Factory Automation

情熱ボイス

【MELSEC MXコントローラ篇】進化を拓いた、統合への挑戦

2025年10月公開【全3回】

情熱ボイス MELSEC MXコントローラ篇 進化を拓いた、統合への挑戦 第3回初物づくしで汎用でも差別化

第3回 「初物」づくしで汎用でも差別化

「自分たちはこだわり過ぎたのかもしれない」。杉山は、自分たちの目が性能ばかりに向いていたことに気づき、視野を広げることにした。汎用マイコン採用によるコモディティ化の中でも競合他社をしのぐなら、独自の機能を付け加えなくてはならない。杉山を始めとしたプロジェクトチームはそのために力を注いできたのだが、それを追い求め過ぎると、かえって逆効果になりかねないことに気づいたのだ。

将来の保守のために敢えて手戻り

汎用マイコンを使った開発には、オープンソースのライブラリ(ソフトウエアの部品)を使うのが一般的だ。ライブラリを組み合わせることでさまざまな処理を容易に実装できるが、ライブラリは“出来合い”に過ぎない。そこで杉山らは、ライブラリを独自に改良する作り込みによって他社との差別化を目指してきた。

しかし積極的に作り込んでいった結果、元のライブラリとの差分が大きくなり、将来の保守に影響が及ぶことが予想されるようになったのだ。ライブラリ自身の機能向上やぜい弱性対応のためにオリジナルのライブラリがバージョンアップしたようなときに、自分たちが作り込んだライブラリに迅速に反映しにくくなるかもしれない。それはユーザーにとってデメリットになる。そのデメリットを避けるなら元に戻す、すなわち独自に作り込んできた開発資産を一部放棄しなくてはならない。

それでも杉山は判断に迷うことはなかった。2021年10月、手戻りを発生させてでも、汎用のライブラリをできる限りそのまま使うことを決めた。本来なら製品化が見えてくるはずのこの時期に、数カ月分の手戻りが発生するのは大きな損失だ。加えて、これまでライブラリの独自改良で作り込んできた機能を代替する手段も考えなくてはならなくなったが、それでも今後の製品の保守性を考えると不可欠と杉山は考えた。

最後まであがき続ける

やはり汎用マイコンの採用は「諸刃の剣」だった。この期に及んでも「差別化」という汎用マイコンを採用する上での課題が、プロジェクトチームを悩ませ続けている。「このままでは平凡なコントローラになってしまう。もう一つ、何か追加しなくては」。プロジェクトチームは焦りの中で最後まであがき続けることにした。

あがく中で杉山らが検討を始めたのが、「CC-Link IE TSN」のフル活用だ。TSN(Time Sensitive Networking)は産業用イーサネットにリアルタイム性を持たせる仕組みで、CC-Link IE TSNへの対応は、新しいコントローラが目指す「多軸化」に不可欠な機能として、当初から要件に含まれていた。多軸を同期制御するという初期の目標は、このCC-Link IE TSNで達成できるが、100軸を超える多軸化のトレンドの中で、さらなる差別化につながる新たな機能を引き出せないか。その検討の中で浮上したのが、複数の通信周期を混在させる制御の実現だ。

3種類の演算周期を混在可能

高精度な制御が必要な軸だけを周期が速いグループに割り当てることで、遅いグループの軸数が多くなった場合でもその影響を受けずに済むようになる

制御する軸が多数になると、処理負荷の増大で単一の周期では制御が間に合わなくなるものが出てくることが予想される。しかし、制御の周期を落とせばシステム全体の性能が低下するため、多軸化は実現できても高性能化ができなくなる。高精度な制御が必要な機器に多軸化の影響が及ばないようにする方法の一つは、必要な周期に応じてネットワークを切り分けることだが、ネットワークが複雑化するため非現実的だ。しかしCC-Link IE TSNには、同じネットワークに複数の周期を混在させる機能がある。これを使えば、一つのネットワーク内で周期が速いグループと遅いグループに分けられるため、多軸化と高性能化の両立が可能になるだろう。

そのような機能の存在を、プロジェクトチームが知らなかったわけではない。しかし「仕様的に可能と分かっていたが、それを実装した例は見当たらない。実装するならソフトウエアの構造やアルゴリズムの変更などで工数が膨らむことが予想され、本当に実現できるのかためらっていた」と、モーション制御の開発を担当した日下部は打ち明ける。だが過去に例がないシステムの実現は、差別化の決め手になるのは間違いない。工数増のリスクを取ってでも挑戦する価値があるだろう。

機能実装を決めたのは2022年に入ってからのことだった。ハードウエア構成決定から3年近くも経ってから新たな機能実装を始めるのは、異例と言わざるを得ない。開発期間が延びてでもあがき続ける道を選んだ。

