2025年05月号
特集 「AI・データ利活用による新たな価値創造への取組み」
- 巻頭言
- データとAIの未来:価値創出とガバナンスのトレード・オン
- 特集論文
- 全8編
特集概要
三菱電機では、“循環型 デジタル・エンジニアリング企業”を目指すという経営戦略を掲げて、データ利活用によって新たな価値を創造して社会課題解決に貢献することを目指しています。
本号では、当社の最近の取組みの中から、大規模な社会インフラからコールセンター・薬局などの身近なものまで、AI・データ利活用の最新動向や事例、またそれらソリューション創出に活用する当社基盤技術の紹介記事などを掲載しています。
巻頭言 | |
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特集論文 (全8編) |
2.
循環型 デジタル・エンジニアリングによる感情分析を活用したコールセンター向けオペレーター支援モデルの構築(PDF:1118KB) 白浜広彬/渡邊健太/藤川皓一朗/藤田喜広 三菱電機デジタルイノベーション㈱(MEDigital)は,循環型 デジタル・エンジニアリングを実現する三菱電機のデジタル基盤“Serendie”(セレンディ)関連事業の開発の一環として,音声感情解析技術を応用し,コールセンター向けオペレーター支援モデルを構築した。このモデルを使用した感情分析サービス“emoiwa”(エモイワ)は,解析された会話中の感情を基にオペレーターの応対品質や離職予兆を管理者にフィードバックすることで,顧客満足度とオペレーターのウェルビーイング向上を目指している。今回,ストレス軽減や効率的な対応支援を可能にする感情分析技術の実用性を評価し,具体例を通じて効果を実証した。その結果,AI技術を活用した新たなコールセンター支援モデルの可能性を見いだした。 |
3.
サブメートル分解能の動態判読を実現する土地利用分類AI技術(PDF:5184KB) 三五大輔/栗原康平/藤野俊樹/小野田郁哉 日本の労働人口が減少する中,国内のインフラや経済活動の監視の効率化の一手法として,リモートセンシングデータ,特に衛星画像を活用した土地利用状況の把握が提案されている。しかし,今までの衛星画像を活用した土地利用状況情報では,①目視判読では時間を要する,②自動的に作成された情報の空間解像度が10~50mと粗い,といった問題があった。そこで,三菱電機では,AIを用いて超解像処理を行う“MELTERRA HD”,及び土地利用状況をサブメートル単位で自動分類する“MELTERRAランドスキャン”を開発した。このAIを令和6年能登半島地震に活用したところ,目視判読と比べて1/12以下の短時間で,同程度の精度が得られることが確認できた。今後,このAIについて,防災分野やESG(Environment,Social,Governance)分野での利活用が見込まれる。 |
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4.
社会インフラ事業分野でのデータ分析を活用したソリューション創出の取組み(PDF:1187KB) 上野洋平/今井 健/山田知史/大林昌則 社会インフラの監視制御システムに注目し,システムに記録された膨大な計測データを分析することで,オペレーションの理解とソリューション創出を促進する手法を開発した。社会インフラのオペレーションは,安全性,経済性,環境性などの目標が複合的に存在しており,これらを体系化することは困難である。そこで,オペレーターの認知手法を参考に,計測データからプラント状態モデルを作成する手法を開発した。この手法を用いることで,膨大な計測値データをパターン化でき,データからオペレーション上の目標や課題を容易に発見できるようになった。また,分析結果をシステム要求分析に用いることで,オペレーターと開発者間の認識共有を促進し,ソリューションの共創につながると考えている。 |
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5.
IoT機器のデータ統合分析基盤“KOTOLiA”(PDF:1003KB) 伊藤山彦/古賀宗典/海津洋介/林 卓人 家電製品や空調設備などインターネット接続されたIoT(Internet of Things)機器の運転データをクラウド上に収集・蓄積し,新機能・新サービスの開発や製品保守の効率化等に利用するデータ統合分析基盤“KOTOLiA”を開発した。KOTOLiAの導入によって三菱電機内の様々なプロジェクトで収集されたデータを統一形式で一元的に管理し,必要なときに速やかに分析することが可能になった。開発と並行してデータ分析支援活動を進めることによって,KOTOLiAの登録者数は400人に達して,オフィス空調の状態監視ダッシュボードやおやすみサポートサービスの開発に結び付いた。今後,KOTOLiAの利便性向上を図るとともに,他システムと連携してデータ利活用の範囲を広げる予定である。 |
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6.
