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連載コラム「読む宇宙旅行」ライター:林公代 宇宙開発最前線から、天文・宇宙まで、フレッシュな情報をお届けします!

2010年10月 vol.2

暗黒時代を突き抜けろ! 次世代超大型望遠鏡TMTとは

TMT完成予想図。1.5m鏡×492枚で口径30mの鏡を作る技術、大気の揺らぎを取り除く補償光学などハイテク技術を駆使する(提供:国立天文台TMTプロジェクト室)

ガリレオが口径数pの望遠鏡を宇宙に向けてから400年。望遠鏡は大型化の歴史を歩み、新しい天体や現象を発見。人類の宇宙観を塗り替えてきた。人類は宇宙の中心でなく、片田舎の一恒星(太陽)の第三惑星に存在すること、137億年の歴史の中でほんの最近生まれた超新参者であることもわかった。同時に、いかに我々は宇宙のことを知らないかも。ここ10年間の観測で、我々が見ている物質は宇宙のたった4%に過ぎないことが明らかになった。では残りの96%は何なのか。現在計画中の次世代超大型望遠鏡TMTが明らかにしてくれるかもしれない。

TMTは「Thirty Meter Telescope」の略で口径30mの超大型望遠鏡だ。2019年の完成を目標に日本、米国、カナダ、中国、インドなどが国際協力で計画を進めている(各国とも政府への予算要求準備中)。すばる望遠鏡の後継機となる光学赤外線望遠鏡だが「すばる」のような一枚鏡ではなく492枚の複合鏡。「すばる」に比べて13倍の集光力と4倍の解像力があり遠くの天体を細かく、より短時間で、より多くの天体を観測できる。その性能は「月の上の蛍の光が見える」(国立天文台・TMTプロジェクト室の柏川伸成さん)ほどだという。

すばる望遠鏡は「もっとも遠い銀河」の観測でギネス記録を更新し続け、トップ10のほとんどを独占してきた。柏川さんは、その中心人物である。過去に発見した最も遠い銀河は128.8億光年、つまり宇宙誕生9億年後の銀河だ。最近、欧州チームが更に遠い銀河を発見した。だがそのデータは不十分であり他チームの観測で検証する必要がある。「すばる」は1999年から10年以上、銀河だけでなく様々な観測で成果をあげてきたが、「そろそろ8m級望遠鏡の能力の限界」とTMTプロジェクト長の家正則さんは言う。

ではTMTで何が見えてくるのか。たくさんテーマはあるが興味深いものを3つ紹介すれば、まず「宇宙の暗黒時代」に光を当てること。「すばる」は宇宙誕生後9億年の銀河の観測に成功した。しかしさらに初期、宇宙誕生後30万年ー3億年頃は天体の存在しない「暗黒時代」と呼ばれ、この間に最初の星(ファーストスター)や銀河が生まれたと考えられている。ファーストスターは日本の研究者、吉田直紀さんらが宇宙誕生後約3億年で誕生したと発表している(参照:2008年8月vol.1コラム/宇宙誕生3億年後の一番星、コンピューターで「実験」)が、「ファーストスター」そのもの、またそれらの星々が集まって作る最初の銀河が観測できると期待される。

すばる望遠鏡はビッグバン後9億年まで観測。TMTはその先の暗黒時代(図中赤い部分)に迫る。

次に期待されるのは最近話題の太陽系の外の惑星、「系外惑星」について。主星に近い地球型の系外惑星の直接撮像に取り組むだけでなく、惑星の大気を分光してその成分を調べる。もし酸素や有機物の分子が発見されれば、地球外生命の可能性が高まる。「我々は宇宙で孤独な存在でない」とわかれば、ノーベル賞級の発見となるだろう。

そして、冒頭にのべた宇宙の96%の物質について。現在、宇宙は我々に見える物質4%、重力を及ぼす見えない未知の物質「ダークマター」23%、宇宙膨張を加速する未知のエネルギー「ダークエネルギー」73%で構成されていると考えられている。宇宙はビッグバンと呼ばれる大爆発で誕生後、膨脹を続けている。その膨脹率を観測すると、減速していた宇宙膨張が、80億年頃から加速膨脹に転じていることがわかった。その黒幕がダークエネルギーだ。そこでTMTは、ある天体までの距離を精密に計測し、10年後に同じ天体の距離を再度測定する。2回の距離の僅かな差から宇宙膨張を直接測ろうというのだ。果たして宇宙膨張は加速するか減速するか。宇宙膨張を引き起こすダークエネルギーの正体はなにか。技術的課題が多い難しい観測だが、実現できれば物理学全体に大きな影響を与えるだろう。

国立天文台の観山台長は「望遠鏡は天文学者のためだけの道具であってはならない。例えば系外惑星観測で生命現象につながるようなら、他分野の研究にも寄与できる。社会が期待を込めて支援してくれるような観測を」と語る。確かに大型望遠鏡は予算も莫大になるだけに、社会にとっての意義を考えることは重要だ。だが柏川さんは「銀河を追い続けてきた自分としては、ぜひ銀河誕生の現場を見たい」という。宇宙の片隅の天文学者の執念が、宇宙の謎をどこまで明らかにできるのか。どの時代も一人の科学者や天文学者が 大発見をもたらし、人類の宇宙観を塗り替えてきた。そんな過程を今まさに見ているようで、十分に知的好奇心を刺激されている。

国立天文台TMTのページ
http://tmt.mtk.nao.ac.jp/

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