2026.03.13
技術知見を社内外へ発信し続ける。100年の節目を経た「三菱電機技報」の役割
三菱電機では、技術を「残し、伝える」場として、100年にわたり技術広報誌「三菱電機技報(技報)」を発行してきた。研究所や製作所などの社内にとどまりがちな技術を論文という形で社会にひらき、次の時代へ手渡してきた本誌は、どのような役割を担ってきたのか。事務局の堀越美香さんと編集委員の江川邦彦さんに、その歩みと次の100年への展望を聞いた。
目次
100年続く技術広報誌「三菱電機技報」の役割と進化
1925年(大正15年)の創刊以来、培ってきた技術や製品を広く紹介し、社会の発展に寄与することを目指してきた「三菱電機技報」。家電からFA、社会インフラ、半導体、宇宙関連技術まで対象は幅広く、日本の電機産業の歩みと重なり合うように、各時代の技術を記録し続けている。技報の編集方針について、事務局運営の堀越美香さんは次のように語る。
「主な想定読者は、顧客や研究者、業界関係者、そして学生の皆さまです。誌面では製品紹介にとどまらず、その背景にある技術の専門性と分かりやすさを両立させた編集を心がけています。空調機器や冷蔵庫といった身近な家電を支える技術も取り上げており、技術に詳しくない方にとっても決して縁遠い存在ではありません」(堀越さん)
ペーパーレス化や在宅勤務の普及といった社会的な流れを受け、技報は2023年3月号をもって冊子の発行を終了し、ウェブサイトへの掲載に完全移行した。ウェブ上では、知りたい技術や製品にアクセスしやすいよう、社会課題に対するソリューションや事業ごとに検索できるようにしている。
これまで1960年以降の論文から順次ウェブサイトへの公開を進めてきたが、100周年を迎えた2025年には、創刊号から1959年までのバックナンバーも一挙に公開。現在は、1000号以上の全ての号がウェブサイト上で閲覧可能だ。
「背景には、過去の技報への継続的な問い合わせに加え、三菱電機として、これまでの技術の歩みを振り返り、次の世代へとつなげたいという思いがありました。バックナンバーを通じて、昭和初期の電力機器や製品の普及、その時代背景とともに歩んできた技術の変遷、日本の科学技術の発展を支えた技術者たちの熱い思いを読み取っていただけるはずです」(堀越さん)
特集テーマが提示する、三菱電機ならではの価値
三菱電機が、技報を通じて技術を発信し続けてきた背景には、「技術を残す」ことへの強い意識がある。論文という形式だからこそ、100年分の技術が体系的に蓄積されてきた。その積み重ねは、次世代の技術者や研究者が未来を考える上での貴重な基盤となっている。
同時に、技報は人財育成の場としての役割も担ってきた。執筆を通じ、若手は自身の技術を言語化し伝える力を磨くことができる。さらに、社内外との調整や折衝を経験することで、技術者としての視野を広げる機会にもなっている。
「現在、技報の編集には、事業本部から集まった18人の編集委員が携わっています。特集テーマの策定では、『三菱電機の現在地と、これから目指す姿をどう伝えるか』を常に意識しています。近年は、三菱電機グループならではのコングロマリット・プレミアムを意識し、環境やDX、持続的成長といった共通キーワードを据えた、多くの事業本部が参加する横断特集が実現しています。毎年1、2月号の『技術の進歩特集』は、前年の成果を網羅的に紹介する号としてアクセス数も多く、問い合わせが集まる特集の一つです」(堀越さん)
「100周年の節目を経た今、技報は次の100年を見据えています。技術広報誌として社会的評価の向上や販売促進に寄与すると同時に、技術を継続して公開・蓄積することで、三菱電機のプレゼンスを更に高めていきたいと考えています。事務局としては、執筆いただいた論文を最大限に活用できる見せ方や活用方法を検討し、技報の価値向上に努めてまいります。時代に合わせて姿を変えながらも、技術を社会へ手渡していくという本質的な役割は、これからも変わることはありません」(堀越さん)
「あたりまえ」を支える技術を伝え続けるために
技報に掲載されてきた技術は、家電から宇宙関連技術に至るまで対象は幅広い。その中で、家庭やビル向けのスマートメーター、蓄電システム、HEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)といったエネルギー関連技術は、既に私たちの日常生活を支える存在として広く活用されている。再生可能エネルギーの普及や、災害時の電力レジリエンス向上など、その役割は社会インフラの根幹にまで及んでいると、技報の編集委員を長く務める江川邦彦さんは話す。