次世代コミュニケーションサービス“AnyCOMPASS”での生成AIを活用した服薬指導,薬歴作成サービス(PDF:2100KB) 高野謙司/松田悠希/園田康博/重富健二/中村公昭 三菱電機の目指す“循環型 デジタル・エンジニアリング”の方針を受けて,患者の各種医療データを集約して薬局及び地域で共有・活用することで新たな価値を生み出す基盤である調剤薬局向けの次世代コミュニケーションサービス“AnyCOMPASS”を2023年にリリースした。“Serendie”(セレンディ)関連事業開発の一環として,2024年には東京大学発のヘルスケアAIベンチャー㈱mediLabと協業して,生成AIを活用してクラウド基盤上に蓄積されたデータを分析し薬剤師に提供するサービスAIアシスタントを開発した。㈱mediLabが保持している他社にはない生成AI活用技術(プロンプトエンジニアリング,RAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)技術,ハルシネーション対策等)を利用し,薬歴(薬剤服用歴)作成だけでなく薬剤師向けの服薬指導アドバイス機能を開発して,新たなカスタマーエクスペリエンス(CX)を提供できるサービスになっている。2024年9~11月に開催された日本薬剤師会学術大会ほか多くの展示会に参考出展を実施した。2024年11月に開催された日本薬局学会学術総会では先進事例として学会発表を行い,薬剤師からは生成AIを使い服薬指導のアドバイスが受けられることに関して非常に高い評価を得ており,2025年1月から正式リリースを開始している。 |
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7.
機械学習によるゴム部品の性能予測技術(PDF:1194KB) 塙 勇太郎/中谷浩司 電機製品には種々のゴム部品が使用される。多種多様なゴム部品の中から製品に適用可能なものを見つけ出すには,複数の性能評価試験を行う必要があり,膨大な時間を要する。そこで,ゴム部品の性能評価試験の効率化を目的に,ゴム部品の性能と分析データとを機械学習させた回帰モデルによるゴム部品の性能予測技術を検討した(1)。今回の検討では,学習データ収集に有限要素法(Finite Element Method:FEM)解析を始めとするコンピューター上の仮想実験を活用することで,実験を繰り返した場合に比べて1/10の時間で学習データの収集を実現した。開発モデルの精度検証を行った結果,ゴム部品の非線形的な荷重と変位の関係を平均84%の精度で予測可能であった。 |
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8.
生成AIによるAIチャットボットの実用化(PDF:1065KB) 阿部貴之/山田篤史/池田貴紀/徳富 忍/衣川英之 2023年は生成AI元年とも言われ,国内外で多くの企業が生成AI活用の取組みを始めた。同年から,三菱電機デジタルイノベーション㈱(MEDigital)でも社内問合せ業務の効率化を目指して,生成AIによるAIチャットボットの開発を開始した。生成AIはクラウドLLM(Large Language Model)を利用することによって比較的容易にシステムの構築はできるが,セキュリティー対策や実用に耐え得る回答精度へのチューニング,ハルシネーション対応など実用化には多くの課題が発生した。MEDigitalはこれらの課題を解決した。 |
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9.
轟木伸俊/古跡 進/水口武尚 三菱電機のデジタル基盤“Serendie”(セレンディ)(1)が提供する技術基盤の一つ“データ分析基盤”へ,当社の事業データを集約している。データを生み出すコンポーネントやデータを蓄積するシステムは多岐にわたっているため,事業ドメインごとの多様な方式に対応してデータを集約する,及びデータごとに異なる利用条件に細かく対応して利活用を進める,という課題がある。今回,これに対応するため,データを管理する連邦型組織を構築するとともに,データメッシュ型アーキテクチャーを採用してデータ分析基盤を実現した。今後は,この取組みに基づいてデータの集約と利活用を加速させるとともに,データ分析基盤のグローバル対応も進めていく。 |