三菱電機「らく楽アシスト」

INTERVIEW

しゃべる家電が
見えない世界を
支えている

調理実習や
製品操作体験会を通じて
視覚障がい者と
「らくアシ」家電をつなぐ

人間は、受け取る情報の約8割を視覚に頼っているといわれます。一方で、目の見えない人たちの支えとなるのは、「音」や「手触り」です。ひとりでも多くの人があん心して、らくに、楽しく使えるように、「らく楽アシスト」では音声アシストや報知音、点字や凸記号などを家電に採用しています。今回は、こうした「らくアシ」調理家電と視覚障がい者の暮らしをつなぐ、視覚障害生活訓練等指導者(歩行訓練士)の西村亜希子さんにお話をうかがいました。

西村さんのお仕事を教えてください。

視覚障害生活訓練等指導者(歩行訓練士)として、目の見えない方が安全に移動したり、日常生活を安心して送れるよう支援しています。そのため指導内容は歩行訓練だけでなく、音声パソコン訓練や点字訓練、調理訓練と多岐にわたりますね。お悩みごとは人それぞれなので、生活の中で困っていることをご本人と一緒に考えながら解決していきます。

私はもともと人のお世話をするのが好きだったので、早くから福祉の道に進むことを決め、高校・大学でも社会福祉を専門に学んできました。卒業後は、居宅介護員や役所の職員としてさまざまなかたちで障がい者支援に携わってきたのですが、なかでも衝撃的だったのが、視覚障がい者の方々との出会いでした。彼らを通じて知ったのは、「見えることは当たり前ではない」という事実。そのため、「見えない世界」のことをもっと知りたい、見えなくても安全に暮らせる方法を学びたいと考え、歩行訓練士の勉強を始めたわけです。資格を取得したのは9年前で、以来、視覚障がい者の方々の支援に努めています。

視覚障がい者のお困りごとに
どんなものがありますか?

男性にも女性にも多いお悩みのひとつは、料理ですね。視覚障がい者の中には 生まれつきの人(先天盲)と、人生の途中で病気や事故で視覚を失ってしまった人(中途失明)がいます。実は中途失明者のほうが圧倒的に多く、見えなくなったことでお料理をあきらめてしまう人は少なくないんです。また本人がやりたくても、「火を使うのは危ないから」とご家族に止められる話もよく聞きます。

そこで、「自由にお料理を作りたい、楽しみたい」「家族に料理を作ってあげたい」という方のために実施しているのが、調理訓練です。個別指導での調理訓練では、基本的にご本人が希望するものを作ります。親子丼や野菜炒め、肉じゃがといった家庭料理、また火を使わないで簡単に安心して作れるレンジ料理が人気がありますね。作り始める前に、でき上がりのイメージを共有することも大事。量や大きさ、形、かたさや味付けなどの好みをできるだけ聞くようにしています。もちろん、自立に向けた訓練ですから、実際に調理をするのはご本人のみ。調理中は私がずっと隣で実況中継し、途中で何度も味見していただくことで、好みの仕上がりに合わせた火加減や炒め具合の感覚を覚えてもらいます。訓練での一番最後の振り返りの時間では、必ず当日の点数を聞くようにしています。「おいしい!」と食べくださっても、なかなか100点満点は出してくれませんね……。

調理訓練では、教わることも数多くあります。たとえば、手のひらで計量するという方法もそのひとつ。おしょうゆやみりん、塩、砂糖といった調味料を直に手の上に載せた感覚で、匂いや重さを確認するんです。手で量ったらそのまま鍋に入れるので、計量カップやスプーンに移してこぼす心配もない。「なるほどなあ~」と感心しました。

“見えていても、見えなくても
「料理を楽しみたい」という想いは同じ”

見えない調理の障壁や助けとなるものは
何でしょう

やっぱり目で確認できないというのは大きな障壁になりますね。卵焼きやハンバーグなどをひっくり返すのもむずかしいし、そもそもそのタイミングがわからない。調理訓練では、「何分焼いたらこのぐらい」というように時間でお教えするので、タイマーを活用されている人もいます。音声でタイミングがつかめれば、ものすごく大きな安心感につながるんです。

視覚障がい者向けの福祉機器展で、音声付きのIHクッキングヒーター「らく楽IH」を知ったときは、こんなに便利なものがあるのかと驚きました。タイマの時間だけでなく、電源のオンオフから操作手順、火力の強さや余熱の温度までをすべて音声で教えてくれるので、目の見えない方にとってはこれほど頼もしい調理家電はありません。また、火を使わないIHクッキングヒーターなので、引火や火傷のリスクも抑えられます。

こんなふうにしゃべる家電があれば、安心していろんなメニューに挑戦できるし、料理をあきらめてしまった人もまた始められるかもしれない。何より、ご自分で作った料理を「おいしい」と喜び、「これなら私にもできそう」と笑顔を見せる視覚障がい者のみなさんの姿が忘れられず、私も何かお手伝いしたい!と考えたのです。

“音声で操作を教えてくれることが
大きな安心感につながっています”

「らく楽アシスト」家電を使って
どのような活動をされていますか。

まずは職場に「らく楽IH」を導入し、調理訓練に採り入れました。「こんなにしゃべってくれるなら、一人でもお料理ができます!」とみなさんにも大好評でした。ただ、施設の中だけでは広がりにも限界があります。そこで、もっと多くの方々に「らく楽IH」の魅力をお伝えするために、三菱電機さんと九州電力さんにご協力いただき、体験会を実施することにしたのです。

