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読む宇宙旅行

ライター 林 公代 Kimiyo Hayashiライター 林 公代 Kimiyo Hayashi

天文学者が語る映画「スター・ウォーズ」とリアル惑星

二つの太陽をもつタトゥイーン 映画から34年後現実に。

2015年は約10年ぶりにSF映画「スター・ウォーズ」新作が公開されるスター・ウォーズ・イヤー。ストーリーはもちろん、舞台となる様々な惑星や衛星、そこに生きる摩訶不思議な生命体も本作の見どころ。「こんな惑星あるの?」と想像力を掻き立てられた方も多いのでは?「実は『スター・ウォーズ』は実際の天文学の先を行っていた」と語るのは国立天文台の二人の天文学者たち。5月4日に開催されたイベント「スター・ウォーズ展開催記念 宇宙に広がる不思議な惑星たちの世界」(主催:六本木天文クラブ)は、SFの天文学が互いに追いかけあう様子を垣間見ることができた。

最初に登壇したのはランドック・ラムゼイ博士。趣味はSFを書くことで実際に書籍も出版している!ラムゼイさんがまず取り上げたのは主人公ルーク・スカイウォーカーの生まれ故郷、惑星タトゥイーン。砂漠の惑星だが、二つの太陽があるのが特徴だ。「ジョージ・ルーカスが映画を製作するとき、地上とは異世界を描こうとして何か(象徴的なもの)が欲しかった。そこで二つの太陽が科学的に可能か天文学者に聞いたところ『難しい』と言われたそう。でも実際に2011年、双子の太陽をもつ惑星が発見されたのです」

映画が作られたのは1977年で、この頃はまだ太陽系の外の惑星は一つも発見されていなかった。最初の系外惑星が発見されたのは1995年、そして二つの太陽を持つ惑星が発見されたのは2011年のこと。ケプラー16bだ。NASAの発表文には「スター・ウォーズのタトゥイーンのように二つの太陽を持つ。だがタトゥイーンとは異なりこの惑星は寒いガス惑星だ」と書かれている。「複数の太陽を持つ惑星はこれまで約10個見つかっている。中には4個の太陽があって夜が来ない日がある惑星もある。どんな生物が生存しうるかSFの観点から興味深い」とラムゼイさんは楽しそうに話す。

上:国立天文台のランドック・ラムゼイさん。趣味はSFを書くこと。下:実際に系外惑星の観測を行っている、国立天文台/アストロバイオロジーセンターの成田憲保さん。
二つの太陽をもつケプラー16bは2011年にNASAのケプラー探査機によって発見された。画像はイメージで黒い天体がケプラー16b。「私たちの銀河系の中で、もっとも惑星タトゥイーンに似ている」とNASAも認める。 (提供: NASA/JPL-Caltech/R. Hurt)

まるで「デス・スター」 土星の衛星ミマス

スター・ウォーズと言えば宇宙要塞「デス・スター」はもっともインパクトのある天体だが、映画ができて3年後の1980年、惑星探査機ボイジャーによってデス・スターそっくりの天体の写真が撮られた。土星の衛星ミマスだ。直径は400kmぐらいの小さな天体だが巨大クレーター・ハーシェルが三分の一を占め、真中の山は標高約7キロにもなる。アンバランスな天体である。

また、ラムゼイさんが面白い惑星として例を出したのは、「エピソード3」でオビ=ワンとアナキンが死闘を繰り広げた「ムスタファーの決闘」の舞台となった火山と溶岩の惑星。これはまるで木星の衛星イオだと。衛星イオは宇宙からも激しい火山活動がわかり溶岩を噴き出していることが観測された。つい最近も地球から40光年の彼方にある「かに座55番星e」という太陽系外惑星で、大規模な火山活動が起きているかもしれないという発表があり、興味深い。

宇宙要塞デス・スター? いえ、これは土星の衛星ミマス。(提供:NASA/JPL-Caltech/Space Science Institute)
「エピソード3」でオビ=ワンとアナキンは火山と溶岩の惑星ムスタファーで死闘を繰り広げた。木星の衛星イオはその舞台にぴったり、とラムゼイさん。(提供:NASA/JPL/University of Arizona)

ラムゼイさんによれば、恒星の周りを回らず真っ暗な宇宙に浮かんでいる惑星や、質量が地球の300倍、半径は5倍で密度が大きく、内部は炭素が結晶化してダイヤモンド状になっていると考えられる惑星(PSR J1719-1438 b)など宇宙ではSF的に面白いリアルな惑星が次々発見されているというのだ!

