和食シリーズ企画第四弾 日本人の食卓―100年の歩みを辿る和食シリーズ企画第四弾 日本人の食卓―100年の歩みを辿る

#13 ― ごはん食の現在、過去、未来篇

「和食」がユネスコの無形文化遺産に登録されてから数年が経ちます。
「このままでは衰退する可能性がある食文化」とされた和食は、あれから歩みを前へと進めることができたのでしょうか。
2021年に創立100周年を迎えた三菱電機は、日本の暮らしとともに歩み続けてきました。
これからも家電メーカーとして日本の食文化に寄り添っていくために、
この100年間の日本人の食卓、そして家電の歩みを振り返り、次なる100年を考えていきます。

和食シリーズ第4弾「日本人の食卓―100年の歩みを辿る」第13回のテーマは、いよいよ和食の柱とも言える「ごはん」です。日本人はこの100年、「白飯」や「炊飯」とどう向き合ってきたのでしょうか。五ツ星お米マイスターの佐藤貴之さんにごはん食と炊飯の歴史とその現在、そして未来予想図についてお話を伺いました。

ご案内いただいたのは、
五ツ星お米マイスター
佐藤貴之(さとうたかゆき)さん。

米どころ宮城県における最初の五ツ星お米マイスター。新品種も含めた全国の銘柄米の特徴に詳しく、三菱炊飯器「本炭釜」シリーズの開発にあたり、本炭釜 KAMADOの「銘柄芳潤炊き」など炊飯器の炊き分け炊飯モードの開発にも携わり、品種ごとの最適な加熱について開発陣のサポートも行った。一般社団法人 日本発芽玄米協会理事。

日本人にとって、そして和食にとって白いごはん――「白飯」は特別な食べ物です。文字通りの「主食」で「一汁一菜」「一汁三菜」など和食のアイデンティティの根幹をなしてきました。ところが近年、「米離れ」が叫ばれているように、日本人の食卓からごはんの姿が減ってきています。そうした環境下で和食は、そしてごはん食文化はどうなっていくのでしょうか。

ごはんを食べなくなった日本人

編集部
この数十年、お米にまつわるニュースは「減反」「米離れ」など、あまり明るくない話題が多かった気がしますが、近年では新しいブランド米が続々登場するなど、時折明るいニュースも聞こえてきます。いま日本のお米はどのような状況にあるのでしょうか。
佐藤さん
(以下 敬称略)
確かに近年、新しいブランド米が登場するなど、華やかな話題も聞こえてきます。ただ私としては、お米を取り巻く環境はとても深刻だと考えています。
編集部
その深刻さは、どういった事象に現れているのでしょうか。
佐藤
まず年間一人あたりのお米の消費量です。1962(昭和37)年度に、日本人は年間一人あたり118.3kgものお米を食べていましたが、2019/2020(令和元/2)年度の推計では57.6kgと半分以下になっていて、2020/2021(令和2/3)年度はさらに下がる見通しです。人口減もあり、生産量もピーク時の半分近くにまで減っている。主食用のお米の需要量の下がり方にも加速がついていて、一部のブランド米や新しい品種が好調だとしても、楽観視はできません。

消費量、生産量とも減少している米

編集部
「ごはん食」という日本の食文化の柱が揺らいでいる、と……。
佐藤
そうなんです。そうした危機的状況になってしまったのにはさまざまな要因があるとは思いますが、われわれお米にまつわる仕事をしている人は、全方位的に努力をしなくちゃいけない。質、量ともにありあまるほどの「食」があふれるなか、若い世代にごはんのおいしさや魅力について伝えていかなければなりません。
編集部
「食」がいまほど豊かではなかった時代と単純に比較するわけにはいかないでしょうが、ごはん食にはまだまだ伝えきれていない魅力がある、と。
佐藤
そうですね。例えば、かまどで炊いたごはんのおいしさなどもそのひとつでしょう。

かまど炊きのごはんがおいしく感じられる、本当の理由

編集部
このシリーズのテーマである「100年前」と言えば、まだ炊飯はかまど炊きが主流だった頃です。
佐藤
そうですね。その頃、三菱さんが初の電気釜を発売されたと聞いています。

