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読む宇宙旅行

2011年4月 vol.01

ガガーリンから半世紀。「伝統だけでない」ロシアの底力とは

宇宙船ガガーリン号と3人の米ロの宇宙飛行士たち。白衣を来てる人がちらっと見えるのが技術者たち。おばちゃんも多い。(提供:NASA)

宇宙船ガガーリン号と3人の米ロの宇宙飛行士たち。白衣を来てる人がちらっと見えるのが技術者たち。おばちゃんも多い。(提供:NASA)

 たかが半世紀。されど半世紀。ユーリ・ガガーリンが人類で初めて宇宙に飛び出した1961年4月12日から今年はちょうど50周年。この4月5日にはバイコヌール宇宙基地のガガーリンが飛び立った同じ番発射台から、3人の宇宙飛行士を乗せたソユーズ宇宙船「ガガーリン号」が打ち上げられた。ロケットの基本設計は50年前も今も変わらない。だがその目的は180度異なる。ガガーリンの飛行は米ソの宇宙レースで勝利を得るため。一方、今は米ロの宇宙飛行士が並んで座り、協力しながら国際宇宙ステーションを目指す。

 2007年4月に雑誌PENの取材でロシアを訪れたとき、私はガガーリンが遺業を達成したときの「実物」の数々と対面できた。もっとも印象的だったのは、ガガーリンが宇宙を往復したボストーク1号のカプセル。宇宙船メーカー・エネルギア社の博物館に飾られ、触れることができた。カプセルの断熱材は大気圏の熱で焼けこげ、中の繊維が露出しめくれあがっている。宇宙船の中をのぞくと、操作パネルがほとんどない!

 その謎は宇宙服メーカーズヴェズダ社で解けた。ガガーリン以前から宇宙服を作っている技術者ボリス・ミハイロフさん(1930年生まれ)がガガーリンが座った「椅子」を詳しく説明してくれたのだ。当時のソ連には宇宙船を軟着陸させる技術がなかった。地面に激突するとガガーリンが大怪我をするため、着陸直前の高度7kmで椅子ごと脱出、さらにパラシュートを開くことにしたという。驚くのはすべての動作が自動化されていたこと。「人類初の宇宙飛行で何が起こるか予想できませんでした。ガガーリンが気絶しても帰還できるように作らなければならなかったのです」。ガガーリンは座っているだけでよかったということになる。実際にはガガーリンは意識を失うことなく、宇宙から見た地球の姿を伝え、人類初の宇宙飛行は大成功を納めた。

エネルギア博物館にあるガガーリンカプセルの実物。耐熱材が剥がれてボロボロになっている。右横にあるのが脱出椅子。

エネルギア博物館にあるガガーリンカプセルの実物。耐熱材が剥がれてボロボロになっている。右横にあるのが脱出椅子。

 ロシア宇宙開発の特徴は、ミハイロフ氏のように黎明期を知る人物が今も現役であり、技術が受け継がれていること。4月3日に放映された某TV局の宇宙特番でロシア取材を担当したディレクター、Oさんからも同様の話を聞いた。「ズヴェズダ社にはガガーリンが訓練のために乗った遠心加速器があり、今も宇宙飛行士訓練に使われています。実際に乗らせてもらったら3Gで目が泳いでしまいましたけどね(笑)。また1957年に宇宙を飛んだ犬のライカの世話をした女性は今も医学生物学研究所で働いています。」

ソユーズ宇宙船のシミュレーターで訓練を行う古川飛行士(奥)。古川さんは緊急事態でかつ船長が操縦できなくなった場合に操縦を担当するフライトエンジニア。(提供:JAXA/GCTC)

ソユーズ宇宙船のシミュレーターで訓練を行う古川飛行士(奥)。古川さんは緊急事態でかつ船長が操縦できなくなった場合に操縦を担当するフライトエンジニア。(提供:JAXA/GCTC)

 でも伝統だけではないとOさんは言う。「宇宙服も宇宙船も改良を重ねて、アナログとデジタルがうまく融合されているんですね」。そうなのだ。宇宙開発=最先端のイメージがあるが、命の危険を伴う宇宙で何より求められるのは失敗しない「高い信頼性」だ。だから基本部分には「使い古された」技術が用いられる。その上で最新技術を駆使して改良を重ね、使い易くする努力を怠らない。このあたりがロシアの技術が長く生き残る秘訣と言えるだろう。

例えば、この5月末に古川飛行士が乗るソユーズ宇宙船は最新型のソユーズTMA-M。メインコンピューターを小型の高性能仕様に変えデジタル化し、60〜70Kg軽くなった。その分荷物が積める。また複数の操縦画面が一つにまとめられ、「ユーザフレンドリになった」と古川さんはいう。ロシアの船外活動用宇宙服オルランも最新型MKになり、宇宙服のシステム情報が液晶パネルに表示されるなど、見た目よりずっと最先端である。

最新型船外活動用宇宙服オルランMK。宇宙服メーカー・ズヴェズダ社で。見た目はごついが、着心地は案外いいらしい。

最新型船外活動用宇宙服オルランMK。宇宙服メーカー・ズヴェズダ社で。見た目はごついが、着心地は案外いいらしい。

 半世紀にわたり、有人宇宙開発の先駆者として着実に実績を積み重ねてきたロシアだが、月へも火星へもまだ人を送り込んではいない。ズヴェズダ社には月面用宇宙服クリーチェットが展示されていた。「レオーノフ(宇宙飛行士)が着る予定だったのに」とミハイロフさんはとても残念がっていた。米ソの宇宙開発レースの時代、ロシアも月面着陸を目指して宇宙服を開発し、宇宙飛行士の訓練も行われていたが、計画は頓挫した。4月7日、ロシアのプーチン大統領は宇宙開発で世界をリードする意欲を見せた。アムール州で建設中のボストチヌイ新宇宙基地は2018年に有人宇宙船を打ち上げる予定。月や火星への有人宇宙飛行も視野に入れる。月探査が可能な次世代型有人宇宙船の話題は以前から聞こえていたが、予算をつけ実現させるか要注目だ。

この半世紀、宇宙に500人以上の人間が飛び出した。だが最も遠くて月まで。つまり地球の重力圏の外には出ていない。「地球重力圏を出なければ本当の宇宙旅行とは言えない」とJAXAの川口淳一郎教授は言う。次の半世紀、人類は月から小惑星、火星へと飛び出していけるのか。その鍵を握るメインプレーヤーの一つがロシアであることは間違いない。