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保健・医療・介護分野の情報化とデータ活用を大きく前進させる医療DXとは

2023年9月 | SPECIAL FOCUS

日本の医療における情報活用を大きく前進させる「医療DX」が注目されています。医療DXでは、保健・医療・介護情報を扱う共通の情報基盤を構築することで、業務効率や医療品質の大幅な向上を実現し、データ活用による新たな医療技術の開発も可能にします。すでに医療DXの実現に必要な具体策として、マイナンバーカードの健康保険証利用、健康保険証のオンライン資格確認、電子処方箋の導入が行われています。 本特集では医療DXの概要とその影響について解説します。

国内の保健・医療・介護データを共通プラットフォームに集約

医療DXとは、日本の医療分野におけるデータ活用を大きく進める取り組みです。令和4年10月の閣議決定により内閣に「医療DX推進本部」が設置され、関係省庁において様々な施策の検討やシステムの構築が進められています。

IT化が進んだ現在、様々な分野においてデータを活用した業務の効率化や技術開発が普及しています。医療や介護などの現場でも、治療やケアに伴って大量のデータが記録、蓄積されています。しかし、日本の保健医療分野においては、IT化の多くはまだ局所的な取り組みとなっており、データは必ずしも有効活用されていませんでした。また、日本は少子高齢化によって医療・介護ニーズの増大とそれに携わる労働力不足という二重の課題に直面しています。その対応には医療・介護業務の効率化が不可欠です。

医療DXでは、医療関連のデータを共通の情報基盤「全国医療情報プラットフォーム」に集約することで、データの活用や情報共有を推進します。将来的には保健・医療・介護のすべてのステージ(病気の予防、患者の診察、治療、薬の処方、診断書等の作成、診療報酬の請求、医療と介護の連携、地域医療連携、研究開発など)で得られる情報を、このプラットフォームを使って管理することを目指しています。(図1)

全国医療情報プラットフォームが整備されることで、国民が自らの医療情報へアクセスすることを容易にしたり、医療や介護の関係者が仕事を効率化し、データの保存を外部化、共有化、標準化することが可能になります。

図1:医療DXの全体的なイメージ

出典:厚生労働省第1回「医療DX令和ビジョン2030」厚生労働省推進チーム資料「資料1 医療DXについて」を元に作成

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_28128.html https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/000992373.pdf

情報の一元管理や共有は医療に大きな変化をもたらす

医療DXによって実現される社会の姿としては、以下のようなものがあります。

  • 1.誕生から現在までの保健医療データを一元的に把握可能

    これまで本人の記憶に頼っていた病歴やアレルギー、予防接種の有無、過去の検査結果などについて、公的なシステムを使って正確な情報を記録、参照でき、安全・安心な医療が可能になります。また国民がその情報に自分でアクセスできるようになります。

  • 2.医療機関などが必要な診療情報を共有

    オンラインで診療情報を共有できるようになると、紙の紹介状よりもすばやく正確な情報が伝達できます。全国で、いつどの医療機関などを利用しても必要な医療情報が共有され、切れ目なく質の高い医療の提供が可能になる他、災害時などにも役立ちます。なお、プライバシーに関わる情報であることから、現在、情報の共有は本人の同意が前提となっています。

  • 3.医療現場における業務の効率化、人材の有効活用

    他のビジネス同様にデジタル化によって手入力などの作業を減らし業務の効率化やミスの削減、生産性の向上が行えます。

  • 4.感染症危機への素早い対応

    新型コロナウイルス感染症の流行拡大は、感染症対策における情報収集の重要性を浮き彫りにしました。医療DXにより、感染症対策に必要な情報を迅速かつ確実に取得できるとともに、医療現場における情報入力などの負担を軽減します。

  • 5.保健医療データの二次利用による創薬など

    保健・医療データは創薬、治験などに役立てることが可能です。近年は計算能力の大幅な向上やAIの発達により、データ分析による新薬や治療法の開発に期待が集まっています。科学的データに基づく政策づくりやその効果の検証、新しい医薬産業やヘルスケア産業の振興にもつながるでしょう。

共通プラットフォーム、電子カルテ情報の標準化、診療報酬改定DXの3本柱

医療DXの主要な取り組みが前述の「全国医療情報プラットフォーム」と「電子カルテ情報の標準化」「診療報酬改定DX」の3つです。

全国医療情報プラットフォームに含まれる機能の中で、すでに稼働しているものに「オンライン資格確認」と「電子処方箋」があります。

オンライン資格確認の導入によって、医療機関や薬局の窓口で患者の直近の資格情報(加入している医療保険や自己負担限度額など)がオンラインで確認できます。また、マイナンバーカードを用いた本人確認を行うことで医療機関や薬局で特定健診などの情報や診療/薬剤情報を閲覧できます。オンライン資格確認の導入は2023年4月から、保険医療機関・薬局において原則として義務化されています。

電子処方箋は医療機関と薬局の間で電子的な処方箋のやりとりを可能にします。さらに、電子処方箋を使うと直近のデータを含む患者の過去3年分の薬のデータが見られるようになります。オンライン資格確認でも過去の薬歴は参照できますが、電子処方箋では直近のデータも含まれます。この機能により、医師や薬剤師は患者の記憶などに頼ることなく、より正確な情報を基に診察、処方・調剤を行えます。

電子カルテ標準化は、医療データの交換を行うための規格を定めることで、システム間でのデータのやりとりを容易にします。IT分野における標準化は利用者・開発者の双方に大きなメリットがあります。医療機関の間で情報共有が容易になることは、無駄のない一貫した治療やケアの提供に寄与します。標準化によって医療システムの開発コストの低減が期待できるほか、イノベーションの促進にもつながると考えられます。

診療報酬改定DXは、診療報酬の改定をデジタル時代に即したものに変更します。従来は、診療報酬改定時に医療機関などやシステムベンダーが個別にシステム改修を行う必要があり、これが大きな負担となっていました。そこで診療報酬の算定を行うための全国統一の「共通算定モジュール」を提供するなどして、診療報酬改定への対応コストを大幅に低減します。

このように、医療DXの実現に向けてすでに様々な施策が実施、検討されています。現在の課題としては電子処方箋対応システムやマイナンバーカードの保険証利用の普及、そしてセキュリティーやプライバシーの問題が挙げられます。医療関係の個人情報が漏洩した場合には、その内容によって個人が不当な差別や偏見などの不利益を被るおそれがあります。しかし、医療のIT化はこれからの時代に不可欠なもののため、利便性と安全性のバランスをとりながら医療DXを推進することが求められるでしょう。

株式会社ホロン
すずらん薬局グループ 代表取締役社長
古屋 裕一 氏

2008年に株式会社ホロン入社。薬剤師として業務に携わる。2010年経営企画室室長、2017年代表取締役専務を経て、2019年に代表取締役就任。「ひとにやさしい薬局であり信頼される薬局でありたい」という創業以来の基本理念を継承しながら、薬に限らず、食生活などの生活習慣においてセルフメディケーション支援の中心的な役割を果たせる薬局を目指して経営を行っている。株式会社エス・ティ・ケイ代表取締役

株式会社ホロン