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ライター 林 公代 Kimiyo Hayashiライター 林 公代 Kimiyo Hayashi

宇宙日本食サバ缶、開発の現場を取材!
—高校生と熱血教師の12年

2018年11月、33番目となる宇宙日本食が新しく認証された。福井県小浜市の若狭高校が開発した「サバ醤油味付け缶詰」だ。若田光一飛行士は「まろやかでご飯にあう」、金井宣茂飛行士も「5点満点の6点」と絶賛。過去に選ばれた宇宙日本食は大手食品メーカーが開発したものが多かった。そんな中、高校生が開発した宇宙日本食が誕生したことは、全国で大きな話題を呼ぶ。今も取材依頼が殺到しているという。一体、どのように開発、認証にこぎつけたのか?12月某日、若狭高校の開発の現場に伺った。

「サバ醤油味付け缶詰」を開発中の若狭高校海洋科学科の皆さん。左から西村喜代さん、大道風歌さん、飛永朱莉さん、高山夏実さん、小坂康之先生。

迎えて下さったのは海洋科学科の高校2年生女子4人組と、12年間にわたり宇宙日本食認証を目指し、歴代の生徒と取り組んできた小坂康之先生だ。

12年間!生徒たちはどんどん卒業していくのに、どうやってプロジェクトを継続していったのか。「1年に一つずつぐらい課題があって、どれ一つ外しても実現できなかった」と小坂先生は感慨深げ。でも、決して生徒に強要せず自発的に取り組んでもらうのが小坂流だ。アンカーの役目を果たした4人は何を担当したのですか?と聞くと「味付けと粘性です」と言い、それぞれにこれまでの開発記録をびっしり書き込んだノートを見せてくれた。

実は若狭高校の「サバ醤油味付け缶詰」は2014年に宇宙日本食候補に選ばれている。その後、JAXAのサポートを受け、衛生面や容器(缶)の安全性など様々なテストが実施されたが、もっとも時間がかかったのは保存試験。常温(22±2度)で1年半保存しても品質や味に問題ないか検査するものだ。その保存試験をクリアしたという返事がJAXAから届いたのが今年度。保存試験後味の官能検査(味や色合い、風味、食感等をみる検査)で合格点は出たもののJAXAからフィードバックがあったそうだ。

「地上で食べるには美味しいが、宇宙に行くと味が薄く感じられるので、もう少し濃くしてください」と。そこから4人の格闘が始まった。

宇宙で味をどう感じるのか見当がつかない!

苦労したのは何ですか?と聞くと高山夏実さんはこう答えてくれた「宇宙に行ったことがないから、宇宙で味がどのくらい薄く感じるのかがわからない。だから『味を濃くして』と言われても、どのくらい濃くすればいいか見当がつかなかったことです」

4人は醤油と砂糖、水の割合を変え、濃くしつつバランスのいい味付けを研究した。同時にとろみ(粘度)も研究。

確かに。開発メンバーは誰も宇宙へ行ったことも宇宙で食事をした経験もない。で、どうしたのか?

「とりあえず濃くしてみました。醤油と水の割合を変えて、ちょっと濃いもの、すごく濃いもの、というように。でも醤油と水の比率を変えただけでは、醤油の味が強すぎてバランスが悪かったんです。ただ辛い。そこで砂糖を多くしてみたら味が全体的に濃くなっただけでなく、美味しくなった」

決め手は砂糖だった!そしてもう一つのミッションが「粘度」。宇宙船内に水分が飛び散らないよう、宇宙日本食には粘度(とろみ)基準が設けられている。「何を使ってとろみをつけるか、くず粉かゼラチンかについては、先輩たちが実験を繰り返し、くず粉がいいという結論を出してくれました。でも、その粘度は大体このくらいという感覚的なものでした。私たちは大量生産するときにも対応できるように、何度で何分熱したらいいかという数値化の作業を担当しました」(大道風歌さん)。誰が作っても同じ粘度を再現できるよう、数値化しレシピに落とし込む作業。最初はやりすぎて焦がし、調味液が苦くなってしまったこともあった。作るうちに沸騰ちょっと前で煮ると、最適の粘度になることを突き止めた。

4人が活動するのは主に毎週木曜日の課題研究の日。開発が佳境に入った9月は土日も集まって調味料の配合や粘度を変えて試食を繰り返し、ベストな配合を探し当てる。そして見事、宇宙日本食認証にこぎつけた。全国ニュースで報道され「自分らが一番驚いた。こんなに大きな話題になるとは全員思ってなくて。先輩たちのおかげやから・・」4人ともあまりの反響の大きさに驚きつつ、謙虚さを失わない。なんて素直で真面目な子たちなのだろう。

