次は、三菱電機のトランポリン
選手
土井畑知里さんに話を聞き
に行くぞ。
空中の姿勢にぜひ注目を。

- トランポリンの起源について調べたら、空中に人を跳ね上げる行事や遊びが世界中にあったんです。トランポリン競技の魅力は、どんなところですか?

- 人が自分の力で非日常的な高さに上がれることですね。さらに、空中で縦に回ったり、横にひねったりといった動きができるところです。

- スローモーションで演技を見ても、人が宙を舞う姿は美しいですよね。

- そうした空中姿勢の美しさも見ていただきたいポイントなんです。つま先から頭の先まで一直線になるような姿勢は、選手が普段から磨き上げたものですからね。さらに空中で回転してひねった後にその姿勢をつくることは難しいので、そこにぜひ注目してください。


競技用トランポリンのベッド(1枚のシートに見える部分)は、ナイロン製 テープを編んでつくられている。選手が使えるのは約2m×約4mのスペース

- 僕、競技用トランポリンに初めて乗ったんですけれど、うまく跳べなかったなぁ。意外と硬くって、もっと柔らかいものだと思ってました。

- 初めて跳ぶ方は、硬い床でジャンプするのと同じように跳ぼうとするんですけれど、ベッドを沈めないとトランポリンは全然上げてくれないです。

- なるほど、トランポリンに任せたほうがいいんだ!
ルールを知ると観戦が楽しめる。

- トランポリン競技の採点について調べたら、難易度に対する得点がとても細かく決まっていてビックリしたんです。イメージではフィギュアスケートの採点みたいだなと。

- フィギュアや体操も「難しさ」「美しさ」を得点にしているところは、同じですね。トランポリン競技では、それにプラスして「跳躍の高さ」「着床位置の正確さ」ということが点数化されて、合計点で争います。
トランポリン選手が跳ぶときの目印になるのが、ベッド中央の十字マーク。移動(トラベリング)の少なさも採点基準になる

- 戦略的にどっちを狙いにいくとかはあるんですか?

- 選手によりますね。自分の得意なほうに寄せたいですから。

- 土井畑選手はどっちでしょう?

- 実は、採点基準が今のように変わったのは最近です。以前は難易度と美しさしか見られなかったんですね。昔の私はどちらかと言うと、美しさを重視していました。他の選手よりも簡単な種目を確実にこなして、演技点を稼いで勝つのが私のやり方だったんです。

- じゃ、演技点の比率が減ったんだ。

- そうです。今は難しい技を演技構成にできるだけ取り入れて、試合に備えた練習をこなしています。

土井畑選手が得意なのは「パイクトリフィスアウト」(屈伸の前方3回宙返り半ひねり)という大技
プレッシャーも醍醐味。

- 大会の直前だと、1日どれくらい練習するんですか?

- 2時間から2時間半くらいで練習します。トランポリンは短距離のような無酸素系の種目と同じで、⻑時間の練習は出来ないスポーツです。 無酸素系というか瞬発系ですね。演技全体が30秒以内で終わってしまうので。

- 本当に短距離を走りきるくらい。

- 瞬発力がいる演技を10本連続してやります。たとえば8本目で失敗したら7本目までが選手の得点です。どれだけ実力のある選手でも、10本の演技をやり終えないと上位争いのスタートラインにすら立てません。会場にいると緊張感が伝わってくると思いますが、それも魅力ですよ。
競技用トランポリンのベッドと金属フレームをつなぐのが118本のスプリング。跳ね上げる力を生み出す

- トランポリンの大会で1番大事にしていることって、何ですか?

- いつも通りでいることですね。楽しむことは本当に大事。

- それは「跳んでいる間の感覚を楽しむ」という意味でしょうか。

- ちょっと違うかな。小さいころはプレッシャーがかかる大会でもすごく楽しくて、毎回、会心の演技をしていたんです。練習で跳ぶよりも大会で跳んでいるほうが緊張して体の動きもいいですし、すごい気持ちよくて楽しかった。

- うん、うん。

- でも、大きくなるにつれ、大会で跳んでいるときに楽しいと思うことはなくなりました。それに代わって、自分に対しての期待感とか、耐えきれないようなプレッシャーの状態をいかに楽しむか。それは競技者でないと絶対に味わえない気持ちなので、その中で自分がどういう演技ができるのかを考えています。

- スポーツは楽しくて「ワクワク」するものだけど、そうではないところもすべて含めて面白いんだと、今の話を聞いて思いました。
土井畑選手が愛用するのは、市販の靴下。「素足に近い感覚なのが気に入っています」

- これまでトランポリンを辞めたいと思ったことってなかったですか?

- あまりないんですよ。たとえば大会で負けたら「次はどうやったら勝てるんだろう」と考えます。人に負けることよりも、自分らしい演技ができなかったり、自分の力が本番で発揮できないことのほうが嫌なんですね。

- そうか。なぜ、人はスポーツに打ち込むのかが、私もわかってきた気がします。
私にとって、スポーツは宝箱。

- 土井畑選手にとって、どういう演技が「自分らしい演技」ですか?

- ちゃんと自分でトランポリンの「底」を捉えられたときです。

- トランポリンに、底があるって!?

- あくまで私の感覚です。トランポリンは下に沈みきったら、硬いんですね。その状態、つまり「底」を捉えて演技する。底を捉えられないと、トランポリンに跳ばされて自分のコントロールが効かなくなり、いい演技ができません。

- そうかぁ。
選手がベッドに着床してから下に沈み切った地点を、土井畑選手は「底」と呼ぶ

- しっかり底を捉えて、自分で踏んで、自分で技をかけて、自分で技を終わらせる、という全部がコントロールできたときにいい演技ができると思っています。

- 最後に、私たち「スポーツわくわく研究所」では、スポーツの楽しさ、やる楽しさ、観る楽しさをアスリートの方たちと一緒に考えて、伝えようとしています。土井畑選手にとって「スポーツ」ってどういうものですか?

- トランポリンというスポーツは、もちろん自分自身の努力や自分がかける時間もありますけれど、一人の力では全然できません。コーチの指導であったり、仲間のサポート、協会のバックアップ、そういうことがあっての私の競技人生だと思います。

- 一人じゃないんだ。

- ええ。競技を続けるときには、誰かに助けていただくことのほうがやっぱり多いので、私にとってのスポーツとは、そういうものがいろいろ詰まった「宝箱」のような感じですね。
2019年3月公開



