サイト運営の“当たり前”を変える。DCPシェアハウス構想の舞台裏

2026.08.06

サイト運営の“当たり前”を変える。DCPシェアハウス構想の舞台裏

自社グループのウェブサイトを改めて見渡すと、デザインがバラバラ……というケースは珍しくない。とはいえ全サイトを一つの場に集約して統一感を出そうとするだけでは、また別の問題が発生する。なぜなら、サイトの移行には制作フローや運用ルールが変わることへの反発、戸惑いがあり、そこに予算やセキュリティまで関わってくれば話はより複雑になるからだ。

三菱電機グループでは、2025年4月に「DCP(Digital Communication Platform)シェアハウス」という新たなサービスをスタートした。グループ内の多種多様なサイトを文字通り一つの家に入居させ、サイト構築・運営のプロセスを簡略化するものだ。単純に共通基盤上へサイトを集約する取り組みではない。目指すのは、グループ全体でブランドの価値を保つ“ブランドガバナンス”と、データを有効活用するための基盤づくり。さらにはその先でAI活用やマーケティングの高度化にもつなげていこうという、グループ全体の未来を描く戦略的な構想である。ブランドコミュニケーション部デジタルコミュニケーショングループ(DCG)の推進メンバーに、その着想と浸透に向けた裏側を聞いた。

目次

サイトを集めるためではなく、価値を生む時間を取り戻すために

三菱電機グループ全体のウェブサイトは現在約960で、実に1,000に迫る数となっている。この膨大なサイトは、それぞれが独自デザインを志してブランドとしての統一感が薄かったうえ、サイトにより異なる技術・インフラを採用し、全体の管理やセキュリティが大きな課題となっていた。またサイト運営に関しても、それぞれが個別最適でナレッジ共有は進まず、全体最適とは程遠い状況にあったと、浅尾陽子さんが語る。

「主にセキュリティを強化する目的で、2014年からグローバルのコーポレートサイトを統合する『GWI(Global Website Integration)プロジェクト』に取り組んできました。このプロジェクトはホスティングサービス上にサイトを移行してもらうものでしたが、サイト自体が各々の意図で作られていたため、管理を行き渡らせるには限界を感じていたのです」(浅尾さん)

加えて各サイトオーナーからすれば、年間のサイト運営費用には限りがあり、そのほとんどが制作に関わる外注に充てられていたという。
「サイトの構築・運営を任せられるサービスを提供することで、浮いた時間と手間と予算を各オーナーが“理想のサイト”を実現するために使ってほしい……それがDCPシェアハウスの出発点でした」(浅尾さん)

DCPシェアハウスをわかりやすく言うと、まさしく一軒家をさまざまなサイトで共同利用するシェアハウスである。部屋やキッチン、水回りといった設備(=ITインフラ、サイトの構築・運営・分析を行うツールなど)は用意され、かつメンテナンスも家主側が行うので、いわば身一つで気軽に入居(=サイトを移行)できる。もちろん家の安全(=セキュリティ)も家主によってしっかり守られる。

料金は全設備込みのいわゆるオールインクルーシブ。入居者となるのはグループ各社・各部門で、それぞれのニーズに合ったサイトのデザインや制作、更新、セキュリティ対策も含めた運営を家主であるDCGが担う仕組みだ。プランはほぼお任せのものから細かくカスタマイズできるものまで複数用意され、ニーズに応じてチョイスできる。さらには一軒家の最上階に、より自由度の高いDCPペントハウスまで設けられている。

“移行してください”を、納得に変えるまで

シェアハウス移行に伴う抵抗や戸惑いに対し、DCGメンバーたちはどう説明し、納得感を得ていったのか。石塚健彦さんが振り返る。
「まずは見本が必要ということで、日本国内と海外でサイト構造が異なることが以前から課題として認識されていたコーポレートサイトから移行してもらいました」(石塚さん)

真っ先にシェアハウスへ入居してもらおうと説明を始めた石塚さん。やはり当初は「なぜそんなことをするのか」「メリットはあるのか」といった反発に遭ったという。
「グループとしてのブランドイメージの統合、ユーザーから見た統一体験、加えてサイト制作に関わる費用削減でコンテンツ作りや分析など本来の業務に集中できるといった効果を、半年ほどかけて丁寧に説明し、サイトオーナーの意識を変えていきました」(石塚さん)