そして、彼女たちの探求心は留まることはなかった。宇宙日本食に認証されても、実際に宇宙に飛ばない食品もある。試食会で宇宙飛行士に選んでもらい、宇宙で美味しく食べてもらうために、開発は継続していたのだ(認証後も多少の味の変化はOK)。私が訪れた日も、ちょうど缶詰にしてから3ヶ月目のサバ缶を試食するところだった。

「缶詰は作って約3か月たつと味が染みて、食べ頃になる」というのがその理由だ。自分たちがベストと判断した味が缶詰にして3ヶ月後も本当に美味しいのか、魚の生臭さはないか、確認しようというのが当日の実験目的だった。私も一緒に試食させて頂くことに!

「よっぱらいサバ」が柔らかい!美味しいサバ缶を目指し改良は続く

若狭高校海洋科学科では、2年生が研究を行い、3年生が缶詰作業を行うという役割分担がある。2年生4人組が考案した味と粘度で3年生が実際のサバ缶にしたものが、取材中に届いた。調味料の違いごとに番号がふってある。1は先輩が開発した味(スタンダード)。2、3と醤油の割合が多くなり、4は砂糖を多くしたものだ。

試食したサバ缶。1は先輩が開発した味と粘度。2〜4の味と粘度は今年度の2年生が開発したもの。2、3と醤油の割合が多くなり、4は砂糖の割合が多い。上にあるのは、1の味付けで養殖の「よっぱらいサバ」を使ったもの。

缶詰をあけると、鯖のいいにおい!だが、皆すぐ食べたりはしない。チェックポイントは3つ。「匂い」、「色」、「味」。特に匂いに関しては念入りだ。鼻に近づけて真剣な表情で嗅いでいる。

3年生が作った缶詰を試食用にお皿に。鯖のいいにおいが漂う。
真剣に匂いを嗅ぐ宇宙日本食開発チームの皆さん。

「魚の生臭い匂いがしないか、確かめているんです。生臭いのが嫌いな人もいるから」。生臭さはどうやって消すんですか?「缶詰を作る過程で蒸煮(じょうしゃ)と言って1回蒸すと、水が出てきます。水溶性タンパク質が溶けだしているその水を捨てることで、生臭さが消えるんです。普通のサバ缶はそのまま使っています」なるほど、ひと手間かけることで生臭さを消しているのだ。

1は地上では美味しく感じる。ただしくずの粘度が高すぎて、やや硬い。JAXAの要望を受けて醤油の割合を少し増やしたのが2番。確かにやや濃い。さらに醤油の割合を増やした3は「(濃すぎて)無理!」と誰かがいう。そして砂糖を増やした4は?

「一番美味しい。くずだけ食べても味がしみ込んでいる。食べてみて下さい」と生徒さんに薦められ、4のくずを食べると、粘度もよくぷるぷるして味がしみ込み確かに美味しい!「味は4番で決まりやね」とみんなの意見が一致する。

小坂先生によると、素材によっても触感は異なるという。「新鮮な鯖を原料に使うと、身がカッチカチに硬くなるんです」。1〜3の缶詰は小浜湾で捕れた天然の鯖を使っている。比較のために小浜市田烏地区で養殖された「よっぱらいサバ」を使ったサバ缶を皆で食べてみる。

「よっぱらいサバ」を使って作られた「サバ醤油味付け缶詰」。

「うんま!」「柔らかい!」確かに口の中でとろけるように柔らかく、美味しい!「天然の鯖はお腹にしか脂がのってないが、養殖鯖は背中にも脂がのるので美味しいんです」(小坂先生)

「よっぱらいサバ」とは?「昔、小浜ではいっぱい鯖が採れたんですが、今はほとんどがノルウェー産。そこで小浜で鯖復活プロジェクトが生まれたんです。えさに酒粕を与えているので『よっぱらいサバ』と呼ばれます。」西村喜代さんが説明してくれた。

試食の結果は直ちにノートに記入。

今日の実験の結果、原料は「よっぱらいサバ」を使い、味付けは4番、粘度は現状の数値でOKということが確認できた。

生徒たちのノートには実験のプロセス、目的、感想などがびっしり記録されている。

十数年前、やんちゃな生徒たちと挑んだHACCP(ハサップ)

