「Changes for the Better」を体現する人事制度—Vol.1 三菱電機の育児・キャリア支援制度が生み出す安心して働ける環境

2025.09.19

#ピックアップ #インタビュー #社内制度 #採用 #Well-being 「Changes for the Better」を体現する人事制度—Vol.1 三菱電機の育児・キャリア支援制度が生み出す安心して働ける環境

働き方やライフスタイルが多様化するなかで、企業にはより柔軟で従業員に寄り添った人事制度が求められている。法改正への対応はもちろん、従業員一人ひとりの声に耳を傾け、継続的に制度をアップデートしていくことが重要だ。

三菱電機では、85.7%という高水準の取得率を誇る男性育児休業等をはじめ、さまざまな制度で従業員のライフイベントやキャリア形成をサポートしている。制度設計において何を大切にし、どのような考えのもとで運用されているのだろうか。

今回は、実際に制度設計に携わるグローバル人財部労政グループの小藤英樹さんと戦略グループの矢野郁美さんに、育児関連制度とキャリア支援休職制度について詳しく話を伺った。

目次

「育児とキャリア、どちらも守る」2つの制度

― まず、「育児関連制度」と「キャリア支援休職制度」について、概要を教えてください。

小藤:育児関連制度は、お子さんが生まれる前後に育児に専念できるよう、お休みできる制度が中心になっています。具体的には、配偶者出産休暇や、育児休職、子の看護等欠勤などがあります。

他社でもよくある制度ではありますが、当社では年次有給休暇とは別に取得できる有給の特別休暇として設定している点や、各家庭のライフスタイルに合わせて休職期間の延長や再取得を可能にするなど、柔軟な制度設計を行ってきました。実際に男性従業員の育児休業等取得率は2024年度実績で85.7%となっており、全国平均を大幅に上回っています。

矢野:キャリア支援休職制度は、三菱電機でのキャリアを継続したまま、社外でさまざまな経験を積む機会を創出し、復職後にその経験を活かすための休職制度です。

要件としては3つあります。一つ目は配偶者の海外転任への帯同、二つ目は自己研鑽として大学等における修学や資格取得のための活動、三つ目はボランティア活動です。月単位での休職が可能になっており、会社以外の場で培った知見やスキルを持ち帰ってもらうことで、組織全体の成長にもつながると考えています。

制度設計に込められた「従業員を大切にする」想い

― お二人はそれらの制度にどのように関わっているのでしょうか。現在の業務を教えてください。

小藤:私は会社の規則や制度設計に携わっており、従業員の方が長く安心して働ける環境づくりに取り組んでいます。

矢野:私は人財戦略の企画や従業員意識サーベイ等、エンゲージメントに関する業務を担当しています。「働きやすい会社」「成長ができる会社」として従業員はもちろん、社外からも評価されるために、どのような取り組みを行うべきか考えることが重要な仕事の一つです。

― 制度設計において大切にされていることはありますか?

小藤:従業員が安心して働ける環境を整えることで、結果的に会社での成果も向上するという考えのもと制度を設計するよう心がけています。例えば、お子さんが熱を出したときに、子供の心配をしながら働いていても、仕事に集中できずパフォーマンスが下がってしまいますよね。

「こういうときは休んでも問題ない」「必要な制度がきちんと整っている」という安心感があれば、普段の業務により集中して取り組めるようになります。そんな安心感の醸成を大切にしてきました。

矢野:制度を整備するだけでなく、実際に使いやすい環境や文化を作ることが同じくらい重要だと感じています。実際に、従業員の方から相談を受け、各種制度を説明すると、「そんな制度があることを知らなかった」という声をよく聞きました。

せっかく良い制度があっても、いざ必要となったときに「何を使えばいいのか分からない」「どこに相談すればいいのか分からない」という状況では、制度があることの意味がありません。作って終わりではなく、きちんと届けることが大切だと実感しています。

従業員の声によって継続的に改善されてきた、法律を上回る制度

― 制度はどのようにブラッシュアップされているのでしょうか。最近の新しい取り組みがあれば教えてください。

小藤:2025年10月から「養育両立支援欠勤」という新しい制度を導入します。これは、小学校就学前のお子さんを持つ従業員が取得できる有給の特別休暇です。

法改正では3歳から小学校就学前の子を養育する労働者が対象となっていますが、当社ではもっと早い段階からサポートしたいと考え、出生日から8週間を経過した時点から小学校就学前までのお子さんを対象としています。つまり、法律が求める範囲よりも長期間、より手厚く支援する制度設計にしています。

― 法律を上回る制度設計をされる背景には、どのような考えがあるのですか?

小藤:法律で求められたレベルだけでなく、本当に安心して働くことができるのかという点でも検討します。従業員の声に基づいて、より充実した環境で仕事に取り組めるような制度にしたいと考えた結果、法律を上回る設計になっています。

― キャリア支援休職制度にも変化はありますか?