石塚さんの尽力によりコーポレートサイトが率先して移行したことで、続く説得のハードルは大きく下がったという。正式スタート前の段階で、38カ国/地域、26言語、61の企業情報サイトが先駆けて移行。そして2025年度から三菱電機の各事業部サイトや国内外グループ全社に向けた募集を開始した。「移行済みのサイトを見てシェアハウスを利用するメリットへの理解が進み、多くの応募がきています」と話すのは、“入居前審査”を行う口田明子さんだ。

「ウェブの知識に明るくないサイトオーナーと話をする際は、“サイトの引っ越し”という表現を使うと大掃除(サイトの棚卸し・整理)や家具の配置(コンテンツの準備)についてわかってもらいやすいので、シェアハウスというネーミングがとても良いですね。メリットの理解が広がったいまは、想定を超えて応募が増えています」(口田さん)

“正しい仕組み”を、“使いやすいサービス”にする

シェアハウスのインフラや各種クラウドツールの運用などシステム面を担当するのは中根史喬さんと田中竜二さん、そしてサイトの運用管理やアクセス解析を担う伊藤敬裕さんだ。この3人は、シェアハウスをIT面から支えるメンバーである。

多種多様なウェブサイトを一つの大きな仕組みの中で“シェアハウスとして”運用できるようにするためには、システムを柔軟かつ汎用的に設計する必要があった。中根さんは「規模拡大で必要な点を見極めたうえで、システムを構築するベンダーと協力しながら整備を進め、なんとか乗り越えることができました」と振り返る。現在も複数の外部サービスやベンダーが関わるからこそ、安定運用に向けた連携が欠かせない。

一方、伊藤さんは、サイトオーナーがデータを見ながら改善できるよう、アクセス解析ダッシュボードを用意した。
「ウェブにそれほど詳しくないオーナーなら概要を見てもらい、より詳しく見たいオーナーはデータを深く掘り下げられる。そうした柔軟な形で、データを基にPDCAサイクルを回して改善に取り組みやすいように心がけました」(伊藤さん)

田中さんは、契約・請求管理やフォーム提供サービスの企画・運用を担当した。
「ウェブに詳しいオーナーからは、提供するクラウドツールでこういった機能を使ってみたい、別のツールと連携したいといった要望が出ました。そうした声に対し、使いやすい仕組みを実現するために、管理側としてどこまで対応できるかの見極めが大切です」(田中さん)

価格設計については「オールインクルーシブ型の料金体系により、サイト更新時の追加費用を気にしすぎず、各部門が戦略的にサイトを活用しやすい点が評価されています」と口田さんが手応えを口にした。

シェアハウスの仕組みで優れていると考える点について、ITチームの3人に聞いた。
中根さんは「安全を担保したうえでグループ全体のブランド管理を統一できる点」、田中さんは「新機能の追加や障害発生時の対処をクラウド側で行える点」、伊藤さんは「サイトオーナーが担う部分と、プラットフォーム側が提供する部分を、いまの時代に沿って役割分担できる点」を挙げる。

“正しい仕組み”であるだけでは、現場には広がらないからこそ、使いやすく、続けやすく、改善しやすいサービスにする。それが、DCPシェアハウスのもう一つの重要な設計思想なのだ。

作って終わりではなく、育て続けるサイトへ

2026年3月時点でおよそ130サイトがシェアハウスへの移行を完了。今後に向けては2030年までに300サイトの移行を完了し、さらには2035年のグループ全サイト移行完了を目標に掲げる。浅尾さんは「2030年の300サイト移行に向け順調に達成できるよう引き続きチーム一丸となって取り組んでいきます。グループを横断したブランドやデータの管理という本来目指すところについても、シェアハウスに入居してもらえば必然的に達成されるので、ゴールに至る道筋は整備できたと考えています」と語る。

実は浅尾さんはこのほど、AEMを提供するAdobeから同社ソリューションを社内外に推進するキーパーソンとして「2026 Japan Adobe Advocates」に選出された。
「やはりうれしいですね。サイト移行のさらなる増加に向け、今回の選出が良い刺激になることを願っています」(浅尾さん)

DCPシェアハウスは「生き物です」と表現する浅尾さん。
「まだまだ成長途中で、とても育てがいがあります。サイトオーナーがサイトから得られるデータを活かし、それぞれが目指す戦略やビジネスにとって真に有用なコンテンツを考え、実行するための基盤として、これからもしっかり育てていきます」と、最後に力強く語ってくれた。

* 掲載されている情報は、2026年8月時点のものです。

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