Round-trip Letters
カヒミ・カリィ × Hello,AI Lab

【 Vol.04 From Hello,AI Lab 】
AIとの向き合い方

それは、文通のようなメッセージ。以前からAIの可能性に注目していたアーティスト、カヒミ・カリィさんと、三菱電機の研究者集団「Hello,AI Lab」が、AIについて語り合いながら、発見や気づきをやり取りするコラムです。

わたしがお答えします
  • 回答者

    Hello,AI Labの研究員

  • 特徴

    アラフォー、女性、現在子育ての真っ只中、お世話好き、ちょっとおせっかい、幼少期より科学技術に興味あり。少々ピアノを嗜む。

  • 注意

    研究所の意見を代表しつつ、若干の私見をはさみます。

1 AIと、
どう向き合っていくか

人間と、今より近くなったら

カヒミ・カリィさま

こんにちは!お返事いただきありがとうございます。

「子供達に願うこと」でのカヒミさんのご意見、特に、いつの時代も変わらないもの、心の暖かさや穏やかさ、周りの人たちとの繋がりを大切にするということが本当に素敵で、共感できて、読みながら思わずうなずきました。
そういう日常があった上で、AIとどう向き合い、どう付き合い、進化をどう捉えるのか。AIの研究開発はきっと今後もどんどん進んでいくでしょうから、それぞれの人が幸せになるための道具の一つとして、カヒミさんがおっしゃるように、AIをどう生かしていくかを皆で選んでいけたらいいですね。
ちなみに、「AIに関する7つの原則」というものがあります。2018年12月、日本政府が「人間中心のAI社会原則検討会議」で発表したものです。それによると、AI技術ありきではなく、あくまで人間中心に開発するこということが明確に示されています。

さて話は変わりますが、以前カヒミさんから「AIが感情を持つことは可能でしょうか」といったご質問をいただき、「近い将来、人間側がAIが感情を持って接していると誤認するようになるかもしれません」と回答させていただいたのですが、前回のレターで、「私達人間がそう感じてしまうということは、ある意味、たとえAI自身がそうでなくても感情が存在しているようなものではないか」という視点をいただき感銘を受けました。というのも、我が家ではお掃除ロボットに毎日大活躍していただいているのですが、つい最近、我が家の初代お掃除ロボットの調子が悪くなり、二代目を購入しました。二代目のほうが最新式であることもあって性能がよく快適なのですが、初代お掃除ロボットを粗大ゴミに出すのかと思うと、私はなんだか後ろ髪をひっぱられてしまったんです(笑)。私が感情移入しやすいほうなんだとは思いますが、会話もなにもしないロボットですらついつい人間の方が感情で引っ張られる。これが会話をしはじめたりして、ロボットがより生活の一部となった日には、そこに存在しているのはもう、感情といってもいいのかもしれませんね。

2 進路・芸術、
AIができること

人の役に立つことと、
必要なこと

さて、いただいたご質問にお答えしますね。

【質問1】

人生の重要なことに対してまで、AIのレコメンドを信頼しすぎる人々が出てきたり、それが世の中のスタンダードになるような可能性について、AIを開発されておられる方々はどう思われますか?

先ず、AIには得意なところ(概ね信用していいところ)とそうではないところがあるので、それを踏まえてうまく付き合う必要があると思っています。そして、AIを提供する側は、AIがどの程度信用できるものなのかを、丁寧に説明することを心がける必要があります

たとえば、AIは、大規模なデータの解析が得意です。その大規模なデータの解析というのは、人間がやるには時間がかかりすぎたりして大変です。ですので、AIに補ってもらうことで幸せな人が増えると思います。一方で、AIというのは、内部でどんな風に計算して結論を導いているのかということが不明瞭です。必ずしも高い確度で断言できない場合にも、AIが断言してしまう、ということがあり、これはユーザーである人間側が気をつけないといけないことです

進学先や就職先、結婚相手など人生の重要な項目を相談するとき、相手が人であればアドバイスには主観や印象が入ってきますが、AIは主観や印象に左右されない、客観的なアドバイスをすることが出来るでしょう。その客観的なアドバイスが誰かを救うことがあるかもしれません。ただ、その客観的アドバイスをAIはどのようにして導いたのかは現状では分からないのです。人間側は、AIの性質についてより理解し、そしてより能動的に物事を考え意思決定することが人生においてますます重要になるかもしれません。一方で、やはりAIの判断の過程を知りたいというニーズは高く、判断過程を見える化する技術の研究も進められています。

【 質問2 】

一本のマイクで録った複数の声をAIが識別して、それぞれの声に振り分ける事ができると知ってとてもワクワクしました。楽器や録音機材など、音楽制作に使えるAIシステムがあったら教えていただきたいです!