日本初の電気釜 NJ-N1

日本の炊飯事情は、都市部を中心に電力のインフラが整い始めた大正時代に変化の兆しが起きる。1923(大正12)年に三菱電機が日本初の電気釜を発売。その後、昭和初期にも自動的にスイッチが切れる電気釜が開発されたが、本格的な普及は第二次大戦後を待つことになる。

佐藤
特に地方ではかまどは戦後まで残っていましたし、100年前と言えば、間違いなくかまどが主流でした。うちのほうでは親が子供だった頃、川の水で洗米して炊飯していたとも聞いています。飯炊きと言えばたいていお嫁さんか子供の仕事でしたから、子供がごはん好きになる素地があったのかもしれません。
編集部
フタを開けるといい香りが立ち上り、目の前には真っ白な世界が広がる。そしてしゃもじを差し込むと心地いい感触が伝わってくる……。そういった感覚を子供の頃に体験しているかどうかも、後の米食習慣にも関係しそうです。

「100年前の炊飯といえば、かまど炊き」

佐藤
もちろん関係あるでしょう。上手に炊けばホメられますし、与えられた役割とはいえ、子供も炊飯という作業に楽しみを見出すことができる。毎日炊いていれば、水加減に火加減、炊きあがりの見極めなども上手になっていきます。最後に杉の葉やもみがらをくべて、おこげをつけるような子もいたみたいですね。
編集部
考えてみれば「はじめちょろちょろ中パッパ、(じゅうじゅう吹いたら火を引いて)赤子泣いてもふた取るな」という教えは子供でも覚えられるような語呂の良さがあります。
佐藤
赤ちゃんの子守りをする子供の姿が思い浮かびますよね。「始めちょろちょろ」はお米に給水をさせる、いわゆる予備炊飯の時間ですね。「中パッパ」は一気に火力を上げて全体を加熱してお米のでんぷん質を糊化させながら、水分を減らしていく。「じゅうじゅう吹いた」ところで火を引くとかまどの構造で余熱加熱が続く。そのまま熱はじわじわと落ち着いていき、自然に蒸らしに移行し「赤子泣いてもふた取るな」となるわけです。

かまど炊きで炊飯したごはん

編集部
かまど炊きで炊飯したごはんは、なぜおいしくなるのでしょうか。
佐藤
まず、羽釜の大きさですね。大量に調理することで、水加減や火加減が多少前後しても致命的な調理ミスが起きにくい。加えて「中パッパ」に必要な一気の加熱ができる鍋底を含めた構造も非常によくできています。あとはムラでしょうか。
編集部
ムラ、ですか。
佐藤
当時の炊飯環境だと気候によって水の温度が上下したり、熱源の薪の火力も毎日変わるわけで、炊飯の条件が日々変わります。当然、炊きあがりも毎日微妙に変わってくる。さらにフチの近くか中央か、炊きたてかおひつに取っておいたごはんか。などなどさまざまな条件で味わいが変わるわけで、一回の炊飯にもさまざまな味わいがあって、食べ飽きないという面もあったんだろうと思います。

現代のIH炊飯器はかまどすらも凌駕する

編集部
炊飯器が普及したことで、そうしたムラが少なくなっていってしまったという面もあるのでしょうか。
佐藤
現代のIH炊飯器、特に「本炭釜 KAMADO」のような上位モデルについては、往時のかまどよりも間違いなくおいしく炊けると思います。同じ水加減で硬さや食感などの「ムラ」さえもコントロールできますから。ただ、かまどがガス炊飯器になり、マイコン炊飯器になり、IH炊飯器へと進化していったことで、調理をする人の意識が変化していったということは言えると思います。
編集部
炊飯器それ自体はもとより、使う人の意識も変化していった?
佐藤
そうですね。熱源が薪火からガスや電気などの近代的なエネルギーに変わったことで、安定した炊飯ができるようになった。私自身は使っていないマイコン炊飯器の時代は、炊きあがりがガスには及ばなかったという声もよく聞きます。そうして時が経つうちに炊飯に対する手法や意識も変わり、炊きあがりに対する意識が画一的になったり、薄れてしまったりという流れは考えられるかもしれません。

