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特集論文

低圧遮断器の技術変遷と今後の展望

2015年5月公開【全3回】
福山製作所 遮断器製造部長 竹内敏惠

第3回 当社独自の遮断技術の変遷(下)

3. 3 高限流遮断技術ISTAC

短絡時の限流効果の発生が早いほど、小さい電流から限流を開始するため、結果的に通過電流値を小さくすることができる。そのためには、短絡初期に可動子をより速く開極動作させてアークを長く引き伸ばすことが重要である。ISTAC(Impulsive Slot Type Accelerator)技術はこのような効果をねらった可動子・アークの高速駆動構造とVJC技術を融合したものである。
ISTAC技術は可動子の高速開極とアークの伸長に電流路からの磁場を利用する。開極初期で固定子を構成する全ての電流路(通電方向)を可動子やアークを駆動する方向に配置しているため開極速度の高速化が可能になる。図7にISTACの構造を示す。さらに、絶縁材料で固定子側接点周辺の遮断部を囲んでいるため、発生した圧力が可動子の開極速度を向上させ、アーク断面積の縮小も行うためアーク電圧が飛躍的に高まる。
ISTAC技術は1995年発売の“Progressive Superシリーズ”に搭載し、その後も上記基本原理を基に継続的に性能向上を図り続け、当社の高遮断容量品の大部分に適用している。

図7.ISTACの構造
図7.ISTACの構造

3. 4 高電圧遮断技術PA-オートパッファ

この技術は限流後に発生する電流ゼロ点の極間の絶縁回復向上に着目した技術である。PA-オートパッファ(Polymer Ablation type Auto-Puffer)構造を適用した消弧室構造を図8に示す。接点開極し発生したアークによる熱で消弧室の絶縁物から高分子分解ガスが発生する。このガスを一旦貯留し、その後、アークに吹き付けることで、電流ゼロ点までに接点間を冷却し、導電性ガスが存在しない状態にすることで遮断を確実にする。
この技術は極間の回復電圧立ち上がりが早い高電圧回路を遮断する際に効果があり2001年にグローバルにも対応できる“World Superシリーズ”として製品化した。

図8.PA-オートパッファ遮断器の構造
図8.PA-オートパッファ遮断器の構造

3. 5 高電圧DC遮断技術ARC SWEEPER

上述の短絡電流に対する限流、遮断技術の高度化に対する取組みに加え、近年の太陽光発電システムの普及に伴い直流電流(DC)を遮断できるDC回路遮断器、開閉器用遮断技術の向上が求められるようになってきた。
一般的に、DC遮断では定格電流以下の小電流アークに対して磁石でローレンツ力を発生させ、アークを伸長させてアーク電圧を高めるが、電流極性の反転によって伸長方向が逆転し遮断性能が低下する問題があった。この課題を克服するとともに、従来にないアーク伸長を可能にしたアーク伸長方式の概念図を図9に示す。この方式では長尺状の磁性体(吸引棒)を消弧空間に配置し、その一端部を接点間へ延伸させ、他端部に磁石を設け、吸引棒と磁石を樹脂製の絶縁カバーで被覆し構成している。この構造によって、接点間に発生したアークに対して吸引棒からの漏れ磁場が鎖交し、同図に示すように絶縁カバーの側面側空間に沿って磁石を配置した奥側にアークが伸長し、最終的には絶縁カバーに衝突、アークは圧縮される。この結果、アークは急速に冷却され、導電性を失って消滅する。また、通電方向が異なる場合でも吸引棒の反対側にアークを伸長できる。
この技術は2013年発売のDC400V開閉器の電流遮断部に搭載し、今後の更なる高電圧化への対応が期待される。

図9.アーク伸長方式の概念図
図9.アーク伸長方式の概念図

4. むすび

当社低圧遮断器製品及び技術の歴史、変遷について述べた。低圧遮断器は責務の多様さから様々なシリーズが開発・製品化されてきた。昨今では、地球温暖化や安全性への配慮から、太陽光など自然エネルギーを利用した発電方式が増加傾向にあり、DC遮断器や開閉器の普及、高電圧化が求められるようになってきた。また、新エネルギーの保護・制御に関する法整備もIECなどの国際規格委員会で進められており、新たな機能要求が発生することも考えられる。国内でも、東京オリンピックに向けた新たな需要の高まりも予想でき、需要家の新たなニーズを掘り起こす機会と期待している。今後もより安全で使いやすく多機能な低圧遮断器・開閉器開発を目指し、遮断技術の向上を図っていく

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