに入ると、工場・ビル・船舶等の電力需要がいずれも加速度的に増大し、数千kVAという低圧回路が続々と出現した。そのため、1965年MCCBに当社製“FLT形”限流ヒューズを組み合わせた“NFT形”トライパック遮断器を開発した。NFT形は、1965年100・400Aフレーム、1966年225・600Aフレーム、1967年800Aフレームと続けて開発したが、当時国内では当社だけの製品であった。
1967年には短限時付NF形2000Aフレームという世界最大級のMCCBも開発し、翌年5月に開催された第13回全国優良電設資材展コンクールで業界最高の権威である建設大臣賞を受賞した。
我が国では1965年初め頃から漏電ブレーカが市場に出現したが、感電から人や家財を守る関心の高まりを受けて、1969年、労働省が“感電防止用漏電遮断器構造基準”及び“感電防止用漏電遮断器安全指針”を制定した。この制定が契機となり、漏電ブレーカの開発が本格化していった。
1970年純電磁式の単相2線式“NV-1形”30Aフレームと三相3線式“NV-3形”50Aフレームを発売し、また、現在の半導体式漏電ブレーカの基盤となる三相3線式“NV-5形”50Aフレームと分離形漏電リレー“NV-R形”を開発した。1971年には三相3線式“NV100形”100Aフレーム、“NV225形”225Aフレーム、一体型漏電リレー“NV-R形”を発表し、漏電ブレーカのシリーズ化への一歩を歩みだした。
2. 4 発展期(シリーズ化)
電気設備への多様なニーズ、高容量化、経済性、小型化などに対応するため製品の種類を増やしていったが、一方では選定に煩雑さも生じた。そこで、MCCBを遮断容量の大きさ・経済性で整理・区分するとともに、新たに開発した機種を加えて、1969年5月、①Standard(汎用品)、②Compact(小型品)、③High quality(高性能品)、④Tri-pack(トライパック)の4つのシリーズの頭文字をとって名付けた“SCHATシリーズ”(図2)を発売した。これは、今日のシリーズ化の先鞭(せんべん)をつけたもので、顧客から高評価を得て、50%を越すシェア獲得に大きく貢献した。
1969年のSCHATシリーズに始まった三菱MCCBのシリーズ化は、図1に示すように、何回かのシリーズ変更を経て、最新の“World Super-Vシリーズ”(図3)に至っているが、それぞれのシリーズで、常に斬新な技術発展を遂げている。

図2.SCHATシリーズ

図3.WS-Vシリーズ
2. 5 グローバル化
MCCBのような保護機器には、各国の法規制が最も顕著に表われるため、各国の製品規格や認証制度又は規格・基準の国際整合化の動向が製品開発の重要な要因の1つとなってきている。
MCCBのIEC規格がIEC157-1からIEC60947-2に代わり、また、欧州ではCEマーキングが導入された1990年代以降、三菱MCCBのシリーズ化も国際規格に大きく影響された製品開発となり、今日に至っている。
次に、最新のWorld Super-Vシリーズに至るまでの主なシリーズを技術的な話題を軸に述べる。
- 要旨 低圧遮断器の技術変遷と今後の展望
- 第1回 三菱MCCBの歴史
- 第2回 当社独自の遮断技術の変遷(上)
- 第3回 当社独自の遮断技術の変遷(下)