私は音楽に関しては少々ピアノを嗜む程度なんですが、私の所属する研究所にはAIを研究しつつ趣味では音楽にも精通、なんて人もいます。その人たちの話によると、AIによる音楽制作というとAI作曲ツールがよく出てきますが、メロディやリズム、コード進行(と歌詞)のみが扱われることが多いようです。他にも、アレンジ、ミキシング、マスタリングといったAIシステムがあったり、音楽をAIが自動で作ってしまったりすることもあるようです。

また最近のAIは、音楽だけではなく、映像から言葉、言葉から音楽、といったいろいろなメディアの相互交換が得意になってきています。たとえば、画像や映像から自動でキャプションを生成したり、さらにその言葉を音楽に変換したり。今までの芸術の境界を外したような新しい創造のプロセスやアイデアが生まれるかもしれません。

【 質問3 】

AIが私達の生活を便利にしてくれる他に、私達自身の力を引き出してくれるようなものを期待しています。すでに私達の生活の中で取り入れられている技術はありますか?

学力の分野では、学習内容やテストの結果をAIが分析して、生徒が躓く問題をある程度予測したりするサービスが既にあるようです。また、健康の分野では、AIが超パーソナライズされたフィットネスコーチとなり、効率的・効果的に目標に向かうシステムが実現されつつあります。
その他にも私が興味深いと感じているのは、「Augmented Human(オーグメンテッド・ヒューマン)=人間拡張」という分野です。人や機械が持つ様々な能力を、AIを使ったりネットワークを使ったりして拡張します。この分野は、日本が先頭を走っています。たとえば、腕に巻いたベルトから筋肉に電気信号を与えるという技術。あるピアニストの腕にベルトを巻き、ピアノを弾いてもらいます。そのベルトでは、ピアニストの手の動きの情報を読み取り、解析、変換します。そしてそのベルトを、ピアノを弾けない別の人の腕に巻く。すると、ベルトからの電気信号で、ピアノを弾けないはずの人がピアニストのとおりピアノを弾けるようになる、といったものです。これはH2L社がまさに挑戦している楽しみな技術で、機械学習がキーとなっているそうです。
このように、人が持つ能力をさらに高めていくAI技術がどんどん出てくるかもしれません。

3 あらためて
カヒミ・カリィさんへ

芸術とAIの共存、
アイデアについて

いかがでしたか?
生活や人生にもっと深くAIが関わっていくときに、人間の感情や想いのようなものとどう共存していくか、研究している立場としても、とても興味があります。
この話は尽きないですね。

それでは、あらためて私達Hello,AI Labからカヒミ・カリィさんへ質問です。
今回は芸術やアイデア、文化についてのお話にしてみました。

カヒミ・カリィさまへ

  • 【 質問1つ目 】

    今、芸術の分野にもAIは応用されています。たとえば、有名な画家の絵画で傷ついて見えなくなった部分を補足、修復したり、ある作家の書きぶりを学習して小説を書いたり。音楽の分野でも、特定の音楽家のデータを学習して、特徴を分析して、あたかもその音楽家が作ったような音楽をAIが作曲する、といったような事例があります。とはいえAIは、新しい、独創的なものを作ることは苦手なのですが、芸術を本業とされているカヒミさんにとって、こういった取組みはとてもわくわくするものですか?それとも、少し不安だったりしますか?

  • 【 質問2つ目 】

    音楽制作や執筆などの過程で、アイデアってどんなふうに出てきますか?
    AIと音楽制作・執筆で、似ていると思うところはありますか?もしくは全く別モノでしょうか。
    たとえば、AIはたくさんの情報をインプットして、試行錯誤して、アウトプットをしていきます。カヒミさんの活動にとっても、たくさんの情報をインプットして、試行錯誤して、新たなものを作り出すという過程は、AIに似ていたりするのでしょうか?それとも、AIとは決定的に違う点があったりするのでしょうか。

  • 【 質問3つ目 】

    いただいた質問の中に、「一本のマイクで録音した複数の声をAIが識別して、それぞれの声に振り分ける事ができると知ってとてもワクワクしました。」というものがありました。当社の音声分離の技術のことですよね。制作活動というと、何かと何かを組み合わせることはあっても、分離することってあるのかなぁ・・・とふと疑問に思いました。音声分離の技術を制作に活かす・・・なんてことがもしあれば、どんな活かし方がありそうですか?

Hello,AI Labより

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