三菱電機デジタルイノベーション株式会社は、三菱電機株式会社においてグループ全体のDX・IT・セキュリティーを企画・推進していた部門が分社化し、情報システム・サービス事業の子会社と統合することで、2025年4月1日に誕生しました。同社は、統合によるシナジーを生み出すことで、三菱電機グループのデジタル化を加速させるとともに、お客様のビジネスを成功へと導くことを目指しています。本特集では、事業部門のトップが変革に向けた取り組みや戦略的展望を語ります。
左から、三菱電機デジタルイノベーション株式会社
牛野 達司 取締役 第一ビジネスユニット長、諏訪 啓 取締役 第二ビジネスユニット長、雲田 憲太郎 取締役 第三ビジネスユニット長
三菱電機デジタルイノベーション株式会社
新会社設立の目的と三菱電機グループでの役割
三菱電機デジタルイノベーションはイノベーティブカンパニーへの変革を掲げる三菱電機グループのデジタル戦略を推進する中核組織としての使命を担っています。「ビジネスモデルの変革」「デジタル基盤の強化」「マインドセットの変革」を通じて、革新的な技術と新たな価値を創造し続けることでお客様とともに成長し、社会課題の解決に貢献する企業を目指しています。
さらに、三菱電機のデジタル基盤である「Serendie®︎(セレンディ)」を活用し、既存の事業資産やノウハウと、データ分析やクラウド、セキュリティー技術を組み合わせることで、新たな価値を創造し、お客様企業や社会全体の変革を推進していきます。
ビジネスユニットの事業領域
――各ビジネスユニット(以下、BU)についてご紹介ください。
牛野 第一BUは、製造DXソリューションを担当する事業部門です。三菱電機グループ向けの情報システム開発を担ってきたメンバーを中心に構成された、全国をカバーする大きな組織です。
得意領域は、製造業の基幹業務システム(ERP)、製造実行システム(MES)、製品ライフサイクルマネジメントシステム(PLM)の開発のほか、データの収集・可視化・分析です。三菱電機グループのDXプロジェクトで培ったノウハウを活かし、お客様に製造DXソリューションを提供しています。
諏訪 第二BUは、ICTインフラ、セキュリティーソリューションを担当する事業部門です。
三菱電機グループをはじめ、大手金融機関向けの構築・運用で培ったノウハウを活かし、幅広い業種のお客様に対して、クラウドサービスからネットワーク、セキュリティー、運用保守まで、ICTライフサイクル全般をカバーするソリューションをワンストップで提供しています。
雲田 第三BUは、ソリューションサービスを担当する事業部門です。様々な業種のお客様に対し、業務に最適化されたソリューションを提供しています。事業領域は大きく3つに分かれます。
一つ目は、金融機関向けのシステムインテグレーションです。業務アプリケーションの開発、IT基盤構築、セキュリティーサービス、音声ソリューションまで幅広く手掛けています。二つ目は、流通・小売・卸業向けにパッケージソフトウェアやSaaSを提供する事業領域です。調剤薬局向けのパッケージが代表的なソリューションであり、代理店と連携しながらお客様の課題解決や業務効率化を支援しています。三つ目は、三菱電機の各事業部門におけるSerendieの事業化への取り組みに協働して参画しています。
新会社の強みと事業再編で生まれるシナジー
――新会社の強みはどこにあるとお考えでしょうか。
牛野 幅広いお客様への支援実績と多様なIT人財です。第一BUには三菱電機グループを含む様々なお客様向けのDX支援を通して得た知見を持つエンジニアが揃っており、SAPソリューションやデータ連携に関する知識も豊富です。こうした専門性を持つメンバー同士が連携することで、従来の事業領域を超えたシナジーが生まれ、お客様課題を解決する力がさらに強化されています。
諏訪 牛野さんのおっしゃるとおり、豊富なIT人財と、三菱電機グループ向けの情報システム構築を通して得られた知見は、他社にない大きなアドバンテージです。システム構築に留まらず、ハードウェアやコンポーネントに関する知見があることも、強みの一つです。第二BUでは、ITに加えて工場系のOT(OperationalTechnology)まで幅広くカバーしたセキュリティーソリューションを提供しています。
雲田 新会社の強みは、「総合力」「技術力」「コンサルティング/運用保守」の三つだと考えます。お客様向けおよび三菱電機グループ向けで培った豊富な経験と実績を活かし、事業企画の支援からシステム化企画、システム導入、運用までを一貫してサポートしています。特に、事業運営の中で生まれるお客様のデータをデジタル空間に集約・分析・活用することで新たな価値を創出し、そのシステム化の実装から運用までをトータルで対応できる点に強みがあります。
三菱電機のSerendie StreetでのDX事業共創の仕組みを活用できることや、三菱電機が自社向けに進めているAI活用やDX化のノウハウをお客様向けに提供できることも、当社が選ばれる理由だと考えています。
――統合で得られるシナジーにはどのようなものがありますか。
