Factory Automation

情熱ボイス

【MELSEC MXコントローラ篇】進化を拓いた、統合への挑戦

2025年10月公開【全3回】

情熱ボイス MELSEC MXコントローラ篇 進化を拓いた、統合への挑戦 第2回組織の融合が開発を加速

第2回 組織の融合が開発を加速

「汎用マイコン採用」の機関決定を受けて始まった次世代コントローラ開発は、最初から行き詰まった。肝心の汎用マイコンのメーカーが決まらないのである。5~6社の候補の中から2社まで絞り込むところまでは順調だったものの、その2社のいずれにするかの判断が二転三転した。

その理由の一つが「キャッシュメモリ」に対する考え方の違いだった。一般的にはキャッシュメモリの容量が大きい方が高速化をはかりやすい。一体化によって演算量も増えるため、プロジェクトチームも最初はマイコンが搭載するキャッシュの容量を重要な採用基準としていた。しかし「この決め方で本当にいいのか?」という疑問がチームメンバーの頭をもたげるようになった。

疑問を呈した一人が、モーション制御のソフトウエア設計を担当する日下部だ。一体化する次世代コントローラでは、シーケンスやモーションなど制御ごとにマイコンのコアを割り当て、分散処理することで高速化をはかる。その構成を考えると、「キャッシュの容量で単純に決めてはいけないのではないか?」と考えるようになったという。最終候補2社のマイコンにはキャッシュの構成や管理方法に違いがあり、それがキャッシュの容量以上に処理速度に影響するかもしれない。

次世代コントローラの分散処理イメージ図

次世代コントローラではコアごとに各処理を分散させることで高速化することを目指す

プロジェクトチームでは選定のために、実際にマイコンを搭載した検証用のボードを2社についてそれぞれ数十台製作し、ファームウエアまで開発して多数の関係者が検証を行っている。そこまでして一方のメーカーにいったんは決めたものの、日下部らによる問題提起により振り出しに戻った。従来の考え方では一体化によるメリットを十分引き出せないことを、プロジェクトチームは思い知らされた。

「お客様に手間は掛けさせたくない」

マイコンメーカー選定が二転三転したもう一つの理由は「熱」だった。マイコンが発生する熱が許容範囲に収まるかは、システムの安定性を保つうえで重要な要素である。

もっとも熱の問題は、適切な排出の機構さえ設けておけば比較的容易に解消可能だ。実際、競合他社のコントローラには排熱用のファンを搭載しているところもある。しかし、ファンには寿命があるため交換が必要であり、その際はシーケンサが設置されたユーザーの設備装置を止めなくてはならない。そのため、三菱電機のシーケンサでは、メンテナンス性を考慮して従来からファンを搭載していない。新しいコントローラでも「お客様に交換の手間と交換用部品の確保を強いることはしたくない」と、原田らハードウエア開発チームはシーケンサの考え方を継承し、当初からファンを使わないことを決めていた。

ファンを使わないならば、熱を自然に放出させるヒートシンクに頼ることになる。しかし汎用マイコンの発熱はASICよりも大きく、必然的にヒートシンクも大型のものにならざるを得ない。それはコントローラの筐体サイズに影響する。ただでさえ新しいコントローラは、従来個別ユニットに分かれていたシーケンスやモーションなどを一体化する分、筐体も大型化が必至だ。統合する機能の数からしてMELSEC iQ-Rシリーズのベースユニット3スロット分のサイズは最低限必要だが、それ以上のサイズになるかもしれない。しかし「4スロットは大きすぎる。お客様の取り回しを考えると3スロットに収める必要がある」と原田たちは考えた。

最適化したヒートシンク

3スロット幅の筐体サイズに収まるようにヒートシンクの形状を最適化した

そこで3スロットのサイズに収めるため、熱シミュレーションを繰り返し、ヒートシンクの形状や部品の配置を最適化した。こうしてサイズの問題は解消し、採用するマイコンも決まった。汎用マイコンを使った開発が始められる環境がようやく整ったのだ。

普及タイプの開発も始まる

汎用マイコンの決定で次世代コントローラの開発が動き出す一方で、ラインナップ拡充の検討も始まった。具体的には、現行の小型シーケンサ「MELSEC iQ-Fシリーズ」に相当する一体型コントローラである。多軸化のニーズが一体型コントローラ開発のきっかけだったものの、多軸化は必要なくても一体型を志向するユーザーは少なくないと考えられた。そうしたユーザー向けに提案するために、普及タイプの一体型コントローラを新たに開発することにした。

