
対談篇 前篇異なる手が語り合う、ものづくりの深淵へ
前原光榮商店のギャラリーにて、
同社・小出水龍之介さん、三菱電機ホーム機器・内田龍一の対談を行いました。




つくる実感、歓びを求めて
小出水さんは、店頭ディスプレイの設計から傘職人の道へ転身されていますね。
はい。転身したきっかけで言うと、自分のやっていた設計は「つくっているようで、つくっていない」と感じることがありました。学生の時、自分でデザイン画を描いて、発泡材にパテを盛ってモデリングしていたのですが、その感覚が「つくること」だと思っていたので、ちょっと違うなという所がありました。やはり「自分がつくっている実感」が大事だと考え、ちょうど良いタイミングで傘屋さんが職人育成事業の募集をしていたので、ご縁があって入社しました。


内田さんは掃除機の開発に携わる技術者ですが、三菱電機を選んだ理由は?
もともと、ものづくりが好きだったので、そのような職業に就きたいと思っていました。会社見学をしていく中で、みんなが日々触れて使う家電をつくりたいと考え、三菱電機ホーム機器を選びました。今でもそうですけど、こだわりのある尖った製品をつくっている印象があったので、自分もそういうものをつくりたいと思い入社しました。
お二人のお仕事についてお聞かせください。
傘の製造と数量や品質の管理をしています。あとは、将来的に生産量を上げていくために人を育てることも行っています。
弊社では掃除機やジャー炊飯器、IHクッキングヒーターなどの家電をつくっています。私は主に掃除機を担当して15年になります。もともと、キャニスターというコードがついているタイプがメインでしたが、電池とモーターが小型化してきた最近の主流はコードレスのスティッククリーナーです。
こちらにあるのが、主力製品であるスティッククリーナーですね。
はい、「iNSTICK ZUBAQ」になります。インテリアとして、充電スタンドにつけたときに掃除機に見えないデザインを目指しました。それだけでなく、スタンドから手前に引けばスティッククリーナーに、上げればハンディクリーナーになるという、使い勝手に徹底的にこだわった製品です。ちなみに、この掃除機の形がアルファベットの“Q”にも見えるのと、「ズバッと吸引」で“ZUBAQ”というネーミングになっています。最初はサイクロン式で発売したのですが、そのコンセプトを残して紙パック式も登場しました。ゴミを捨てやすい紙パック式も最近、流行っていますよ。
細部に宿る、使い手への想い
三菱電機ならではの、こだわりのポイントはありますか。
とにかく使いやすさを重視したところですね。このハンドルは若干傘っぽい形状なのですが(笑)、どの部分でも持ちやすいように設計しています。それから、掃除機はブラシがしっかりしていないとゴミが取れません。この部分は毛やゴミが絡まりやすいので、絡まないような素材の回転ブラシを採用しています。さらに、簡単にブラシを外せて、外したときに毛を取りやすいようにもしています。使った後のメンテナンスも、掃除機は本当に嫌がられます。なので、充電スタンドにプレートをつけて、掃除機を戻したときに自動で回転して毛が取れる仕組みも備えています。「掃除機の掃除なんてしたくない」とよく言われるので、そうしたストレスをいかに減らせるか、使い勝手の面で工夫を重ねています。

傘職人としても、使い勝手へのこだわりはありますか。
使い心地の良さでしょうか。やはり傘の開き加減だと思います。開いた時に固くて張りがあるというのは、当たり前にできます。そこを軽い力で開きながらも、この張りが良いっていうのは、こだわっているところになります。
確かに、まったく違和感なく開くことができて気持ちいいですね。
生地によって張りの特性が全然違います。アイロンをかけてもそんなに変わらないものもあるので、その生地のクセに応じて型の幅を変えています。

道具は異なれど、
眼差しは同じ。
技は、探究する心に宿る

エンジニアとして、職人として日々研鑽を積む中で、心がけていることは何ですか?
掃除機というのは、基本的には完成された製品です。ゴミを吸うという本質は変わらないのですが、その中にも細かいストレスというのは、実は色々とあります。たとえばコードレスになったのも、コードを出して持ってくるのが面倒だから、という理由ですよね。そういったひとつひとつのストレスや困りごとを、なるべく解決できるものをつくりたいと思っています。「見えない家事」と言われるように、普段やっている中では気づかないけれど、実は自然とやっていることをなるべく見つけるようにして、それを解決できる方法を考えています。先ほどお話しした「掃除機の掃除」も「見えない家事」のひとつなので、そういうものをなくしていきたいですね。
あとは、日常の掃除で使い勝手よく使ってもらうために、軽量化したり、性能のいいモーターや電池を採用したり、そうした点を心がけています。
内田さんの話とは全然違いますが、私は「楽しむこと」だと思っています。「好きこそ物の上手なれ」ではないですが、嫌々やっていても結局上手くならないですし、仮に問題が出てきたとしても、それを楽しんで「お、こんな問題が出てきたぞ」くらいに思って「じゃあ、こうしてみたらどうだろう」と考える。そういう姿勢を心がけています。
そうですよね、よくわかります。
悩み、動き、切り拓く
では、課題や壁にぶつかった時に、どのように対処して乗り越えていますか?
三菱電機の掃除機は1930年頃からつくっているので、長年のノウハウが蓄積されています。数値化されていない知見もあって、過去の機種が参考になることも多いです。新しいことに取り組んでいても、過去の機種を振り返ると「こういう構造で対策していたのか」と発見があったりします。たとえば、この紙パック機種の構造は、20年くらい前のハンディクリーナーの機構を少し流用して設計しました。どうしようかなと悩んでいたら、先輩エンジニアの方から「こんな機種があるよ」と教えてもらって、実物を持ってきてもらったら「これは使える!」となって。そのように、昔の構造を参考にすることが多いですね。
前職で設計をやっていた時からそうですが、意外と「手を動かすこと」だと思っています。設計する時に、ああじゃないこうじゃないとラフを描きながら「このほうが組み立てやすいかな?」と考えるのですが、なんでも考えすぎずに、とりあえず手を動かしてみる。先ほど仰っていたように、上の方に聞いてみるとか。考えてばかりいないで、とりあえず行動してみるというのが、困った時に脱出する方法かなと思いますね。
本当に、机上で悩んでいても、実際に物を作ったら意外とそうでもないってことは、よくありますよね。
そうですよね。
最近はデジタル中心ですが、アナログなところも大事ですね。こういう構造はどうだろうかと、一応図面上は成り立っているのですが、実際は全然成り立っていなくて「あれ?」ということも出てきてしまうので、物を作るのは大事だなと思います。
それはやはり、社内に試作品をつくる環境があるからできることですよね。
ちょっと困ったら作ってみて確認する、ということは結構やっていますね。昔の話をよく聞きますが、試作までに何ヶ月もかかって、その間はドキドキしながら待つしかないと。昔だったらその間は休めたのに、今は1週間でできてしまうので休めないですけど(笑)
- 取材・文/澤村泰之 撮影/魚本勝之
- 2026.02.12

