和食シリーズ企画 第二弾 郷土料理を楽しもう和食シリーズ企画 第二弾 郷土料理を楽しもう

その地域の産物を使い、独自の調理方法で作られてきた郷土料理には、日本の食文化の素晴らしさがたくさん詰まっています。「和食とは何か?」に迫った和食シリーズ企画第一弾に続き、今回は、日本全国の郷土料理を通して、食卓の未来について考えます。本企画は、産経新聞社様のご協力により、過去に産経新聞料理面に掲載された郷土料理から一部をご紹介しています。その地域の産物を使い、独自の調理方法で作られてきた郷土料理には、日本の食文化の素晴らしさがたくさん詰まっています。「和食とは何か?」に迫った和食シリーズ企画第一弾に続き、今回は、日本全国の郷土料理を通して、食卓の未来について考えます。本企画は、産経新聞社様のご協力により、過去に産経新聞料理面に掲載された郷土料理から一部をご紹介しています。

和食シリーズ企画 第二弾 郷土料理を楽しもう

網元の家からフレンチへ。根っこにあるのは郷土の味 ~「カストール&ラボラトリー」オーナーシェフ・藤野 賢治さん インタビュー~網元の家からフレンチへ。根っこにあるのは郷土の味 ~「カストール&ラボラトリー」オーナーシェフ・藤野 賢治さん インタビュー~