そもそも、なぜ若狭高校が宇宙日本食に挑戦することになったのか。話は15年以上前、若狭高校の前身の小浜水産高校時代に遡る。小坂先生は新米教師として同校の教壇に立った。やんちゃな生徒もいるなかで、課題研究にはたくさんの生徒が興味を持って積極的に参加してくれたという。定置網漁業で利用されていない魚を使った新商品開発をテーマとし、あわせて通常の実習でサバ缶年間数万個を大量に製造。水産食品を輸出するには、食品衛生を高いレベルで管理する世界標準システムHACCP(ハサップ)が必要になってくる。「どうせやるなら、誇り高いものに」と小坂先生と生徒たちは目標を立て約4年の挑戦の後、2006年にHACCPを取得。全国の水産高校でのHACCP取得は2番目の快挙となった。

「HACCPを取った後、『もともとはNASAが宇宙食のために作った衛生基準だよ』と話すと生徒たちが『だったら、宇宙食ができる!』と気づき、宇宙食への挑戦が始まったんです」(小坂先生)

その後、JAXAやNASAにメールを送り、JAXA職員を招いて宇宙食の研究を重ねた。当時、日本人が搭乗していたスペースシャトルでは缶詰の宇宙食搭載は難しいと言われ、宇宙キャラメルやレトルトパックを研究した時期もあった。転機は、2013年に若狭高校と小浜水産高校が統合した時期と、JAXAが宇宙日本食認証制度を発表した時期が重なったこと。「(統合後の)1期生が、宇宙日本食の公募を見て『先輩たちが始めたサバ缶で宇宙日本食を目指したい』と応募したのです。その後、缶詰の大きさを小さく変えたり、テストを受ける準備や英語の書類をそろえたり、変遷を辿りながら今に至りました」。小坂先生の熱意と生徒の自主性を尊重する姿勢が生徒にも伝わり、12年越しのプロジェクトは初志貫徹できたのだろう。宇宙食認証後、先輩たちが小坂先生を訪ねてきて共に喜んだという。

宇宙での缶の処分について説明する、小坂康之先生。「缶づくりにも技術が必要」と説く。

感慨深いのではないですか?と小坂先生に聞くと「夢は叶うんだなと思いました」と一言。

かっこよすぎます!

宇宙日本食になったサバ缶はどこで買える?という電話が殺到しているそう。来年は販売したいと計画中だが、年間数百缶しか製造できないのが悩み。

さて、高校生が作った宇宙日本食は注目を浴びるが、生徒も先生も満足していない。あくまで味で勝負したいと考えている。小坂先生は、JAXAで行われた宇宙日本食の会合で、大西卓哉飛行士らからもらったコメントを生徒たちに伝えた。

最も難しいと思ったのは「自然が感じられるものが食べたい」「家庭を味わいたい」という要望。「おふくろの味ってことだよね」と生徒たち。

この難題にどう答えるのか。きっと悩みつつも、家庭の温かみのある美味しいサバ缶を生み出してくれるに違いない。今後の抱負について聞くと「宇宙飛行士の皆さんが食べるのが楽しみになるようなサバ缶に」(飛永朱莉さん)「地元の鯖が日本だけでなく、海外の宇宙飛行士にも好んで食べてもらえるようにしたい」(大道風歌さん)

「サバ醤油味付け缶詰」は最も早くて、2019年末打ち上げ予定の野口聡一飛行士か、2020年飛行予定の星出彰彦飛行士が宇宙で味わうことになるだろう。実際に宇宙に持って行ってもらう缶詰も高校生たちが作る。「貨物便『こうのとり』にサバ缶が積まれ、宇宙に向けて打ち上げられる時にはみんなで見に行きたいね」と小坂先生が話すとみんな拍手!18世紀頃、若狭から京都の朝廷に鯖を運んだ道は鯖街道と呼ばれる。鯖街道が宇宙に繋がる日が、近いうちに訪れますように。福井県出身の私には若狭の歴史と食文化、何より頑張る若者たちの存在を知った嬉しい取材だった。応援したい。

ロシアで売られている宇宙食(チキン)。知り合いの記者からお土産にもらったものを持参し参考までに食べてもらった。「意外に味が濃くない」。「基本の宇宙食は割と薄味だから、ボーナス食の日本食は濃い味が欲しくなるんかな」と生徒たちは議論。
2010年4月、国際宇宙ステーションで野口飛行士と山崎飛行士が参加して手巻き寿司パーティ。「こういう時に外国の宇宙飛行士にも喜んでもらえる宇宙日本食が欲しい」という要望があるとか(提供:NASA)
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