「インフラ分野では、電力システム技術に加え、鉄道の安定運行を支える列車制御や保守支援システム、気象衛星『ひまわり』シリーズの安定運用を支える技術など幅広いテーマを紹介してきました。衛星本体の設計や搭載機器の信頼性確保、地上局でのデータ処理技術などは、天気予報や災害情報として私たちの暮らしに還元されていますが、その裏側にある技術の積み重ねは、技報を通じて初めて可視化される部分も多いと感じています」(江川さん)
1925年の創刊号には、タービン発電機や保護継電器といった電力インフラの基盤技術に加え、当時の最新家電だった電気アイロンも掲載されていた。事業の変遷とともに現在は取り扱いのない製品もあり、100年間で技術は大きく進化したが、基礎となる考え方や技術の系譜は現在にも受け継がれている。戦時中の1944年に一時中断を余儀なくされたが、「技術を公開することこそがメーカーの使命である」という終刊の辞に込められた精神は、1947年の再刊後から現在に至るまで、今なお技報の根底に息づいている。
「全ての論文がアーカイブされ、自社内に蓄積されているという事実は、技術史を振り返る上で大きな財産です。専門的な技術をかみ砕いて説明し、記録に残す。その積み重ねがなければ、数年あるいは数十年後に振り返った時、技術の進歩そのものが見えなくなってしまう危険性もあるでしょう」(江川さん)
こうした技術記録の使命は、三菱電機が社会インフラを支えるという重大な役割が背景にあるとも考えられる。電気は一度供給が止まれば、社会全体に大きな影響を及ぼす。東日本大震災時の計画停電や大規模な交通障害が示したように、電力の安定供給は、高度な技術と緻密な判断の積み重ねによって成り立つ、あって「あたりまえ」の存在だ。その裏側にある絶え間ない努力と技術を伝え続けることも、技報が果たすべき重要な役割なのだ。
「三菱電機技報」で分かる、電力安定供給技術の現在地
あって「あたりまえ」の日常を守り抜くために。「三菱電機技報」が100年にわたり積み重ねてきた論文の中から、電力の安定供給を支える最新の4つの技術論文をピックアップ。社会インフラの根幹を担う、三菱電機の技術の現在地を紹介する。
複雑な電力ネットワークを制御する:カーボンニュートラル実現に貢献する系統安定化システム
ブラックアウト(大規模停電)をどう防ぐのか。それは電力インフラ技術における大きな課題なんです。
系統変電システム製作所 保護制御製造部 安達友洋
柔軟な電力インフラの実現に寄与し、持続可能で適応力のある社会を目指しています。
熟練の目視をAIで再現する:画像解析・AI技術を活用した送電線・鉄塔の保全高度化
私たちが電気をいつでも使えるのは、日本中の送電線を確実に点検・保守することから成り立っているんですよ!
電力システム製作所 送配電システム部 久保田雅彦
デジタルエナジーDXを活用し、電力業務の省力化・効率化を推進。社会へのさらなる貢献を目指します。
トラブルの波及を最短で遮断する:新型デジタルリレーMELPRO-CHARGE3/HB
お家に安全ブレーカーってあるじゃないですか。大きな電力供給網にも、もしもの時のブレーカーが必要なんですよ。
系統変電システム製作所 保護制御製造部 長岡啓
送変電事業に携わる開発者として、アイデアを出して安心して暮らせる社会に貢献していきたいです。
わずかな予兆を数値で捉える:需要家向け受変電設備の異常兆候検知
健康診断のように数値を監視し、異常を早期発見して予防する。受変電設備のメンテナンスも同じことをやっているんですよね。
電力システム製作所 電力デジタルエナジーシステム開発部 佐子朋生:上
技術の進化をリードする存在でありたいと思います。
系統変電システム製作所 保護制御製造部 宮本靖也:下
生活を豊かにする製品やサービスを生み出し、多くの人に喜ばれる存在でありたいです。
あたりまえの毎日を支える社会インフラの裏側には、こうした緻密な電力安定供給技術の積み重ねがある。「三菱電機技報」には、このほかにも幅広い分野の技術論文が掲載されているので、ぜひアクセスして、気になる技術に触れてみてはいかがだろうか。
INTERVIEWEE
三菱電機 ものづくり技術本部 生産システム企画・技術部 技術管理グループ
堀越美香
1991年入社。長年、電気電子系の設計技術開発や各拠点への設計支援に携わり、2013年からは全社の設計技術標準化を推進。現在は技術管理部門の取りまとめ役として、技術委員会や「三菱電機技報」事務局の運営に尽力している。
INTERVIEWEE
三菱電機 インフラBA戦略室 技術ユニット 技術統括センター 開発企画クループ
江川邦彦
1987年入社。20年以上にわたり超電導材料や生産技術の開発に従事。NEDOやJEMAへの出向を通じ、電力産業機器全般の技術運営にも深く関わる。現在は本社での研究・開発技術管理業務に加え、「三菱電機技報」編集委員や社外団体対応など幅広く活動している。
- 掲載されている情報は、2026年1月時点のものです。
制作: Our Stories編集チーム