小藤:はい。以前から、育児や介護、または配偶者の転任に伴い一時退職する場合、再雇用を希望できる制度がありました。しかし、退職せずにキャリア継続を行いたいという要望が高まり、2020年にキャリア支援休職制度が新たに設けられました。この制度では、要件は異なりますが、休職という形で会社に在籍することが可能です。これらの変化は従業員からの声もきっかけとなっています。

― そうした従業員の声はどのように吸い上げているのでしょうか?

矢野:各種制度については、労働組合と協議の上で決めているので、組合員から挙がった意見は、当該協議を通じて制度に反映されていきます。また、従業員意識サーベイの結果や、各製作所で実施している職場懇談会でも「こういったものがあればいいのに」という声が上がってきます。これにより、会社側にも組合側にも課題として認識され、制度のブラッシュアップに繋がっていくと思います。

― まさに矢野さんが大切にされている「使いやすい環境や文化を作るための取り組み」にもつながっていますね。

矢野:そうですね。その他にも、鎌倉製作所で勤務していた際には、キャリアに関するパネルディスカッションで制度利用者の方を招いてお話しいただいたり、製作所のイントラネットから全社のダイバーシティ推進室の制度紹介ページにアクセスできるようHPを見直すなど、制度を周知するための取り組みもありました。

地道な取り組みですが、「こんな制度がありますよ」ということを、困ったときに見つけやすい形で案内することがとても大切だと感じています。

男性育児休業等取得率85.7%を支える「当たり前」を浸透させる文化

― 男性の育児休業等取得率が85.7%という数字は非常に高い水準ですが、どのような取り組みの結果でしょうか?

矢野:劇的に改善するような特別な施策があったわけではありません。まだ、男性の育休が多くない時代に育休を取得される方がおり、そのときに周囲がネガティブな反応をせず、きちんと支えてきた姿を後輩や同僚が見て、「男性でも育休が取れるんだ」という認識が徐々に浸透していったのだと思います。

― 制度活用がスムーズに進むよう、社内でのコミュニケーションで工夫されていることはありますか?

小藤:「ME Time」という上司との対話制度があります。業務面での目標設定や評価のフィードバックを行うだけでなく、家庭の状況や今後自分はどうなっていきたいかという将来のキャリアについても話されるようになりました。

矢野:「ME Time」では、配偶者の方が妊娠されている場合は育休を取るかどうか確認することになっているなど、対話に対してある程度のルールを設けることで制度活用をサポートしています。

― 「ME Time」のように対話の場があることで、どのような変化がありましたか?

小藤:制度で決められた面談の場以外にもキャリアについて話す機会が増えました。以前は自分のキャリアを話すのは少し恥ずかしい面もありましたが、あえて対話の場が設けられていることで自然と会話が生まれ、普段の会話でも「この前、キャリアについてこう言っていたよね」という形でより深い対話につながっています。

制度を利用することに対する後ろめたさを感じる人もいるかもしれませんが、周りの理解が得られているという安心感があれば、より利用しやすくなるのではないでしょうか。

制度を組み合わせて実現する多様な働き方

― お二人が見てきたなかで、印象的な制度活用のエピソードがあれば教えてください。

矢野:キャリア支援休職では、2年間お休みして博士号の資格を取得し、その経験を活かしてお仕事されている方がいます。働きながら博士号を取ることも可能ですが、しっかりと研究に打ち込める環境ができたことで、新たな選択肢が生まれ、キャリアの道が開けたのではないでしょうか。

― 矢野さんご自身も育児休職を取得された経験があるそうですが、実際に制度を利用してみて、いかがでしたか?

矢野:1人目のときは法律上、育児休職期間は1歳まででしたが、保育園に入るのが非常に難しい時期でしたので、ほぼ4月にしか入園できませんでした。当社は1歳になった年度の3月末まで育児休職を延長できる制度がありますが、他社に勤めるママ友には、子どもが1歳になった時に保育園に入れず、認可外保育園を探して苦労していた人もいました。安心して復職の準備ができることはありがたいと感じましたね。

会社として現場の目線に寄り添って制度が考えられているんだなということを、人事という立場ながら実際に使ってみて初めて実感しました。

― 制度を組み合わせて活用されるケースもあるのですか?

矢野:私自身の例ですが、ちょうど30歳のときに2人目の子どもを妊娠していて、チャージ休暇と育休を繋げて取得しました。チャージ休暇は30歳・40歳・50歳の節目の年に心身の充実を図るために付与される特別休暇で、育休前の準備期間としても活用できます。

小藤:私も海外OJTに行く前に、家族と離れることになるので、チャージ休暇を使って家族との時間を大切にしました。また、キャリア支援休職の中には配偶者の海外転任への帯同と自己研鑽を組み合わせる方も多く、海外生活をしながら語学を学んだり資格取得に励まれる方もいらっしゃいます。

「Changes for the Better」の精神に基づく新しい働き方の文化

― 制度があることで、組織の風土はどのように変化していますか?