雲田 BUごとに強みの領域は異なります。大規模プロジェクトの推進に強みを持つBU、ネットワークやセキュリティーに強みを持つBU、AI活用やクラウド技術に強みを持つBU、アプリケーション開発やSaaSに強みを持つBUなど、それぞれの特長を、一つの会社の中でBUを超えて連携できるようになったことは大きなシナジーだと考えています。
これまでは個別事業の最適化が優先され、連携は部分的に留まっていました。しかし、新会社では共通の経営方針・経営戦略のもと、3つのBUが思いを一つにして同じ方向を目指し、相互に連携できる体制が整いました。その結果、一貫した姿勢でお客様の課題に向き合いながら、無駄を省き、各BUがコア領域に集中して高品質なソリューションやサービスを効率的に提供できるようになったと考えています。
諏訪 コミュニケーションギャップの解消により、社員のマインドセット変革がさらに進むことも期待できます。統合前の事業会社では、どうしても業務請負型の意識が強く、社員が積極的に意見を発信する機会は多くありませんでした。
組織再編によって第二BUは、異なる文化やバックグラウンドを持つ人財が一緒になり、ビジネススタイルも大きく変化しました。その結果、現在はそれぞれが対等な立場で議論し、合意形成を図る方向へとシフトしつつあります。異なる意見がぶつかることもあり、時には痛みを伴いますが、お互いに「なあなあ」で済ませていてはグローバル競争を勝ち抜くことはできません。
三菱電機では、OTセキュリティーソリューションを提供する米国のNozomi Networks社を完全子会社化すると発表するなど、グローバルビジネスの強化を進めています。新会社もその戦略に沿って海外に打って出るために、痛みを恐れずに議論を重ね、マインドセットの変革に取り組みながらシナジーを発揮していきます。
課題認識と今後の取り組み
――新会社のビジネスや取り組みを伺ってきましたが、推進するうえで課題はありますか。
諏訪 マインドセットの変革とも関わりますが、BU内には依然としてセクション間の壁が残っていると感じています。お客様は個々の技術そのものを求めているわけでなく、困りごとを解決してほしいと考え、最適な組み合わせによる提案を期待しているはずです。
しかし、クラウド、ネットワーク、セキュリティーなどのソリューションを提供している第二BUの場合、ネットワーク担当はネットワークを、セキュリティー担当はセキュリティーを提案するというように、結果としてお客様の本質的な課題に寄り添えていないのが課題です。とはいえ、これは他のセクションが見えないまま、無意識に行われていることでもあります。したがって、改善のためのマインドセットやカルチャーの変革が進めば、必ず改善できると考えています。
私がチームに伝えているのは、コミュニケーションは「AND」でなく「OR」で考えようということです。人によって視点が異なるのに、ANDで共通点のみを探ろうとすると視野が狭くなりますが、ORによって異なる考えをつなげていけば、より広い視野を得ることができます。
雲田 技術の進化が著しい中で、第三BUでは新技術への迅速なキャッチアップが課題となっています。人的リソースには限りがあるため、あらゆる新技術を自社内で網羅的に取り込むことは現実的ではありません。そこで、スタートアップ企業との提携を通じて、新技術のスピーディーな獲得を進めています。
ヘルスケア事業では、東京大学発のヘルスケアAIベンチャーと連携し、生成AIを活用した調剤薬局向けの新サービスを開発するなど、オープン&クローズ戦略を推進しています。また、三菱電機の情報技術総合研究所と協働し、コンタクトセンター向けAIソリューションの創出にも取り組むなど、先進技術への対応を強化しています。
次に、人財育成も重要な課題の一つです。この課題に対しては、AI、クラウド、セキュリティーなど5つのコアスキル領域を定め、リスキリング/アップスキリングの推進に取り組んでいます。
単なる座学研修に留まらず、実践環境の整備やコミュニティー活動、実プロジェクトへの参画機会を提供することで、実践的なスキル習得を支援しています。さらに、AWS(Amazon Web Services)を中心としたクラウド技術者については、子会社のクラウドセントリック社において集中的な採用・育成・プロジェクト対応を行い、人財確保とスキル向上を同時に進めています。
牛野 人財育成は第一BUでも大きな課題です。若い人には、これまでのしがらみにとらわれることなく、新しいやり方にどんどんチャレンジできる機会を提供したいと考えています。各組織やチームが自分たちの判断で動けるようにならなければ、人間力や仕事力は高まりません。
諏訪さんもおっしゃっていましたが、第一BUにも受託型開発のマインドが残っています。お客様の要望に応えることは大前提ですが、AI時代においては、人間力を磨かなければワンランク上のITベンダーにはなれません。他社の動向に左右されず、自分たちがやるべきことに独自の方法でアプローチし、積極的にチャレンジしていく姿勢が求められています。