編集部
フレンチの老舗として多くのシェフを育てた「カストール」から、現在は自ら腕を振るわれる「カストール&ラボラトリー」へ。お店の場所やスタイルが変わっても、藤野シェフの絶品フレンチを求めて訪れるお客様は絶えません。料理で人を魅了するこのお仕事は、何をきっかけに始められたのでしょう?
藤野さん(以下 敬称略)
僕自身がフランス料理の虜になってしまったんですよ、出会ったその瞬間にね。当時、大学生だった僕は法律家を目指して猛勉強をしていた。その頃、医学部在籍医師志望の親友と、僕の誕生日にフランス料理を一緒に食べたんです。地元・福岡でいちばんの「花の木」という店。これが、運命の出会いです。これまで見たことも食べたこともない料理に圧倒され、その後は毎週通うほどの熱狂的なファンになっていました。建設現場でバイトしてお金を貯め、半年に1度は東京の有名店にも足を運んだりしてね。
編集部
今から40年前というと、まだグルメ情報誌もなかった頃ですよね。
藤野
東京の店は、当時創刊したばかりの『anan』や『non-no』を見て選んでました。まだ日本語翻訳されたフランス料理本もなかったので、原文で読みながら料理のイメージを膨らませたりして。そんな東京遠征の際に出会ったのが、フランスから帰国した井上旭さん(現「シェ・イノ」オーナーシェフ)がシェフだった「シャドネー亭」です。井上さんは、学生でお金のない僕に予算以上の料理を作ってくれた。その中には辻静雄さんの『パリの料亭』で読んで以来、いつかは食べたいと思っていたニジマスの料理もあって、あれは本当に感動しました。それで、僕が「福岡にも"花の木"っていう素晴らしい店があるんですよ」と伝えたら、数ヶ月後、なぜか井上さんがそこのシェフになってたっていう(笑)
編集部
それもまた運命の出会いですね。食べる側から作る側になろうと思われたのは?
藤野
卒業前になってもまだ進路も決まらないまま、フランスに行ったんです。そこで三つ星レストラン「ピラミッド」のマダム・ポワンから、「どんな道でも、志があればいいのよ」と励まされた。その一言できっぱりと法律を諦め、料理の道に進む決心をしました。最初は評論家も考えたんですが、やっぱり作るほうがおもしろいだろうと。卒業後は、井上さんに紹介された東京・六本木の「レジャンス」という店で修業しました。もちろん料理はゼロからの出発だったので、フランス人シェフに食らいついて徹底的に学んだし、人の3倍は働きました。そのおかげで、2ヶ月目にはもう料理を作らせてもらい、1年目には料理人としてあつかってもらいました。その後は「ビストロ・ロテュース」で石鍋裕さんと働き、32歳で妻(料理研究家の藤野嘉子さん)と一緒に独立しました。
編集部
まさに日本のフレンチ黎明期を駆け抜けてこられた半生ですが、幼少時は洋食とは無縁でどっぷり郷土の味に浸かっていらしたとか。
藤野
実家が博多の網元だったので、その日水揚げされた魚介が朝からどーんと並ぶような家庭でした。ゆでたしゃこやカニ、イカ刺し、車海老の天ぷらなんかを、従業員の分も含めて全部お袋が作ってね。でも僕は、ふつうのサラリーマンの家みたいにトーストで始まる朝に憧れていた(笑)。夕食の定番であるハンバーグやハヤシライス、とんかつなんかも、うちでは滅多に食べられませんでした。
編集部
新鮮な海の幸ばかりで羨ましく聞こえますが(笑)
藤野
それと、うちは博多の中でも箱崎という地域で、ここの名物はなんといっても「おきゅうと」。海藻のエゴノリを煮溶かして小判型に固めたもので、これに醤油とかつお節をかけて食べるのがうまいんです。朝になると、おきゅうとと納豆売りがやってくるのが箱崎の日常風景でしたね。また、がめ煮も家ではよく食べた。これは知っての通り、鶏肉を里芋やごぼう、人参、こんにゃくなどと一緒に煮込んだ郷土料理。今でもお店に行けば、がめ煮用の地鶏が売られています。
編集部
忘れられないご家庭の味というのはありますか?
藤野
正月にお袋が作る雑煮は、本当にうまかったね。うちの実家では年末に家族親族全員で大量の餅をついて水瓶に入れ、1月の間中それを食べるんです。母の雑煮は、これを丸餅にしたものと塩漬けしたクエやアラ、海老、するめ、里芋、かまぼこ、それにかつお菜という博多の野菜など12~13種類もの具が入ったボリュームたっぷりの一杯。だしがまたよく利いてるんです。母は、焼きあご(とびうお)と羅臼昆布、するめ、しいたけのそれぞれを瓶に張って水出しを作っておき、ひしゃくで調合しながら仕立てていくんです。だしを取り終わったあとのするめや昆布も、するめ串や結び昆布にして最後まで食べる。食材を決して粗末にしない人でした。
編集部
郷土料理や家庭の味は、大人になってもいつまでも覚えているものなんですね。
藤野
お袋はもういないけど、藤野家の雑煮はうちのマダム、嘉子さんが引き継いでくれています。もちろん、多少はアレンジして。僕らにはパティシエとして一緒に店をやっている次女のほかに、長女と長男もいるんだけど、それぞれの家庭にも不思議とその味が継承されているんですよ。長女なんか結婚前はまったく料理をしなかったのに、先日家に招かれてみたら、嘉子さんが作ったかのような料理が出てきて驚いた。一緒に台所立ったことがなくても、舌が母の味を覚えているんですね。おもしろいことに、長男の嫁もまた嘉子さんとよく似た料理を作るんですよ。こうやって地元を離れてもその味が守られ、家々を継いで大切に伝えられていくのが、郷土料理や家庭料理の素晴らしいところなんでしょうね。

「カストール&ラボラトリー」オーナーシェフ
藤野 賢治さん

1952年福岡市生まれ。大学在学中にフランス料理に魅了され、卒業後、東京・六本木の「レジャンス」「ビストロ・ロテュース」を経て、1984年代々木上原に「カストール」開店。2005年京橋に移転し、2014年12月惜しまれつつ閉店。2015年4月、南青山でレストラン兼お料理教室スタジオ「カストール&ラボラトリー」オープン。藤野シェフはじめ、奥様で料理研究家の嘉子さん、パティシエの次女・貴子さんがもてなす、プライベート感溢れるレストラン兼お料理教室スタジオとして親しまれている。

第六回 九州 九州の郷土料理を作ってみよう! ~三菱調理家電による再現レシピ~第六回 九州 九州の郷土料理を作ってみよう! ~三菱調理家電による再現レシピ~