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連載コラム「星空の散歩道」ライター:国立天文台 教授 渡部潤一 最新の天文学のトピックスも織り交ぜながら、季節の星空の話題をお届けします。

2010年7月16日 vol.56

木星に異変 縞が消えた

木星は人気のある天体である。小望遠鏡では、木星の回りに寄り添う4つの衛星が見えるし、それらが日々動いていく様子がわかる。また本体にも赤道を挟んで二本の太い縞模様が見える。南赤道縞と北赤道縞である。場合によっては、その南側の縞に楕円状の斑点(大赤斑)が重なっているのがわかるだろう。ところが、この木星に、いま異変が起きている。この縞模様のうち、最も太く、濃い茶色であった南赤道縞が消えてしまったのである。いま木星を眺めると一本の縞しか見えないのである。

木星の南赤道縞淡化の様子。左が2009年8月19日、右が今年2010年6月10日撮影。※画像は南を上にしています。 (提供:米山誠一[月惑星研究会])

木星は太陽系で最も巨大な惑星である。赤道半径は約7万1千キロメートル、地球の約11倍、重さは太陽のほぼ1000分の1、地球の317倍である。主成分はほぼ太陽と同じで、約90%が水素、残りのほとんどをヘリウムが占めている。上層大気には、アンモニア、水、メタンなどといった成分があるが、これが大事な役割をしている。特にアンモニアは凝結して雲を作り、太陽の光を反射する。われわれが望遠鏡で眺める木星の表面模様は、ほとんどこのアンモニアの雲による反射である。地球でお馴染みの水(水蒸気)の雲もあるが、アンモニアの雲の下に隠れていて普段は見えない。

木星の大きな特徴が表面に見える縞模様である。アンモニアの雲が織りなす造形美だが、縞模様の原因になっているのは、木星の早い自転と雲の変化である。木星の自転は早い。その自転周期は9.9時間。つまり木星の一日は10時間弱である。ガスでできた巨大な木星が地球の倍以上のスピードでぐるぐるまわっているのだから、大気もたまったものではない。気流のスピードが早いのも当然である。この早い気流にのって経度方向の構造がならされ、縞模様ができる。地球でいえばジェット気流のようなものだが、そのスピードは場所によっては秒速100メートルを越えている。ちなみに、このように早い自転のおかげで、木星は赤道部が膨らみ、極方向がつぶれている。その差は約9000キロメートルもある。小さな望遠鏡でのぞいても上下にひしゃげているのが実感できる。

縞模様ができるもう一つの原因は、大気の上昇と下降という上下方向の運動に起因する雲の成分変化である。木星でも下層で暖められた大気が上昇気流をつくり、上層部で冷えて下降気流となってふたたび潜っていく。地球でいえば上昇気流は低気圧、下降気流は高気圧になるわけだが、木星の場合にはその上昇と下降がどの緯度で起きるかが、ほぼ決まっている。暗く見える縞(ベルト)の部分が主に下降気流であり、白っぽく見える帯(ゾーン)が上昇気流の部分である。緯度毎に交互に現れる縞と帯とには、それぞれ固有の名称が付けられている。この上昇下降に伴って雲の成分変化が起きて、この縞と帯との色の違いを作っている。ただ、これがどのような変化なのかは未だに謎に包まれている。探査機の結果でも、地上から大きな望遠鏡で詳しく調べてみても、どうして縞の部分が濃い茶色に見えるのかわからない。白く見える帯の部分はアンモニアの氷であることは確かだが、縞の方は硫黄やリンのような不純物が混じっている、あるいは化学変化である種の物質が変化して光の反射の仕方が変わっている、はたまた上昇と下降の時の生成される粒子サイズが違う、などと憶測されている。

縞模様それ自体も不思議だが、それ以上に謎の現象が希に起きる。ある時、突然に縞の色が急速に変化して淡くなる現象が起きるのである。これを淡化と呼んでいる。周囲の帯と見分けがつかなくなるほど淡くなる上、さらに不思議なことに、淡化が起こるのが南赤道縞だけなのだ。この淡化はしばらく続いたあと、これまた突然に暗柱とよばれる暗い柱が縞の部分に現れ、東西流の流れに載って急速に縞全体に広がっていく。これを撹乱(かくらん)という。撹乱が発生すると数週間から二ヶ月ほどで元の濃い縞に戻ってしまう。

このような南赤道縞の淡化は10年から30年に一度という、まれな現象であり、観測データも少なく、そのメカニズムもよくわかっていない。1980年代には一度も起きなかったが、1990年と1992年に起きている。今回の淡化は2009年の秋頃から進行していたようで、5月には完全に縞は消えてしまった。いつもの例であれば、2010年中には、再び撹乱が起こるのではないか、と考えられている。最近の木星は異変続きである。大赤斑が縮小しつつあるし、2009年には大赤斑の色に変化が見られている。こんな木星を眺めない手はない。

縞が淡化中の木星を眺めるチャンスはなかなか無い。なにしろ、木星の表面模様が一変してしまっているのは希であり、また普通の小さな望遠鏡でもこの変化はよくわかる。さらには、大赤斑を取り囲む縞が淡くなるため、相対的に大赤斑が見やすくなる。その意味では、現在は大赤斑にとっては見頃とも言えるだろう。現在、木星は、明け方の東の空に見ることができるので、いつもと違った木星をぜひ眺めてみて頂きたい。

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