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ライター 林 公代 Kimiyo Hayashiライター 林 公代 Kimiyo Hayashi

大学生が作る宇宙フリーマガジン「TELSTAR」が拓く未来

大学生が高校生に向けて発行する「TELSTAR(テルスター)」という宇宙フリーマガジンを知ってますか?2013年4月創刊。年4回、1万部発行。高校生以下無料。A5版オールカラー約36p。2015年「みんなの夢AWARD フリーペーパー部門」 グランプリ、2016年「学生団体総選挙フリーペーパー部門」準グランプリなど受賞多数。この出版不況のご時世に一万部発行、オールカラーなのに無料なんて、スゴクないですか?どれだけエネルギッシュなんだろう。

まず「切り口」がユニーク。例えばこの4月頭に出る最新号(14号)の特集は宇宙飛行士。と言っても宇宙飛行士を真正面から取り上げるのではない。宇宙に漠然とした興味を持ちながら進路に悩む高校生にも役立つよう、宇宙飛行士の活動がどんな学問とつながっているかを紹介している。具体的には医学、栄養学、熱工学、通信工学など、様々な学問によって宇宙飛行士が支えられていることを、イラストや写真と共に説明している。

ページをめくっていくと、宇宙を学べる大学や研究室を紹介する「うちゅうけん!」や衛星ができるまでについての連載など取材、インタビュー記事もある。どの頁もイラストが豊富でレイアウトに工夫があり、宇宙の楽しさを伝えたい!という想いが誌面から溢れている。そのクオリティの高さ、熱量の大きさに驚く。

4月頭に出る14号の表紙。(提供:TELSTAR)
TELSTARバックナンバー。人工衛星や宇宙建築、「今さら聞けない宇宙のコト」など特集テーマもバラエティに富み、思わず手に取りたくなる表紙デザインも特徴。
TELSTAR11号の特集は「いにしえから見上げた宇宙」。文学や歴史、暦など文系的なアプローチで取り上げ好評だった。「世界の言葉で3・2・1・発射!」(TELSTAR6号)などちょっと人に話したくなるような記事も豊富。(提供:TELSTAR)

しかし、イラストが多くかなり製作費がかかるのでは。。。と思ったら「美大の学生がメンバーにいて、イラストやデザインを担当しています」と編集デスクの土谷純一さん(早稲田大学大学院)が教えてくれた。そうか!美大の学生と議論しながら一緒に作るからこそ、文章とマッチしたイラストを作りこむことができるし、難しい印象を与えがちな宇宙の話題を楽しく美しく魅せられるわけだと膝を打つ。これはTELSTARの強みだろう。

「TELSTAR」代表であり芝浦工業大学3年生の吉田華乃さんは、団体の目的についてこう話す。「宇宙に興味を持つ高校生から『航空宇宙学科ってどう入るんですか』とよく聞かれます。大学で航空宇宙学科に入って、JAXAに行かないと宇宙に関われないと思いこんでいる子が多いんです。実際には生物とか建築とか、いろいろな分野が宇宙と関わっていることを当たり前に知らない。親にも『どうせ宇宙の仕事なんてできない』と言われる。大人にも偏見があるんですね。偏見をなくすためにも高校生に宇宙の魅力をアピールして、たくさんの分野が宇宙と関わっていること、自分の好きな分野で宇宙に関われるということを伝えたい」。

冊子や活動で次世代を教育することで、宇宙を担う人材をより多くの分野を増やし、『宇宙を日本の基幹産業にしたい』というでっかい目標を掲げている。

宇宙広報団体TELSTAR代表 吉田華乃さん。2月のミーティングで。前日は京都大学のイベントに自腹で出張。「エネルギッシュな人」(メンバー談)。「大学生になってTELSTARを知ったとき、進路に迷っていた高校の時にあればと悔しかった。TELSTARを10年続くまっとうな学生団体にするのが目標。就活も同時進行中。

毎日曜日にミーティング。「キツイけど面白い」

さて、大きな目標を目指す道のりは、地道な作業の積み重ねだ。これが聞けば聞くほど大変だった。

メンバーは毎年入れ替わるが、20校以上の大学から約50人が参加している。女性が半分以上いて、理系/文系では理系の方が多い。美大の学生も10人以上。基本的に全員で制作に関わる。取材したり調べたりして記事を書く記者と、記者が書いた原稿を編集する編集担当がページごと、あるいは記事ごとにペアを組む。そして冊子全体をみるデスクがいる。