「調理をする人の意識が変化した」

編集部
お米の品種も最近でこそ、おいしい新品種がたくさん開発されていますが、一時期はコシヒカリ一辺倒でした。
佐藤
育てやすさや価格設定など農家の立場で考えると、コシヒカリがとても優秀なお米なのは確かです。でもお米にはいろいろなおいしさがあって、コシヒカリにはないおいしさを持っている品種もたくさんあったのですが、なかなかうまく光を当てることができなかった。お米に関わる者としては反省させられる面も多いです。

2006年発売の本炭釜 NJ-WS

2006年3月に発売した本炭釜 NJ-WSは、現在の高級炊飯器ブームの先鞭をつけたヒットモデル。製造に約100日もかかる純度99.9%の炭素材料を内釜に使用し、内釜にはレーザー加工でシリアルナンバーが刻印されていました。

好みのごはんを見つければ、世界は変わる。

編集部
品種も消費者も炊飯器も同じような時期に足踏みしてしまい、その結果、「米離れ」が加速してしまった。どうすれば日本人にもう一度お米を好きになってもらえるのでしょうか。
佐藤
まず接点を持ってもらうこと。そしてごはんにもいろいろな味わいや物語があることを知ってもらい、好みのごはんを見つけてもらう。好みを言語化してもらえるところまで行ったら最高です。例えばラーメンなら、なんとなくの好みはみなさん言語化できますよね。「あっさりスープに、ちぢれた玉子麺」とか「太麺で背脂の入ったこってりした豚骨醤油」とか。その人にとっての「おいしいごはん」が見つかれば、ごはん食生活は劇的に変わると思います。最近、講演会などで「おいしいごはんってどういうごはんですか?」と聞かれて、答えに困ることが増えました。味は嗜好のものなので、たったひとつの正解があるわけではありませんから。
編集部
好みはその日の気分にさえも左右されますものね。ちなみに私は、香りがよくて、粒に張りがあり、適度な粘りもある。そして噛み込むと後から味が伸びてくるタイプのごはんが好きです。
佐藤
そういう風に整理されているならば、あとは全国の五ツ星お米マイスターに相談してください(笑)。でも意外とそういう方は少ないんですよ。「コシヒカリが好き」と言われても、コシヒカリの持ち味のどういう部分が好きなのか、普段どう炊いて、どんなおかずと組み合わせているのか。それによってブレンドの加減やおすすめするお米が変わってきます。
編集部
香り、味、食感、粘り、口当たり、粒感……。品種や炊き方によっても、味わいは無数にあるわけですよね。

「ごはんがおいしくなると毎日が変わります」

佐藤
炊き方やおかずとの組み合わせに少し気を使うだけで、ごはんもおかずも劇的においしく感じられるようになります。不思議ですよね。肉料理なら赤、魚なら白という風に料理とワインを合わせたり、パスタを茹でるのにも一生懸命アルデンテを目指したりされるのに、ごはんの銘柄や炊き方はずっと同じという方がたくさんいらっしゃいます。パスタやワインと同じように、お米を選んだり、炊き方に気を使われたら、日常の食事が劇的においしく、楽しくなるはず。もしかすると世界観すら変わるかもしれません。そのために、まずは自分の好みの「ごはん」を見つけられることを熱烈におすすめします。

本炭釜 KAMADO NJ-AWB10

五ツ星お米マイスター佐藤貴之さんに開発協力いただいた本炭釜KAMADO(NJ-AWB10)。本物の「炭」でできた内釜が実現する大火力炊飯と全国のお米50銘柄それぞれの個性を引き出す「銘柄芳潤炊き」は、あなたにぴったりのごはんを見つけるお手伝いができるはずです。詳しくはこちら

木炭や竹炭とは異なる炭素材料(純度99.9%)を使用しております。

「主食」という名前が示すように、日本人にとって、和食にとって、「ごはん」はその柱である大切な存在です。身近すぎて見過ごしてしまっている、ごはんの魅力についてもう一度考えてみる。五ツ星お米マイスターのようなお米選びのプロフェッショナルに相談してみると、自分では重いと思いこんでいた扉も案外かんたんに開くのかもしれません。次回は、編集部員がかまど炊きを体験します。

取材・文/松浦達也 撮影/魚本勝之
2020.03.10

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