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読む宇宙旅行

2011年7月 vol.01

宇宙生活で避けられない宇宙放射線。その傾向と対策は?

古川飛行士が手に持っているのは、「きぼう」内の放射線量を計る装置。宇宙での初仕事が放射線計測とは、いかに大事な仕事かわかりますよね。(提供:JAXA/FSA)

古川飛行士が手に持っているのは、「きぼう」内の放射線量を計る装置。宇宙での初仕事が放射線計測とは、いかに大事な仕事かわかりますよね。(提供:JAXA/FSA)

6月10日から国際宇宙ステーション(ISS)で生活を始めた古川聡宇宙飛行士。14日にはツィッターで「ウゲー、気持ち悪くて吐き気がする」と宇宙酔いを告白。すかさず「脳が無重量状態に適応する過程」と医師の目で客観的につぶやく。宇宙で起こる身体感覚を主観的に、かつ客観的に語れるのは、医師の古川さんの真骨頂。今後も楽しみである。

 宇宙酔いは自分の身体で実感できるが、実感しにくいのが宇宙放射線だ。古川さんも「ISSの被ばく線量は地球よりも数百倍高いです。(中略)ISSでの被ばくは1日0.5-1mSvと評価されていて、私の滞在5ヶ月半では150mSv程度の被ばくと言われます」とつぶやいている。2008年に宇宙飛行した土井飛行士は「眠る前、目をつぶると目の中の色々な場所に光が見えた。放射線だと思う。白かったり色がついていたり。軌跡が見えることもあった。10〜15分に1回ぐらいかな」と教えてくれた。結構な頻度で見えるのだな、とその時に思った覚えがある。

 地上の数百倍って大丈夫なの?と心配になるかもしれない。だが宇宙飛行士がどんな放射線をどれだけ浴びているかは計測され、制限値が決められている。まず宇宙の放射線環境は地上とどう違うのだろう。地球では、大気が宇宙放射線からの直接の被ばくを守っているけれど、ISSが飛行する高度300〜500km付近は、広いエネルギー領域の様々な粒子があらゆる方向からやってくる。放射線源は大きく3つ。太陽、銀河、放射線帯(ヴァン・アレン帯)だ。さらに太陽活動は一定ではない。活動期に太陽フレア(爆発)が起こると大量の太陽粒子線がやってくる。太陽活動を常にウォッチしておく必要がある。

 宇宙放射線の計測はどのように行っているかと言えば、リアルタイムで行う計測と、計測装置を回収後に地上で解析を行うものがある。例えば太陽―地球の宇宙環境やISS船内の放射線環境はリアルタイムで地上からモニタされている。大規模な太陽フレアなどが起こると、ISSの壁の厚い場所(ロシアサービスモジュール後方)に避難させたりする。また、30日間の予測で250mSv、1年間の予測で500mSvを越える恐れのある場合には緊急帰還させることになっているが、これまで帰還した飛行士はいない。

 宇宙飛行士一人一人も線量計をつけているが、地上に帰還後に積算線量を調べる。線量計では日本製の「PADLES」が活躍している。宇宙飛行士がつけるタイプ、日本実験棟「きぼう」におくタイプ(船内17カ所に設置)、生物実験装置の近くにおくタイプの3種類があり、ISSで使われる各国の線量計のうち、もっとも精度が高いことが実験で確認されている。ただしどれもリアルタイム計測は行えず、回収後に線量解析を行う。JAXAではリアルタイムで「きぼう」内の放射線計測を行う装置を2013年に打ち上げる計画だ。

こんな実験も!人体模型を使って臓器が受ける放射線被曝量を測る日本、ヨーロッパ、ロシアとの共同「マトリョーシカ実験」。2010年5月から行われた。(提供:NASA)

こんな実験も!人体模型を使って臓器が受ける放射線被曝量を測る日本、ヨーロッパ、ロシアとの共同「マトリョーシカ実験」。2010年5月から行われた。(提供:NASA)

 宇宙飛行士が浴びる放射線の制限値は、国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告をもとにJAXAが日本独自の規定を決めている。生涯であびる線量の制限値は年齢と性別によって異なり、古川さんは40歳以上なので生涯線量の制限値は1200mSv(ミリシーベルト)。若い程制限値は低く、27歳〜29歳の場合は生涯で600mSvだ。(初飛行後、3年に1回搭乗程度の場合)。また骨髄、水晶体、精巣など組織・臓器別に1週間や1年間など期間別の線量制限値が決められている。この基準は国内の法律で、例えば原子力発電所で働く作業者の方の放射線量基準(5年平均で20mSv/年、1年最大50mSv/年、18〜65歳の就業期間で約960mSvなど)と同じ考え方で決められている。発ガンリスクは約3%増加するが、過去長期間にわたり宇宙滞在した米ロ宇宙飛行士でも発ガンした例は報告されていないという。

 宇宙放射線の影響は微少重力との相乗効果もあるし、細胞には放射線で受けた遺伝子の傷を修復する能力もあると言われ、未解明の部分も多い。そこで分子、細胞、組織、固体レベルで何が起こるのか解明しようという生物実験が宇宙や地上で行われている。例えば地上で、宇宙で浴びるのと同等の放射線を、培養細胞とメダカに長期間当てたところ、過剰に発現する遺伝子が14個、抑制される遺伝子が18個見つかったという。この結果を宇宙実験に反映させる。宇宙放射線に関する研究では、日本は最先端を走っており、2011年以降はメダカ精子やマウス卵を用いた実験を「きぼう」で行う予定だ。

 宇宙放射線はまだよくわからない。だからこそきちんと計測して、実験でメカニズムを調べる必要がある。宇宙で生きていくなら避けられない相手。だったら危険な点も含めて正しく知って、対処とつきあい方を学ぶべきだろう。