14号の特集には記者と編集で合計約20人が担当した。2014年にTELSTARに入り、現在は編集デスクである土谷さんの話で何度も出てきたのが「冊子のクオリティを落としたくない」という言葉。メンバーにはJAXA宇宙科学研究所の博士課程の学生もいて、記事に間違いがないか確認するし、取材先には原稿をチェックしてもらう。文章については「わかりやすいか、伝わるか、かなり真っ赤にします(笑)」そういう土谷さん自身も最初に記事を書いたときには、全部直されてしまったそうだ。

3か月に1回の発行はかなりキツイ。テスト期間以外は、毎週日曜日の午後にミーティングをしている。会って作業するのが一番効率的だからだ。でもサークルを掛け持ちしている人もいればバイトをしている人もいて、TELSTARにどこまで時間を割けるかは人によって違う。中には辞めていく人もいる。続けていくモチベーションを土谷さんに尋ねると「日本で宇宙開発と天文の両方を毎回扱う冊子はTELSTARしかない。きついこともあるけど、やっていて面白い」と答えてくれた。土谷さん自身、大学では航空宇宙を学んだが大学院ではジャーナリズムコースを専攻。TELSTARとの出会いが進路を変えてしまったと言える。現在、就活中であり、TELSTARの財産である「クオリティの高さ」を後輩たちにどう引継ぎしていくかという課題に直面している。メンバーへの編集教室を計画中だ。

編集デスクの土谷純一さん。ツイッターでTELSTAR宇宙情報 @telstar_newsを毎晩発信。「ネットで『宇宙』と入力して検索したら、オカルト記事ばかりヒットしてちゃんとした宇宙開発や天文の記事が出てこなかったのがきっかけ。自分で読んでいいと思った記事を紹介したいと思って始めました」。

配布—毎回50~100件の電話

議論を重ね、苦労して作り上げたTELSTARを配布するのも大事な活動。その配布担当が津田塾大学2年生の加藤美央さん。高3の夏に参加したJAXAの研究体験型教育プログラム、「きみっしょん—君が作る宇宙ミッション」で配布されたTELSTARに興味を持ったのがきっかけだという。

現在、TELSTARは全国の高校や科学館、個人申し込みの高校生などに配布している。届け先の住所を確認し、封筒に詰め、発送する発送業務を取りまとめるのが加藤さんの主要な仕事。さらに定期的に送る高校を開拓するために、毎回50~100の高校にメンバーが手分けして電話をして「送らせてほしい」と頼んでいるという。

高校に電話をかける際は、理科の先生や天文部などの部活の顧問の先生と話をさせてもらえるように頼む。学校名だけ書いて送っても捨てられてしまう恐れがあるから、宛名には話をした先生の名前を書く。見てくれた先生からは「面白いから部活で配ってあげるよ」とか、「自分のクラスで配ります」など嬉しい反応が返ってくることも。

 「電話をかけて邪険にされることもいっぱいあって、そんなときは悲しい。でもTELSTARは配布担当の加藤という名前で送っているから、私宛にお手紙も時々もらいます。外部と接触する、何気にお得なポジションだということに最近気づきました(笑)。科学館から『(送った)冊子がなくなったから送ってほしい』と連絡がくると、読んでもらえているんだなと嬉しくなります」

配布担当の加藤美央さん。開いているのは編集を担当した「惑星くん。惑星ちゃん。」の頁。「イラストで何を表現するかでめちゃくちゃ揉めました。毎回みんなで何時間も話し合うんです」

加藤さんはダンスサークルとかけもち。「宇宙をやっている人たちが好き。キラキラしてるから。文系(英文科)なのでTELSTARでは『美央がわかれば読者もわかる』と重宝されてます(笑)」

スポンサー開拓 2年間で約300件のメール送付

そして、TELSTARの活動を支えるのが「資金」。資金がなければ発行も配布もできない。オールカラーの冊子を年4回、毎回1万部分の資金を集めるって相当大変じゃないですか?