実はiQ-Fシリーズはその歴史的な経緯から、三菱電機のFA機器開発の総本山とも言える名古屋製作所ではなく、兵庫県の姫路事業所で開発されていた。もともと新卒で姫路事業所に配属され、iQ-Fシリーズの開発に従事してきた左右木は「ドキュメントのやり取り一つでも大変」と、同じシーケンサでありながら開発拠点が違うことにもどかしさを感じていたという。

その後iQ-Fシリーズの開発部隊は名古屋製作所に移管。左右木もそれに続く形で名古屋製作所に異動した。普及タイプの一体型コントローラ開発は、移管後初めての新シリーズ開発プロジェクトだった。次世代コントローラのためにリソースを流用しながらの普及タイプ開発は、従来以上にチーム相互の連携が欠かせない。「名古屋製作所のチームとの融合でその連携が容易になった。移管がなければ開発は進まなかったかもしれない」。姫路事業所時代を知り、普及タイプの一体型コントローラ開発でも中核的役割を担うことになった左右木は、そう振り返る。

iQ-Fシリーズの開発部隊が名古屋製作所に移管されたことで組織の融合が加速した

組織の融合は次世代コントローラのミッションであるモーション制御の分野でもはかられた。モーションという動作を制御する機能のため、従来は動きを提供するサーボ部門がモーションの主管であり、シーケンサの開発とは別組織だった。次世代コントローラのために2019年秋に具体的なシーケンスとモーションの統合作業が始まった時点でも、組織はその2つに分かれた状態で、いずれも名古屋製作所内にある組織ながら不自然な状態にあった。

2020年4月、ある辞令が社内に発表された。モーション制御のハードやソフトの開発部門を、シーケンサの開発部門に移管するというものだった。明らかに次世代コントローラの開発を意識した辞令だ。

「いよいよ下手なことはできなくなった」。この頃にはプロジェクトチームのリーダー的役割を担うようになった杉山はその辞令を見て、2つの組織融合という幹部による体制面の支援を心強く思う一方で、より大きなプレッシャーを感じるようになったという。

カスタマイズのニーズに応える「秘策」

シーケンサのような汎用機器には、「継続的な機能改善」の仕組みが必要だ。新しいコントローラでも、それをどう実現するかという点が課題になった。解決策の一つは、継続的な動作周波数向上によって演算性能の向上が期待できる、汎用マイコンの採用だ。しかし、それだけでは機能改善のニーズを完全に満たすことはできない。動作周波数の向上による恩恵は、まさしく演算性能(処理性能)を継続的に高める点にあるからだ。ファームウエアによる機能改善は可能であるものの、名古屋製作所の開発リソースも考えると、バージョンアップは年に1~2回がせいぜいであり、一度に実現できる機能の数にも限りがある。一方、ユーザーの現場では顧客の設備に合わせた都度のバージョンアップが要求されている。

その問題に解決策を与えたのは、他ならぬ統合相手のモーションだった。モーション制御では「アドオン」という形でソフトウエアを追加提供する仕組みを、以前から部分的に提供していた。その仕組みをシーケンサにも取り入れることにしたのだ。コントローラ本体の開発部門ではアドオンの仕組みだけ用意しておけば、アドオンの開発そのものはローカルの開発拠点に任せることも可能だろう。

2020年7月、プロジェクトチームはアドオン機能を公開することを決断した。さらに中国や欧州、米国やインドにある共創センターにアドオン開発用のSDK(ソフトウェア開発キット)を提供し、必要な研修プログラムも用意することで、顧客に合わせたカスタマイズも加速させることを目指した。

半面、次世代コントローラ開発にかかわるステークホルダーが海外にまで広がったことで、開発のマネジメントは一気に複雑化した。もともと“畑”が違う部門同士の連携は容易ではない。「お互いに迷惑がかからないようにしないと」と考えた杉山は、情報共有の場を頻繁に持つようになり、最終的にそのためのミーティングは2日に1回という高頻度に及ぶようになった。

その効果もあり、次世代コントローラの開発は順調に進み、計画通りの製品発表も見えてきた。しかし2021年後半に入って新たな問題が浮上した。初期段階でプロジェクトチームを悩ませた汎用マイコンの採用が、再び新たな悩みの種を残していったのである。

製品・ソリューション紹介

MELSEC MX コントローラ

MELSEC MX コントローラ

長年にわたり積み上げてきたシーケンサの制御技術を1 台のコントローラに集約。シーケンス制御、モーション制御、ネットワーク制御をMELSEC MXコントローラのプラットフォーム上に統合することで、さらなる高速・高精度制御を実現します。

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