といっても個人的な活動なので、体験会を行うのは仕事がお休みの土日。最初はみなさんにお教えしたい一心で手探りではじめましたが、思いのほか評判がよく、リクエストにお応えして月に2~3回開催することもあります。今では「らく楽IH」だけでなく、ご要望が多い音声ガイダンス付きのレンジグリル「ZITANG(ジタング)」やジャー炊飯器「本炭釜」、報知音やメロディー音が付いた1枚焼きトースター「ブレッドオーブン」などもご紹介しています。

体験会に参加された方のお声をご紹介ください。

体験会にいらっしゃるのは、「自分一人でも料理ができるようになりたい」「子どもにごはんを作ってあげたい」という主婦の方や、「料理を覚えたい」という一人暮らしの男性までさまざま。調理を実演してみせると、「こんな家電があるなんて知らなかった」「音声でここまで教えてくれるんだ!」と驚かれる方は多いですね。後日、参加した方から、「私も買いました」「お料理が楽しくなりました」というご報告をいただくと、心からうれしくなります。なかには、「買ったから、また使い方を教えて!」「今度はお菓子作りに挑戦します!」と意欲を見せる方もいらっしゃいます。ご家族の方からは、「火を使わないので、安心して料理をまかせられます」「私も使ってみたいわ」といったご声もたくさんいただいています。

見えなくても自分で料理をしたいという声は本当に多く、そのお手伝いができることは私にとっても大きな喜び。いろんな視覚障がい者の方にお話を聞き、視覚障がい者同士の交流会にもなっているので、毎回得られることが多く、とても貴重な体験をさせていただいています。
このような体験会を設けることにより、同じ障がいを持つもの同士が、安心して集まれる場の提供にもなっているように感じます。

“「来てよかった」「私も買いました」
「おいしかった」「子どもと一緒に
お料理を楽しんでいます」
そんな参加者たちのお声が活動の励みに”

「らくアシ」家電に期待することは何ですか。

「らく楽IH」や「ZITANG」「本炭釜」のように、操作を音声で確認できる家電がもっと増えるとうれしいですね。実は、私も家で「ZITANG」を使っているんですが、音声アシストは、見える人にとっても便利で快適なもの。どのボタンを押したのかが音声でわかるから誤操作防止になるし、調理中も「あと何分です」と教えてくれるので、次の準備に取りかかることができる。電源の消し忘れなど音声で気づくことも多く、「らく楽アシスト」にはものすごく助けられています。

また、「らくアシ」家電はボタンが大きく、機能が絞り込まれている点も気に入っています。機能はあまり多すぎても使い切れないので、ほどほどでいいんです。それよりもボタンの数を少なく、大きくしていただいたほうが、視覚障がい者にとっては使いやすい。「らくアシ」家電には、主要なボタンに点字や凸記号がついていて、視覚障がい者に手掛かりを与えるなど、様々な工夫があるのがうれしいです。
視覚障がい者がらくに使える家電は、健常者にとっても使いやすいはず。だから、「らく楽アシスト」の考え方が広まれば、家電はもっと便利で楽しいものになると思います。そして、いろんな家電に音声や点字が搭載されることで、見えない人の助けとなるだけじゃなく、見える人が障がいの存在に気づくきっかけにもなる。それが、共生社会の第一歩につながるのだと信じています。

“障がい者がらくに使える家電は
みんなにとっても使いやすい。
「らく楽アシスト」の考え方が広まれば
暮らしはもっと便利で楽しくなります”

今後の活動やチャレンジしたいことを
お聞かせください。

見える人も見えない人も安心して暮らせる社会づくりの一助として、これからも「らく楽アシスト」家電を広くみなさんに伝えていく活動をしていきたいと思っています。しゃべる家電があるというのを知らない人は意外と多いんです。

とくにお伝えしたいのは、特別支援学校(盲学校)などの教育現場ですね。「らく楽IH」や「ZITANG」のような家電があれば、子どものうちから本格的な調理を学ぶこともできます。また視覚障がい者だけでなく、一般の方にもぜひ「らくアシ」家電を体験していただきたいと思っています。どんな人にも便利に安心して使えることを実感してもらい、それを周りの人に伝えていただくことで、「らく楽アシスト」を社会にどんどん広めていけたらうれしいですね。

“あん心して、らくに、楽しく使える
「らく楽アシスト」家電を
ぜひ、みなさんも体験してみてください”

<取材協力>
視覚障がい者と支援者の会 代表
視覚障害生活訓練等指導者(歩行訓練士)

西村 亜希子 さん

佐賀県出身。西九州大学健康福祉学部社会福祉学科卒業。介護福祉士、社会福祉士として、障がい者支援センターの居宅介護員、佐賀市役所障がい福祉課に勤務。2013年視覚障害生活訓練等指導者の資格取得後、北九州市、福岡市の福祉センターで視覚障がい者の歩行訓練や音声パソコン訓練、点字訓練、調理訓練などを行う。また、視覚障がい者が一人でも調理できるよう、「らく楽IH」をはじめ「しゃべる家電」の講習会や体験会を自主的に開催。視覚障がい者の歩こう会、視覚障がい者の相談会、点字普及活動などにも力を入れる。2019~2021年度視覚障害リハビリテーション協会役員(理事)。

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