渉外担当で副代表でもある山田駿さん(東京都市大学2年生)は「お金がなかなかもらえなくて、難しいと感じることがけっこうあります。宇宙のフリーマガジンだから宇宙をやっているところから頂きたいが、宇宙だけをやっている企業が少ない。それに費用対効果を求められると、ターゲットは高校生でお小遣いも決まっていますから・・。それでもTELSTARの理念や思いに共感して出してくださる企業さんがある。勇気をもらえますね」

協賛企業は継続が約半分、新規が約半分。営業メールは2年間で300件ぐらい送ったし、電話をかけ、説明しにも行く。資金が集まらないと活動が継続できないので使命感がある。渉外班は関東に3人、関西に1人。企業に出向くのは基本的に平日だから学生同士、授業の空いている時間を合わせるが難しいのが悩みの種でもある。でも日本でも民間宇宙開発が進む影響で、追い風を感じている。「この週末も二社に話に行きます。新しく宇宙をやっている企業が見つかるなど、ちょっとずつ状況はよくなっていると思います」

渉外担当の山田駿さん(中央)。「TELSTARは手元に残してほしいから、紙質もいいものを使っています。だからお金がかかる(笑)」いいものを作りたいという想いと資金集めのせめぎあい。ミーティングでは渉外にもっとメンバーを同行させる必要性を議論した。

この先5年、10年と続けていくために

TELSTARの活動の柱は二つ。冊子の発行と、TELSTAR CLUB(テルスタークラブ)だ。高校生を取材に連れていき記事を書いてもらう活動で、2016年12月には6人の高校生を国立天文台に連れていき取材してもらった。記事はウェブサイトにアップされる予定だ。

なぜこの活動を始めたのか?代表の吉田さんは「宇宙教育の活動は最近盛んになってきて、出前授業を行っている人たちもいます。TELSTARにしかできない宇宙教育を考えたとき、自分たちが培ってきた『取材記事』という強みからTELSTAR CLUBが生まれました。実際に宇宙の現場で働く研究者の話を聞くという経験をすることで、高校生に宇宙への興味を深める。また、TELSTARが高校生を対象に行った調査で、宇宙に興味を持っている友達が周りに少ないということが分かったため、編集作業を通して高校生同士が少しずつ繋がる。この2つの目標のために開催しています」

天文部などの部活に入っている人は別として、一人でもくもくと宇宙について調べ、周りに宇宙について話せる仲間がいない高校生がいる。それでは視野が広がらない。吉田さん自身、TELSTARに入って、ロケットに詳しい人や衛星に興味を持っている人など色々な人がいて、視野が広がった。だから宇宙に興味がある人たち同士を繋げたい。

2013年から一度も途切れることなく冊子を出すとともに、様々な活動を行ってきたTELSTAR。嬉しいのは、TELSTARを読んでいた高校生が大学生になり、作る側になっていることだ。

実はTELSTARの代表は、2016年春に創設者の城戸彩乃さんから吉田華乃さんに引き継がれた。城戸さんは2013年にTELSTARを創設し、ぐいぐい仲間を引っ張ってきたカリスマ的存在だった。しかし城戸さんは「わたしがTELSTARの代表を続けている限り、TELSTARはわたし以上になれない。一人一人がTELSTARを作っていくことで、もっと広がりをもっていくはず」と吉田さんにバトンを渡し、新しい活動を始めた。いつかTERLSTARともっと大きな世界を目指せるように。一方、新代表となった吉田さんは5年10年と活動を継続し、全国の高校にTELSTARを配布する学生団体にしようと新体制構築に奮闘している。「城戸さんを超えたい」とガッツを見せる新代表。どんな活動でも長く継続し、さらに拡大していくことは大変だ。是非頑張ってほしい。

2月中旬のミーティング後に「TELSTAR」を手に。大学生の頃にこんなサークルがあったら入りたかった・・ ・。

2017年春、TELSTARは新しい仲間を迎える準備を進めている。「私たちが目指す『宇宙産業が、日本の誇る基幹産業になる』という未来を実現させるために、これからも未来ある次の世代に宇宙の美しさや面白さを伝えると共に、自分の興味と宇宙を掛け合わせて将来の選択肢のひとつに「宇宙」という道を示していきますので、応援よろしくお願い致します」と吉田さんはDSPACEにメッセージを寄せてくれた。

TELSTARは高校生以下は無料で読める。また大人でも4冊1000円で定期購読が可能。一口宇宙飛行士に応募すると、本誌に名前が掲載されるほか、様々な特典あり。まずはぜひ一度、TELSTARを読んでみてほしい。きっと応援したくなるはず。ともに宇宙を盛り上げましょう!

TELSTARのメンバーたち。年に1回、お世話になった方たちを招いて開く感謝祭のあとで。(提供:TELSTAR)