複数の通信周期の混在機能など、新たな機能の追加は開発が終盤にさしかかっても行われた

認証のために開発をやり直し

セキュリティ機能実装の面でもあがきは続いた。プロジェクトチームの拠点である名古屋製作所は2021年5月、サイバーセキュリティの国際標準規格「IEC62443-4-1」のプロセス認証を取得した。サイバーセキュリティを確保できる開発プロセスを実践している事業所として認証された形だ。

認証取得証明書の写真

サイバーセキュリティの国際標準規格「IEC62443-4-1」認証取得証明書

一方で新しいコントローラの開発は、その認証取得段階でかなり進んでいた。認証取得が後追いの形になったため、新しいコントローラが認証に基づいた開発プロセスを取っていると対外的に言えなくなってしまったのだ。新しいコントローラを複数の装置やラインを全体で統括する目的で導入する場合、管理部門が使う情報系など上位システムとの連携も必要になる。その場合システムは工場内で閉じたものではなくなるため、セキュリティ確保の仕組みが欠かせない。そのための機能開発は初期から進んでいたものの、認証がなくては説得力が失われてしまう。海外の営業拠点からも、国際標準規格への対応は求められていた。

「やり直すしかないね」。結局プロジェクトチームは、認証に則っていなかった部分をやり直すことを決めた。やり直しが必要な範囲はソースコードだけでなく設計書レベルにも及び、開発スケジュールがさらに厳しくなるのは必至だ。しかし敢えてその道を選択しただけでなく、製品単位での認証である「IEC62443-4-2」も同時に取得することにした。FA用のコントローラでIEC62443-4-2を取得した製品は、その時点で日本国内にはない。差別化のために“初物”にこだわった。

他社製品からの置き換えも始まる

新しいコントローラのシリーズは、「MELSEC MXコントローラ」と名付けられた。「製造業の抜本的な変革」という意の「Manufacturing transformation(x)」を込めている。同時にハイエンドモデルの「MX-R」とミドル/ローレンジモデルの「MX-F」というそれぞれのモデルの名前も決まった。開発作業も終盤にさしかかったが、こだわり続けたことで開発は遅れ気味になり、当初計画していた2024年度のリリースは難しくなった。

一方、海外拠点から名古屋製作所に戻ってきた渡辺や岡部は、開発メンバーを急かし続けた。彼らがいた海外拠点だけでなくさまざまな営業部門から、新しいコントローラの早期提供を求める声が日増しに強くなっている。特に中国では、リチウムイオンバッテリーだけでなく衛生用品やタイヤ成形機などの製造現場で新たな市場が盛り上がり始め、競合他社はそれらに向けた新たな製品展開を始めている。渡辺や岡部は開発メンバーのこだわりには理解を示しながらも、製品化を急いでもらう必要があった。

いち早くリリースするために、プロジェクトチームはサンプル品を一部ユーザーに提供することを決めた。サンプル品であれば2024年度中の提供は可能だ。ただしサンプル品はあくまでもサンプルであり、完成品ではない。完成品ではないことのリスクはユーザーだけでなく製品を提供する三菱電機にもある。それでも使ってもらうために、開発と営業が一体となり、万が一のトラブルに備えた強固なサポート体制を用意することにした。

リスクを取ってでも行ったサンプル先行提供は成功だった。「ユーザーは新しい機器をまずはテスト機に導入する。早期提供でテストの期間をより大きく取れるため、結果的に歓迎された」と渡辺は話す。その効果で他社コントローラからの置き換えも始まっただけでなく、「MX-Fは、モーション前提ならばiQ-Fよりコスト的に有利で、コストパフォーマンスを重視するユーザーに響いている」(岡部)という。

汎用マイコン採用決断から始まった次世代コントローラ「MX」の開発は、終始異例なことづくめだった。開発に携わった技術者は社内だけでも100数十人にのぼり、記述したコードの量など開発規模は過去最大級と言われている。その厳しい茨の道を選択したことが、MXの順調な立ち上がりという効果を生んだ。

メンバーは「他部門に提供する仕様書の書き方など、部門をまたぐ情報共有の進め方が分かった」(日下部)「面識のなかった技術者と苦労をともにし、つながりができた」(左右木)などとプロジェクトを振り返る。シーケンサやモーションなどを統合したMXは、ハードの融合という製品としての成果だけでなく、それぞれに関わってきた人材の融合と、それによる将来の可能性拡大という効果も名古屋製作所にもたらした。

開発プロジェクトメンバー。左から渡辺 新太郎、原田 大揮、杉山 佳大、日下部 真吾、左右木 洋希、岡部 嗣

製品・ソリューション紹介

MELSEC MX コントローラ

MELSEC MX コントローラ

長年にわたり積み上げてきたシーケンサの制御技術を1 台のコントローラに集約。シーケンス制御、モーション制御、ネットワーク制御をMELSEC MXコントローラのプラットフォーム上に統合することで、さらなる高速・高精度制御を実現します。

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