Round-trip Letters
カヒミ・カリィ × Hello,AI Lab

【 Vol.06 From Hello,AI Lab 】
人に寄り添うAI

それは、文通のようなメッセージ。以前からAIの可能性に注目していたアーティスト、カヒミ・カリィさんと、三菱電機の研究者集団「Hello,AI Lab」が、AIについて語り合いながら、発見や気づきをやり取りするコラムです。

わたしがお答えします
  • 回答者

    Hello,AI Labの研究員

  • 特徴

    アラフォー、女性、現在子育ての真っ只中、お世話好き、ちょっとおせっかい、幼少期より科学技術に興味あり。少々ピアノを嗜む。

  • 注意

    研究所の意見を代表しつつ、若干の私見をはさみます。

1 芸術とAIの共存

「無意識」を察知する難しさ

カヒミ・カリィさま

お返事、ありがとうございます!

前回のレターで、「芸術の分野にAIが応用されることが興味深いものでワクワクするもの」というお話をカヒミさんから伺い、芸術を本業とされつつもAIとの付き合い方を学んでいらっしゃるということが伝わって、とても興味深い気持ちで拝見させていただきました。
それと、カヒミさんのアイデアの源泉とAIのアウトプットとの比較。とても似ているけれど対照的でもあるというお話も、はっとさせられました。よく、人にとっての常識をAIが理解するというのはまだまだ難しいといわれています。前回のレターでおっしゃっていた「無意識に何かを観察していて長く記憶に残っていたもの」というのは、AIが理解するには難しい領域なのでは、なんて考えが浮かんだりもしました。

2 人に寄り添う、理想のAI

曖昧さ、パーソナライズ化…
理想のAI

さて、ご質問にお答えしますね。

【質問1】

以前教えていただいた「Augmented Human=人間拡張」という分野において、「ピアニストの手の動きの情報を読み取り、解析、変換し、そしてそのベルトをピアノを弾けない別の人の腕に巻く。すると、ベルトからの電気信号で、ピアノを弾けないはずの人がピアニストのとおりピアノを弾けるようになる。」という言葉に驚きました。たとえば身体(脳や筋肉?)がその動きを記憶して、楽器やスポーツなどのレッスンの助けになるような事は可能ですか?人間の身体とAIの関係について、他にも何かありましたら教えていただけますか?

前回紹介させていただいたのは、H2L社でまさに今取り組んでいる技術でした。この開発中のベルトはスポーツなどにも適応可能で、身体の感覚の情報を分析するのにAI(機械学習)がキーとなっているそうです。「楽器やスポーツなどのレッスンの助け」になるという夢のような技術は今、まさに実現に向けて研究開発が進められています。実際に楽器の習得に使った実例もあるそうです。つまりピアノの初心者が腕にベルトを巻くことで、次にどの鍵盤を叩けばいいのかといったことを習得する大きな助けになる、というものです。

その他の事例としては、都会にいながらカヤック体験ができるといったものなどがあるようです。VR (Virtual Reality) を使って高解像度の映像と音の情報を取得、それにくわえて先程のベルトで水圧を腕に感じさせる。すると、身体の動きに応じて映像と音が変化し、まるで本当にカヤックを漕いでいるような体験が出来るんだそうです。
今、世界中の研究者が、私達の価値観そのものを変えるような、わくわくするような技術の開発に取り組んでいます。私たちも、そんな未来を担えるよう、これからも研究に邁進していきたいと思っています!

【 質問2 】

AIを研究されておられる方にとって、理想のAIとはどんなものですか?人の役に立つものである以外にも、もしこれが可能だったら素晴らしいと思う形のAIはありますか?

「理想のAI」ですか…。

私は、「人の心を安らげたり、笑いを与えたり、人生をよりあったかいものにするAI」が高いレベルで実現できたら素晴らしいと思っています。個々人の「癒やしポイント」や「笑いのツボ」がパーソナライズ化されていて、自然な形で適度な回数で提供してくれるAI。
そして、時々はその「癒やしポイント」や「笑いのツボ」を外してくれたりもして、いかにも人間くさくて、ツッコミどころ満載のAI。ただ、そのためには、AIが感情を細かく認識するところなどに、技術的なハードルがありそうです。表情だったり、行動履歴だったり、生体信号だったり、あらゆるものを学習データとして使うというアイデアがありますが、それらをどう組み合わせるか、データからどういう情報を引き出すか、データが取れなかった時にどうするか、個人差や同じ人でもその時々で違う差をどう吸収するか、などなど課題はたくさんあります。

