2023年09月号

特集 「交通ソリューション ―サステナブルな交通インフラの構築―」

三菱電機技報 2023年09月号

巻頭言
持続的に発展する令和の交通技術―急速な人工知能の広がりを傍観しつつ―
巻頭論文
社会課題の変容と交通ソリューションの将来像
特集論文
全5編

特集概要

三菱電機の交通事業は、鉄道を対象に車上システムから地上設備まで幅広く展開し、長年、社会インフラの進歩に貢献してきました。
今後も鉄道の保守・設備管理、自動運転、省エネルギー、駅・旅客サービスなど、これまで蓄積した知見を生かして、交通事業全体のサステナビリティに貢献していきます。本号では、変容する社会課題を踏まえて、省力化や経営効率化のためのDX(Digital Transformation)と省エネルギー化や環境負荷低減のためのGX(Green Transformation)を推進する先進的な交通ソリューションを紹介します。

巻頭言
巻頭論文
2.

社会課題の変容と交通ソリューションの将来像(PDF:802KB)

根来秀人

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大(以下“コロナ禍”という。)による生活様式の変容やカーボンニュートラルを目指す機運の高まりによって,人々の社会課題への認識は変わってきた。鉄道業界でも,省力化・経営効率化を目的としたDX(デジタルトランスフォーメーション)や,省エネルギー・環境負荷軽減を目指すGX(グリーントランスフォーメーション)の実現が優先度の高い課題になっている。
三菱電機は100年にわたって鉄道車両システムから各種地上設備まで国内外に幅広く事業展開し,保守・設備管理,自動運転,省エネルギー,駅・旅客サービスなどの分野でも経験を積んできた。今後も変容する社会課題を解決する交通ソリューションの開発を推進し,交通事業全体のサステナビリティの実現に貢献していく。

特集論文
(全5編)
3.

交通事業のサステナビリティに貢献する“鉄道LMS on INFOPRISM”(PDF:1830KB)

弘重健司/白石俊介/福富正一/辻田陽介/山田将史

鉄道事業者では,デジタル技術の活用などによるメンテナンス業務の効率化や検査の高度化といったニーズが高まっている。
三菱電機では,IoT(Internet of Things)とAI技術で,鉄道の運用・メンテナンス業務のライフサイクルにわたって継続的な効率向上に貢献する“鉄道LMS(Lifecycle Management Solution) on INFOPRISM”の開発・提供に取り組んでいる。当社はこれまでに培った車両機器や検査に係る知見を活用し,車両状態の見える化やTBM(Time Based Maintenance)省力化などの機器稼働データを活用した鉄道車両メンテナンスソリューションや運行支援ソリューション,メンテナンス業務データを活用した業務連携ソリューションの開発を推進してきた。
今後は,蓄積した様々なデータを活用して鉄道の経営効率化やアセットの最適化に向けたソリューションを提供し,交通事業のサステナビリティに貢献していく。

4.

持続可能な公共交通の実現に向けた自動運転の取組み(PDF:830KB)

知平雅仁/十鳥基伸/岸下整明/津田琢士/住谷泰正

少子高齢化や生産年齢人口の減少によって鉄道業界でも労働力不足が懸念されており,運転士を必要としない自動運転のニーズが高まっている。
三菱電機は1980年代に新交通システムの無人・自動運転を実用化して以来,多くの実績を積んできた。さらに,乗務員の役割を分析し,最新の情報処理・情報伝送技術,AIやセンサー技術を適用して,運転の操作や状況判断,旅客サービス,異常時対応などのシステム化を目指す“自律運転ソリューション”“旅客サービスソリューション”“運用サポートソリューション”を開発・推進している。将来志向の自動運転のソリューションによって,コロナ禍後の鉄道事業者の経営効率化にも寄与する,より快適で効率的な自動運転を実現し,持続可能な公共交通の維持・発展に貢献する。

5.

鉄道事業者のサステナビリティに貢献する無線解析ソリューション(PDF:1649KB)

後藤健太郎/川手竜介/間宮拓朗/小林裕二/板谷建郎

鉄道事業者では設備削減や保守省力化を背景に無線式の列車制御システムを採用している。運行管理や保守のデータ利活用でも無線による情報伝送が重要になっている。
三菱電機は無線式列車制御のほか,自営網無線の大容量化・干渉対策や5G(第5世代移動通信システム)/ローカル5Gとの連携動作の開発を進めている。また,鉄道用無線システムの安定稼働のため,設計作業効率化と無線品質確保を目的に“電波見える化”シミュレーションによって無線基地局配置を検証・評価するシステムを開発した。これは設置後の現地試験や運用時の無線モニターとしても活用できる。さらに,三次元マップと沿線点群データの連携・高度化や,設計・試験・運用・保守に対応した循環型の無線解析ソリューションの実用化を進めて,鉄道事業者のサステナビリティに貢献する。

6.

鉄道の運転電力削減によるカーボンニュートラル実現の取組み(PDF:915KB)

山下良範/吉本剛生/石山琢麻/金子健太/秋原優樹

近年,世界的にカーボンニュートラル実現への意識が高まっており,鉄道分野でもカーボンニュートラルに向けた取組みが進められている。
三菱電機は車両の省エネルギー技術として,SiC(シリコンカーバイド)適用の推進制御装置や高効率の全閉形電動機を実用化した。また,鉄道車両では世界初(注1)となる同期リラクタンスモーター駆動システム(Synchronous reluctance motor and inverter TRACtion System:SynTRACS)を開発して-18%の省エネルギー効果を実証した。さらに,編成での補助電源系統の高効率化,走行パターンの改善,データ分析に基づいて地上・車上間で連携した消費電力削減,余剰回生電力の有効利用など,車両を中心に多様な省エネルギー技術を展開して運転電力を削減し,鉄道分野でのカーボンニュートラル実現への取組みを推進する。
(注1) 2022年11月10日現在,当社調べ

7.

駅を基点とした新ソリューション創出に向けた共創事例(PDF:1156KB)

清水英弘/世良田博幸/吉田和史/池上裕樹

ニューノーマル(コロナ後の働き方や生活様式の変容)に突入し移動需要の減少と労働人口の減少が進んで,かつサービスの多様化が求められる中,駅業務の見直し,改革が各鉄道事業者で進められている。同時に,鉄道事業も輸送サービスだけでなく,より広範囲な生活サービスへと拡大が加速している。
三菱電機では持続可能な鉄道事業の重要な要素として,駅を基点とした業務改革と新サービスの創出に向けた検討を進めている。その将来のあるべき駅のコンセプトとして,駅員と旅客と沿線住民をつなぐ“シームレス ステーション”構想を立ち上げて,実現に向けた新しい駅ソリューションの提供を目指している。

技報トップへ