諏訪 真に「楽しい」を追求することが大切だと思います。例えば、真剣な議論は時に痛みを伴いますが、互いを尊重しながら互いに意見をぶつけて皆でどんどん広い視野を獲得していく会社のほうが、他人の顔色を窺って意見を言えない会社より、きっと楽しいはずです。結果的に社員の成長につながり、お客様へのサービスも向上する好循環が生まれて、組織全体が活性化していくのではないでしょうか。
――現在、注力している取り組みや方向性をお聞かせください。
雲田 パッケージ事業における取り組みについてご紹介します。
これまでは標準パッケージをベースに、お客様の要件を伺いながらカスタマイズを加え、オンプレミス型のシステムとして提供してきました。いわば半受託型の開発形態です。しかし、その方式では提供までに時間やコストがかかってしまうという課題がありました。
そこで現在、2027年度末までにパッケージの大部分をクラウド化・SaaS化する計画を進めています。SaaS化にあたっては、お客様の個別要件も可能な限り取り入れる方針です。そのため、生成AIを活用したコーディングなどに積極的に取り組み、カスタマイズ開発の効率化を図っていきます。さらに、マーケティングから販売、導入サポートまでを一元的かつ効率的に管理するためのコンタクトセンター機能・組織の立ち上げも進めています。
諏訪 第二BUでは、統合前の各社がそれぞれ提供していた、セキュリティーログを収集・解析・通知するSIEM(SecurityInformation and Event Management)と、24時間365日体制でインシデントを監視・検出・分析・対処するSOC(SecurityOperation Center)の強みを融合し、2025年10月から新サービス「セキュリティーログ分析サービス」の提供を開始しました。
このサービスは、SIEMとSOCの連携により、サイバー攻撃の発見から対策までを一括で支援するもので、各種ガイドラインに準拠したログ管理を実現し、高度化するサイバー攻撃への備えをより万全なものにします。
統合シナジーによって誕生したこのセキュリティーログ分析サービスは、新会社の強みを象徴する取り組みといえます。
デジタル基盤「Serendie」への貢献
――価値共創のための三菱電機のデジタル基盤「Serendie」に対する取り組みについてお聞かせください。
雲田 第三BUの取り組みの一例として、介護事業者が直面する「予期せぬ入居者の事故」による社会的信用の低下や経済的損失といった課題の解決に向け、介護記録データを活用した事故予兆検知サービスのMVP(Minimum ViableProduct)開発と、介護施設での評価を進めています。約50万件の介護記録データをデータサイエンティストが分析し、バイブコーディングなどの生成AIを活用したWebアプリ開発と組み合わせることで、開発スピードを高め、短いサイクルで介護施設のお客様への提案と評価を行っています。
また、三菱電機が推進するSerendie関連事業の一つであるE&F(エネルギー&ファシリティ)ソリューションや、OTセキュリティーソリューション、製造業DXの取り組みにおいても、IT/DX担当として協働で活動を進めています。
諏訪 データを活用したお客様の価値創出は、第二BUのコア領域の一つであり、Serendieの基本概念や方向性と一致しています。
牛野 諏訪さんのおっしゃるとおり、第一BUにとってもSerendieはビジネスの前提条件であり、業務データや製造系データの収集・分析・活用においてSerendieとは強い結びつきを持っています。今後も関与の範囲を広げ、手法をより洗練させながら、さらなる価値創出に貢献していきます。
雲田 三菱電機グループ内での取り組みに留まらず、お客様のデータ活用を支援する取り組みにおいても、私たちが貢献できる領域があると考えています。
これまでの受託型開発では、システムを納品するまでが私たちの役割であり、システム内のデータ活用に関与する機会は多くありませんでした。しかし、お客様が新たなサービスや価値を創出していくためには、データ活用が不可欠です。
そのため、私たちがお客様のデータ分析を担当することのメリットをしっかり伝え、十分なセキュリティーを確保した上で取り組みを進めることが重要だと考えています。こうした活動を通じて、Serendieのコンセプトである「お客様の価値創造」と「社会課題の解決」への貢献を実現していきます。
お客様へのメッセージ
――最後にお客様へのメッセージをお聞かせください。
牛野 三菱電機グループのDXプロジェクトを推進し、その取り組みを通じて得た知見やノウハウを、お客様のDX支援に活かしていきます。どうぞご期待ください。
諏訪 「不易流行」「温故知新」の精神をもって変革を推進します。中でもお客様とのパートナーシップはかけがえのないものであり、これを大切にしながら、お客様とともにイノベーションを創出して参ります。
雲田 お客様にとってより良いサービスを、効率的かつ効果的に提供してまいります。今後とも、三菱電機デジタルイノベーションをよろしくお願いします。