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読む宇宙旅行

ライター 林 公代 Kimiyo Hayashiライター 林 公代 Kimiyo Hayashi

火星で和食。主役は「カイコ」?

玄米ご飯にサツマイモの青菜付け煮、小松菜の味噌汁に酢味噌和え・・・(下の写真)。田舎のおばあちゃんの家で食べるご飯? いえいえ。火星産の食材で作る夕食メニューなのです。実は、サツマイモの青菜付煮とゴマクリームがけには、カイコのさなぎの粉末が入っている。月や火星基地、あるいは火星に向かう宇宙船で食べる食事メニューの動物たんぱく質源として今、カイコやいなごなどの昆虫を食材として使う研究が進められているのだ。

火星のある日の夕食メニュー。左上からゴマクリームがけ(虫入り)、さつまいもの青菜付け煮(虫入り)、青菜の酢味噌和え、玄米ご飯に味噌汁。これは片山さんらが開発した料理のごく一部。ほかにもライスバーガーや和菓子など多彩なメニューがある。かくし味はカイコ。カイコの味=火星の味になるんでしょうね。

「今日は、カイコのサナギを炒って粉末にしてケーキを焼いてきました」。10月27日(土)都内で開かれたシンポジウム※で、名古屋女子大学家政学部の片山直美講師は手作りのケーキをまず聴衆に勧めた。「しょうゆ味ときな粉味。クッキーも美味しいですが、今日はケーキを焼いてみました。さぁ、どうぞ。」満面の笑みに促されて口に入れる。小さな角切りのサツマイモがほっこり、玄米粉にカイコの粉が混ぜてあるというが言われなければわからない。しょうゆの香りと控えめの甘み、サツマイモと玄米粉でお腹もちもよさそう。どこか懐かしくてヘルシーな味だ。

片山さんら「宇宙農業サロン」のメンバーが目指しているのは、「ほっとする、楽しくおいしい宇宙食」だという。将来、月面や火星で暮らし始める時代には宇宙ステーションのように調理済みの宇宙食を持っていくことはできない。特に火星は往復3年もかかる。最初は水耕栽培で、最終的には火星の土で農業をし自給自足の生活をするのが望ましい。

これまでの研究で月面や火星の植物工場で生産可能とされているのは「玄米、さつまいも、大豆、青菜」。動物たんぱく質をどうとるかが問題だ。魚ももちろん考えられるが、片山さんらが注目したのが「カイコ」。「カイコのさなぎは良質のたんぱく質です。しかも宇宙船で運ぶときには小さな卵で育つと体重は1万倍に増え大量に収穫できる。牛や豚は育てるには大きすぎるし、ニワトリなどの鳥類は羽が抜けて漂うと宇宙船の中の空気フィルターに目詰まりを起こしてしまう。カイコは食料としてだけでなく、繭から絹がとれるから洋服も作れますよね」。

そもそも、人類は約5000年前に昆虫を日常的に食べていたことが人糞の化石からわかっているんだとか。ソウルの南大門市場ではオバサンがカイコのサナギを炒って売っているらしいし、エスキモーやアボリジニも昆虫を食べる。南長野では「鉢の子」が居酒屋のお品書きにも並んでいると聞く。原型を留めたままでは食べるのに勇気がいるが、粉末にしちゃえば大丈夫かも。お味は「えびに似ています」ということだ。

火星農場の最終的な理想の形は? 片山さん曰く、火星の田んぼに稲を植え、どじょうを育てる。(どじょうはビタミンB12が豊富)。田んぼの水面にはアカウキクサ。(火星の土に少ない窒素を火星の空気中から固定する)。「どじょうのシュウマイや餃子も美味しいし、農作業の後に飲むお酒も是非お米から作りたいですね。」とのこと。火星の夕日を眺めながら農作業後に、晩酌。火星の生活って意外にヘルシーで楽しみも多そうだ。

カイコのさなぎの粉末入りケーキ(お手製)を手にする名古屋女子大学の片山直美さん。「料理のコツはカイコのさなぎの皮ををとって中身だけ使うこと。黒くならず見た目はチーズのようになります。」