SERENDIE – stories

STORIES / INTERVIEW

「コングロマリット・プレミアム」で、社会課題を解決する。アジャイルな文化が根付いた三菱電機の、次なる挑戦

2026.04.22

三菱電機が、社内外の人財やデータ、技術の巡り合いから新たな価値創出につなげるためのデジタル基盤として構築した「Serendie®」。その主要な共創拠点である「Serendie Street Yokohama」は、開設から1年間で延べ約2万人が訪れた。現在は17部門から約600人が集い、部門の枠を越えて日々共創に向けたワークショップやスクラム活動を行っている。

こうした賑わいをつくるため、DXイノベーションセンター(以下:DIC)のセンター長である朝日宣雄氏は文化の変革に力を入れてきた。次に朝日氏が標榜するのは、事業横断の掛け合わせによって単独では生み出せない価値を生む「コングロマリット・プレミアム」の実現だ。これは、2030年度にSerendie関連事業で1.1兆円規模の売上を達成するためでもある。共創の土台づくりに励んだ1年と、この先の展望について話を聞いた。

朝日宣雄 Nobuo Asahi

三菱電機株式会社 執行役員 DXイノベーションセンター センター長

1988年入社。2008年、営業本部 戦略事業開発室長に就任。リビング・デジタルメディア事業本部にて太陽光発電システム事業部計画部長、リビング・デジタルメディア技術部長などを歴任。2020年、IoT・ライフソリューション新事業推進センター長に就任。2023年4月より現職。

セレンディピティは「余白」から

――Serendie Street Yokohamaが開設されて1年、当初の予想を大きく上回る賑わいを見せていると伺いました。

朝日:ええ。年間来場者数1万人という目標に対し、実績は延べ2万人に達しました。また、この1年で新規プロジェクトとして立ち上がった案件は30〜40件あり、現在進行形で動いているのは検討中も含めて20〜30件あります。

ただ、私が一番手応えを感じているのは、三菱電機という巨大組織の中に「異なる専門性を持つ人々が、日常的に言葉を交わす風景」が定着したことです。現在は17もの部門から約600人がここに集っています。三菱電機内を見渡しても、これほど多様なバックグラウンドを持つ人々がワンフロアで交差するエリアは他にありません。この賑わい自体が、新たな共創を生むきっかけとなっています。まさに、Serendie Street Yokohamaのコンセプトである「セレンディピティ」を体現していると言えます。

三菱電機株式会社 執行役員 DXイノベーションセンター センター長 朝日宣雄 Nobuo Asahi

――これまでの三菱電機とは、かなり異なる文化ですよね。

朝日:確かにおっしゃる通りです。ものづくりを支えてきた製作所には品質や安全を守るための厳格なルールがあり、それが今の三菱電機を形作ってきました。また、これからもその高い品質は私たちにとって変わらない価値です。

一方、新しい価値をつくるには「余白」が必要です。役割に縛られず、自分のできることをどんどん見つけて取り組んでいく。失敗も受け入れ、それを学びとしていく。そうすることで、新しい価値が生まれやすくなる。いわゆる、アジャイルな文化を目指してきました。

そのために私たちがSerendie Street Yokohamaで徹底したのは、部門や立場を越えた関係性をつくることでした。個々の技術力がいかに高くても、互いの感情を理解し、尊重し合えなければ、チームとしてのパフォーマンスは最大化されません。まずは、組織内の人間関係をより豊かにすることに努めてきました。

透明性とスピード感が築く信頼

――アジャイルな文化を根付かせるために、具体的に取り組まれたことを教えてください。

朝日:徹底した「透明化」です。インサイダー情報や人事評価といった機密情報を除き、部長や次長クラスが集まる重要な会議の議事録は、メンバー全員がいつでも閲覧できるようにしています。「知ろうと思えば誰でもアクセスできる」という安心感は、組織をフラットにします。情報の偏りをなくすことで、メンバーが自分の判断で動きやすくなるのです。

こうした透明性を担保する試みの一つとして、月に一度、110名を超えるDICメンバーが一堂に会する「DIC Day」を開催しています。各部署が持ち回りで企画・運営し、部署を跨いだ対話を促すものです。チームの目線が揃うだけでなく、フラットに情報を共有する場としても機能しています。

月に1度DICメンバーが集まる、「DIC Day」の様子

信頼を築くという点では、スピードも大事にしています。例えば、センター長である私の直属に9名のチームを置き、彼らが各事業本部の現場情報を吸い上げる窓口となっています。現場からの相談があれば、翌日には私の耳に届き、1週間以内には何らかの方針を返せる。このスピード感が、事業部側との信頼関係を築く鍵になっています。

「共通プラットフォーム」でビジネス化を支援

――文化が動き出し、スピードも上がってきた。では、事業づくりについては、現状をどう見ていますか。

朝日:Serendie Street Yokohamaが発足した際、「光速Serendie作戦」というプロジェクトを始めました。実現性は問わないので、とにかく光速で体験できるプロトタイプを作ろうという趣旨のプロジェクトです。3カ月のスパンでスクラム活動を行い、短いサイクルで「やるか・やらないか」を決めるようにしたのです。このサイクルを繰り返すことで、事業の種はたくさん生まれました。例えば、ファクトリーオートメーション(FA)事業では、放電加工機から得られるデータを解析し、無駄な出動を70〜80%削減する「iQ Care Remote4U® 見守りサービス(※1)」をリリースしました。