100人の研究者がいたら、100通りの「理想のAI」がありそうですが、これは “私の場合” という個人的な回答です。思い出せば、大好きな祖父の存在があったからかもしれません。祖母が早くに他界して一人暮らしを続けていた祖父は、子や孫に心配や迷惑をかけまいと、ずいぶんと心身が弱っても一人暮らしを選び続けるような人でした。もし、そんな祖父のそばでずっと寄り添い、パーソナライズ化された癒やしと笑いを提供し続けられるAIがいてくれていたらな、と。
今、高齢化は大きな社会課題で、その対応はいたるところで検討されています。人の表情をAIが認識するという技術も現実のものになりつつあり、個々人の癒やしや笑いをAIが学びどんどんパーソナライズ化して高度な次元で提供していく、そんな技術が実現する日も、そう遠くないかもしれません。

さてここまでは、私の ”個人的な” 回答でしたので、もう一人同僚の回答もお伝えしておきますね。その同僚にとっての理想のAI、それは、「めちゃめちゃ安全なAI」。AIは大量のデータを学習します。でも、変なデータで学習するとアウトプットに実用性がなくなってしまうんです。そこで、AIから変なアウトプットも出るという前提で安全機能を作り込むこと(フェールセーフ)が重要視されています。
たとえば、気持ちよくジョギングをした後の動悸や体温の上昇を、ロボットが体調不良と誤認すると厄介です。AIによる認知・判断・制御と同じかそれ以上にフェールセーフは欠かせないポイント、と。
研究者の数だけ理想のAIがありそうです。

【 質問3 】

「AIに関する7つの原則」の中で、「誰もがAIを利用できるよう教育を充実させる。」というものがありましたが、将来的に子供達が学校でAIを学んだりする時代が来るのかな、と興味深く思いました。また先日、11歳になる娘の宿題の答えが正解だったのに、担任が間違えてバツを付けてしまっていた事を思い出して、もし先生がAIならこういうミスはなさそう、とちょっとクスッと笑ってしまった事がありました。新型コロナウイルスの問題がきっかけでリモート学習が増えてきたこともあり、人間に変わってAIが授業を担当する日も遠くないのではと思ったのですが、近い未来、どんな風にAIが教育に関わってくると思われますか?

子供達がAIを学校で学んだりする時代が来るかもしれませんね!AIで出来るようになることやその原理に留まらず、AIとの付き合い方や、以前紹介した「AIに関する7つの原則」なんかもぜひ学んでほしいことだと思っています。
また、AIがどんなふうに教育に関わるかですが、パーソナライズ化が当たり前になってくるのだろうと思います。生徒の個性やその時点での能力を把握し、今、何をどのように学ぶのが効率的か、その学びに対して、どのように学習しているか、どこにつまずき、どこを理解しているか。効率的な教材や学習方法をパーソナライズ化し、AIが次々に提案する、そんな未来になるような気がします。AIが簡単に導入できるところでは、すでにサービスが始まっています。ただ、前々回のレターのレコメンドの話にもありましたが、AIが学習を進める生徒のよきサポーターになると期待できる一方、アドバイスに頼りすぎてしまうとかえって主体性を奪うことにもなりかねません。AIの導入は慎重にしたほうがよいでしょうし、AIとの付き合い方を生徒はもちろん先生も学ぶ必要があると思います。

とはいえ、AIと上手く付き合い、AIが教育現場にとってよきサポーターになって、ハッピーな人が増えるといいですね。カヒミさんの娘さんの担任の先生が採点を間違えてしまったというお話がありましたが、採点はAIにお任せできることの一つですよね。また、AIは画像認識が得意で、人の表情を認識して感情を推定するという技術の研究も進められていますが、それが高度化すると、生徒の集中度や理解度を判断できるようになりそうです。授業中の生徒の表情が、授業の質を向上させる鍵になるかもしれませんね。一方で先生は、人にしか出来ない仕事、たとえばより生徒の意見を傾聴する、生徒のモチベーションに寄り添う、AIの採点では評価しきれないような個性的な回答に向き合う、などに注力することで、よりよい教育現場になっていくといいなと期待しています。

3 カヒミ・カリィさん
にとってのAI

理想のAI、AIに対する感覚

今回も貴重なやり取り、ありがとうございました。
このレター交換を通してカヒミさんの価値観に触れられるのを、毎回とても楽しみにしています。さて、まだまだ伺いたいことがたくさんあります!!

カヒミ・カリィさまへ

  • 【 質問1つ目 】

    理想のAIについてご質問をいただきましたが、逆に、カヒミさんにとって理想のAIとはどういったAIでしょうか。アーティストとしてという視点でも構いませんし、もっと生い立ちに関わるものでも構いません。ぜひご意見を聞かせていただけませんか?

  • 【 質問2つ目 】

    カヒミさんがAIを使って学んでみたいことってありますか?

  • 【 質問3つ目 】

    海外で生活していらっしゃるカヒミさん。アメリカ人のAIに対する感覚と、日本人のAIに対する感覚で、もし、違いや共通点を感じられていたら教えてください!もちろん、カヒミさんの感覚で構いません。

Hello,AI Labより

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