職る人たち—つかさどるひとたち—

これからの暮らしを彩る、
ものづくりの若い力

片岡屏風店・屏風職人 神戸 優作 × 三菱電機ホーム機器 IH技術課 伊藤 匡薫 まさのぶ

#10 TSUKASADORU HITOTACHI

対談篇 後篇伝統と技術、それぞれの進化論

(対談篇 後篇)

受け継ぐ技と、磨き抜く技術。
異なる世界で「つくる」を追究するふたりの対話は、さらに深まっていきます。

進化とは暮らしに応えること

IHクッキングヒーターの歴史と、今後の進化について教えてください。

伊藤

三菱電機は1974年に誘導加熱の原理を使った業務用加熱機器を開発しました。家庭用200VのIHクッキングヒーターは1998年に発売され、それ以降、大口径のコイルやワイドグリル、レンジ機能付きIHなど、使い勝手を進化させてきました。近年は、より多様なユーザーに対応するため、音声操作やジェスチャー操作、IoTとの連携といった次世代技術にも着手しています。高齢化社会やカーボンニュートラルといった社会課題に対しても、IHクッキングヒーターの安全性や高効率な加熱は非常に親和性が高いと思います。将来的には、家族構成や年齢、体調に応じたレシピ提案、加熱消し忘れ防止といった機能も、AIやセンサー技術を通じて日常に溶け込んでいくはずです。

屏風の進化についてはどのように考えていますか?

神戸

伝統工芸といえども、気候や暮らしが変わる以上、同じ素材・手法が通用し続けるわけではありません。例えば昔の屏風が200年保ったとしても、今の日本の酷暑にそのまま耐えられるとは限らないです。お客様は「何百年と歴史があるんだから大丈夫だろう」という高い期待を持ってくださいますが、現代の環境では従来の技術だけでは追いつかない現実もあります。だからこそ、我々は建材屋さんや糊メーカーさんに足を運び、現代の環境に合った新素材を探し続けています。伝統を守るということは、ただ形を守ることではなく、時代に合わせて変化を受け入れ、進化させていくことだと思っています。

経験と技術を、次世代へつなぐ

職人・エンジニアとして、それぞれ大切にしているものはありますか?

神戸

やはり丁寧な仕事、ですね。お客様の要望を聞くところから、道具の手入れまで。すべてがつながっているので、一瞬一瞬を疎かにしないこと。特に私が担当させていただくのは、お客様の書や着物などを屏風に仕立てる一点ものが多いんです。世界中どこを探してもそれ一つしかないものを預かるわけですから、失敗は許されない。だからこそ、お客様に「思った通りの商品が出来上がった」と言ってもらえるよう、丁寧に、真心を込めて作ることが一番のこだわりです。

また、職人の世界にはマニュアルがありません。自分自身の感覚が非常に重要で、糊の濃さや水の量、紙の持ち方、刷毛の動かし方など、その日の気温や湿度によって全てを調整していく。これは本当に経験と勘頼りの世界なんです。だからこそ、自分の手で掴み取った経験を、次の世代にどう伝えるかが課題だと感じています。

伊藤

私もまさにそこです。IHクッキングヒーターは寿命が10年と長く、頻繁に買い替えられるものではありません。だからこそ、今ある技術で「どうやったらもっとよくできるか」を常に追求しています。IHクッキングヒーターの温度センサーやコイルの制御開発は、「どうやったら美味しく調理できるか」をひたすら探求する仕事です。実は、魚の焼き加減ひとつとっても、魚の種類や大きさ、油の量、グリルでの焼き加減など、数値化できないものが多いんです。だからこそ経験がとても重要になってくる。後輩にもその感覚を掴んでいってほしいので、どのように経験を残していくかというのは日々試行錯誤しています。

具体的に、後輩に伝えるための工夫などはありますか?

伊藤

調理における温度制御の微妙な違いや、食材の違いがどんな結果をもたらすかという経験は、文章やマニュアルでは伝わりません。なので、実際に一緒に調理しながら教えることですかね。やってみないと分からない感覚は、画面の数字だけでは伝えられないですから。

神戸

それ、すごくよく分かります。我々も、何か不具合が出たときに、そこだけを見ていては解決しません。前の工程、さらにその前…と原因を遡って、直していく。日々の小さな積み重ねの中に“答え”があるんですよね。

400年後に「伝統⼯芸」として
⼈々に⾒てもらえるものを作りたい

受け継がれる手仕事、
進化し続けるものづくり

最後に、お二人の今後の目標についてお聞かせいただけますでしょうか。

神戸

私が作った屏風が、400年後に「伝統工芸」として人々に見てもらえるように、恥ずかしくないものを作りたい。そして、先輩たちが技術をつないできてくれたように、私も後世に繋げていくことが使命だと思っています。

伊藤

私も、三菱電機ホーム機器だからこそできるものづくりを大切にしながら、より多くの人に届く製品を開発していきたいです。そして、その想いや姿勢を、次の世代にしっかりと伝えていきたいですね。IHクッキングヒーターの先にある「豊かな食卓」を支え続けたいと思います。

本日はどうもありがとうございました。

一枚の屏風に、ひと皿の料理に、想いが宿る。
風を屏(ふせ)ぐ屏風と、火を操るIHクッキングヒーター。
異なる分野でありながら、目指すのは人の暮らしを少しでも豊かにするものづくり。
伝統と技術、その交差点で未来を描く二人の対話から、新たな風が生まれるのを感じた対談でした。