DSPACEメニュー

読む宇宙旅行

ライター 林 公代 Kimiyo Hayashiライター 林 公代 Kimiyo Hayashi

「人工流れ星」衛星打ち上げ成功!鳥取産のお米が流れ星に!?

2020年、いよいよ世界初の人工流れ星が実現しそうだ。「人工流れ星」衛星2号機(ALE-2)が12月6日、ニュージーランドから打ち上げに成功。今後数ヶ月間にわたり機器の確認を行い、早ければ2020年春、世界のどこかの夜空をキャンバスに変え、きらめく五色の流れ星が舞う。

人工流れ星のイメージ。「ゆっくり」と「マイナス一等星の明るさ」で「五色に光る」のが特徴。(提供:2019 ALE Co. Ltd,)

世界初の人工流れ星にチャレンジするのは、東京大学で天文学を学んだ岡島礼奈CEO率いる東京のスタートアップ「ALE」。今年1月に1号機ALE-1を打ち上げ(現在、高度約500kmから400kmへ降下準備中)、今回の衛星は2機目になる。

ALE-2衛星をロケットに搭載作業中。(提供:2019 ALE Co. Ltd,)

ALEが作る「人工流れ星」とはどんな流れ星なのだろう?そもそも天然の流れ星とは数mm~数cmの宇宙の塵が秒速十数km以上の超高速で大気圏に飛び込み、発光するもの。光るのは数秒以下(だから願い事は3回言うのは至難の業だ)。

一方、ALE-2に搭載されている「流れ星の元」はビー玉大(直径約1cm)の金属の粒×400個。素材を変えることでピンク、グリーン、白、オレンジ、ブルーの五色の流れ星が5~10秒間流れると見られている。しかも明るさはマイナス一等級。全天一明るいシリウスと同等の明るさだから、ネオンが輝く都会の夜空でも見逃すことはない。

流星源の材料を変えることで五色の流れ星を実現できる。

衛星の位置・姿勢を複数のセンサーと3つのCPUで測定、計算し、「流れ星の元」の放出速度や角度を高精度に制御して放出(計算値がずれたりCPUが一つでも故障すれば放出しない安全なシステム)。約7500km(約18分間)飛行後に大気圏に突入して流れ星となるが、放出速度や角度などを精密に調整することで鳥がV字に飛ぶような形や、十字架など、流れ星の様々な形を実現できるという。

期待は高まるが、どこで人工流れ星を見ることができるのか。「大型の式典や野外フェスティバル、船や飛行機での観光旅行を想定して営業活動を進めています。どこで実施するかは交渉中ですが、全世界で流れ星を流すことができるので、『世界初』が海外になる可能性もあります」(岡島CEO)とのこと。

ビジネスの営業先は大きな式典を開催予定のところ、イベントを取り仕切る会社、広告宣伝に使いたい会社など。予算規模は1回のイベントで10~20粒の流れ星を流して約1億円。「海外でイベントをオーガナイズしている方にとって驚かれる価格ではなかった」と岡島CEOは説明する。

エンターテインメントだけではない、人工流れ星の役割

11月29日、ALEで。右からALE取締役COO藤田智明氏、CEO岡島礼奈氏、チーフエンジニア蒲池康氏。

「人工流れ星」という言葉のインパクトが強く、ALEはエンターテインメント企業としてフォーカスされることが多いが、実はエンターテインメントは人工流れ星の一つの価値に過ぎない。もう一つ、人工流れ星を降らせることで狙うのは「データサービス」。

人工流れ星が流れる高度60~80kmは中間圏と呼ばれ、観測の手段がほとんどない「空白の領域」だった。近年、この領域が地上の気象現象と密接な関連があるとわかってきているという。「世界中の研究者といろいろな方法を考えているが、分光器を使って発光している様子を分光したり、中間層の大気成分や密度データをとれるのではないか」(COO藤田氏)

中間圏の高層大気の研究によって異常気象のメカニズムの解明や、気象予測の精度向上に貢献できると考えているという。

ALEのミッションは「科学を社会につなぎ、宇宙を文化圏にする」。根底には岡島氏らが大学時代に感じた基礎科学の重要性があるようだ。フェーズ1に「人工オーロラ」とあるのが気になる!

お米が流れ星に?

実はALE-2の打ち上げは当初11月29日に予定されていた。打ち上げ中継取材に伺ったところ、私の前に、明らかに記者ではなさそうな人が座っている。後方からのカメラ撮影を意識してか背中にパネルをぶら下げており、パネルには「鳥取の新しいお米『星空舞』が星空を舞う日を楽しみにしています!」と。『星空舞』とはいったい?

話しかけると、なんと鳥取県庁の職員さんだった。彼の名は井田広之さん。観光戦略課魅力発信担当係長。鳥取県が取り組む、星をテーマにした観光戦略「星取県プロジェクト」生みの親だ。

といっても、井田さんが天文少年だったかといえばそうではないらしい。「きっかけは、岡島さんが鳥取県庁にいらしたときに人工流れ星の話を聞き、何か一緒にできないかと考えたことです」。調べると、鳥取県は環境庁が実施する「全国星空継続観察」で何度も一位になっていること、どの市町村からも天の川が見え、流星群の時期でなくても流れ星がみえやすいことがわかった。

「星をテーマにしたら面白いし、地元の誇りにもなる」と2017年春に「CATCH THE STAR 鳥取県は星取県になりました」と大々的に発表。「長野県は宇宙県」であることは天文ファンの間では知られているが、鳥取県は知事肝入りのプロジェクト。打ち上げ中継も知事の特命事項で駆けつけている。ものすごく目立つ格好で。

さて、「星空舞」とは何か。これは星取県生まれのブランド米だ。20年かけて従来の稲がもつ弱点を克服しようと開発された。倒伏や病気、夏の暑さに強く、しかも美味しいお米が2018年に完成。星のように輝くお米であり、際立つツヤと透き通る甘みが特徴だとか。せっかくできたお米「星空舞」をPRしたいと考えた井田さんが、「冗談で『流れ星でお米って流せないですよね』と岡島さんに話したら『流せますよ』と。そこで知事から正式に提案させていただいたのです」(井田さん)

ALE蒲池さんによると「星空舞」は流れ星の元2粒に詰められている。ギューギューにつめこんで一粒あたり5~6粒。いつ、どこで流れるかは事前にわかるそう。

11月29日の打ち上げがロケット側の都合で中止となり、12月6日の再打ち上げの日も鳥取県から駆け付けた井田さん。「人工流れ星衛星打ち上げ成功という歴史的な瞬間を、ALEの皆さんと過ごさせて頂きました。おめでとうございます。東京オリンピックなどで色とりどりの流れ星が流れるのを期待しています。また『星空舞』が流れ星となって本当に星空を舞う日も楽しみにしています」。「星空舞」が流れる日は鳥取県でイベントを?「必ず鳥取県は出てきます!」。某有名雑誌からスーパー公務員に選ばれた井田さん、何を仕掛けてくれるか楽しみです。

五色の流れ星が2020年夏の世界的スポーツの祭典で舞う日が来るのか?また、「観測の空白地帯」であった中間層の観測により、何が解明されるのか。人工流れ星は約200kmにわたる広い範囲で見られるそうだ。まずはみんなで一緒に夜空を仰ぎ、興味をもつことから新しい世界が広がるに違いない。

ALE-2のイメージ図。質量75kg、約60cm×約60cm×約80cm(提供:2019 ALE Co. Ltd,)
  • 本文中における会社名、商標名は、各社の商標または登録商標です。