太陽系の惑星は標準なの?

そこで実際に系外惑星の観測を行っている、国立天文台/アストロバイオロジーセンターの成田憲保博士から、現在までに見つかった系外惑星の最先端の研究成果と、今後の観測計画についてお話があった。

成田さんによれば、1995年、最初に発見された系外惑星は「不思議な惑星」だったという。太陽のすぐ近くを回る巨大なガス惑星。4.2日で恒星の周りを一周してしまう。太陽系で一番内側の水星でさえ1年は88日だから、どれだけ近くを回っているかわかりますよね。表面温度は1000度以上。木星ほどの大きさがあることから「ホットジュピター(灼熱の木星)」とニックネームがつけられた。

その後も、まるで彗星のように楕円軌道を描く「エキセントリック・プラネット」や、「タトゥイーン」のように二つの太陽を持つ惑星、太陽の公転方向と逆行する惑星(逆行惑星)など、太陽系の常識では考えられない惑星が次々見つかった(逆行惑星は、2009年に成田さん自身が世界で初めて発見したものだ)。宇宙にはなんと多様な惑星が満ち溢れていることか。NASAの系外惑星探査用のケプラー衛星が打ち上げられると、爆発的に発見数は増え、これまでに4000個以上の系外惑星候補が発見されている。その中には地球のように惑星の表面に液体の水が存在する可能性がある「ハビタブルゾーン(生命居住領域)」にある惑星も見つかっている。

「第二の地球」を探せ!

だが、ケプラー探査機が観測したのは広大な宇宙の中で、はくちょう座付近の狭い領域に過ぎない。その範囲で4000個以上の惑星候補が発見されたのだから、宇宙には惑星があまねく存在することになる。では「第二の地球」はあるのだろうか?「第二の地球の定義は、岩石でできていて恒星からの距離がちょうどよく、液体の水が豊富にあること」だと成田さんはいう。「ただし、惑星について調べるには太陽系にもっと近い惑星を調べる必要がある」と。

そこでNASAが2017年に打ち上げを予定しているのが「TESS」(全天トランジットサーベイ計画)だ。日本の研究者も成田さんを含め4人が参加している。TESSでは太陽系に近い恒星(主に低温度星)の惑星をくまなく調べ、地上の望遠鏡とも連携して、第二の地球を探す。「第二の地球候補天体」が発見されたら、2020年代にハワイで稼働予定の30m望遠鏡TMTを使って惑星の大気を観測し、どういう大気をもっているのか調べる。ここが肝だ。「今まではSFが先行していましたが、これからは科学の観点から宇宙に生命がありふれているか否かがわかってくるでしょう」と成田さん。面白い時代になりましたね!

2017年、NASAが打ち上げ予定のTESS。第二の地球が見つかるのはそう遠くないだろう。(提供:NASA)

都会のど真ん中で宇宙に親しむ

ところで、このイベントを主催したのは六本木天文クラブ。都会のど真ん中、六本木ヒルズの49階で開催されたイベントだ。約200人もの老若男女が熱心に耳を傾けていた。企画したのは東京大学特任准教授で天文学普及プロジェクト「天プラ」代表の高梨直紘さん。同クラブでは六本木ヒルズのスカイデッキでの天体観望会や第一線の天文学者らのイベントが定期的に開催されているという。仕事帰りに立ち寄る人も多く、特に女性が多いそうだ。「忙しい日常に少し行き詰まったら、視点を広げて、自分の立ち位置を見つめなおす。宇宙の話題は、そういうニーズにもものすごく合うようです」。六本木の星空、一度見てみたいですね。