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読む宇宙旅行

2013年8月8日

「こうのとり」4号機打ち上げ成功、次の課題は回収!?

8月4日、未明の空に閃光を放ち、「こうのとり」4号機を載せたロケットが飛び立った。(提供:JAXA)

8月4日、未明の空に閃光を放ち、「こうのとり」4号機を載せたロケットが飛び立った。(提供:JAXA)

 8月4日午前4時48分、「こうのとり」4号機を載せたH2Bロケットが種子島から国際宇宙ステーション(ISS)に向けて打ち上げられた。15分後、「こうのとり」4号機は予定通り切り離され、打ち上げは成功!

 今や、「こうのとり」は安定した「宇宙への宅配便」として米国やロシアという宇宙大国から絶大な信頼を得る。しかし、開発初期は「日本に本当にできるのか?」とNASAの信頼を得るのに苦労したという。JAXA宇宙船技術センターの麻生大さんがプロジェクトに入った2006年頃は初号機打ち上げの3年前であり、NASAとの技術交渉は佳境を迎えていた。

 「どんな事態が起こっても『こうのとり』は安全で、ISSに危害を加えないことを証明するために、会議のたび膨大な解析とデータの提出を求められました。『そんなことがあり得るのか?』と思うケースへの対策も考えるようにと。厳しかったですね。有人宇宙開発の安全性とはどういうものか、改めて思い知らされました」と麻生さんは振り返る。

 「こうのとり」は無人宇宙船だが、宇宙飛行士が暮らすISSにドッキングするため、有人宇宙船と同様の安全性が求められた。日本はNASAに鍛えられながら、宇宙船技術を蓄積していった。同時に、「(日本だけでなく)NASA側も学んだのです」と麻生さんは言う。NASAは、いったい何を学んだのか。

 「スペースシャトルが引退した後、NASAはロシアに人や物資の運搬を任せていました。日本と米国の民間会社の輸送船のうち、先に開発に着手したのが『こうのとり』です。どんな方法でISSに近づいたら安全なのか、徹底的に検討した結果、NASAも『こうのとり』方式が一番安全だと学んだ。だからこそ、後続の米国の民間宇宙船も我々とまったく同じ方法で接近することになったのです」

2012年10月末、ISSから地上に帰還した米民間企業の宇宙船ドラゴン(提供:NASA)

2012年10月末、ISSから地上に帰還した米民間企業の宇宙船ドラゴン(提供:NASA)

 「こうのとり」が先駆け成功したISSへの物資運搬方法。ところがISSから物資を持ち帰る「回収」については、後発の米民間宇宙船「ドラゴン」が先に実現した。これは悔しい。

 「こうのとり」は7号機までISSに物資を運搬することが決まっている。だが回収についてGoは出ていない。しかし「世界情勢が変わって、回収技術のGoが出たとき『明日やりましょうか?』と言えるよう研究は進めています」という麻生さんは「現実的に可能」と自信を見せる。日本は、宇宙からの帰還時に地球大気圏に再突入する技術はある。課題は再突入後に、「狙った場所に落とす制御技術」だ。

 例えば、ISSで実験を行った後の生物試料を積んだ回収カプセルがどこに落ちるかわからなければ、広い範囲を探し回るか、もしくはたくさんの船や車両を準備しなければならない。一方、数kmの範囲内にピンポイントで落とすことができれば、すぐに回収できてサンプルは良好な状態が保てるし、回収の時間も燃料も節約できる。

 この回収技術の研究に役立てるため、「こうのとり」3号機には再突入データ収集装置i-Ballを搭載し、「こうのとり」が大気圏突入時に燃え始める高さや、燃え尽きる範囲を把握した。4号機では再び、i-Ballを搭載し観測すると同時にISSから宇宙飛行士が写真を撮り、「こうのとり」が燃えて分解していく様子を光の点として撮影し、両者のデータを合わせることで、より細かく正確にデータをとる予定だ。

「こうのとり」を利用したISSからの物資回収の研究が続いている。写真は「こうのとり」で ISSから物資を回収する一案。(提供:JAXA)

「こうのとり」を利用したISSからの物資回収の研究が続いている。写真は「こうのとり」で ISSから物資を回収する一案。(提供:JAXA)

 麻生さんは「こうのとり」を次世代の宇宙船につなげるためにも、回収の技術を蓄積することが大事だと考えている。

 「あくまで私見ですが、『宇宙開発をやる=回収する』と言っていいぐらい、人や物を宇宙に送り出すなら、地上に帰す技術は絶対に必要です。早く技術を習得しないと、日本は取り残されることになる」。狙った場所に落とす技術は、安全保障にも関わる分野であり、他国は既に技術の習得に着手し始めている。現場の技術者は焦りを隠さない。「こうのとり」7号機までの間に、ぜひとも回収実験が行われることを期待したい。