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読む宇宙旅行

2014年12月22日

狙え、優勝!日本の「ハクト」が月面レースに挑む理由

 月に見立てた砂丘を月面ローバー「ムーンレイカー」が時速約100mでゆっくりと進んでいく。砂に埋もれず斜面もずり落ちることなく安定した走り。10cmほどの岩も確実に乗り越えていく。さらに、子ローバー「テトリス」をテザー(ひも)でつなぎ、高さ10mほどのがけから降ろし、また引っ張り上げる。月での探査が達成できることを、多くの報道陣の目の前で証明してくれた。正直、期待以上の走り。しかも小型でキュート!

 2014年12月18日(木)、浜松市の中田島砂丘で、民間月レース「グーグルルナXプライズ」に参加する日本チーム「ハクト」が走行試験を行った。レースでは2016年末までに月にローバーを送り込み、①500m走ること、②高解像度の動画・静止画データを地球に送信すること、の条件を一番早く達成したチームが賞金2000万ドルをゲットできる。世界18チームが参戦中。日本チーム「ハクト」は月に打ち上げる準備がほぼ整った「中間賞」候補の5チームに選ばれている優良チーム。中間賞を獲得するための走行試験が審査員と報道陣を前に、この日公開されたのだ。

左:月着陸機から出てきたハクトの月ローバー「ムーンレイカー」<br />中:砂地もめり込まず進む。大きさは48cm×60cm×高さ54cm。重さ8kg。右:車輪直径は20cmで10cmぐらいの岩は乗り越えられる。前方にレーザレンジファインダーがあり、障害物を検知。上に360度カメラ。

左:月着陸機から出てきたハクトの月ローバー「ムーンレイカー」
中:砂地もめり込まず進む。大きさは48cm×60cm×高さ54cm。重さ8kg。
右:車輪直径は20cmで10cmぐらいの岩は乗り越えられる。前方にレーザレンジファインダーがあり、障害物を検知。上に360度カメラ。

 車輪は3Dプリンターで製作、ボディはCFRP製で持ち上げるととても軽い。レーザーで前方の障害物を検知して自分の判断で止まる。また親と子2つのローバーを組み合わせて深さ100mまで降ろし、月の地下に広がる「縦孔」を調査しようという独自の探査ミッションをもっているのもユニークな点だ。開発リーダーは小惑星探査ロボットや超小型衛星などで実績豊富な東北大学の吉田和哉教授。「小型・軽量。能力の高さが特徴。他チームのロボットはまだまだ大きい」という。しかもライバルチームより走行スピードも速いそう。優勝候補の筆頭だ。

左:ローバーから送ってくる映像やデータを元に、コントロールルームから遠隔操作中。月−地球間の往復の通信時間3秒の遅れも模擬。右:ローバーの360度カメラで撮影した映像。このような高解像度の映像が本番でも送られてくる予定。(提供:HAKUTO)

左:ローバーから送ってくる映像やデータを元に、コントロールルームから遠隔操作中。月─地球間の往復の通信時間3秒の遅れも模擬。
右:ローバーの360度カメラで撮影した映像。このような高解像度の映像が本番でも送られてくる予定。(提供:HAKUTO)

左:ムーンレイカーが子ローバー「テトリス」を引っ張って進む。右:テトリスはテザーを伸ばし、高さ約10mのがけを降りていく。テザーは防弾チョッキにも使われる素材で100mまで伸ばせるとか。(提供:ビューンワークス)

左:ムーンレイカーが子ローバー「テトリス」を引っ張って進む。
右:テトリスはテザーを伸ばし、高さ約10mのがけを降りていく。テザーは防弾チョッキにも使われる素材で100mまで伸ばせるとか。(提供:ビューンワークス)

○30億円かけて月に挑むのはなぜ?

