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安心・安全・快適な社会の実現に向けて広がるMaisartの適用分野

2019年7月 | EXPERT INTERVIEW

進化したAI技術は、私たちの仕事や生活の中でどのように使われていくのでしょうか。三菱電機では、Maisartの技術を様々な分野に適用する研究を進めています。今後、AIの活用が期待される分野やそれによって得られるメリットなどについて、三菱電機株式会社 情報技術総合研究所 知能情報処理技術部 部長の田崎裕久氏に伺いました。

三菱電機株式会社 情報技術総合研究所 知能情報処理技術部 部長 田崎 裕久 氏

三菱電機株式会社
情報技術総合研究所 知能情報処理技術部 部長
田崎 裕久 氏

1987年東京工業大学大学院理工学研究科修了、同年三菱電機株式会社入社。
音声の高能率符号化技術、音声合成技術、レーダー信号処理技術の研究開発を経て、現在、同社情報技術総合研究所にて、知能情報処理に関する研究開発に従事。
機械学習やビッグデータ分析などの人工知能基盤技術を中心に、よりスマートな社会を実現することを目指した技術開発に取り組む。

三菱電機株式会社

Maisart関連の研究の取り組みが結実

田崎氏は、AIの代表格であるディープラーニングや強化学習、ビッグデータ分析などの分野で、より性能を高めたり、多くの製品に実装できるようAIをよりコンパクトにするための研究開発を進めています。

2019年2月に行われた三菱電機の研究開発成果披露会では、22点の展示のうち8件をMaisart関連が占めるなど、AIが本格的な活用期に向かっていることを強く印象づけました。こうした取り組みについて田崎氏は次のように語ります。

「ディープラーニングが大きな成果を上げた2012年頃から当社もAI技術の実利用に向けて本格的に取り組み始めました。ディープラーニング以外のAI技術を含め、当時からの研究開発の取り組みが形になって現れてきています」

研究開発の成果は必ずしもすぐに製品化されるわけではありませんが、AIが作る賢い機器によって、私たちの生活や働き方が今後よりスマートに変わっていくことでしょう。

産業用ロボットの知能化によりティーチング作業を効率化

AIの用途として期待されるものに産業用ロボットのスマート化があります。

「例えば、工場で産業用ロボットを使う際には、ロボットに動きを教えるティーチング作業が必要です。非常に高精度な動きが要求されますし、周りにぶつからず、かつ短時間に作業が完了する動きを人間が考えてロボットに教えるのは大変手間のかかる作業です。これにAIを適用するとロボット自身が自動的に最適な動きを導き出すようになり、生産準備の時間を大幅に短縮できます」(田崎氏)

2月に発表された「段階的に素早く学ぶAI」は、学習内容を段階的に自動で追加していくことで、シミュレーターを用いて短時間で学習を完了できます。また、他の事例では3次元ビジョンセンサーと力覚センサーの情報をAIで処理することで通常のロボットでは困難な、様々な形状のバラ積み部品の認識や組み付けも可能になっています。

「ロボットのスマート化は、生産現場に大きなインパクトを与えるでしょう。ロボットのティーチングや動作の最適化は、作業者の能力に依存することが多くありました。AIを活用することで、こうした属人性のある工程を減らし、コストを下げながら、生産性を上げることができます」(田崎氏)

人間の作業の代替でなくAIで初めて実現する新分野

AIの用途には、これまで人間が行ってきた作業の代替のほか、AIによって実現する新しい分野もあります。

「機器の異常検知はAIならではの新しい分野だと思います。従来、機器の更新は一定期間で無条件に交換するタイムベースメンテナンスが主流でした。しかし、様々なセンサーの情報をAIで分析することで、壊れる前にその兆候を見つける"予兆検知"が実現しつつあります。これにより、AIがもうすぐ壊れると判断したものだけを交換するコンディションベースメンテナンスが可能になります」(田崎氏)

高精度3次元地図の自動作成も、AIによって拓かれた新しい分野といえます。これは、車両に搭載したGPSアンテナやレーザースキャナー、カメラなどのデータから地図作成に必要な情報を自動的に抽出・認識し、高精度な3次元地図を短期間で作成するシステムです。自動運転の実現に不可欠なダイナミックマップの早期整備に貢献します。つまり、AIによる自動運転のための地図をAIで作ることになります。AIが広く普及すると、このように複数のAIが連携して働くようになります。

世界初となる不特定多数の多言語音声認識

ここ数年でおなじみになった音声認識技術は進化を続けています。Maisartの「シームレス音声認識技術」は、不特定多数のユーザーが何語を話すか分からない状況での高精度な音声認識を世界で初めて実現しました。

「当社の音声分離技術を併用することで、例えば日本語、英語、フランス語を同時に話しても、それぞれの言葉を認識できます。現在の音声認識は"これから日本語を喋ります"と設定してから話す必要がありますが、例えば様々な国の人が利用する空港の案内などではとても便利です。シームレス音声認識は、こうした制約をなくすことができるという技術的な挑戦です」(田崎氏)

今後のAI技術開発の展望について、田崎氏は次のように語ります。

「今、私どもはAIの応用分野の最初の入り口にいると思います。重要なのは、AIを活用してお客様にとっての価値をより高めることです。そのために、AI技術の研究メンバーと各製品の担当メンバーが連携し、お客様とも一緒に議論しながら、AIの有効活用をどんどん広げていきたいと考えています」

図1:AI取り組み事例

図1:AI取り組み事例

三菱電機のAI取り組み例(抜粋)。AI技術が幅広い分野で応用可能なことが分かる

  • Maisart:Mitsubishi Electric's AI creates the State-of-the-ART in technologyの略。全ての機器をより賢くすることを目指した三菱電機のAI技術ブランド。
  • 「Maisart」は三菱電機株式会社の登録商標です。
  • 本記事は、三菱電機株式会社の田崎裕久氏への取材に基づいて構成しています。