紅茶と料理のおいしい関係紅茶と料理のおいしい関係

ワインのペアリングがあるように、お茶と料理にも相性ぴったりの組み合わせがあるのをご存知ですか。
今回は紅茶をテーマとして、ソムリエの亀井崇広さんと栗原洋さんにティーペアリングの世界へといざなっていただきます。
毎日の食卓に、ティーペアリングの楽しみを取り入れてみませんか?

ティーペアリングの世界へようこそ ティーペアリングの世界へようこそ

料理に合わせてお茶を楽しむ「ティーペアリング」。近年静かに脚光を浴びている食事スタイルのひとつです。背景には、健康意識の広がりとともにノンアルコールドリンクへのニーズが高まったこともありますが、お茶を飲む習慣が根付いている日本人にとっては親しみやすいことも人気の理由です。ここでは紅茶を使ったティーペアリングに焦点を当てます。

紅茶の味や香りは、茶葉の種類によってさまざま。その違いを生むもととなるのは、テロワール(風土や栽培方法などの生育環境により生じる特徴)や発酵・焙煎の方法などです。茶葉の収穫時期によっても風味は変わります。「ファーストフラッシュ」と呼ばれる春摘みの茶葉には少し青臭さが残る一方で、夏摘みである「セカンドフラッシュ」は太陽の光をよりたくさん浴びていることから、ふんわりとした蜜のような風味が感じられるのが特徴です。こうした風味の違いに目を向けると、ティーペアリングの楽しみはいっそう広がります。

食事がいっそう豊かになるペアリングの基本 食事がいっそう豊かになるペアリングの基本

ティーペアリングのベースにあるのは3つの方向性。「同調」「中和」「補完」です。これらに着目するのがセオリーとなります。

料理の個性を引き立てる「同調」

同調とは、料理と似た特徴のある紅茶を合わせることによって相乗効果を生むこと。例えば、皮目をこんがりと焼き上げた鮭に深く焙煎された紅茶を合わせることで、香ばしさを引き立てることもできます。酸味のある料理にレモンを絞った紅茶がよく合うのも、同調によるものです。料理の食材や味付けをもっと強調させることができます。

口直しにおすすめな「中和」

中和とは、互いに打ち消し合う特徴を持つ料理と紅茶を合わせることでバランスを保つ考え方。唐辛子の効いた中華料理には、砂糖を加えた紅茶がよく合います。これは辛味と甘味が中和しているからです。揚げ物やステーキなどのこってりとした料理には、ブラックティーやダージリン、キームンといった苦味の強い紅茶を合わせると、中和の働きで油のしつこさが和らぎます。お茶で料理の風味をリセットしたいときにおすすめです。

欠けたピースを埋める「補完」

補完とは、料理に足りない要素を紅茶で補う考え方です。あっさりとした白身魚や野菜料理には、ミネラルの多い和紅茶を合わせることで旨味をプラス。紅茶の風味が隠し味になって、料理がいっそうおいしく感じられます。

一組のペアリングで、効果はひとつだけとは限りません。同時に2つ、3つの役目を果たすこともあります。

ペアリング1秋を感じる「べにふうき」×「きのこのリゾット」 ペアリング1秋を感じる「べにふうき」×「きのこのリゾット」

ペアリングのポイント

きのこのリゾットに合わせるのは「べにふうき」。インドが原産のダージリンと、和紅茶である「べにほまれ」とをかけ合わせた品種で、ふたつの茶葉の特徴を併せ持っています。ミルクティーにするとおいしいダージリンは、同じく乳製品であるチーズとも相性ぴったり。ハーブのような香りが旨味を補完するアクセントになり、その苦味は口の中でチーズと出会うとまろやかな味わいに変化します。こうした「口内調味」もティーペアリングの面白さのひとつです。一方、べにほまれは日本茶を発酵して作られており、日本人の舌にもなじみやすいのが特徴です。蜜のようなほのかな香りや根菜を思わせるコクが、きのこの土っぽさと同調して滋味深い味わいに。赤い色合いが美しいべにふうき茶とともに、秋の深まりを感じられるペアリングです。

紅茶の入れ方

150mlのお湯に対して、茶葉を2gほど使います。お湯を沸かしたら30秒ほど置き、90度くらいになるまで冷ましましょう。ボコボコという沸騰の泡が落ち着く頃が目安です。茶葉を入れたティーポットに注いで2分ほど蒸らしたらでき上がり。茶葉の量が多すぎたり、蒸らす時間が長すぎると、タンニンが出すぎて渋みが強くなるので注意しましょう。

ペアリング2中級者編の「アールグレイ」×「ツナパプリカ」 ペアリング2中級者編の「アールグレイ」×「ツナパプリカ」

ペアリングのポイント

ツナとパプリカにオリーブオイルやケチャップ、ビネガーなどを加えて仕上げたマリネに。合わせるのはアールグレイです。アールグレイはスーパーマーケットでもよく見かける定番の茶葉。ベルガモットの爽やかな香りが特徴です。ビネガーの酸味をやさしく引き立てる同調の働きをするとともに、ツナ特有の臭みを抑える中和の効果も。アッサム、イングリッシュブレックファースト、レディグレイなどの茶葉でも代用できます。

ポイントとなるのが熱すぎず冷たすぎない抽出温度。一般的に、紅茶を入れる温度は80度から90度です。ところが高温で抽出すると渋みのもとであるタンニンが出て、料理との組み合わせによっては雑味に感じられることも。今回は紅茶を注ぎながら瞬時に冷却する中級者向けの方法で入れます。こうすることで、タンニンを隠し、飽きのこないやわらかな味わいに。冷製の料理ともけんかしない、箸休めにぴったりなペアリングです。

紅茶の入れ方

耐熱カップにティーパックと5~6個の氷を入れます。90度くらいのお湯を注ぎ、1分30秒ほど待ったらティーパックを取り出してでき上がり。紅茶の色が薄くても心配はいりません。タンニンを感じにくくなる一方で、ベルガモットの風味はしっかりと感じられます。

使ったティーパックは、二煎目にとっておきましょう。食後にホットティーとしていただきます。高温抽出によって出てくるタンニンの苦味も、食後に飲めば油分を洗い流して口の中をさっぱりとさせるのに効果的です。1種類の茶葉でも入れ方を変えるだけで2通りの風味を楽しめます。

相性がぴったりな紅茶と料理の組み合わせを探すのは、奥が深く楽しいものです。手頃な価格でさまざまな種類が手に入るのも紅茶の良さ。ご家庭でも気軽にティーペアリングを楽しんでみてはいかがでしょうか。

亀井崇広さん(左)・栗原洋さん(右)
ソムリエ

ミシュランガイド東京2020から3年連続で一つ星を獲得しているレストラン『sio』と、こだわりのナチュラルワインとカジュアルイタリアンが楽しめる『o/sio』。それぞれでソムリエを務めるのが、亀井崇広さんと栗原洋さんです。両店舗では、紅茶を使った本格的なノンアルコールペアリングのメニューも提供。「紅茶は自由。種類や入れ方によって幅広い楽しみ方があることを知っていただけたら」とおふたりは語ります。

2022.11.01

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