 レースの舞台は月だ。2つの月面車を月に運ぶにはロケットや、ローバーを載せる着陸機を調達しなければならない。それらを含めると全部で約30億円の費用がかかるという。たとえ優勝しても賞金約20億円ということは、赤字。そんな大金は集まるの?そもそも何故そこまでして挑むのか。

ハクトチームの皆さん。デザイナー、技術者など様々な分野の人たちが集まり楽しく活動するのがハクトの特徴。女性も多く、結婚に結びついたカップルも!チーム名ハクトもみなで決めたが「ちょんまげスペース」というアイデアもあったとか(笑)。前列左から二人目が東北大学の吉田和哉教授。

ハクトチームの皆さん。デザイナー、技術者など様々な分野の人たちが集まり楽しく活動するのがハクトの特徴。女性も多く、結婚に結びついたカップルも!チーム名ハクトもみなで決めたが「ちょんまげスペース」というアイデアもあったとか(笑)。前列左から二人目が東北大学の吉田和哉教授。

 ハクト代表の袴田武史さんによると、このレースは「技術レースであるとともに資金調達レースでもある」。資金は企業スポンサーや投資家からの出資を考えているとのこと。まず中間賞を獲得することで、実現可能であることを立証してみせる。さらに「投資家の皆さんへは、月レースの先にある事業計画も含めて投資をお願いしている」という。

 月レースの先にある事業計画とは何なのか。「民間の力で宇宙開発を、世の中を変えたい」と袴田さん。宇宙開発はお金と時間がかかるというイメージがある。ハクトと同じようなローバーを国家プロジェクトで開発すれば資金は10倍以上、時間も倍以上かかるだろう。民間の力を活用すれば「安く」、「早く」開発できる。

 実際に月でローバーが走るところを全世界に見せられれば、宇宙開発に参入したい新興国に月探査ロボットを提供することにつながるし、さらに小惑星や火星に何百台もの小型ローバーを送り込み、どこにどんな資源があるか「宇宙資源をマッピングすることも可能」(袴田さん)。もちろん地上でもメンテナンスなど様々な分野にも活用できる。宇宙の資源探査は既に米国のベンチャー企業によってスタートし、「現代版ゴールドラッシュ」のような状況になりつつあるそうだ。他チームもそれぞれのビジネス構想を持ち、レースに参加している。つまり月レース参加はゴールではなく、あくまで「通過点」なのだ。

走行実験の前は様々な試験をくり返した。写真は月の温度環境を模擬した熱真空試験で。右端がハクト代表、袴田武史さん。

走行実験の前は様々な試験をくり返した。写真は月の温度環境を模擬した熱真空試験で。右端がハクト代表、袴田武史さん。

 袴田さんは2013年、ハクトチームの代表を引き受ける際、務めていたコンサルタント会社を退職し、宇宙開発ベンチャー「ispace(アイスペース)」を起業した。しかし「最初の一年は本当に厳しかった」という。資金調達のため1年弱で100人以上に会い、大企業の社長宛に200通以上の手紙を書いたが、投資家の数も米国に比べて圧倒的に少ない日本ではなかなかいい出会いがなく、預金残高が1万円を切ったことも。辞めることも考えたが「あと1〜2ヶ月頑張ろう」と決めた2013年末、テレビ出演がきっかけで投資の話が進み始めた。

 現在、月ローバー打ち上げの資金調達は、目処が立ちつつある。その鍵を握る中間賞の審査は報道公開翌日の19日、実際に月で走る距離500mを完走した。「中間賞獲得、そして優勝により大きく近づいた」と吉田教授。気になる中間賞発表は2015年1月26日。そしていつ、どのロケットで打ち上げられるかは現在、調整中で2015年上期の発表予定だ。他チームも打ち上げロケットの調達に苦労しているので、同じロケットに「相乗り」して費用を分担し月に向かう可能性もある。中間賞の審査員デイビッド・スワニソン氏は「ハクトは目標設定も開発プロセスもデモンストレーションも素晴らしい。民間技術は低コストでイノベーションを確実にもたらすだろう」と期待する。

 月レースの期限は当初予定の2015年末から2016年末に延期されたが、ハクトは2015年秋までに準備し打ち上げを待つ予定だ。月を走る日はもうすぐ。その日が待ちきれない!