ここで力を発揮しているのが生成AIを活用した「ヴァイブコーディング(Vibe Coding)」です。詳細な仕様書を書き上げてからコーディングをするのではなく、生成AIと自然言語で対話しながらその場で「動くもの」を作ってしまう手法です。紙の上の議論で時間を浪費するのではなく、まず形にして、それを見ながら議論し、その場で直していくことを徹底しました。

一方、この1年、Serendie Street Yokohamaで行っているスクラム活動から事業化され、事業部門へ引き継がれた案件は、まだ多くはありません。賑わいがあり、アイデアは出ている。次は「継続的に収益を生むビジネス」に育てることが課題です。

――なぜ、そのような課題が起きているのでしょうか。

朝日:突き詰めれば、私たちの商習慣そのものです。三菱電機は長年、ハードウェアを「売り切る」ことで成長してきました。しかし、DXが目指すのは、サブスクリプションで収益を積み上げるサービス型のビジネスです。この転換は、社内のシステムだけでなく、販売パートナーの方々の理解やインセンティブの構造まで変える必要があります。

――具体的に、どのような施策を考えていますか。

朝日:まずは、Serendieで作ったサービスのサブスクリプションを管理する共通のプラットフォームの立ち上げを進めています。これまでのように各部署が個別に作るのではなく、共通の土台に乗せることで、事業化のハードルを劇的に下げたいと考えています。この「出口」の仕組みが整うことで、よりSerendieを活用したビジネスが生まれやすくなると考えています。

※1 iQ Care Remote4Uは、三菱電機株式会社の登録商標です。

全社員を「変革の主体」に

――仕組みを整えても、最後に動かすのは「人」です。三菱電機全体のDXリテラシーをどう底上げしていくのでしょうか。

朝日:新たに「DXイノベーションアカデミー」を立ち上げました。すでに全社で行われていた品質管理や人権研修のように、DXの基礎知識を全社員の当たり前にしようという試みです。2025年4月からの本格稼働に先立ち、2024年10月から初級講座の募集を開始したところ、想定を上回る応募がありました。DXの基礎知識を学びたいという関心はすでに社内にあり、まずは受け皿を用意すれば動き出す層がいることが見えてきました。

――アカデミーを通じて、どのような姿を目指しているのですか。

朝日:目指す「DX人財像」を非常に高いレベルで言えば、グローバルな環境で英語を駆使して、発信・議論・協業ができる状態が理想です。ただ、まずは誰もがデータを見て何かを発見し、それを解決するための手段をつくれる。全員が「作り手」になれる状態を目指しています。最近は生成AIの活用も進み、試作のハードル自体が下がってきました。「あの人は作る人、私は使う人」と線を引かず、自分で作って披露し、意見をもらって改善する。そうした習慣を当たり前にしたいですね。

「コングロマリット」だからこその価値

――2030年度、Serendie関連事業で1.1兆円という非常に高い売上目標を掲げています。これを達成するための方針について教えてください。

朝日:単独の事業本部では解決できない社会課題に対し、社内外の知恵を組み合わせる「コングロマリット・プレミアム」を実現していきます。「コングロマリット・プレミアム」とは、事業が多岐にわたるからこそ、新しい価値が生まれるという考えです。

もともとSerendieの構想を立ち上げた背景には、総合電機メーカーゆえの「コングロマリット・ディスカウント(事業の多角化により企業価値が割安に評価されること)」をいかに打破し、「コングロマリット・プレミアム」に変えるかという経営テーマがありました。

実は20年以上前にも、営業本部で似たような試みをしたことがあります。当時はDXやAIといった技術はありませんでしたが、バラバラの部署が扱っていた製品のうち、同じ分野の製品を束ねて総合提案をできるようにしました。例えば、セキュリティーに関連する製品やシステムを「三菱電機トータルセキュリティーソリューション」として統合し、「DIGUARD(ディガード)」というブランドで総合提案を行った例などがあります。

「異なる部門の人間が集まれば必ず良いものが生まれる」という確信は、この時の経験に基づいています。社内の多様な専門性を活かして素早く形にする。これが私たちの独自価値になっていくでしょう。

――今後の展開として、横浜以外の動きについても教えてください。

朝日:「Serendie Street」をグローバルに拡張します。横浜、ボストン、大阪に続き、欧州や東南アジアへの拠点開設も具体的に構想しています。国境を越えた議論をリアルタイムで行える環境をつくり、各地の熱量を横浜へつないでいきたい。また、国内でもネットワーク化を進めます。全国の支社・製作所に「Serendieコーナー」を設けるなどして、同じ文化を体感できる場を広げたいと考えています。

――最後に、読者や未来の共創パートナーに向けてメッセージをお願いします。

朝日:私たちは、情報を隠して守るよりも、オープンにして変化のスピードを速める道を選びました。横浜の拠点はその象徴です。三菱電機の持つ技術やデータ、そして現場の熱量を、ぜひ皆さんの知恵と掛け合わせてください。日本の製造業を再び盛り上げ、誰も見たことがない価値を共に生み出していく。その挑戦の輪を一緒に広げていきましょう。

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