小藤:相互理解や助け合いの文化が育まれたことで、チームとしての結束が強くなっていると感じます。また、キャリアについても、以前は過去の積み重ねという考え方でしたが、今は未来志向で自ら作っていくものという風土に変わってきています。

矢野:働きやすさや成長を実感できることは、仕事へのやりがい、つまりエンゲージメントにつながる重要なポイントです。多くの従業員がやりがいを持って仕事ができる企業風土が醸成されることで、新しい価値を生み出していけると考えています。

― 三菱電機の制度はどのような企業文化を体現していると考えていますか?

小藤: 当社では「Changes for the Better」という言葉をコミットメントとして掲げています。「常により良いものをめざし、変革していく」という姿勢で、これは制度においても一度作って終わりではなく、状況に応じて常により良いものを目指していくという考えが表れていると思います。

― 今後、制度設計を通じてどのような組織を目指していきたいとお考えですか?

小藤:個人としては周りの人が楽しく生き生きとしている姿を大切にしていきたいです。プライベートを含めた家庭や、未来志向のキャリアを会社として応援していくことが必要だと考えています。

入社して間もない頃に、とても印象的な出来事がありました。ある従業員の方のご家族から「ありがとう」と直接お礼を言われたんです。そのときに、従業員だけでなく、その家族の方々にも影響を与えることができる仕事なんだということを実感しました。

単純なので、ありがとうと言われると本当に嬉しかったですし、それがずっと自分の中でのモチベーションになっています。従業員およびその家族の方が喜んでもらえる、幸せになってもらえるような制度を作っていきたいと思っています。

― 最後に、就職活動中の学生や求職者にメッセージをお願いします。

矢野:社会人生活は長く続きますから、そのなかで結婚、出産、育児、介護、キャリアチェンジなど、さまざまなライフイベントに直面すると思います。

そのとき「会社を辞めなければならないかもしれない」と悩むのではなく、「どの制度を使って乗り越えようか」と前向きに考えるための手助けになる制度が幅広く揃っています。

そんな安心感を持って、長い目で自分のキャリアを諦めずに働き続けていける環境があることが当社の大きな魅力だと思います。

小藤:制度の充実だけでなく、制度を積極的に活用できる「周囲からの理解」があることが最も大切なのではないでしょうか。まさにその点が当社の魅力だと思っています。一人の従業員を支えることは、その人だけでなく家族全体の幸せにもつながっていく。そういった循環を大切にしている会社です。

安心して働ける基盤がしっかりとした会社で、自分らしく成長し、いつか皆さん自身も誰かを支える存在になっていただければと思います。皆さんと一緒に働ける日を楽しみにしています。

プロフィール

INTERVIEWEE

三菱電機 人財統括部 グローバル人財部 労政グループ

小藤 英樹

2010年に三菱電機へ入社。広島の中国支社にて人事総務からキャリアをスタート。2017年には海外OJT制度を活用して、Mitsubishi Electric Consumer Products (Thailand) Co., Ltd.に1年間派遣され、現地での人事業務を経験。2018年から2025年3月まで静岡製作所にて人事関連業務に従事。2025年4月より現職。就業規則管理、人事労政関連制度の制定・改定等を担当し、従業員が長く安心して働ける環境づくりに取り組んでいる。

INTERVIEWEE

三菱電機 人財統括部 グローバル人財部 戦略グループ

矢野 郁美

2013年に三菱電機へ入社し、鎌倉製作所の総務部人事研修課に配属。人事研修業務に従事する中で、ダイバーシティ推進活動の事務局として、制度周知のためのパネルディスカッションや情報発信の改善などを実施。2017年と2020年に2回の育児休職を取得し、制度を実際に利用する立場も経験。2025年6月より現職。人財戦略企画、従業員意識サーベイ、人的資本開示等を担当し、エンゲージメントの向上や企業価値の最大化に取り組んでいる。

社内制度のリアルを就活生が聞いてみた!

育休制度編

子どもが1歳到達後最初の3月末日(特別な事情がある場合は2歳到達後の最初の3月末日)までの期間を休職することができる制度。当社の男性育児休業取得率は23年度実績で85.1%。

遠隔地勤務制度編

勤務する事業所の通勤圏外に居住し、リモートワークを中心とした業務を行う制度。家族との別居解消や育児・介護への参画など、従業員一人ひとりのライフスタイルに応じた働き方を実現します。

海外OJT制度編

海外関係会社へ1年間従業員を派遣する制度。年間約100名の従業員を海外関係会社へ派遣し、グローバル事業をけん引する人財育成に取り組んでいます。

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