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先行して経験値を積むことがAIを活用した新たなビジネスモデルの確立につながる

2019年5月 | EXPERT INTERVIEW

AIのビジネス活用はすでに始まっています。今後AIが幅広いビジネスに浸透していくことは間違いないでしょう。AIは既存業務の生産性向上や省力化に寄与するほか、AIと他のテクノロジーを組み合わせることによって、今までにないビジネスが誕生することが予想されます。ここでは、AIテクノロジーの現状とこれから期待される応用分野はどのようなものか、企業におけるAIのビジネス活用はどうあるべきかなどを、AIビジネスに詳しいITコンサルティングの谷田部卓氏に伺いました。

ITコンサルティング 谷田部 卓 氏

ITコンサルティング 谷田部 卓 氏

神奈川県在住。ソフトウェア会社において、大手企業の技術戦略部門へのITコンサルティング業務に長年従事。クラウドでの機械学習を利用した新サービスの企画、開発、実装、試作まで行う。現在はAIビジネスのコンサルティングとして、AIセミナー講師として活動。著書は、日本ディープラーニング協会お薦め書籍にランクインした。
著書:MdN社「未来IT図解 これからのAIビジネス」、創元社やさしく知りたい先端科学シリーズ「ディープラーニング 」、「ビジネスで使う機械学習」、「よくわかるディープラーニングの仕組み」他

すでに国内外で様々なAIビジネスがスタートしている

谷田部氏は、現在のAIブームについて次のように語ります。「これまでのAIブームは期待値ばかりが高く、具体的な成果はそれほどありませんでした。しかし、今回のブームの背景には画像認識・音声認識などの分野における大幅な進歩があります。例えば画像の認識率が人間の能力を凌駕したことで、ビジネスでも広く利用が可能となり、AIのビジネス活用への期待が一気に高まりました」

すでに海外を中心に、機械学習を利用した多くのAIビジネスが始まっているそうです。

「ディープラーニングによる画像認識を利用したビジネスは、すでに海外で数え切れないほど始まっています。画像認識以外では、最新のニューラル言語モデルを用いたリアルタイム音声翻訳が、驚異的な性能を実現しています」(谷田部氏)

一方で、日本国内でのAIビジネスはこれから本格化すると谷田部氏は予想します。

「国内におけるAIのビジネス適用例としては、フリーマーケットサービスにおける盗品チェックや異常行動検知、スマートスピーカーなどがあります。日本では2017~18年に多くの実証実験(PoC)が行われました。今後はPoCを通じて経験を積んだベンダーやクライアントから、その成果が出てくることが期待されます」

転移学習と自然言語処理の進歩がAIの新しい用途を広げる

現在、機械学習技術は急速に進歩しながらその応用範囲を広げています。谷田部氏は現在注目している技術として、「転移学習」と「自然言語処理」を挙げます。

「ディープラーニングは、学習に膨大な量の学習データを必要とする難点があります。しかし、転移学習(トランスファーラーニング)という技術を使うと、すでに学習済みのモデルを他の領域に転用できます。転用に必要な学習データは、1から学習する場合よりも大幅に少なくなります」

学習を転用できるのは元のモデルに近い領域に限られますが、場合によっては、本来100万枚の画像の学習が必要なものが100枚程度で済んでしまうほどの効果があるそうです。

「日本での応用としては、製品の外観検査が考えられます。外観検査において、従来の画像認識はなかなか人間の眼を越えることができませんでした。機械学習を導入したくても、もともと歩留まりが高い日本の工場では十分な数の不良品データを集めることが困難でした。しかし、転移学習を使えば少ない学習データで済み、外観検査を自動化できる可能性があります」(谷田部氏)

自然言語処理に関しては、今後の進化がホワイトカラーの業務に与えるインパクトが非常に大きいと谷田部氏は話します。

「自然言語処理は、すでにリアルタイムの多言語翻訳ができるまでに進化しています。今後は、長い文章を自動的に要約したり、より高度な文章の自動作成が可能になると思います。ビジネスパーソンの業務の大部分が文書作成ですから、実現すると非常に大きなインパクトを与えるでしょう」

"破壊者"に対する備えとしてもAIの導入は欠かせない

AIのビジネス活用は、事前に予想できない部分が多くあります。そこで、まず学習データを集め、実証実験を行って効果を確認してから、プロトタイプを経て本格的な導入に至ります。また、本システムが稼働した後も新しいデータで学習を続ける必要があります。このため、AIのビジネスを成功に導くためには、クライアントとベンダーが協力して、経験を積み重ねていくことが求められます。

「クライアント企業がベンダーに丸投げするような関係ではなく、AIビジネスのリスクを共有した対等な共同開発の意識がないとなかなかうまくいかないでしょう」(谷田部氏)

AIのビジネス活用にはどの企業も取り組むべきだと谷田部氏は主張します。

「将来的にAIはあらゆる分野に浸透するはずです。現状のAI技術は変化が激しくその扱い方も難しいため、利用できる分野が限られています。これは見方を変えれば、特定分野で先行できた企業には、大きなチャンスが生まれることを意味します。クライアント企業は、他社より先行してAI技術を導入し、開発や運用の経験値を積むことが重要です。最初は失敗しても、その経験値がその後の成功確率を高め、AIビジネスで先行できます。試行錯誤で経験を積んだ企業だけがビジネスモデルを確立できるのです」

これまでの新技術がそうであったように、AIも既存の市場に破壊的な変化をもたらす"ディスラプター"を登場させるでしょう。その脅威に備える意味でも、AIの導入は欠かせないと谷田部氏は語ります。

「突然、予想もしないところから自社のビジネスを脅かすディスラプターがやってくるリスクは、大きな市場を持つ大企業ほど高くなります。それに対抗するためには、ディスラプターが使うであろうテクノロジーについて知っておく必要があります。今後、AIを駆使するディスラプターが、あらゆる業界に登場することが予想されます。AI技術をいち早く取り込み、自らがディスラプターになることが、企業にとって最も有効な対抗策となります」

図1:AIビジネスを進めるプロセス

図1:AIビジネスを進めるプロセス

AIのビジネス活用は、事前のデータ収集と多くの検証プロセスを必要とする。
成功のためにはクライアントとベンダーの緊密な連携が欠かせない
出典:谷田部 卓

図2:全産業を襲うディスラプション

図2:全産業を襲うディスラプション

今後は、AIを活用して予想外のビジネスモデルで市場に参入してくる"ディスラプター"の登場が予想される
出典:谷田部 卓

  • 本記事は、谷田部 卓氏への取材に基づいて構成しています。